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2009年9月28日

蝶の標本密売男の娘は虫嫌い

 ぼちぼち、裁判員裁判が大々的にニュースで取り上げられることもなくなってきましたね。そんな中、産経新聞になかなか面白い記事。

 それは、論告に対して「7~8掛け」とされていた“量刑相場”が裁判員にはあてはまらない可能性があるため、検察官が従来の論告よりも量刑を軽めに述べるケースが増えているという。

 制度開始前から、裁判員が被害者側の意見を必要以上に重視したり、多数決のシステム上から重罰化は予想されていたんだけれども、記事の中に見逃せない一文がありました。
 「本当に求める刑により近い求刑を行う」(検察幹部)
 今までの求刑は、本当に求めるものではなかったようです。
 でも、裁判員裁判の判決で「7~8掛け」の場合もあるし、一概に求刑を軽くするわけにもいかないよなぁ。今後は検察官の求刑が重要視されそうですね。

 今回は、9月25日に行われた野瀬幸信被告人(逮捕当時69)の裁判傍聴記。罪名は「絶滅のおそれのある野生動物の種の保存に関する法律違反」。絶滅の恐れがある動植物保護のためのワシント条約で商取引が禁じられている蝶「ルソンカラスアゲハ」の標本を密売したとして、逮捕された事件です。
 ルソンカラスアゲハはフィリピン・ルソン島などに生息し、太陽光を浴びると幻想的に光ることからマニアの間で人気があるという。
 報道によると野瀬は昨年10月ごろ、大阪のマンションで、ルソンカラスアゲハ4匹をふくむ、約1万匹の標本を販売業者の男(50)に500万円で販売したという。

 どんな世界にもマニアは存在するもんですね」。数が多いとはいえ、蝶々が500万円って。
 起訴されたのは、昨年10月30日ごろ、大阪のマンションで、パピリオキカエ69頭を含む標本を男性に500万円で譲渡した、という内容。
 新聞記事では、「ルソンカラスアゲハ」となっていたけど、起訴状は学名で表記するので「パピリオキカエ」となっていました。

 それより、蝶は“頭”で数えるもんなんですね。調べてみると、一般的に“羽”でも“匹”でも問題はないんだけど、学説上は“頭”で数えるそうな。ちょっとした、余談でした。

 検察官の冒頭陳述によると、被告人は会社経営をしていて、現在は年金で1人暮らしをしているとのこと。
 平成14年に、今回問題になっている標本を1000万円で購入したという。そして、被告人が500万円で譲渡した男性が、複数の人に蝶の標本を販売したために逮捕。元をたどるようにして、被告人も逮捕された。というのが事件の詳細です。
 法廷には、被告人の娘が情状証人として出廷です。

 弁護人 「お父さんが、今まで違法な蝶を売っていることはありました?」
 証人 「いや、知らないです」
 弁護人 「お父さんが有名なコレクターであるのは知ってました?」
 証人 「インターネットが出始めたころ、父の名前を検索したら、蝶に関することがたくさん出てきたので知っていましたが、私は虫が嫌いなので」

 娘さんが虫嫌いとは。

 弁護人 「どんなコレクターでしたか?」
 証人 「山に行って、1~2週間生活してから、帰ってきて、採ってきた蝶を標本にするのが好きなんだと思います」
 弁護人 「今後はどのように監督していきますか?」
 証人 「お父さんの面倒を見て、できるなら山とかでひっそり暮らさせてあげたいです」

 監督というよりは、被告人の好きな蝶とともに生活できるようにさせてあげたいといったところでしょうか。
 そして、被告人質問。まずは、弁護人から。

 弁護人 「蝶は何頭くらい持ってるんですか?」
 被告人 「10万頭を超えるくらい」

 なんと、個人で10万以上の所持ですよ。と、思ったら、

 弁護人 「ん? 先日の打ち合わせでは、30万~40万頭と言ってませんでした?」
 被告人 「もう、かなり処分しましたので」

 今は10万頭に減っただけで、40万頭弱の蝶を所持していたようです。想像を絶しますね。

 弁護人 「それだけ収集していたのは、取り調べで“蝶の博物館を作りたかったから”と答えているようですが」
 被告人 「昆虫館を作りたいという気持ちで集めてたんですけど、体力的にも不可能で」
 弁護人 「それは、標本の管理や保管も大変なので、処分をした、と」
 被告人 「はい。個人では不可能なので」
 弁護人 「(博物館などへ)寄贈も考えていたんですよね」
 被告人 「はい。でも、量が多すぎるということで断られました」
 弁護人 「ルソンカラスアゲハですが、珍しい蝶なんですか?」
 被告人 「(収集家なら)誰もが持ってる、すごい数が日本に入ってきてるんじゃないでしょうかね」
 弁護人 「ワシントン条約に指定されてるアゲハは4つありますが、その中でルソンカラスアゲハは珍しさで言うと?」
 被告人 「アレキサンドラ(トリバネアゲハ)と比べますと、アレキサンドラは数十万円で取引されているんですが、ルソンカラスアゲハは3000円~1万円くらいなんです」

 ほかの蝶の値段がわからないから高いのか安いのかは判断できないんだけど、話の流れから、そんなにレアな蝶ではなさそうです。

 弁護人 「先ほど、娘さんが面倒をみるとおっしゃってましたが、今後はどのように生活したいですか?」
 被告人 「田舎で安いアパート借りて、静かに暮らしたいと思います」
 弁護人 「本件は、誰が一番の被害者かというのは難しいんですが、自然破壊の罪なんで、環境破壊につながりますよね。その点についてはどう考えますか?」
 被告人 「昆虫類が好きで今までやってきたんですけど、蝶がいなくなって一番困るのは、私やと思います。それにも関らず、自然を破壊するようなことをしたと反省しております」

 と、さびしそうに述べて質問終了。
 検察官から質問はされず、続いて裁判官からの質問です。

 裁判官 「あのぉ、取調べでだいぶん述べられてるんですけど、大切なことなんで確認させてください。500万円で譲渡したのは、7102頭、と。ま、500万円で売ってしまった時の気持ちを教えてください」
 被告人 「標本がアブラムシにやられて、早く手放したいという思いがありましたね。持っててもダメになるので。それでちゃんと保管できる人にと思って、“売ってくれ”と」
 裁判官 「売ってくれと言われたのはわかりましたが、寄付しなかったのは?」
 被告人 「あまりにも数が多くてね、公的機関では引き取ってくれなかったんです」
 裁判官 「多いのをばらすのは?」
 被告人 「私の標本はデータが書いてあるラベルがなかったり、私にしかわからないような頭文字が書いてあるだけだったり、標本的価値は低いんです。そういうのがしっかりしてないとだめなんです」
 裁判官 「それで簡単な処分選んだ、と」
 被告人 「そうです」

 寄贈を断られたのは、数の多さだけじゃなく、標本としての価値が低かったのも理由だったようですね。ちゃんとデータとか書いていれば、こんなことには。

 裁判官 「現在はかなり処分したということですが、著書もあるという知識がありながら、手放すというのはどうなんですか?」
 被告人 「非常にさびしいですけどね、持ってると虫食いで困ることになると思います。なんでしかるべき人に引き取ってもらえればと」

 これは蝶を愛する者としての本心でしょうね。そして、最後の質問です。

 裁判官 「今後は田舎で生活したいということですが、どんなことをしたいですか?」
 被告人 「畑仕事して、山歩きしたり。農作業でもできればなと」
 裁判官 「そこで蝶の採集は?」
 被告人 「もう、蝶はこりごりです」
 裁判官 「えーー、もったいない気がするけど」

 と、なぜか裁判官が残念そうに述べて、質問終了でした。もしかして、この裁判官、蝶マニア?
 この後の、検察官が懲役1年を求刑して閉廷でした。裁判官が言うように、チョウ収集は続ければいいのにねぇ。違法の蝶に手を出さなきゃ問題ないわけだし。ま、何万頭もいるから、うっかりルソンカラスアゲハを捕まえる可能性もあるけどさ。
蝶マニアにとっては、がっかりな話しでしょうね。本人が“超”コリゴリというのであれば仕方ないけど。

注目の裁判

11月16日(月)被告人・原口悦郎:著作権法違反(初公判)
原口悦郎:著作権法違反(初公判) <映画などを無断で配布した事件> 09年9月、元東京消防庁滝野川消防署員、原口悦郎(当時58)は、08年11月から09年2月にかけ、自宅のパソコンでウィニーを使い映画4タイトルを不特定多数の利用者がダウンロードできるようにしたとして逮捕された。

11月16日(月)被告人・山田利生:強盗(判決)
<元タクシー運転手によるタクシー強盗> 09年9月、元タクシー運転手の山田利生(当時66)は、東京都江東区の路上で、乗っていたタクシーの運転手(当時61)に模造刀を突き付け「金を出せ」と脅し、運賃2150円の支払いを逃れたとして逮捕された。

11月17日(火)被告人・桜井勝己:脅迫(初公判)
<松本人志さんに対する殺害予告事件> 09年9月、埼玉県春日部市の無職桜井勝己(当時35)は、インターネット上の掲示板に「ダウンタウン」の松本人志に対する殺害予告を書き込んだとして逮捕された。

11月18日(水)被告人・秋山直紀:所得税法違反
<防衛汚職関連の所得税法違反事件> 08年8月、日米平和・文化交流協会会長の秋山直紀(当時58)は、防衛関連企業から受け取ったコンサルタント料を隠し所得税を免れたとして逮捕された。

11月18日(水)被告人・有馬龍之介:恐喝未遂(初公判)
<小6女児から金を脅しとろうとした事件> 09年9月、東京都台東区の文教大学2年、有馬龍之介(当時20)は、8月に書店の書棚に1000円札を置き、それを拾った女児に因縁をつけて現金を脅し取ろうとしたとして逮捕された。

11月18、19、20日(水、木、金)被告人・潮忍:昏睡(こんすい)強盗と準強姦(ごうかん)致傷(初公判)
<女子中学生に睡眠薬を飲ませて暴行した事件> 09年6月、埼玉県和光市のタクシー運転手潮忍(当時36)は、中学1年の女子生徒に睡眠薬を飲ませて暴行し、財布を奪ったとして逮捕された。

11月19日(木)被告人・阪中彰夫:旧証券取引法違反(偽計)
<ペイントハウスの架空増資事件> 09年6月、投資コンサルタント会社ソブリンアセットマネジメントジャパン社長・阪中彰夫(当時58)は、住宅リフォーム会社「ペイントハウス」の株価のつり上げを狙って架空増資を行い、同株を売却して3億円の利益を得たとして逮捕された。

11月20日(金)被告人・中田静子 ほか1名:昏睡強盗、窃盗(判決)
<スナック客に対する昏睡強盗> 09年3月、バー経営の中田静子(当時62)はスナック経営の細江敏光(当時39)と共謀、スナックで男性客に強い酒を飲ませて昏睡状態にさせ、キャッシュカードを奪って現金自動預払機から金を引き出したとして逮捕された。


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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。

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