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2009年8月24日

前科なしから、「いきなり強盗」が不可解だ

 8月30日、第21回最高裁判所裁判官国民審査が行われます。最高裁の判事を罷免するかどうかを決める重要な投票ですね。

 世界的にもこんなことやってる国は珍しいので、日本は司法に関心の高い国なんでしょう。実は、この日に第45回衆議院議員選挙もついでに行われます。こちらの方は、元々誰も興味がないからか、政権放送やCMを流したり、新聞やニュースで政治のことを報じたり、必死です。

 国民審査の方は、皆興味があるので、わざわざニュースで「この判事で、こんな人です」なんてことは取り上げません。政見放送みたいに「私を罷免しないでください!」なんて、裁判官が国民にアピールしません。さらに言えば、電車の中や居酒屋で「どの裁判官に×つけるか迷うね」なんてしゃべってるサラリーマンも見たことがありません。わざわざ口に出すまでもないほど、国民審査が根付いている証ですね。
 しかし、数少ない「誰を審査するかも知らない」という人のために、全9人を掲載です。

那須弘平
涌井紀夫
田原睦夫
近藤崇晴
宮川光治
櫻井龍子
竹内行夫
金築誠志
竹崎博允

 日本人にとっては、名前を聞いただけで、顔が浮かんでくる有名な方ばかりですね。プロフィール等を知らない人は、検索して、国民審査に臨みましょう。衆院選は無記名票が無効だけど、国民審査は無記入票は信任扱いですからね。知らない、わからないってのは、投票に行かないより困りものなのだ。
 今回は8月21日に行われた土佐英明被告人(逮捕当時38)の裁判の話。罪名は、強盗、銃砲刀剣類所持等取締法違反。事件の内容は、逮捕時の報道からこんな感じです。

 土佐は5月31日、台東区のコンビニに押し入り、オーナーの男性(57)に文化包丁を突きつけて、「お金を下さい」と脅し、店の売上金7万円を奪った。6月9日、神奈川県内の交番に「コンビニ強盗をしました」と自首し、逮捕されたというもの。取り調べに対し、「いくらお金がないとはいえ、強盗に入るのはあまりにも自分勝手でした」と供述しているとも報じられました。

 実名報道するほどの事件なのかという疑問はあるけれど、強盗(刑法236条、5年以上の有期懲役)は重大事件ですからね。
 起訴されたのは報道された強盗事件で、オーナーの男性に刃渡り11・5センチの包丁を示して、「お金を下さい」と脅し、隣のレジにいた男性店員(54)に対しては「お金ください、それも」と脅して、7万円を奪った、という内容ですね。

 検察官の冒頭陳述によると、被告人に前科前歴はなし。高校卒業後、職を転々としていたが、08年11月に三重県から上京。仕事が見つからず、今年2月からは携帯電話を自分の名義で購入して、業者に売却するという、ネットで知った仕事をして、生活費を得ていたとのこと。
 しかし、犯行2日前には、ウイークリーマンションの家賃も払えなくなり、所持金もなくなったため、100円ショップで包丁と帽子を購入して、強盗を決意した。

 そして、犯行後。奪った7万円を宿泊費や食費なので」使い果たした6月9日に、川崎市内の交番に「すみません。コンビニ強盗したので自首しにきました」と自首して逮捕されたというのが事件の流れです。
 「お金ください」「自首しにきました」と、なんとも現実味のない強盗犯ですね。かと言って、ドラマや小説っぽくもないし。現実ってのは、意外とこんなものかもしれませんね。
 そして被告人質問。まずは弁護人から。

 弁護人 「事件前は、三重県に住んでいたと。なんで、東京の方に来たんですか?」
 被告人 「元々、地元がこっちなので、帰ってきたと」
 弁護人 「上京した時の所持金は?」
 被告人 「40万円位だったと思います」
 弁護人 「お金はあったけど、東京で仕事のあてはなかったんですね」
 被告人 「寮付きの仕事を探そうと思ってました」
 弁護人 「三重で仕事決めてから上京すべきだと思いますけどね」
 被告人 「求人誌が東海版と関東版で内容が違うので、上京してから探そうと」
 弁護人 「それで面接に行ったけど、採用はされなかったと」

 去年の11月に上京して、仕事がないまま3カ月。40万円の貯金もなくなり、ネットの闇サイトでみつけた、携帯電話売買の仕事を始めることに。

 弁護人 「ケータイの売買自体、よくないこととは思ってなかったんですか?」
 被告人 「思ってませんでした」
 弁護人 「何に使われるか。ま、犯罪に使われるとは思ってたでしょ?」
 被告人 「そうですね」
 弁護人 「そこから反省しないとね」
 被告人 「はい。反省しています」

 と、立件されてないところの反省も促されていました。そして、

 弁護人 「犯行後、所持金が少なくて困ってるんですよね。万引しようとは?」
 被告人 「思い付かなかったです」
 弁護人 「なんで、コンビニ強盗なんですか?」
 被告人 「深夜なら、できそうと思ってやりました」

 と、せめて万引にしておけばという弁護です。言おうとしてることはわかるけどもさ。このあとは、反省の弁や寮付きの新聞販売店などで働きたい等々を述べ、質問終了です。
 次は検察官からの質問。

 検察官 「去年上京して、2月に金がなくなり、今後どうしようと考えてたんですか?」
 被告人 「仕事を探してました」
 検察官 「それでケータイの売買をみつけたんですよね。ずっと続けていこうと思ってました?」
 被告人 「ずっと、とは思ってませんでした」
 検察官 「その時、仕事探してました?」
 被告人 「探してましたけど、考えないようにしてました」
 検察官 「なぜ、考えないようにしてたんですか?」
 被告人 「仕事を探しても、断られるのが続いてしまったので」

 ちゃんとした仕事をしたかったんだろうけど、怪しげな仕事でとりあえずの収入を得てたってところでしょうか。しかし、その怪しげな仕事もなくなり、強盗、と。

 検察官 「7万円を手に入れて、それを使ってるとき、どう思ってたんですか?」
 被告人 「何も考えてませんでした」
 検察官 「思いきって手に入れたんでしょ! 悪いことして得た金なんだけど、それで人生やり直そうとは考えなかったんですか?」
 被告人 「その時は考えてなかったです」
 検察官 「でも今は新聞販売店で働きたいとか将来のこと考えてるんでしょ。自分の中で、心境の変化があったんですか?」
 被告人 「うーーん、わかんないですけど。罰を受けて、まじめに生きていきたいと思ってます」

 とにかく、何においても、何も考えてなかったようです。
 最後は裁判官からの質問。

 裁判官 「仕事ですけど、みつけられなかったのかやる気がなかったのか、どっちですか?」
 被告人 「やる気はありましたが、多少、仕事を選んでました」
 裁判官 「それとケータイの売買ですけど、悪い事だとは思ってなかったんですか?」
 被告人 「思ってなかったです」
 裁判官 「今までやってきた仕事は、もっともっと苦労したでしょ。それが、人にケータイを売るだけって、まっとうな話じゃないですよね?」
 被告人 「はい」
 裁判官 「それでも悪いと思わなかった?」
 被告人 「何台も売ってて」

 あやしいけど、捕まらないし、と、感覚が鈍ってたのかもしれませんね。そして、裁判官が弁護人と似たような質問です。

 裁判官 「金銭的に困っていたと。強盗以外に思いつかなかった? 犯罪含めて」
 被告人 「思い付かなかったです」
 裁判官 「比較の問題だけど、万引とかもあるんだよね。人の家に泥棒に入ろうとは?」
 被告人 「思わなかったです」
 裁判官 「じゃ、なぜ、コンビニ強盗なんですか?」
 被告人 「自分の中で比較的簡単にできると思ってました」

 強盗は簡単にいかない気もするけど。しかも、防犯カメラが必ずあるコンビニだし。

 裁判官 「上京してから犯罪に近づいた生活になってますよね。1年前、今の自分を想像できました?」
 被告人 「してませんでした」
 裁判官 「強盗やる人で前科前歴がない人って、あんまりいないんだよね。今まで、ごくごく、まっとうに暮らしてきたのに、ここ半年で急に変わっちゃったんでしょ? どこで間違っちゃったのかなぁと。なんで、こんなことになったと思います?」
 被告人 「ケータイの売買で短時間ですけど、裏サイトの人と付き合いだして、徐々に変わっていったのかもしれません」

 引き金は付き合った人の影響ですかね。
 このあと、検察官が懲役5年と包丁1本没収の求刑をして、閉廷でした。

 強盗をやるって、かなりの決断力と行動力が必要でしょ。しかも、犯罪なんだから、よっぽどの事情や動機があると思うんだよね。第3者が聞いたら「そういうわけか」と納得できるほどの。
 でも、この被告人に関しては、そんなに切羽詰まってたようには思えないんだよね。それは弁護人と裁判官が「何で強盗?」って首をかしげてたから、みな不思議に感じてたんだろうけど。

注目の裁判

11月16日(月)被告人・原口悦郎:著作権法違反(初公判)
原口悦郎:著作権法違反(初公判) <映画などを無断で配布した事件> 09年9月、元東京消防庁滝野川消防署員、原口悦郎(当時58)は、08年11月から09年2月にかけ、自宅のパソコンでウィニーを使い映画4タイトルを不特定多数の利用者がダウンロードできるようにしたとして逮捕された。

11月16日(月)被告人・山田利生:強盗(判決)
<元タクシー運転手によるタクシー強盗> 09年9月、元タクシー運転手の山田利生(当時66)は、東京都江東区の路上で、乗っていたタクシーの運転手(当時61)に模造刀を突き付け「金を出せ」と脅し、運賃2150円の支払いを逃れたとして逮捕された。

11月17日(火)被告人・桜井勝己:脅迫(初公判)
<松本人志さんに対する殺害予告事件> 09年9月、埼玉県春日部市の無職桜井勝己(当時35)は、インターネット上の掲示板に「ダウンタウン」の松本人志に対する殺害予告を書き込んだとして逮捕された。

11月18日(水)被告人・秋山直紀:所得税法違反
<防衛汚職関連の所得税法違反事件> 08年8月、日米平和・文化交流協会会長の秋山直紀(当時58)は、防衛関連企業から受け取ったコンサルタント料を隠し所得税を免れたとして逮捕された。

11月18日(水)被告人・有馬龍之介:恐喝未遂(初公判)
<小6女児から金を脅しとろうとした事件> 09年9月、東京都台東区の文教大学2年、有馬龍之介(当時20)は、8月に書店の書棚に1000円札を置き、それを拾った女児に因縁をつけて現金を脅し取ろうとしたとして逮捕された。

11月18、19、20日(水、木、金)被告人・潮忍:昏睡(こんすい)強盗と準強姦(ごうかん)致傷(初公判)
<女子中学生に睡眠薬を飲ませて暴行した事件> 09年6月、埼玉県和光市のタクシー運転手潮忍(当時36)は、中学1年の女子生徒に睡眠薬を飲ませて暴行し、財布を奪ったとして逮捕された。

11月19日(木)被告人・阪中彰夫:旧証券取引法違反(偽計)
<ペイントハウスの架空増資事件> 09年6月、投資コンサルタント会社ソブリンアセットマネジメントジャパン社長・阪中彰夫(当時58)は、住宅リフォーム会社「ペイントハウス」の株価のつり上げを狙って架空増資を行い、同株を売却して3億円の利益を得たとして逮捕された。

11月20日(金)被告人・中田静子 ほか1名:昏睡強盗、窃盗(判決)
<スナック客に対する昏睡強盗> 09年3月、バー経営の中田静子(当時62)はスナック経営の細江敏光(当時39)と共謀、スナックで男性客に強い酒を飲ませて昏睡状態にさせ、キャッシュカードを奪って現金自動預払機から金を引き出したとして逮捕された。


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阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。

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