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2009年6月29日

道路にクギ、50歳パンク男の言い分は

 ちょっとだけ宣伝。先週から、裁判の話をするポッドキャスト番組が始まりました。その名も「阿曽山大噴火の赤坂大噴火」。

 ラジオ番組の制作をしているテレコムサウンズのHP上からダウンロードできるので、興味のある方は是非。毎週月曜更新なんだけど、1カ月間はバックナンバーも聞けるらしいんです。先週分のもまだダウンロードできるかと思います。

 さて、今回は6月25日に行われた渋沢正見被告人(逮捕時50)の裁判傍聴記。罪名は器物損壊。自宅前の道路にくぎを仕掛けて通過する車のタイヤをパンクさせたという、よく分からない事件です。
 報道されたところによると、飲食店店員の渋沢は08年1月から8月、自宅付近の路上のアスファルトに手動ドリルで穴をあけ、先端を鋭くとがらせたクギを瞬間接着材で固定し、走行する乗用車など4台をパンクさせたという。「車の音がうるさく、パンクさせれば車が通る回数が少なくなると思ってやった」と供述したと伝えられましたね。現場付近では同様のパンクが多発しており、警視庁成城署には平成18年から20年にかけ、約30件の被害届が出されていた。

 交通量に対して、相当腹立ってたんだろうけど、パンクさせられた被害者はたまったもんじゃないだろうなぁ。攻撃する相手は他にある気がするんだけど。

 まずは、5月19日に行われた初公判。起訴されたのは、被告人は平成19年9月から平成21年3月11日までの間、自宅前の道路に、車両を減らす目的で穴をあけて、クギを逆さに差し入れ、平成20年8月5日に車のタイヤをパンクさせた、という内容。

 検察官の冒頭陳述によると、被告人に前科前歴は無し。大学卒業後、両親とともに蕎麦(そば)屋で働き、現在は経営者であるとのこと。自宅前の道路が舗装された8~10年前から交通量が増え、騒音に悩むようになったらしい。そこで警察に相談したが、まったく動いてくれなかったので、車をパンクさせて交通量を減らそうと考えるようになり、約8年前からクギを置くようになった。
 クギが光って目立たないように錆びさせるなどの工夫をしていたが、パンク被害が続出したために、近所の人が防犯カメラを設置。それで、被告人は防犯カメラの死角になる場所にクギを置くようになり、週に5日、1日に7本程度仕掛けていたという。

 追起訴があるということで、初公判はこれで終了。そして6月25日の第2回公判。
 追起訴は、本起訴と同じ内容で、全部合わせて、車7台、タイヤ10本(11万9500円相当)をパンクさせたという内容。
 弁護人は、被害者のうち、3人と示談が済んでいることを証拠として提出し「被告人の行為は許されないが、道路の状況は理解できる」と言っている被害者が存在していると主張してます。
 法廷には、被告人の母親が情状証人として出廷です。まずは、弁護人からの質問。

 弁護人 「被告人の性格は?」
 証人 「マジメな性格です」
 弁護人 「一緒に働いてたんですよね。何か悩みはあるようでしたか? 本件には気づかなかったんですか?」
 証人 「恥ずかしながら、まったく気づきませんでした」

 と、起訴された1年半だけじゃなく、8年前から何も気づいていなかったと証言です。

 弁護人 「道路状況について話し合ったことは?」
 証人 「7~8年前から話していました。ビデオに撮って、(被告人が)議員や役所に持って行って相談したそうです」
 弁護人 「それで、どうなりました?」
 証人 「何もしてくれませんでした」

 被告人だけでなく証人も示談に応じた被害者も道路状況に関しては言いたいことはあるようなので、ここの道路の状況はよほどのひどさなんでしょう。
 次は検察官からの質問。

 検察官 「2年ほど前から、同じ場所にクギを置いていた、と。被告人の話だと、8年前からやっていたということですね。家の前でパンク被害が多いとウワサ聞きませんでした?」
 証人 「3年くらい前に、署から警察官の方が来られて、そこで聞きました」
 検察官 「かなりの被害があったことで、息子さんを疑ったりはしませんでしたか?」
 証人 「しませんでした。息子がまじめなので信用しきっていました」

 真面目な性格の被告人がこんなことをやっているとは思ってもみなかったようです。
 そして、被告人質問。まずは、弁護人から。

 弁護人 「なぜ、こんなことをしたんですか?」
 被告人 「自宅前の道路の交通量が増え、騒音や振動に悩んでいました」
 弁護人 「どんな道路状況なんでしょうか?」
 被告人 「幅4メートル、制限速度30キロ多摩川に沿って、3キロの直線道路です、地元の人のために作られた道路ということだったのですが、実際は県外ナンバーやトラックが多く、抜け道として利用されていまして、朝・夕方は1分間に10台の車が通る状況でした」
 弁護人 「騒音、揺れの方は?」
 被告人 「トラックやバイクが通って、部屋の中でTVの音が聞こえなくなります。振動も部屋が揺れるほどで」

 日常生活に影響を及ぼすほどの騒音や揺れがあったと主張です。

 弁護人 「誰かに相談しましたか?」
 被告人 「町会長や議員にも相談しましたか?」
 弁護人 「どうでした?」
 被告人 「4~5年前に(撮影した)テープを持って相談しました。他の住民からも苦情が入ってまして、毎年のように町会として役所にいってますけど、動いていただけない、と」
 弁護人 「警察の方に相談行きました?」
 被告人 「4~5年前ですが、成城署に行きまして、半日がかりで相談しましたが、何も動いていただけませんでした」
 弁護人 「区役所の方へは?」
 被告人 「(相談したが)一度も動いていただいたことはありませんでした」

 道路状況を改善するって、そう簡単にはできないんだろうけど、まったく動く気配のない警察や役所の反応に怒りがたまってたんでしょう。

 弁護人 「でも、道路にクギを置いてパンクさせていいわけはないですよね」
 被告人 「警察も役所も動いていただけなかったので」
 弁護人 「あなたの自宅前でパンクが多発しているというウワサは聞いていました?」
 被告人 「出前に行った際、聞いていました」
 弁護人 「捕まるとは思ってなかったんですか?」
 被告人 「覚悟はしておりましたが、車を減らすしかないと思ってやっていました」

 真面目な性格ゆえ、近隣住民代表として交通量を減らそうと頑張ってたのかも知れません。

 弁護人 「あなたは1カ月の身柄拘束を受けた後、保釈されていますね。今の交通量はどうなっていますか?」
 被告人 「全く変わっていません」
 弁護人 「じゃあ、またやるのではないですか?」
 被告人 「反省していますので、二度と致しません。今後は1人で悩まず、両親や町会、役所に相談したいと思います」

 と、再犯しないことを誓ったあと、謝罪や反省の弁をん尾べて質問終了。
 次は、検察官からの質問です。

 検察官 「被害者はどこの人かわかってます?」
 被告人 「住所までは」
 検察官 「他県ナンバーの被害届はないんですよ。被害を受けてるのは、みんな近所の人なんです。近所の人は何度も通るから、何度も被害を受けてるんですよ」
 被告人 「近所の方々には申し訳ないと思っています」

 被告人が苦しめた相手は近所の人のみ。付近の人にとっては、被告人と同じ悩みに加えて、パンクでも悩んでいたわけですね。ただ、他県ナンバーの人は、被告人の家の前でクギが刺さったか特定できないから、被害届を出していないだけかもしれないけど。そして、検察官は怖い顔で、

 検察官 「本件は無差別に行っていますね。ある意味テロリズムなんです!」
 被告人 「反省しております」
 検察官 「あなたのやったことは、民主主義を破壊する行為ですよ!」
 被告人 「はい…」

 クギ1本で破壊されてしまうんですね、民主主義って。なんて儚(はかな)く、もろいんだ。

 検察官 「他の被害者の示談に関しては、どうするんですか」
 被告人 「これから弁護人と一緒に、前向きに交渉していこうと思います」

 最後は裁判官からの質問です。

 裁判官 「あの~車を1台でも減らすってどういうことなんですか」
 被告人 「自宅にいましても、車が途切れず」
 裁判官 「そういうことじゃなくて、タイヤにクギが刺さった人が“パンクしたから、あの道は通らねぇぞ”と思って、通らなくなるってこと?」
 被告人 「ある程度はそういうことです」
 裁判官 「んーー、それで減ります?」
 被告人 「そうですねぇ、パンクしたら、ここを通るのを嫌がる、と思って」
 裁判官 「あとね、素人考えだけど、パンクして道路沿いの家や通行人に車が飛び込むとは?」
 被告人 「そのことも後になって考えました」

 検察官が「テロリズム」「民主主義の破壊」と大きく、風呂敷を広げたのに対し、裁判官の質問は現実的ですね。
 結果的には、クギが刺さってタイヤが破裂することはなく、徐々にタイヤの空気が抜けて、被害者がパンクに気付いたらしいんで事故はなかったんだけど、裁判官としては大事故の可能性もあったと言いたかったんでしょう。

 この後、検察官が懲役2年を求刑して、閉廷でした。個人的には、最後まで明かされなかったんだけど、近隣住民が被告人の犯行に気づいてなかったのかが気になるんだよね。だって、検察官の主張が本当なら、被告人の家の前の道路には、毎日のようにクギが7本程立ってるんです。しかも、そこでパンクが多いってウワサにもなってるんだし。8年間も気づかないなんて、考えにくいんだよね。

 薄々気づいていたけど、被告人の気持ちもわかるから黙っておこうって考えはなかったのかなぁ。それくらい近隣住民が道路に関して怒っていた可能性もあるしね。ま、あくまで被告人のやったことは間違っているけど、住民の声を無視し続けて、役所が動いてくれないってのも民主主義を破壊する行為じゃないのかなぁ。

注目の裁判

11月24日(火)被告人・秋山直紀:所得税法違反
<防衛汚職関連の所得税法違反事件> 08年8月、日米平和・文化交流協会会長の秋山直紀(当時58)は、防衛関連企業から受け取ったコンサルタント料を隠し所得税を免れたとして逮捕された。

11月24日(火)被告人・芳賀吉孝、小野克巳、五郎川弘之、他2人:わいせつ図画販売・頒布
<わいせつDVD販売を手助けした事件> 08年3月、アダルトDVD業界最大手の自主審査機関「日本ビデオ倫理協会」が、作品の審査基準を甘くして、わいせつDVDの販売を手助けしたとして、審査部統括部長小野克巳(当時51)らを逮捕した。

11月24日(火)被告人・板垣宏 十亀弘史 須賀武敏:爆発物取締罰則違反
<迎賓館などにロケット弾が発射された事件> 1986年に迎賓館などにロケット弾が発射したとして、中核派の須賀武敏、十亀弘史、板垣宏が逮捕された。1審では証拠不十分で全員が無罪とされたが、2審では無罪判決を破棄して審理を地裁に差し戻した。上告審も2審判決を支持し、1審に差し戻された。

11月24日(火)被告人・松田真知:銃刀法違反など(控訴審初公判)
<大量の拳銃や実弾を密輸した事件> 06年1月、指定暴力団稲川会系松田組組長、松田真知は幹部の後藤広一らと共謀して拳銃11丁、実弾220発などを密輸したとして逮捕された。1審で無期懲役、罰金400万円(求刑無期懲役、罰金500万円)を言い渡された。

11月25日(水)被告人・寺岡誠吉:殺人
<運送会社役員を殺害した事件> 08年12月、運送会社社長の寺岡誠吉(当時71)は、元暴力団組員に依頼して06年9月に同社役員の栩野雅晴さん(当時66)を殺害させたとして逮捕された。

11月25日(水)被告人・竹田慶介:公然わいせつ(初公判)
<路上で下半身を露出した事件> 09年10月、東京都豊島区の学習塾経営、竹田慶介(当時27)は同年9月に同区内の路上でズボンを降ろして下半身を露出し男子中学生3人に見せたとして逮捕された。

11月25日(水)被告人・小川俊之:爆発物取締罰則違反(控訴審判決)
<皇居に向かって火薬を詰めた消火器を発射した事件> 08年9月、神奈川県相模原市の元陸上自衛隊員の小川俊之(当時34)が、火薬を詰めた消火器を皇居に向けて発射したとして、逮捕された。

11月26日(木)被告人・原田久:威力業務妨害(初公判)
<サラ金の業務を妨害した事件> 09年10月、愛知県岡崎市の無職、原田久(当時38)は、消費者金融「レイク」のコールセンターに約500回電話をかけ、女性オペレーターにひわいな言葉をかけたとして逮捕された。女性の体の一部を表す言葉などをかけて業務を妨害したという。

11月26日(木)被告人・小川美津子、他2人:昏睡(こんすい)強盗と保護責任者遺棄(初公判)
<スナック経営者による昏睡強盗事件> 09年2月、東京都渋谷区のスナック経営、小川美津子(当時73)ら男女4人は、スナックで男性客に酒を飲ませて泥酔させ、キャッシュカードを盗んで路上に放置したなどとして逮捕された。

11月26日(木)被告人・松原弘樹:強盗(初公判)
<自衛隊員による強盗事件> 09年9月、陸上自衛隊第1空挺団(千葉県船橋市)の陸士長松原弘樹(当時21)らは、東京・六本木のビル敷地内で飲食店従業員男性(当時22)を倒し、顔を殴るなどして現金約13万円入りの財布を奪ったとして逮捕された。

11月26日(木)被告人・植本勝也、井福一郎、他1人:児童買春・ポルノ処罰法違反(初公判)
<暴力団員らによる児童ポルノ販売事件> 09年9月、大阪府守口市の指定暴力団山口組系暴力団組長井福一郎(当時61)と大阪市西淀川区の無職植本勝也(当時43)は、インターネットで児童ポルノのDVDを販売したとして逮捕された。

11月27日(金)被告人・波和二:組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)
<L&G詐欺事件> 09年2月、健康寝具販売会社「エル・アンド・ジー」は、組織的に会員から出資金をだまし取ったとして会長の波和二(かずつぎ)(当時75)や幹部を逮捕した。被害者約3万7000人、被害総額約1260億円とみられる。

11月27日(金)被告人・高相祐一:覚せい剤取締法違反(所持、使用)(判決)
<酒井法子の夫の覚せい剤事件> 09年8月、自称プロサーファーで、女優酒井法子の夫、高相祐一(当時41)は、東京都渋谷区の路上で覚せい剤を所持していたとして逮捕された。

11月27日(金)被告人・和田達夫、嘉藤悦男:背任(初公判)
<理化学研究所をめぐる汚職事件> 09年9月、独立行政法人「理化学研究所」(理研、埼玉県和光市)の主任研究員、和田達夫(当時53)は、取引先の理化学器具開発販売会社「秋葉産業」の社長、嘉藤悦男(当時76)から旅行や飲食費などの代金付け回しを受け、その穴埋めに架空発注を行ったとして逮捕された。


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阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。

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