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2009年10月12日

東武鉄道の皆さん、嫌がらせ男の裁判です

 10月7日、大阪地裁で行われた裁判員の選任手続きで、呼び出し対象者41人全員が出席して、出席率が全国初の100%になったというニュースがありました。

 大阪府は、裁判員に選ばれる確率が2893人に1人で全国一高いというこということなので、大阪府民は他の都道府県民とは裁判員に対する意識も違うのかもしれませんね。とにかく、えらい!

 で、気になるのが、今までに全国の裁判所で行われた裁判員選任手続きに出席しなかった人への処分です。不出頭の人は、ルールに忠実なら10万円以下の過料を払わされているはずなんだけど、いくらくらいが相場なんでしょうか? それなりにニュースや新聞はチェックしているつもりなんだけど、発表されてないような。

 先週は、東京地裁で行われた裁判員選任手続きに、地下鉄サリン事件の被害者が参加したことも話題になったわけで、出頭しない場合の処分については知りたがっている人も多いと思うんだけどなぁ。過料を払って裁判員を拒否するのも手段の1つですから。

 さて今回は、10月5日に行われた望月裕一被告人(逮捕時50)の裁判の話。罪名は業務妨害。

 東武鉄道の特急電車のトイレにトイレットペーパーを詰まらせたとして、器物破損と偽計業務妨害の現行犯で逮捕された事件です。報道によると、学習塾講師の望月裕一は7月13日午後3時50分頃、東武伊勢崎線の特急「りょうもう28号」の先頭車両に設置されているトイレの便器に、備え付けのトイレットペーパー2個を流し、トイレを使用不能にするなどしていた。

 10年ほど前から、車両内の空調などについて、東武鉄道に電話や手紙などで約1000件のクレームを寄せていたとみられている。

 ちょっと変わった事件ですね。これじゃ、東武鉄道より乗客に対する嫌がらせのような気もするけど。

 起訴されたのは6月25日~7月8日の間、11回に渡って東武線特急「りょうもう28号」のトイレ内で、便器にトイレットペーパーを芯ごと詰め込み、7月7日~7月13日の間、東武鉄道職員に特急の警戒業務をさせたという内容。報道された逮捕の一件は起訴されていないようです。何でだ?

 検察官の冒頭陳述によると、被告人は大学卒業後、いくつかの塾で講師として働き、犯行時は浅草の学習塾で非常勤講師をしていたとのこと。

 被告人は平成8年から「駅員が指さし確認をしていない」「車内が暑い」などのクレームを当鉄道に伝え始めたという。その後は、平成9年に32件、平成10年に58件、平成11年に89件、平成12年に253件、平成13年に580件…とクレームの数が増えていったらしい。

 平成17年には、東武鉄道の弁護人からクレームをやめるよう警告する郵便を受け取り、クレームは減ったという。そして、今年3月から「りょうもう28号」で浅草まで通勤することになり、5月にはトイレが詰まっているのを発見。5月中旬には自分でトイレットペーパーを入れて、トイレを詰まらせたり、濡らしたトイレットペーパーを汚物入れに詰め込んだりして、嫌がらせを開始。同様の犯行が多いので警備をしていた警察官が、7月13日に被告人の犯行を発見して、現行犯逮捕というのが事件の詳細です。

 取り調べに対し、被告人は「妻と別れたことや、仕事が非常勤で不安定なことで私生活に不満があり、うっぷん晴らしでやった。父が国鉄で働いていて尊敬していたので、東武鉄道の駅員と父をつい比べてしまった」と述べているらしい。
 駅員に対しての文句はあったんだろうけど、根本的には単なる憂さ晴らしだったようですね。
 そして、被告人質問。まずは、弁護人から。

 弁護人 「あなたには暴行の前歴がありますが、東武鉄道でトラブルがあった、と。どんなトラブルですか?」
 被告人 「(東武鉄道の)車掌さんが手抜き作業しているのを何度も見て注意したところ“客であるあなたから言われる筋合いはない”と言われ、カッとなってしまって」
 弁護人 「それで手を出した、と。そして、クレームですが、なぜ始めたんですか?」
 被告人 「平成8年3月に勤めていた学習塾には養護学校に通っているお子様も来ていまして、目の不自由な生徒が“東武線は、出口が右とか左とかアナウンスしないので降りられない時がある”と不満を言っていました。それで、気にして乗ってみると、本当にアナウンスしていませんでした。それでJRと比べると車内放送が手抜きだと思いました」
 弁護人 「生徒のためにクレーム言ったのが最初、と」
 被告人 「そうです」

 きっかけは生徒のためだったと。しかし、徐々にエスカレートしていって、クレームの数も増えていったということなんでしょう。

 弁護人 「再犯しないため、どうしますか?」
 被告人 「今月、東武圏から引っ越しましたので」
 弁護人 「東武鉄道は利用しないと」
 被告人 「はい。電車はJRオンリー。バスは西武圏です」

 それじゃ、他の鉄道会社にクレームをつける可能性が出てくるのだが。しかも、東武鉄道の利益も減ってしまうし。ま、同様のことは起こすことはないんだろうけど。
 次は検察官から。

 検察官 「東武鉄道は利用しないということですが、他の鉄道会社に不満を抱いたらどうしますか?」
 被告人 「今回の件がありますので、我慢したいと思います」
 検察官 「不満はため込むんですか?」
 被告人 「インターネット上に鉄道ファンの掲示板があるので、そういうところに書いたりするかもしれません」

 再犯はないけど、それはそれで陰湿のような。

 検察官 「平成17年に(東武鉄道の)弁護士さんから警告文が届いたときに懲りなかった?」
 被告人 「懲りたんですが、それ以降(東武鉄道の窓口に)直に行けなくなったので、役所や国土交通省の方に伝えてました」
 検察官 「平成18年には、電車の窓から顔や体を出したことがあるそうですね」
 被告人 「ありました」
 検察官 「注意されてもやめなかったんですか?」
 被告人 「(警告文が続き)車内が暑いのを、直に言うこともできず。自分は少し暑がりなので」

 クレーム以外にも、車外に顔を出すという危険かつ迷惑な行為までやっていたようです。
 そして、最後の質問。

 検察官 「国鉄で働いていたお父さんに対しても、恥ずべきことをしたんじゃないですか?」
 被告人 「はい。父が国鉄、祖父が鉄道省に勤めていたこともあり、“車掌はこうあるべきだ”と子供のころから聞かされて、電車に乗るときは一番後ろに乗って、(車掌の)あらさがしをするようになっていました。よくなってほしいという思いでしたが、それがかえって、鉄道マンである祖父や父に泥を塗ったと反省しております」

 と、述べて質問終了。父親だけじゃなく、おじいちゃんも鉄道関係の仕事をしていたんですね。そこまで英才教育を受けていたのなら車掌になればよかったのに。
 最後は裁判官から。

 裁判官 「トイレが詰まっているのを見て、不便に思いましたよね。それをなぜ、やろうと」
 被告人 「直接接触できないというのが頭にありましたので、こういうことがまたあれば(クレームを入れなくても)掃除にしても経営にしても、きちんとやってくれるんじゃないかと思ってやりました」
 裁判官 「走っている最中に使うわけですよね、電車のトイレは。それを」

 と、質問すると途中で割って入って

 被告人 「特急りょうもうは、8~9割の乗客が北千住で下車します。浅草まで乗るのは車両の中で私ひとり。多くても数人です。しかも、北千住から浅草までは10分ほどで、浅草に到着したら清掃されるんですね。それであえて、北千住を出てからそういう愚かなことをしてしまいました」

 と、弁解です。乗客を困らせるためではなく、東武鉄道に対する無言のクレームだということなんでしょう。だから、北千住より前の、東武動物公園駅以前からトイレを詰まらせることはしなかったとアピールです。

 裁判官 「でも、掃除は浅草についてからでしょう」
 被告人 「そうです」
 裁判官 「10分間は誰もトイレを使わないだろうと考えたわけですか?」
 被告人 「私の身勝手な考えで」

 法的にどうのとか、東武鉄道に対してどうのではなく、10分間トイレを我慢する身にもなってみろと裁判官が問いかけているようで、非常に現実的な裁判官に思えてきます。

 裁判官 「振り返って、どうするべきだったと思います?」
 被告人 「普通に一般の人と(同じように)乗ってればよかったと思います」
 裁判官 「人間、今までやってたことを変えるのは大変ですけどね。常識的に生活してください」

 この後、検察官が懲役1年6月を求刑して閉廷。
 実際、東武鉄道の駅員や車掌がしっかりしていないのか、被告人がそう思い込んでいるだけなのかはわからないけど、被告人が客としてしっかりしてないのは事実でしょ。
 被告人も警告文と言う名のクレームを真摯に受け止めていればねぇ。

注目の裁判

11月16日(月)被告人・原口悦郎:著作権法違反(初公判)
原口悦郎:著作権法違反(初公判) <映画などを無断で配布した事件> 09年9月、元東京消防庁滝野川消防署員、原口悦郎(当時58)は、08年11月から09年2月にかけ、自宅のパソコンでウィニーを使い映画4タイトルを不特定多数の利用者がダウンロードできるようにしたとして逮捕された。

11月16日(月)被告人・山田利生:強盗(判決)
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11月17日(火)被告人・桜井勝己:脅迫(初公判)
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11月19日(木)被告人・阪中彰夫:旧証券取引法違反(偽計)
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11月20日(金)被告人・中田静子 ほか1名:昏睡強盗、窃盗(判決)
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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。

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