2009年8月31日
ウミガメに助けられた自転車泥棒
第21回最高裁判事の国民審査が終わりましたね。
で、この原稿を書いている時点(8月31日夕方)では開票結果が発表されていないような気が。衆院選の方は、もういいよって位に報じてるのに。
とりあえず、投票者が一番多いと思われる東京都の選挙管理委員会のホームページを見ると、どの裁判官も×を付けた人の数は一割程度ですね。他の県も合わせても、過半数は超えないように思われます。
最高裁の判事って、日本中から絶大な信頼を得てるんですね。てっきり、冤罪事件に係わった人や裁判員制度を推し進めた人に票が集まると思ってたんだけどね。
さて今回は、8月25日に東京簡裁で行われた山口友一被告人(逮捕当時28)の裁判の話。罪名は、窃盗。30万円相当の高級自転車を盗んだとして逮捕された事件ですね。報道によると、自宅からは90万円相当の高級自転車を含む自転車8台と、自転車60台分に相当する部品約450点が見つかったとか。防犯登録や車体番号が削られていることから、転売目的で盗んだ疑いがあるとみて調べられたそうだ。
高級自転車コレクターによる事件ですかね。乗るために自転車を盗むケースは多々あるけど、転売目的とは、ちょっと珍しい。余罪が多数あることを匂わせる報道だったんだけど、起訴されたのは2つ。
1つは、今年の5月30日頃、世田谷区内のマンション駐車場から自転車1台(35万円相当)を盗んだ件。2つ目は、6月8日頃、港区のマンション駐車場から自転車1台(35万円相当)を盗んだ件。
検察官の冒頭陳述によると、被告人は大学を卒業後、1度も就職することはなく、犯行時は両親と同居していたとのこと。大学時代は自転車クラブに入部し、5年前から自転車を収集していた、と。5月30日。買い物のため自転車で外出した被告人は、マンション駐車場に高級自転車があるのを発見。ワイヤーカッターでワイヤー錠を切断し、その自転車に乗って帰宅。後で、自分の自転車を歩いて取りに戻ったらしい。
そして、6月8日。以前から高級自転車が駐輪してあることを知っていた被告人は、盗む目的で港区のマンション駐車場へ行き、ペンチでワイヤー錠を切断し、高級自転車を盗んだ、というのが事件の詳細です。
盗む気があって道具を持ってるのは分かるけど、買い物に行く時にワイヤーカッター持ってるって…。欲しい自転車があれば、いつでも盗めるように持ってたんでしょうか。
法廷には、被告人の父親が情状証人として出廷です。まずは、弁護人からの質問。
弁護人 「犯行の原因は何だと思いますか?」
証人 「自転車が好きなのは分かるんですけど、人の物を盗むというのは、私の管理監督が甘かったな、と」
弁護人 「自転車に関して、今後は?」
証人 「縁を切って欲しい…」
弁護人 「現実的に、なかなか難しいと思いますが…」
証人 「(家にある)自転車は処分しようと思っています。
もう自転車収集は辞めさせるとの約束です。」
弁護人 「被告人は、28歳で無職ですよね。それについては、どう考えますか?」
証人 「早く仕事について欲しいと思っていました。」
弁護人 「では、息子さんの今後については?」
証人 「仕事は早くしてもらいたいんですが、ひきこもってるところがあったので、屋久島NPOの活動をしている“うみがめ館”に行かせます」
弁護人 「なぜ、ウミガメなんでか? 」
証人 「社会的な訓練として、かなり厳しいと聞いてますし、集団で行動することに慣れてもらいたいので…」
どうやら屋久島には、ウミガメの産卵のために浜辺の保全につとめたりするボランティア活動があるらしい。証人としては、そこの厳しい生活で精神を鍛えて来いってことなんでしょう。
弁護人 「そこが厳しいと逃げて戻ってきたら、どうします?」
証人 「追い返します」
かなり本気のようですね。

次は検察官から。
検察官 「同居されてるようですが、被告人の部屋に入ったことはあります?」
証人 「警察官が家に来て、逮捕の時に…。普段は入ってません」
検察官 「分解した自転車がどれだけあったかは?」
証人 「把握しておりません」
家の間取りは分からないけど、何台もの自転車を部屋に運んでたら分かりそうなもんだけどね。とにかく、親としては全く気付いてなかったようです。
最後は、裁判官から。
裁判官 「さっき、被告人がひきこもりって言っていましたが、いつからですか?」
証人 「大学卒業して、就職がうまくいかなくなってからですね。自信がなくなったというか…」
実は、この証人は超一流企業で働いているんです。裁判官は、そんな素晴らしい経歴に触れてから、
裁判官 「的ハズレな質問をしますけど、息子さん一人っ子ですよね。一人っ子の男の子って。父親が立派だとプレッシャーだと思うんです。だから何だって話なんだけど。息子さんは、お父さんと比べて“オレは何やってんだ”ってテーマを与えられる場合もあるんじゃないかと思うんですが…」
証人 「…意識してませんでしたね…。過保護に育てちゃったんで、生存競争に飛び込んでいけないと思ってました」
裁判官 「気になるのがね、NPOから逃げてきたら追い返すってのがね、本人にとって良いのか分かりませんけど、その辺りの配慮お願いしますね」
と、一人っ子論を展開して、質問終了でした。そして、被告人質問。まずは、弁護人から。
弁護人 「あなたが盗んだのは、どんな自転車ですか?」
被告人 「スポーツサイクルです」
弁護人 「いくら位する物ですか? 1台目は?」
被告人 「30万円くらいです」
弁護人 「それは評価額ですよね。実際、お店で買ったら、もっとしますよね? 2台目は?」
被告人 「100万円です」
スーパーで売ってるママチャリ100台分ですね。そう考えると、施錠してあるとは言え、無造作に高級自転車が停まってるのって、すごい話だ。
弁護人 「欲しいものがあると我慢出来ない性格なんですか?」
被告人 「自転車に限ってです」
さすがは、マニア。
弁護人 「どれくらい自転車が好きなんですか?」
被告人 「生活の中で大きな部分を占めます」
弁護人 「そんなに好きなら被害者の気持ち分かりますよね。」
被告人 「はい」
自転車好きだからこそ分かる、心の痛みですね。そして、更生に関しての質問。
弁護人 「先程、お父さんの方から自転車処分の話が出てましたけど、納得出来るんですか?」
被告人 「はい、今は」
弁護人 「なぜ、そういう考えになったんですか?」
被告人 「自転車とはいったん、縁を切って、再スタートすることが大事だと思います」
と、断チャリ宣言。手を出さなきゃ再犯はなさそうだけど、ここまで好きな物をなくしたり出来るのかねえ。何かに生かせそうだけど。
弁護人 「あと“うみがめ館”は、お父さんに行くように言われたんですか?」
被告人 「いえ。父が提案して、自分で決めました。」
弁護人 「“うみがめ館”に行けば、盗みをしなくなるんでしょうか?」
被告人 「自分を変えられると思っています。」
被告人としては、今までの自分を変えたいと思ってるんですね。だからこそ、自転車は全て処分、と。
弁護人 「今後、再犯しないためには?」
被告人 「仕事に就いて、人の痛みを理解し、自分に厳しく生活していこうと思います」
弁護人 「ちなみに、今まで仕事しなかったのはなぜですか?」
被告人 「何か自分に合うものと考えてました」
今後、とにかく何かの職に就くことを約束して、質問終了でした。検察官からは何の質問もなかったので、続いて裁判官からの質問です。
裁判官 「あなた一人っ子だから、かわいがられたでしょ?」
被告人 「はい」
やっぱり、一人っ子が気になる裁判官。
裁判官 「自分に合う仕事を探すって言いますけどね。私の学生の頃も皆言うんですよ。自分に見合った仕事って。それはね、子供の頃から野球が上手くてプロ野球選手になったとか、絵を描くのが上手でね、美術の大学に行って画家になるのかあるだろうけど、大体ね。あまりないと思うんですよ。あなたは、28歳まで(探してた)?」
被告人 「ズルズルしていました」
裁判官 「ズルズルって、せいぜい1年でしょ」
法律の世界では、ズルズルは1年のようです。
裁判官 「しかも、親に面倒見てもらって。どういう精神状況だったの? 言ってごらん」
被告人 「怠けていた…やはり…甘えていた部分もあったと思います」
裁判官 「社会は競争社会なんですよ。同級生の人達と比べたら、5年間やってこなかったんだから大変ですよ。人は緩むと、しっかりした生活に戻れませんよ。…あなたがしっかりしないと山口家が大変じゃない。親にぶら下がるのは、これっきりにしてください。」
被告人 「はい!」
と、ニート生活をしかったところで、質問は終了でした。
この後、検察官が懲役2年を求刑。弁護人は、被告人に前科もないので即決をお願いです。
すると、裁判官が、
裁判官 「では判決期日ですが、2週間後の…」
と言い出したんです。この裁判官は例外なく、判決まで2週間空ける人なのです。これを聞いた弁護人は、
弁護人 「2週間というのは他の簡裁ではあまり聞いたことないですけど、もうちょっと早くならいでしょうか…」
裁判官 「他の裁判は関係ないですよ。弁護人の都合が悪いなら、日をあらためますけど」
弁護人 「いや、屋久島のウミガメがふ化してくるので、もう少し早く…」
裁判官 「あ、それは大変ですね」
という訳で、判決は1週間早まって、9月3日に行われることになりました。
親に助けられ、ウミガメにも助けられ…。これからウミガメの世話をするっていうのに。
世の中、競争社会とは言え、誰もが誰かに助けられてつながってるのかもしれませんね。自転車のチェーンのように。
※写真は今後、被告人が世話をすることになる?ウミガメ
注目の裁判
11月16日(月)被告人・原口悦郎:著作権法違反(初公判)
原口悦郎:著作権法違反(初公判)
<映画などを無断で配布した事件> 09年9月、元東京消防庁滝野川消防署員、原口悦郎(当時58)は、08年11月から09年2月にかけ、自宅のパソコンでウィニーを使い映画4タイトルを不特定多数の利用者がダウンロードできるようにしたとして逮捕された。
11月16日(月)被告人・山田利生:強盗(判決)
<元タクシー運転手によるタクシー強盗> 09年9月、元タクシー運転手の山田利生(当時66)は、東京都江東区の路上で、乗っていたタクシーの運転手(当時61)に模造刀を突き付け「金を出せ」と脅し、運賃2150円の支払いを逃れたとして逮捕された。
11月17日(火)被告人・桜井勝己:脅迫(初公判)
<松本人志さんに対する殺害予告事件> 09年9月、埼玉県春日部市の無職桜井勝己(当時35)は、インターネット上の掲示板に「ダウンタウン」の松本人志に対する殺害予告を書き込んだとして逮捕された。
11月18日(水)被告人・秋山直紀:所得税法違反
<防衛汚職関連の所得税法違反事件> 08年8月、日米平和・文化交流協会会長の秋山直紀(当時58)は、防衛関連企業から受け取ったコンサルタント料を隠し所得税を免れたとして逮捕された。
11月18日(水)被告人・有馬龍之介:恐喝未遂(初公判)
<小6女児から金を脅しとろうとした事件> 09年9月、東京都台東区の文教大学2年、有馬龍之介(当時20)は、8月に書店の書棚に1000円札を置き、それを拾った女児に因縁をつけて現金を脅し取ろうとしたとして逮捕された。
11月18、19、20日(水、木、金)被告人・潮忍:昏睡(こんすい)強盗と準強姦(ごうかん)致傷(初公判)
<女子中学生に睡眠薬を飲ませて暴行した事件> 09年6月、埼玉県和光市のタクシー運転手潮忍(当時36)は、中学1年の女子生徒に睡眠薬を飲ませて暴行し、財布を奪ったとして逮捕された。
11月19日(木)被告人・阪中彰夫:旧証券取引法違反(偽計)
<ペイントハウスの架空増資事件> 09年6月、投資コンサルタント会社ソブリンアセットマネジメントジャパン社長・阪中彰夫(当時58)は、住宅リフォーム会社「ペイントハウス」の株価のつり上げを狙って架空増資を行い、同株を売却して3億円の利益を得たとして逮捕された。
11月20日(金)被告人・中田静子 ほか1名:昏睡強盗、窃盗(判決)
<スナック客に対する昏睡強盗> 09年3月、バー経営の中田静子(当時62)はスナック経営の細江敏光(当時39)と共謀、スナックで男性客に強い酒を飲ませて昏睡状態にさせ、キャッシュカードを奪って現金自動預払機から金を引き出したとして逮捕された。
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