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2009年6月01日

クレームをつける前に検事さんに相談します

 大宣伝!このたび、ゴマブックスから「被告人、もう一歩前へ。~インディーズ司法記者の裁判傍聴記07~09」が発売されました。1300円(税別)となってます。

 この「裁判showに行こう」をまとめて、加筆した内容です。小説じゃないからつながりはないけど、このコラムをまとめた「被告人、前へ」(河出書房新社)の第2弾になりますね。

 で、特別付録としてサイバンインコなどの“地検広報キャラクター”76体を巻頭カラーで載せる予定だったんです。もちろん、最高検の許可も得て。

 でも、原稿をチェックしてもらったら、検察から「キャラクターに対して辛らつな表現がある」という理由で不許可になっちゃいました。検察の権力は絶大ですね。
 裁判員制度スタートの日、検事総長が記者会見で「民主主義の大きな第1歩」って言ってたんだけど、広報キャラクターについて自由にしゃべることもできない民主主義って、いったい。
 特別付録はないけど、内容は面白いので、買って。

 さて、今回は、5月26日に行われた吉田正志被告人(逮捕当時36)の裁判の話。罪名は、威力業務妨害。
 イーバンク銀行に電話でATMの手数料を無料にするように迫ったというわけのわからない事件です。

 報道によると、吉田は平成19年12月~今年1月、イーバンク銀行のカスタマーセンターに数回にわたって電話をかけ「ATMの無料の利用回数を3回にしろ、行員を猟銃で撃ち殺した方がいい。場合によっちゃ刺し違えたって構わない」などと、手数料を無料にするように迫ったことで強要未遂容疑で逮捕された。

 警視庁によると、吉田はイーバンク銀行に口座を開設していた。イーバンク銀行は平成19年11月30日までは、ATMの利用手数料が銀行側の負担だったが、12月から利用回数が多い場合、利用者側が負担するように改定された。その直後から、吉田から電話がかかってくるようになったという。

 確かにATMの手数料に納得いかないのはわかるけど、こんな電話かけるかねぇ、普通。
 起訴されたのは、平成19年12月16日から今年1月30日の間、被告人は3回にわたって「行員、猟銃で撃ち殺した方がいいだろう。死人が出るべきだよな、イーバンク」などの電話をして、イーバンク銀行に6回の緊急会議を開かせ、警備強化させた、という内容。
 なので、逮捕内容とは違う罪名での起訴になったようです。

asozan090601.jpg

 起訴状によると、被告人は警備員などの仕事を転々として、犯行時はビルの管理会社に勤務していたと。平成19年に、イーバンクのATM手数料が2回目以降有料になったことに立腹し、電話をかけたらしい。同年12月17日には、イーバンク銀行本社へ出向き、ガラス窓をたたくという行為もしていたとのこと。
 証人が出廷することもなく、被告人質問です。まずは、弁護人から。

 弁護人 「なぜ、こんなことをしたんですか?」
 被告人 「やはり、イーバンク銀行の極端なサービス変更に納得がいかず、やってしまいました」
 弁護人 「調書では“行員の対応に腹が立った”とありますけど、対応はどうでしたか?」
 被告人 「誠意ある対応ではなく、事務的でしたので、感情的になってしまいました」
 弁護人 「最近、(ネット上の犯行予告などの)似たような事件が多いのは知ってます?」
 被告人 「知ってますが、個人への攻撃だけだと思ってまして、対企業は記憶になかったです」
 弁護人 「悪いことだって、今はわかってますか?」
 被告人 「表現の自由とはいえ、言い過ぎた部分があったと思います」

 反省はしているようなんだけど、言葉の端々に自分を正当化している部分が見えますね。

 弁護人 「調書では、他の企業には苦情の電話を入れてた、と」
 被告人 「はい」
 弁護人 「苦情と業務妨害が違うのはわかっていますか?」
 被告人 「はい。脅迫ととれる発言はしなければよかったと思います」

 俗に言う、クレーマーだったんでしょう。だから、行為自体じゃなく、発言が言い過ぎたことを反省してるんですよ。
 次は検察官から。

 検察官 「苦情の電話は、何件やってます?」
 被告人 「…2件…」
 検察官 「具体的な内容は?」
 被告人 「本のページが破れているとか、そういう類です」
 検察官 「取り調べで、バンダイ、三菱鉛筆って具体的な名前が挙がってるけど?」
 被告人 「不具合箇所がありまして、代替品と交換してもらいました」

 バンダイと三菱鉛筆って本の出版してないでしょ? してなければ「本のページが破れてる」のクレームも合わせて、最低でも3回のような。

 検察官 「その時は対応してくれたから、今回のようなことは言わなかったんですか?」
 被告人 「誠意を感じるかどうかで納得していたと思います」
 検察官 「で、今回の手数料変わっただけでしょ?」
 被告人 「顧客のメリットが考えられなかったので」
 検察官 「利益を追求するのが企業ですから、赤字が出ればこういうことになるんじゃないですか?」
 被告人 「うーーーーん、(電話で)そこまでのやりとりができる方ではなかったので、こういうことになってしまいました」
 検察官 「今でも対応が悪いと思ってるんですか?」
 被告人 「今までのサービス変更に関してはなんら問題がなかったのに、手数料が急に有料になって、都合が…」
 検察官 「都合って、あなたの都合でしょ!」
 被告人 「私だけ手数料を変えられたとは思ってません!」

 と、イーバンクを利用している人を代表して文句を言ってたと主張です。

 検察官 「今後ね、何かで苦情を言うことが出てくるかもしれませんよ。その時、気をつけることは?」
 被告人 「苦情を言う時があったら、表現が言い過ぎないか、検事さんに相談したいと思います」

 なぜか、検察官にクレーム内容のチェックしてもらうという、謎の目標を掲げたんです。

 検察官 「ん? 検事に聞くの?」
 被告人 「(聞く)ぐらい慎重に発言しなきゃいけないと思います」

 あくまでも例えだったようですね。大袈裟と言うか、突拍子もないというか。

 検察官 「だいたい“殺す”なんてこと言ってましたけど、大丈夫なんですか?」
 被告人 「友達と話しているときにも、出るので」

 と、クレーム同様“殺す”という発言も被告人にとっては普通のことだったようです。相当気をつけないと再犯の可能性がある性格なんですね。

 最後は、裁判官からの質問。

 裁判官 「殺すって犯罪ですよね? 感情が高ぶって出てしまったんですか?」
 被告人 「はい」
 裁判官 「満足できないこと、意に沿わないこと今後いくらでもありますよ。そのたびに過激なこと言ってたら生活できないですよ」
 被告人 「はい」
 裁判官 「さっき、友達の前では“殺す”って言うって答えてましたけど、相手は友達でもないですよね?」
 被告人 「長いこと話してたら、そうなってしまいました」

 と、苦情の電話が長引いて、相手と友達感覚になったのが本件の原因ってことなのかな?

 この後、検察官が懲役1年6月を求刑。弁護人は、前科がないことなどを理由に執行猶予の判決を希望していました。

 最後に、最終陳述で

 被告人 「今後は二度と罪を犯すことなく誓いますので、寛大な判決をお願いします」

 と、述べて閉廷でした。はたして、意に沿う判決になるでしょうか。

 どんな企業だって完璧じゃないから、ミスすることもあるわけだ。消費者として苦情を言う権利もあるでしょ。でも、手数料が有料になったことに文句言われてもなぁ。イーバンクを利用しなきゃいいのに。そんなに気に入ってたかね。そうだとしたら、被告人の発言にはイーバンクに対する愛が感じられないんだけど。

※写真は現代の生活に、なくてはならない存在のATM(写真は本文とは関係ありません)。

注目の裁判

11月2日(月)被告人・氏家信子:殺人ほか(判決)
<息子を殺害した事件> 09年1月、東京都大田区の無職氏家信子(当時65)は傷害を持つ双子の息子に包丁で切りつけた。弟は病院で死亡が確認された。

11月2日(月)被告人・秋山直紀:所得税法違反(初公判)
<防衛汚職関連の所得税法違反事件> 08年8月、日米平和・文化交流協会会長の秋山直紀(当時58)は、防衛関連企業から受け取ったコンサルタント料を隠し所得税を免れたとして逮捕された。

11月2日(月)被告人・竹林守、成田茂之、他1人:公職選挙法違反(詐欺登録・詐欺投票)(初公判)
<従業員の住民登録を移し投票を支持した事件> 09年9月、機械製造販売会社「水戸工業」の社長・成田茂之(当時57)らは自社の従業員の住民登録の場所を変更させ、衆議院議員選挙で自民党に投票するよう指示したとして逮捕された。

11月2日(月)被告人・熊谷智幸:強制わいせつと偽造私印使用(初公判)
<テレビ局員を装ってわいせつ行為をした事件> 09年8月、インターネット広告会社役員、熊谷智幸(当時35)は、東京都板橋区内の路上で30代の女性にフジテレビの社員を装った偽の名刺を手渡して声をかけ、近くのマンションのエントランスまで連れて行き、わいせつな行為をした疑いで逮捕された。

11月2日(月)被告人・押尾学:麻薬取締法違反(使用)(判決)
<俳優による麻薬事件> 09年8月、東京・六本木のマンションで女性が死亡していると119番通報があり、部屋に出入りしていたとして俳優の押尾学(当時31)が任意で事情聴取を受けた。任意の尿検査で、合成麻薬のMDMAに陽性反応が出たため麻薬取締法違反(使用)の疑いで逮捕された。

11月4、5、6日(水、木、金)被告人・太田周作:殺人未遂(初公判)
(初公判、5日6日も) <駅のホームから女性を突き落とした事件> 09年3月、無職太田周作(当時24)は、JR東京駅で女性(当時60)をホームから突き落とし、電車に接触して負傷させたとして、殺人未遂で逮捕された。取調べに対して「(事件を起こすのは)どこでも、誰でもよかった」などと供述した。

11月5日(木)被告人・寺岡誠吉:殺人
<運送会社役員を殺害した事件> 08年12月、運送会社社長の寺岡誠吉(当時71)は、元暴力団組員に依頼して06年9月に同社役員の栩野雅晴さん(当時66)を殺害させたとして逮捕された。

11月5日(木)被告人・中田静子 ほか1名:昏睡強盗、窃盗
<スナック客に対する昏睡強盗> 09年3月、バー経営の中田静子(当時62)はスナック経営の細江敏光(当時39)と共謀、スナックで男性客に強い酒を飲ませて昏睡状態にさせ、キャッシュカードを奪って現金自動預払機から金を引き出したとして逮捕された。

11月6日(金)被告人・波和二ほか:組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)
<L&G詐欺事件> 09年2月、健康寝具販売会社「エル・アンド・ジー」は、組織的に会員から出資金をだまし取ったとして会長の波和二(かずつぎ)(当時75)や幹部を逮捕した。被害者約3万7000人、被害総額約1260億円とみられる。

11月6日(金)被告人・片石肇:強盗傷害(控訴審判決)
<プロレスグッズ専門店での強盗事件> 09年2月、千葉県柏市の無職、片石肇(当時28)は他の2人と共謀して東京都千代田区のプロレスグッズ専門店に押し入った。男性店員に暴行を加え、現金15万9000円と、マスク5点などの商品を奪った。

11月6日(金)被告人・多田知信:窃盗、住居侵入(初公判)
<警察寮での窃盗事件> 09年8月、警視庁大森警察署地域課巡査長の多田知信(当時30)は、08年11月に警察寮の同僚の部屋に侵入し、腕時計を盗んだとして逮捕された。


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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。

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