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2009年9月21日

これが老老介護の現実、切なすぎる承諾殺人

 11月に、さいたま地裁で否認事件の裁判員裁判が行われることが決定したようで、いろんなケースの裁判員裁判が出てきましたね。

 9月17日には、和歌山地裁で裁判員裁判初の無期懲役の判決がありました。それで気になったのが、判決後に行われた記者会見で、裁判員に対して「意見はどれくらい判決に反映されたか?」と質問した記者がいたという報道。それは答えられないでしょ。完全に評議の秘密だし。

 もし、この質問に裁判員が答えていたら、懲役6カ月以下か罰金50万円以下のペナルティーですよ。でも、その答を導いた記者には罰がないんだよなぁ。
 もう1つ守秘義務に関して言えば、裁判員の選任手続き前の取材も謎。裁判所に入る前の候補者にインタビューしてるのって、なんで許されてるんだろ。罰則はないけど、裁判員に選ばれる前に候補者であることを公表するのは禁止なのに。それにも関らず、取材して、しかもニュースや新聞で(モザイク処理や匿名だけど)報じてるってのは変な話でしょう。聞き出した人への罰則を設ける予定ないんでしょうか。

 さて、今回は9月17日に行われた工藤幸一被告人(逮捕当時59)の裁判傍聴記。罪名は、承諾殺人。
 介護疲れによる殺人として報道された事件ですね。6月24日午前6時ころ、自宅で簡易トイレに座っていた妻(当時73)の首を後ろからタオルで絞め、殺害したとして逮捕されたものです。報じられたところによると、6月29日7時ころ、工藤が同僚の男性に「妻を殺してしまった」と電話し、男性が110番したという。
 逮捕後、工藤は「妻は15年前に脳梗塞で倒れて以降、半身不随で車いす生活だった。以前から『死にたい』と言っていた」と話したとか。

 被告人の年齢を“老”といってもいいのかはわからないけど、俗に言う、老老介護ってやつですね。
 起訴されたのは、6月24日午前5時45分、被告人は自宅で、死を望んでいた妻の承諾を得て、首をタオルで絞めつけ、窒息死させたという内容。
 まずは9月9日の初公判から。報道では、殺人(刑法199条)容疑だったんだけど、妻の承諾を得ていたので、承諾殺人(同202条)での起訴になったようです。

 検察官の冒頭陳述によると、被告人に前科はなし。中学卒業後、上京し、すし屋などで働いた後、運送会社でトラックの運転手として31年間勤務。その会社を2年前にやめ、犯行時は幼稚園のバス運転手をしていたという。
 被害者である妻とは、35年前に知り合い、同棲。平成2年に被害者が脳内出血で倒れて半身不随になり、被告人の介護生活が始まる。平成3年からの13年間、被害者の実家で2人は生活し、被害者の弟夫婦も介護の手伝いをしていたとのこと。

 平成16年12月、被告人夫婦は被害者の実家を出て、マンションで2人暮らしを始め、この年に入籍。被告人1人で介護することになり、仕事に出てる間は、介護サービスを利用していたという。今年2月からは、被害者の体調が悪化し、被害者が自殺しようとしたらしい。しかし、自殺する力もなく、周囲に「死にたい」と漏らすようになっていた、と。これが事件の詳細です。

 これに対し、弁護人は冒頭陳述で、被告人が長い間懸命に介護してきたことを主張し、被害者の弟や職場の人たちが、寛大な処分を望んでいることなどを述べていたした。
 被告人は取り調べに対し「平成16年から1人で介護していました。介護しながら、トラックの運転をするのはきつかったので、バス運転の仕事に変えました。2~3カ月前から、妻が“痛い”“死にたい”と訴えるようになりました。犯行前日、いつも通り食事をさせ、入浴させた。楽にしてあげたいと思ったが、殺す勇気もなく、酒を飲んで寝た。当日、いつも通り、4時半に起きて、ポータブルトイレに妻を座らせ“死なせて、この苦しさから解放してあげたい”と思った。それで、タオルを妻の首に巻き“これで楽になるから、少し我慢してくれ”というと、何も返事はなかったが、抵抗することもなかった。殺した後、このまま自分も死のうか、それとも出頭しようか迷っていたとき、警察官が来た」と述べているらしい。

 この手の事件報道を見聞きすると、「何も殺さなくても」とは思うんだけど、第三者には想像もつかないほどの苦労や悩みがあるのこもしれませんね。
 法廷には、遺族でもある被害者の弟が、被告人の情状証人として出廷です。
 弁護人 「お姉さんはどんな性格でした?」
 証人 「わがままなんですよね。自由奔放で、工藤君とは似つかわしくない夫婦でしたね」
 弁護人 「実家で暮らしていたときは、一緒に介護していたと。被告人の様子はどうでした?」
 証人 「(被告人の方を見て)よく看た、よく看たよね。この人じゃないと(2人暮らしになってからは)できなかったかなと。いくら姉でも、こっちは男ですから、風呂入れたり、下の世話はねぇ。そこは私の妻がやってましたけど。工藤君は(当時のトラック運転の仕事で)朝3時に外に出て、夜の7~8時に帰ってくるんです。それで、夜中は1時間おきに、(被害者のトイレなどで)起こされるんです。つらかったと思いますよ。それでも泣き言、言いませんでしたから。事件の後(被告人の)家に入りましたけど、彼の服で新しいのがないんです。しかし、姉のは新しい服が多かった。苦労したでしょうねぇ」
 弁護人 「新しい服が多かったというのは、お姉さんは出かけることが多かった?」
 証人 「パジャマでいいと思うんですど、ああいう人でしたから、着替えないとだめなんですね」
 弁護人 「そうですか。被告人はどんな性格の人でしたか?」
 証人 「穏やかな人ですよ。怒ったのは見たことない。だから、なんで、こんなことしたのかなぁって不思議で仕方ない。(介護サービスの)費用の負担や精神的苦労とか並大抵のものじゃなかったと思う」
 弁護人 「どういう処罰を望んでいますか?」
 証人 「恨んでないとは言い切れませんけどね、憎んではいませんよ。(被告人も)被害者ですから。きれいごとじゃないんですよ、介護って。24時間、休みないんですから。先生(弁護人)が思ってるよりもっともっと大変なの。やった人ににしか分かりませんよ。70歳越えるとね、入院させてくれないんですから。夜中、救急車で病院行って、帰されたのなんて(被告人は)何度も経験してると思いますよ。何とも複雑ですけど、寛大な処分をお願いしたいですね」
 弁護人 「今後、被告人のバックアップを手助けするつもりはあるんでしょうか?」
 証人 「それはもちろん。今後は俺が恩返しする番かなと」

 と、今後は被告人の面倒を見ていくと約束して、証人尋問は終了。
 そして、被告人質問。まずは、弁護人から。

 弁護人 「奥さんと知り合ったのはいつですか?」
 被告人 「24歳のころ。(被害者が)当時働いていた運送会社の裏に住んでいて、ちょくちょく顔出してて」
 弁護人 「すぐに交際したんですか?」
 被告人 「翌年に同棲するようになりました」
 弁護人 「30年間、籍を入れなかったのはなぜですか?」
 被告人 「妻の親兄弟から反対があったので」
 弁護人 「奥さんはどんな性格の人でしたか?」
 被告人 「几帳面できれい好きで、わがままな一面もあって」

 この後は、被害者が平成2年に倒れてからの介護の経歴が述べられました。

 弁護人 「籍を入れたのはなぜですか?」
 被告人 「マンション買って、2人で暮らしていくんで、ちゃんとしようと思って」
 弁護人 「2人で暮らすようになってからですが、介護サービスはどれくらい利用していましたか?」
 被告人 「火曜、金曜に1日4回のデイサービスを使用していました」
 弁護人 「ほかの日は?」
 被告人 「自分で」
 弁護人 「朝はどんな生活でした?」
 被告人 「4時半に起きて、妻のトイレ、食事の支度、掃除をして、6時過ぎに仕事に出ます」
 弁護人 「睡眠時間は?」
 被告人 「4時間ほどです」
 弁護人 「寝てる間も起こされてたんですよね」
 被告人 「水分補給のために少なくとも1回は」
 弁護人 「介護してる時、どんなことを言われてましたか?」
 被告人 「すべてきちっとしてないと気が済まないので、湯呑みの位置が本人の中で決まっていて、ちょっとでもずれると『だめ』って。リモコンも机の上に曲がって置いてあると『だめ』って」
 弁護人 「それは訪れたヘルパーさんにも?」
 被告人 「いや、私にだけ、ヘルパーさんが帰った後に『あれダメ』『これダメ』と」

 被害者の性格が、几帳面でわがままといわれていただけあって、細かい乱れがあると指摘せずにはいられなかったようです。そんなわがままも被告人にだけ。

 弁護人 「今後について話したりしてましたか?」
 被告人 「3年ほど前から、『早く死にたい』『なんの楽しみもない』と言い出すようになって。2年前には買い物の間にハサミで舌を5センチくらい切ったり」
 弁護人 「タオルで首を絞めたり、ハンカチを口に入れたりしたこともあったそうですね」
 被告人 「でも、自殺できるような(力がある)状態じゃなかったですね」
 弁護人 「特別養護施設に預けようとは?」
 被告人 「週に2~3日でもと思ったんですが、本人が一切いやだと拒否するんで」
 弁護人 「なぜ、拒んだのだと思いますか?」
 被告人 「人の世話になるのが嫌だったんでしょう」

 被告人以外にわがままを言わず、他の人に看てもらうことを拒んだというのは、長年連れ添った故の信頼感でしょうか。
 そして、最後の質問。

 弁護人 「社会復帰したら、どうしますか?」
 被告人 「妻の墓参りをしたい。(証人である)弟さんが面倒を見てくださるということなので、お世話になりたいと思います」

 と、今後のことを述べて、質問終了。
 次は、検察官からの質問です。

 検察官 「今まで『死にたい』って言われていたのに、相手にしてませんでしたよね。決意したのはいつなんですか?」
 被告人 「当日の朝、5時半過ぎですね」
 検察官 「5時半に決めて、5時40分すぎに起こしたと。どんな会話をしましたか?」
 被告人 「いつもはトイレが終わると布団に戻るんですけど、この日は『まだ出るかも』と座ってたんです。座ってる間に、食事の支度をしてたんですけど『アレいらない』『コレいらない』『掃除しろ』とか」
 検察官 「意思確認で聞いてみたりは?」
 被告人 「質問はしなかったですね」
 検察官 「タオルを首にかけて、すぐに絞めたと」
 被告人 「そうですね」
 検察官 「抵抗はなかったということですが」
 被告人 「あったら止めてたと思います」
 検察官 「自分の愛する人を殺そうって、人生の中でも相当な決断ですよね。他の道は考えなかったですか?」
 被告人 「ここに至るまでに弟さんとか他の人に相談すればよかったと思います」

 と、答えたところで時間切れ。被告人質問の途中で閉廷でした。
 そして、9月17日の第2回公判。
 検察官の続きから。

 検察官 「犯行前日に殺そうと考えたけど、お酒を飲んで寝た、と。かなり飲んでました?」
 被告人 「いつもより、グラス1~2杯は多かったかもしれません」
 検察官 「酒が判断に影響を与えた可能性はありませんか? 酔っていたとか」
 被告人 「それはないです」

 酒の勢いでの犯行ではないと断言したところで最後の質問。

 検察官 「承諾があったとはいえ、責任を取らなきゃいけませんよね。裁判官が決めることですけど、刑務所に入って区切りをつけた方がいいいと思っていますか? 社会内で反省した方がいいと思ってますか?」
 被告人 「自分の罪を償うつもりですけど(どっちを望むかは)わかりません。社会復帰後は妻の供養をしたいと思っています」

 と、述べて質問終了。次は左陪席裁判官からの質問。

 左陪席裁判官 「なぜ、この日に殺そうと思ったんですか?」
 被告人 「今まで細かなことを言われて、ここ3年間はかなり体調も悪かったので」
 左陪席裁判官 「この日にした理由はあるんですか?」
 被告人 「自分でも早く楽になりたいとか、自分で思うように体が動かなくなってきて」

 犯行日に意味はないものの、被告人としても限界が来ていたのもしれませんね。
 今度は、右陪席裁判官から。

 右陪席裁判官 「犯行日以前に奥さんを殺して楽にしてあげようと考えたことはありましたか?」
 被告人 「1度ありました」
 右陪席裁判官 「いつですか?」
 被告人 「1カ月くらい前ですね」
 右陪席裁判官 「きっかけは何ですか?」
 被告人 「タオルを首に巻いて『殺してくれ』と頼まれて。それからです」
 右陪席裁判官 「それは言葉にしてたんですか?」
 被告人 「はい、間違いないです」
 右陪席裁判官 「なぜ、その時は奥さんの頼みに応えなかったんですか?」
 被告人 「今はこうなってますけど『罪人扱いになるから』と言いました」
 右陪席裁判官 「1カ月で考えが変わったと」
 被告人 「はい」

 最後は裁判長からの質問です。

 裁判長 「1カ月で考えが変わった理由はなんですか?」
 被告人 「やっぱり、日常的に『楽になりたい』とか『死にたい』と言ってたのが」
 裁判長 「それは、より状況がひどくなってきていたということですか?」
 被告人 「そうですね。自分も介護疲れがありました」
 裁判長 「あなたも楽になりたいと」
 被告人 「自分でも思っていました」

 そして、犯行時の承諾についての質問。 

 裁判長 「この日『殺してくれ』とは言われてないんですよね」
 被告人 「言われていません」
 裁判長 「犯行前日は?」
 被告人 「前日もです」
 裁判長 「犯行時に食事の支度をしていましたよね。その時に『アレいらない』とか『掃除しろ』と言われて、カッとなったんですか?」
 被告人 「いや、イラ立たせることをわざと言ってきてるな、と」
 裁判長 「我慢の限界が来るように奥さんが言ってきた、と」
 被告人 「そうです」
 裁判長 「長年、夫婦やってきて、彼女がそう考えたと思うということですか?」
 被告人 「はい」

 と、暗黙の承諾があったと主張して、質問はすべて終了。
 この後、検察官が懲役4年を求刑して閉廷でした。
 もう被告人の奥さんは亡くなっているわけで、実際どんな思いだったのかはわかないけど、30年以上連れ添った夫に「殺して」と頼んでも殺してくれず、自殺する力もない。最後は夫をイラ立たせることで殺してもらおうと考えたのだとしたら、切ない話だ。被告人もそんなことで腹が立つはずもなく、奥さんの心情をくみ取って殺害ですから。
 罰を受けることも分かった上で、長年介護してきた被告人のけじめだったんじゃないのかなぁ。
 この手の事件を傍聴すると、被告人に刑事罰を与えることがどれだけの意味があるのかと疑問に思うばかりだ。

注目の裁判

11月16日(月)被告人・原口悦郎:著作権法違反(初公判)
原口悦郎:著作権法違反(初公判) <映画などを無断で配布した事件> 09年9月、元東京消防庁滝野川消防署員、原口悦郎(当時58)は、08年11月から09年2月にかけ、自宅のパソコンでウィニーを使い映画4タイトルを不特定多数の利用者がダウンロードできるようにしたとして逮捕された。

11月16日(月)被告人・山田利生:強盗(判決)
<元タクシー運転手によるタクシー強盗> 09年9月、元タクシー運転手の山田利生(当時66)は、東京都江東区の路上で、乗っていたタクシーの運転手(当時61)に模造刀を突き付け「金を出せ」と脅し、運賃2150円の支払いを逃れたとして逮捕された。

11月17日(火)被告人・桜井勝己:脅迫(初公判)
<松本人志さんに対する殺害予告事件> 09年9月、埼玉県春日部市の無職桜井勝己(当時35)は、インターネット上の掲示板に「ダウンタウン」の松本人志に対する殺害予告を書き込んだとして逮捕された。

11月18日(水)被告人・秋山直紀:所得税法違反
<防衛汚職関連の所得税法違反事件> 08年8月、日米平和・文化交流協会会長の秋山直紀(当時58)は、防衛関連企業から受け取ったコンサルタント料を隠し所得税を免れたとして逮捕された。

11月18日(水)被告人・有馬龍之介:恐喝未遂(初公判)
<小6女児から金を脅しとろうとした事件> 09年9月、東京都台東区の文教大学2年、有馬龍之介(当時20)は、8月に書店の書棚に1000円札を置き、それを拾った女児に因縁をつけて現金を脅し取ろうとしたとして逮捕された。

11月18、19、20日(水、木、金)被告人・潮忍:昏睡(こんすい)強盗と準強姦(ごうかん)致傷(初公判)
<女子中学生に睡眠薬を飲ませて暴行した事件> 09年6月、埼玉県和光市のタクシー運転手潮忍(当時36)は、中学1年の女子生徒に睡眠薬を飲ませて暴行し、財布を奪ったとして逮捕された。

11月19日(木)被告人・阪中彰夫:旧証券取引法違反(偽計)
<ペイントハウスの架空増資事件> 09年6月、投資コンサルタント会社ソブリンアセットマネジメントジャパン社長・阪中彰夫(当時58)は、住宅リフォーム会社「ペイントハウス」の株価のつり上げを狙って架空増資を行い、同株を売却して3億円の利益を得たとして逮捕された。

11月20日(金)被告人・中田静子 ほか1名:昏睡強盗、窃盗(判決)
<スナック客に対する昏睡強盗> 09年3月、バー経営の中田静子(当時62)はスナック経営の細江敏光(当時39)と共謀、スナックで男性客に強い酒を飲ませて昏睡状態にさせ、キャッシュカードを奪って現金自動預払機から金を引き出したとして逮捕された。


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阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。

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