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2009年5月04日

盗んだ表札300枚、狙った名前に理由あり

 先週、最高裁の竹崎博允長官が、記者会見を行いましたね。もちろん、今月21日からスタートする裁判員制度について。

 長官によると「年間の事件数も比較的安定しており、裁判員となる人の生活を考慮しても、運営が可能な状態に達している」とのこと。さらに「国民の約6割の協力は得られる見通し。準備は正しい方向を向いて着実に進められた」とコメントしたようです。
 いろいろと不安材料は残ってる気がするんだけど、司法のトップが自信満々なんだから、大丈夫なんでしょう。ひと安心。

 個人的には一番気になってる守秘義務の範囲に関しては「少し事例を積み重ねれば簡単にわかることだと思う。制度の運用で支障になるほどの問題と、神経質に考えない方が良い」と答えたようです。
 評議の内容なんかをしゃべると懲役6月以下または罰金50万円以下の罰則があるのに「雰囲気を伝えるのは有意義」なんてことを言い出すからよくわからなかったんだけど、深く考えるなってことなんですね。何も考えず参加する方がよいようです。こりゃまた、ひと安心。
 さて、今回は、連休で裁判が非常に少なかったので、4月22日に行われた丹羽康裕被告人(逮捕当時42)の裁判傍聴記。判決は先週だったので。罪名は窃盗。

 変わった名字の表札ばかり民家から盗んだという、おかしな事件でメディアでも取り上げられましたね。報道によると1月28日午前2時ころ、東京都荒川区の男性(当時75)宅の敷地内に侵入し、玄関の表札1枚(1万円相当)を盗んだ疑い。丹羽は2月5日、荒川区の路上で職務質問を受けた際、ドライバーなどをカバンに隠して持っていたとして、ピッキング防止法違反の現行犯で逮捕されていたが、今回の事件で再逮捕されたというものです。

 調べに対して「電話帳で珍しい名字の住所を調べて盗みに出かけた。楷書で書かれた綺麗な表札が好きだった」と供述しており、警視庁は家宅捜索で約300枚の表札を押収したと報じられました。盗んだ約300枚の表札を敷布団の周囲に敷き詰めて寝ていたという。

 世の中にはいろんな趣味の人がいるもんだ。表札コレクターがいるとはね。その趣味自体に共感できないんだけど、珍しいものがほしいという動機は何となくわかる気がするかな。どんな趣味でも、貴重なものをありがたがるわけですから、と思ったら、ほんとの動機が違うところにあるのが法廷で明らかになったのです。
 起訴されたのは、3件。1月下旬に荒川区で表札(1万円相当)を盗んだ件。2月上旬に荒川区で表札を盗んだ件。
 表札の名前を書くと被害者が明らかになるので書かないけど、3人ともよくある、いたって普通の名字なんです。全く珍しくない。
 検察官の冒頭陳述によると、被告人に前科はないとのこと。有名な進学校に進み、その後大学に入るも中退。倉庫での仕分けの仕事をしていたが、犯行時は職探しをしていて、生活保護を受給していたという。
 被告人は、平成16年から月に2~3回のペースで表札を盗んでいたらしい。盗んだ表札は自宅に飾り、ツルツルした部分をなでたり、眺めたりしていたとのこと。
 取り調べに対し、被告人は「小・中学生のころ好きだった女性の名字や、その女性の名前に使われている漢字が入った表札を狙った。電話帳で気に入った名前をチェックして、手帳に記入していた。散歩の途中でも盗めるように、マイナスドライバーを常に所持していた」と述べているそうな。

 というわけで、珍名狙いじゃなくて、子供のころに好きだった女子の名字狙いだったようです。これは、なかなか理解しがたい動機だなぁ。ちなみに、起訴された3件とも好きだった女子の名前が入っていた表札だったようです。
 法廷には被告人の母親が情状証人として出廷し、被告人が反省していることなどを述べていました。
 そして、被告人質問。まずは、弁護人。

 弁護人 「逮捕されたときに、手提げバッグの中にマイナスドライバーが入ってましたけど、盗む時に使いましたか?」
 被告人 「いいえ、使ってません」
 弁護人 「じゃ、どうやって盗ったんですか?」
 被告人 「3つとも、引っ張ったり、上にあげたりして盗りました」
 弁護人 「動機としては、字に興味があったと」
 被告人 「間違いありません」
 弁護人 「自宅にたくさんの表札があったようだけど、中には返しにいったのもあるんですか?」
 被告人 「はい。5枚くらいは」
 弁護人 「どうやって返すんですか?」
 被告人 「玄関に置いてきたり、元の所に掛けてきたり」

 盗む時は道具は使わず、嫌がらせ目的でもなく、過去には返却もしていると、できるだけ罪を軽く見せる主張をしていました。

 弁護人 「今、被害者に対しては?」
 被告人 「不安や不愉快な思いをさせてしまって、申し訳ない気持ちでいっぱいです」

 と、反省の弁を述べて質問終了。
 次は検察官からの質問です。

 検察官 「警察官と一緒に現場へ引きあたり(実況見分)に行ったとき、表札はどうなってみました?」
 被告人 「はがされたままになってたり、(陶器だったのに)木の表札になってました。悲しい気持ちになりました」

 被害の回復がされていないってことを、検察官は主張しているようです。そして、余罪をに匂(にお)わせるというか、被告人の変わった趣味の片鱗がうかがえる質問がされました。

 検察官 「自宅に表札のほかにシャチハタのハンコがたくさんありましたけど、どうしたんですか?」
 被告人 「仕事して少しずつ集めたものです」
 検察官 「なんで集めたんですか?」
 被告人 「名字を見て昔の友達を思い出したり」

 なんと、被告人は表札だけじゃなく、印鑑コレクターでもあったようです。写真やもので昔を思い出すんじゃなく、ハンコを見て過去を思い出す人がいるなんて! 名字マニアというか、漢字好きと言った方がいいのか。
 最後は裁判官から。

 裁判官 「生活保護を受給したのはいつからですか?」
 被告人 「平成18年の6月からです」
 裁判官 「仕事してないのは、どこか悪いんですか?」
 被告人 「痛風で足が痛くなったり、ぜんそくもあるので、長時間働けなかったり」
 裁判官 「現在も体調は良くない?」
 被告人 「良好です」

 と、被告人が今後仕事できることを確認です。

 裁判官 「表札を盗むまで、下見はするんですか?」
 被告人 「下見はしません」
 裁判官 「盗みは夜やるんですか?」
 被告人 「夜とは限りません。散歩している昼間にも盗んだことはあります」
 裁判官 「盗んだ表札の共通点って、何ですか?」
 被告人 「好きな文字ですかね」
 裁判官 「検察官によると、自宅で表札のツルツルした方を触っていたようだけど、素材とか?」
 被告人 「(今回盗んだ表札の)素材は瀬戸物ですが、素材はあまり関係ないです」
 裁判官 「うーーん、好きな文字が書いてあるものって、世の中にたくさんありますよね、看板とか。表札以外、興味ないんですか?」
 被告人 「んーーー、はい」

 変わった事件なので、裁判官も興味津津です。被告人に好きな漢字があるのは分かったけど、なんで表札にこだわってるのかは謎ですからね。ま、そこは最後まで明らかにならなかったんだけど。そして、裁判官があきれながら、

 裁判官 「写真見ると、自宅の中、表札だらけですよね。盗みを続けてたら、収納スペースもなくなってきますよね。しかも、悪いことなのに続けていたのはなぜですか?」
 被告人 「悪いと思いつつ、続けてしまいました」

 ルール違反だからとか、被害者の気持ちとかじゃなく、収納スペースを引き合いに犯行を続けた理由を質問する裁判官がいるとは。なかなか庶民的な裁判官です。

 裁判官 「調書には“散歩も趣味”と書いてますけど、どれくらい歩くんですか?」
 被告人 「(1日)7~8時間です」
 裁判官 「健脚、というか、かなり足が丈夫ですね。仕事できたんじゃないですか?」
 被告人 「やはり、条件が合わないというか。職がないという」

 と、表札同様、仕事をえり好みしていて、無職だったことも明らかになったところで質問終了。
 このあと、検察官が懲役1年6月を求刑してこの日はこれで閉廷です。
 そして、先週の判決公判。結果は懲役1年6月執行猶予3年でした。初犯ということもあって、実刑は免れたようです。それにしても、ほんと、いろんな人がいるもんだ。盗みじゃない形で収集ししていれば、ニュースじゃなくて、違うメディアで取り上げられていただろうに。

注目の裁判

11月2日(月)被告人・氏家信子:殺人ほか(判決)
<息子を殺害した事件> 09年1月、東京都大田区の無職氏家信子(当時65)は傷害を持つ双子の息子に包丁で切りつけた。弟は病院で死亡が確認された。

11月2日(月)被告人・秋山直紀:所得税法違反(初公判)
<防衛汚職関連の所得税法違反事件> 08年8月、日米平和・文化交流協会会長の秋山直紀(当時58)は、防衛関連企業から受け取ったコンサルタント料を隠し所得税を免れたとして逮捕された。

11月2日(月)被告人・竹林守、成田茂之、他1人:公職選挙法違反(詐欺登録・詐欺投票)(初公判)
<従業員の住民登録を移し投票を支持した事件> 09年9月、機械製造販売会社「水戸工業」の社長・成田茂之(当時57)らは自社の従業員の住民登録の場所を変更させ、衆議院議員選挙で自民党に投票するよう指示したとして逮捕された。

11月2日(月)被告人・熊谷智幸:強制わいせつと偽造私印使用(初公判)
<テレビ局員を装ってわいせつ行為をした事件> 09年8月、インターネット広告会社役員、熊谷智幸(当時35)は、東京都板橋区内の路上で30代の女性にフジテレビの社員を装った偽の名刺を手渡して声をかけ、近くのマンションのエントランスまで連れて行き、わいせつな行為をした疑いで逮捕された。

11月2日(月)被告人・押尾学:麻薬取締法違反(使用)(判決)
<俳優による麻薬事件> 09年8月、東京・六本木のマンションで女性が死亡していると119番通報があり、部屋に出入りしていたとして俳優の押尾学(当時31)が任意で事情聴取を受けた。任意の尿検査で、合成麻薬のMDMAに陽性反応が出たため麻薬取締法違反(使用)の疑いで逮捕された。

11月4、5、6日(水、木、金)被告人・太田周作:殺人未遂(初公判)
(初公判、5日6日も) <駅のホームから女性を突き落とした事件> 09年3月、無職太田周作(当時24)は、JR東京駅で女性(当時60)をホームから突き落とし、電車に接触して負傷させたとして、殺人未遂で逮捕された。取調べに対して「(事件を起こすのは)どこでも、誰でもよかった」などと供述した。

11月5日(木)被告人・寺岡誠吉:殺人
<運送会社役員を殺害した事件> 08年12月、運送会社社長の寺岡誠吉(当時71)は、元暴力団組員に依頼して06年9月に同社役員の栩野雅晴さん(当時66)を殺害させたとして逮捕された。

11月5日(木)被告人・中田静子 ほか1名:昏睡強盗、窃盗
<スナック客に対する昏睡強盗> 09年3月、バー経営の中田静子(当時62)はスナック経営の細江敏光(当時39)と共謀、スナックで男性客に強い酒を飲ませて昏睡状態にさせ、キャッシュカードを奪って現金自動預払機から金を引き出したとして逮捕された。

11月6日(金)被告人・波和二ほか:組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)
<L&G詐欺事件> 09年2月、健康寝具販売会社「エル・アンド・ジー」は、組織的に会員から出資金をだまし取ったとして会長の波和二(かずつぎ)(当時75)や幹部を逮捕した。被害者約3万7000人、被害総額約1260億円とみられる。

11月6日(金)被告人・片石肇:強盗傷害(控訴審判決)
<プロレスグッズ専門店での強盗事件> 09年2月、千葉県柏市の無職、片石肇(当時28)は他の2人と共謀して東京都千代田区のプロレスグッズ専門店に押し入った。男性店員に暴行を加え、現金15万9000円と、マスク5点などの商品を奪った。

11月6日(金)被告人・多田知信:窃盗、住居侵入(初公判)
<警察寮での窃盗事件> 09年8月、警視庁大森警察署地域課巡査長の多田知信(当時30)は、08年11月に警察寮の同僚の部屋に侵入し、腕時計を盗んだとして逮捕された。


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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。

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