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2008年12月08日

裁判官が裁かれる裁判を見ました

 12月1日、東京都品川区が、裁判員に選ばれた区民が乳幼児を預けるときの一時保育料を無料にすると発表しました。裁判員に選ばれなくても、選任手続きで裁判所に呼び出しを受けた場合も利用可能らしい。

 さらに同4日には東京都足立区でも同様の発表です。足立区の場合は、65歳以上の要介者を通所介護施設に預けるときと小学1年~3年生の児童を放課後に学童保育に施設に預けるときに無料になるそうな。
 今後、この手の発表が続けば、裁判員への参加のハードルも下がりますね。でも、国がフォローするんじゃなく、区や市町村に任せっきりでどうなるんだろ。変な話だね。

 さらに言えば、このサービスを受けるには、裁判員候補者に選ばれたことを区に報告しなきゃいけないから、公にすることになるんだよなぁ。品川区と足立区を批判する気は毛頭ないけど、ルール違反を助長する今回の発表を最高裁はどう思っているんでしょうかね。裁判員を特定できることを公にしないことが、必ずしも裁判員を守ることになるとは限らないという例ですね。ま、裁判員法を作る時にそこまで考えてなかったんだろうけど。

asozan099.jpg

 さて、今回は12月3日に行われた弾劾裁判の傍聴記。先に言っておくけど、まったく面白くないので、興味のない方は読まないでください。ただ、個人的にも初傍聴だし、弾劾裁判の傍聴記なんて読んだことないから、非常に珍しい傍聴記だとは思うけど。手続きの流れがメーンという、非常にマニアックな傍聴記。

 事件は下山芳晴裁判官が甲府地家裁都留支部長在任中に女性職員に匿名のメールを送りつけたことでストーカー規制法違反容疑で逮捕、起訴されというものですね。刑事事件として起訴されていますが、事件そのものの裁判は甲府地裁で行っています。

 で、この弾劾裁判とは何か。一言で言えば、裁判官を罷免するための裁判です。裁判官の身分というのは日本国憲法でその地位を保証されているんですね。不祥事を起こしたからといって、すぐに罷免できるわけではないんです。憲法64条1項にこう定められています。「国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける」。つまり、国会で裁判官を罷免するための裁判を行うわけで、弾劾裁判とは裁判所ではなく「国会」で行われるわけです。しかも、裁判官が不祥事を起こさないと開かれないわけですから、そもそも非常にレアなケースなわけです。

 場所は国会議事堂のはす向かいで自民党本部の隣にある、参議院第二別館。普段行くことのない永田町で緊張しながら、午前11時30分ごろ、傍聴券の抽選に並びました。
 指定された駐車場で待つこと15分。7年ぶりの弾劾裁判なので、かなりの人が集まるかと思いきや、なんと定員割れ。それだけじゃなく、抽選するために整理券が切符ほどの大きさで、ペラッペラのコピー用紙というのも肩透かしでした。

 たぶん、日本で一番みすぼらしい傍聴希望者整理券でしょう。午前11時45分に無抽選の発表があると、何の説明もなく、その場で5分ほど待たされることに、なんという手際の悪さでしょう。7年ぶりだから仕方ないんですかね。
 そして、ここからが、大変。入口でコピー用紙の切れはしみたいな整理券を傍聴券に引き換え。これがビニールのカバーに入って、首からぶら下げることが義務付けられてるんです。
 次は手荷物検査。最高裁や東京地裁の形だけの検査とは大違いで、バッグの中の物を出して、金属探知機でチェックです。さらに、靴を脱いでウレタンマットの上で身体検査。なんで靴を履いてちゃだめなのかはようわからないけど、取材で来てたフジテレビの女子アナも靴を脱いで検査を受けるほどの厳重さ。

 建物の中に入ったら、職員の後についていくんだけど、裁判官弾劾裁判所がある9階へは、7人乗りのエレベーターで移動しなきゃいけないってことで、玄関で待たされることに。どれだけ待たせれば気がすむ裁判所なんでしょう。

 職員の案内で法廷に入り、傍聴席に着席。席は最高裁同様に指定席になっていました。右側が一般傍聴席で、左側がマスコミ用の傍聴席。なんとマスコミの方も指定席になっていて、椅子の背中に「NHK」「朝日新聞」「共同通信」「読売新聞」等々会社名が書いてあるのに、36枚のうち6枚だけ「ラジオ」と書かれた席が。ラジオは見下されているのかひとくくりにされてるんですね。

 柵の向こうも、普通の法廷とはまったく違うんです。傍聴席から見て一番奥には、裁判長と裁判員13人が座れるようにアーチ状の机が置いてありました。1つ1つに「○○裁判員」と書かれた、将棋の駒の形をしたプレートが置かれています。ってか、14人裁判員がいるのか。裁判官じゃなく、裁判員って言うのか。
 法廷で言うと、普通の書記官席には「参事」、証言席には「陳述席」、被告人席には「被訴追者」、検察官席には「訴追委員」のプレートが。何から何まで違う! 驚きの連続です。

 さらにすごいのは傍聴人の出口のドアについている、中をのぞくための小窓が、マジックミラーになってるんです。傍聴席からは鏡にしか見えないので、誰かが覗いても傍聴人からにらまれることはありません。これはなかなかの発明ですね。他の裁判所でも導入してほしいなぁ。

 一通りの見終えたので、13時開廷まで昼食を済ませようと思って、法廷の外に出ました。すると、

 職員 「どうしました?」
 阿曽山 「昼飯食いにいこうかと」
 職員 「食事するところはありません。普段、一般の方が入れない建物ですので」
 阿曽山 「じゃ、外で食ってきます」
 職員 「外出もできないことになってまして、こちらでお待ちいただけますか?」

 なんと、監禁状態です。待つと言っても、法廷の外はベンチ1つない廊下で、自販機も喫煙所もないんです。恐ろしい。やることがないので、トイレに行くと、職員が一緒についてきて、小便が終わるまで、優しく見守られるという厳戒態勢。どこまで厳しいんだか。仕方なく、傍聴席に座っていると、職員がやってきて、

 職員 「開廷前に、報道関係者及び、国会関係者によります3分間の撮影がございます」

 と、注意事項などを始めました。国会関係者の撮影が許可されているんですね。
 12時50分。気がつけば、弁護人3人、訴追委員6人、参事2人、廷吏2人が法廷にそろっています。そして、法廷の右側で傍聴席の目の前には訴追委員事務局の席があって、現役の裁判官が着席。

 傍聴席の後ろにはカメラを持った人たちが、30人ほどいて、12時55分ころから、勝手に撮影を始めました。普通は職員が裁判長の許可をもらってから「撮影始め!」で開始するんだけどねぇ。弾劾裁判はアバウトのようです。
 撮影の途中で14人の裁判員が入廷してきました。これだけのスーツ姿の人が一斉に入ってくるのは圧巻。向かって右側7人が参議院で、左側が衆議院なんだとさ。

 職員(だったと思う)の「起立! 礼」の声で全員が一礼するものの着席の合図がないので、びみょーな間があいて、それぞれがだらだらと着席。「着席」の合図がないのは、東京地裁も一緒ですけどね。
 全員が着席すると、報道陣のシャッター音がさらに大きくなりました。最高裁と同じく、裁判員が入廷すると同時に撮影開始なんでしょうか。そもそもフライングでみんな撮影してたけど。
 13時4分。突然、職員が大きな声で、

 職員 「(撮影の)残り30秒です」

 と言いました。いつから始まってたのよ。そして、

 職員 「撮影終了の時間です」

 と、終わりを告げました。しかし、撮影を止めずにカシャカシャとシャッターを切る音が響く法廷。何となく、少しずつ報道陣が出て行って、本当の撮影終了です。年表でいう縄文時代みたいな、いつ始まっていつ終わったのかはっきりしない撮影時間でした。
 そこに、現役の宇都宮地裁足利支部判事である下山芳晴訴追者が入廷。参議院自民党の松田岩夫裁判長が手元にある資料(というか台本)を指差しながら、

 裁判長 「ただ今から、下山、芳晴、被、訴追、者の罷免訴追事、件の、審理を行います」

 と、文字を追うだけで精一杯の棒読みの一声で、裁判スタートです。
 人定質問、訴追状朗読、黙秘権の告知、訴追状認否、冒頭陳述、と刑事裁判と同じような流れで裁判が進行していきます。もちろん、起訴状じゃなく、訴追状という違いはあるけど。
 その後も、証拠調べ請求(請求に対する意見を裁判長が飛ばしてしまうミスもあり)、証拠調べと、刑事裁判と同様に順序良く進んでいきました。
 そして、弁護人が8つの書証を提出したところで、

 裁判長 「被訴追者への質問を」

 と、開廷から30分ほどで刑事裁判で言うところの被告人質問です。と、思いきや、

 裁判長 「を行いますが、その前に20分ほどの休廷をします」

 だってさ。なんのための休廷? 裁判員や訴追委員たちは裏へ消えていったんだけど、傍聴人はどうすりゃいいのよ。こっちは自由がない状態なのに。
 順調に進んでたのに、20分休んで、14時に再開して、被訴追者質問です。てっきり罷免の手続き上の形式的な質問かと思ったら、ストーカー事件の関する質問がメーンでした。被告人としての質問は、甲府地裁で終わっていると思うんだけどね。ここでは、ストーカー事件以外に関する質疑応答を。

 弁護人 「仕事はやめたいと伝えていましたね」
 被訴追者 「すぐにでも辞職したいと申し上げております」
 弁護人 「あなたは、なぜ、裁判官を志したんですか?」
 被訴追者 「肺の病気で手術しまして、自分ではだめだと思っていたんですけど、無事手術が終わりまして、助かった命であれば、人の役に立つ仕事をしたいと。手術の合間に受けた司法試験に受かりましたので、裁判官になりました」

 手術の間に行った司法試験で合格するなんて。賢い人なんでしょうね。

 弁護人 「今までの仕事で誇れることはなんですか?」
 被訴追者 「(転勤で)行った先で、全力を尽くしていたと自負しております。(甲府地家裁)都留支部には平成16年に着任して、その時にに昭和59年の事件がありましたので、古い事件はすべて処理したいと所長に言いました。そのために新しい事件が多少遅れてしまうかもしれませんが、と伝えました」
 弁護人 「今後、仕事はどうしようと考えていますか?」
 被訴追者 「今までの知識や経験を少しは活かせる仕事を視野に入れていきたいと思います」

 と、法曹関係で働くことを示唆していました。ま、5年たてば、資格回復の可能性もあるからそれはいいんだけどさ。
 次は訴追委員からの質問。

 訴追委員 「今も報酬は受けていますね」
 被訴追者 「はい」
 訴追委員 「返還するつもりはあるんですか」
 被訴追者 「5月の段階で辞職を申し出たのですが、制度上できないことになっています。転職も規定上できません。報酬なしでは私も生活ができない中で、気持ちの上では返還したいのですが、現実問題として返還できない」
 訴追委員 「ボーナスもそろそろですよね」
 被訴追者 「共済組合からの負債もありまして、退職金からの相殺もできないことが予想されますので、返済して行くことができない状態になっていますので」

 と、1円たりとも返さないと返答。そもそもルール上、返還可能なのか知らないけど、訴追委員が言うんだから、返還することはできるんでしょう。でも、罷免されれば退職金はゼロ。逮捕後にも支給されてるお金が退職金がわりってかんじでしょうかね。
 麻生首相が解散しないことを断言すれば、今回の弾劾裁判もここまで後回しになることはなかったんだろうけどね。被訴追者の報酬の多さに関しては、総理大臣に文句を言うべきのような気も。
 このあと裁判員4人から質問がされて、被訴追者質問は終了。そして、

 裁判長 「この後の審理まで暫時休廷します」

 と、またもや休廷です。しかも、時間があいまいです。便所に行こうと思ったら、

 職員 「すぐ再開しますのでこのままお待ちください」

 って、トイレにも行かせてくれないのです。どこまで傍聴人を軽視するのやら。しかし、5分経っても、10分経っても、再開されません。ただひたすら座って待たされる傍聴人。
 休廷から18分後、裁判員が入廷してきて、再開です。「暫時」っていうのは18分のようです。
 このあと、追訴委員と弁護人からの弁論、被訴追者の最終陳述が行われました。そして、

 裁判長 「本事件のベンリンを終了します」

 と、「弁論」と「弁輪」を見間違ったところで閉廷でした。
 それにしても長かった。裁判長も訴追委員も裁判に慣れていないからなのか、質問の内容がわかりにくいんだよね。端的じゃないのよ。しかも、棒読みだし、休廷も無駄に長い。だから、長く感じたのかもしれないな。
 この事件が、司法に対する信頼を損ねたなんて言われているけど、傍聴してみたら、弾劾裁判そのものにうんざりしたけどね。
 興味があれば、12月24日の判決を傍聴してみてはいかがでしょうか。長時間拘束を覚悟で。

※写真は8月、甲府地裁に入る下山芳晴被告(共同)

注目の裁判

11月2日(月)被告人・氏家信子:殺人ほか(判決)
<息子を殺害した事件> 09年1月、東京都大田区の無職氏家信子(当時65)は傷害を持つ双子の息子に包丁で切りつけた。弟は病院で死亡が確認された。

11月2日(月)被告人・秋山直紀:所得税法違反(初公判)
<防衛汚職関連の所得税法違反事件> 08年8月、日米平和・文化交流協会会長の秋山直紀(当時58)は、防衛関連企業から受け取ったコンサルタント料を隠し所得税を免れたとして逮捕された。

11月2日(月)被告人・竹林守、成田茂之、他1人:公職選挙法違反(詐欺登録・詐欺投票)(初公判)
<従業員の住民登録を移し投票を支持した事件> 09年9月、機械製造販売会社「水戸工業」の社長・成田茂之(当時57)らは自社の従業員の住民登録の場所を変更させ、衆議院議員選挙で自民党に投票するよう指示したとして逮捕された。

11月2日(月)被告人・熊谷智幸:強制わいせつと偽造私印使用(初公判)
<テレビ局員を装ってわいせつ行為をした事件> 09年8月、インターネット広告会社役員、熊谷智幸(当時35)は、東京都板橋区内の路上で30代の女性にフジテレビの社員を装った偽の名刺を手渡して声をかけ、近くのマンションのエントランスまで連れて行き、わいせつな行為をした疑いで逮捕された。

11月2日(月)被告人・押尾学:麻薬取締法違反(使用)(判決)
<俳優による麻薬事件> 09年8月、東京・六本木のマンションで女性が死亡していると119番通報があり、部屋に出入りしていたとして俳優の押尾学(当時31)が任意で事情聴取を受けた。任意の尿検査で、合成麻薬のMDMAに陽性反応が出たため麻薬取締法違反(使用)の疑いで逮捕された。

11月4、5、6日(水、木、金)被告人・太田周作:殺人未遂(初公判)
(初公判、5日6日も) <駅のホームから女性を突き落とした事件> 09年3月、無職太田周作(当時24)は、JR東京駅で女性(当時60)をホームから突き落とし、電車に接触して負傷させたとして、殺人未遂で逮捕された。取調べに対して「(事件を起こすのは)どこでも、誰でもよかった」などと供述した。

11月5日(木)被告人・寺岡誠吉:殺人
<運送会社役員を殺害した事件> 08年12月、運送会社社長の寺岡誠吉(当時71)は、元暴力団組員に依頼して06年9月に同社役員の栩野雅晴さん(当時66)を殺害させたとして逮捕された。

11月5日(木)被告人・中田静子 ほか1名:昏睡強盗、窃盗
<スナック客に対する昏睡強盗> 09年3月、バー経営の中田静子(当時62)はスナック経営の細江敏光(当時39)と共謀、スナックで男性客に強い酒を飲ませて昏睡状態にさせ、キャッシュカードを奪って現金自動預払機から金を引き出したとして逮捕された。

11月6日(金)被告人・波和二ほか:組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)
<L&G詐欺事件> 09年2月、健康寝具販売会社「エル・アンド・ジー」は、組織的に会員から出資金をだまし取ったとして会長の波和二(かずつぎ)(当時75)や幹部を逮捕した。被害者約3万7000人、被害総額約1260億円とみられる。

11月6日(金)被告人・片石肇:強盗傷害(控訴審判決)
<プロレスグッズ専門店での強盗事件> 09年2月、千葉県柏市の無職、片石肇(当時28)は他の2人と共謀して東京都千代田区のプロレスグッズ専門店に押し入った。男性店員に暴行を加え、現金15万9000円と、マスク5点などの商品を奪った。

11月6日(金)被告人・多田知信:窃盗、住居侵入(初公判)
<警察寮での窃盗事件> 09年8月、警視庁大森警察署地域課巡査長の多田知信(当時30)は、08年11月に警察寮の同僚の部屋に侵入し、腕時計を盗んだとして逮捕された。


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阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。

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