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2008年11月24日

弁護人困った「刑を軽く」と言えない事情

 「裁判員ブラジャー」、「裁判員寿司」に続いて、裁判員がらみの商売第3弾。今度は裁判員のゲームです。
 11月27日にタカラトミーから発売される「もしも?! 裁判員に選ばれたら…」というニンテンドーDS用ソフトが、そのゲーム。

 どうやら、裁判所から裁判員候補者に選出された封書が届いて、公判に参加して判決を下すまでを体験するシミュレーションゲームらしい。
 これまたマニアックなゲームだこと。でも「逆転裁判」シリーズも人気だから、意外とヒットするかもしれないですね。裁判員制度をわかりやすく解説した「裁判員制度辞典」や「用語集」も収録されているらしいんで、半年後に備えて、遊びながら勉強するのもありでしょう。

 さて、今日は11月19日に行われた北川初子被告人の裁判の話。罪名は傷害、銃砲刀剣類所持等取締法違反。

 東京の渋谷駅付近で8月に若い女性2人が相次いで刃物で切られた通り魔事件ですね。報道によると「女性が切られた」との110番通報で駆け付けた渋谷署員が、若い女性2人がけがをしているのを確認し、さらに約50メートル離れたJR券売機で通報内容の特徴と似た北川を発見。北川は紙袋の中に刃渡り9・9センチの果物ナイフを持っており「私が刺した」と犯行を認めたため、殺人未遂の現行犯で逮捕したというのが伝えられた内容です。

 北川は調べに対し「所持金もないし、事件を起こせば警察が何とかしてくれるだろうと思った」などと供述し「今週初めに都内の路上生活者支援施設を飛び出した」と話した、と。

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 渋谷駅での通り魔ってだけでもショッキングなのに、犯人が79歳のおばあちゃんということもあって、大きく報道された事件です。

 まずは10月23日の初公判。

 起訴されたのは、今年の8月22日18時45分頃、渋谷駅東急東口の路上で、被告人が果物ナイフで女性(26)の胸部を刺し、全治不明の怪我を負わせた事件のみ。
 検察官の冒頭陳述によると、被告人は今年の7月まで、奈良県で知人に部屋を借りて生活していたらしい。しかし、被告人は家賃や公共料金を払っていなかったという。

 そして、7月上旬。被告人は知人が止めるのも聞かず“こんなところ、住むとこじゃない”と言い放ち、上京。あてのない被告人は、7月14日に都内のスーパーで万引きをし警察に自首。その日は警察署内に泊まり、翌日、警察の付き添いで役所へ行き、福祉施設を紹介してもらったという。
 しかし、8月18日に施設内の人と喧嘩をしたため、福祉施設を飛び出したとのこと。
 8月22日に御徒町で果物ナイフを購入し、山手線の車内で「万引きで連れてってもらった施設はよくなかった。もっと大きな事件をしなければ」と考え、秋葉原での通り魔事件を思い出したという。
 そして、渋谷駅に到着して「楽しそうに何してんのよ」と言いながら、被害女性の脇腹を刺した、というのが事件の流れです。

 取り調べに対して被告人は「今まで家庭生活に恵まれず、戦争を経験して(学校卒業ができなかった)おり、楽しそうにしている若い女性を見ると腹が立った」と、女性を狙った理由について述べているらしい。

 追起訴があるということで、この日までこれで閉廷。

 そして、11月19日の第2回公判。

 追起訴されたのは、8月22日18時52分、東急東横西館の通路で、女性(27)の左上腕を切りつけ、加療14日の怪我を負わせた件。

 1件目の後に移動して、さらに人を傷つけた件ですね。ほぼ同時刻に起きてるんだから、一緒に起訴してもいいと思うんだけどね。

 検察官の取り調べに対し、被告人は「親切なおまわりさんに相談に乗ってもらいたくてやりました。1人目は刺して、2人目は切りつけた理由は分かりません。3人目も刺そうと思いましたが、3人目の女性にナイフを見せたら、すぐに逃げてしまいました。当時、カッカしていたので、よく覚えていません。自販機でお茶を買っているときに捕まったのは覚えています」と述べていました。

 身寄りのない被告人のために、情状証人として出廷する人はいるはずもなく、すぐに被告人質問です。まずは弁護人から。

 弁護人 「今、事件を振り返ってどう考えてますか?」
 被告人 「とっても恐ろしいことをしてしまいました。ありえないことやと思ってます。ほんとに申し訳ないと思うてます」
 弁護人 「あの…」
 被告人 「皆に迷惑かけてしまって、ホントに気の毒で申し訳ないと思ってます。刑務所なり、何なり入れていただいてね、(被害者が)気のすむまで」

 高齢のせいか、被告人は耳が遠いらしく、一方的に反省の弁を述べていました。

 弁護人 「8月18日に福祉施設を飛び出したのは(同部屋の)隣の人と喧嘩(けんか)になったからなんですよね」
 被告人 「そうです。私、気が短いもんだからすぐ喧嘩になっちゃうんですよ」
 弁護人 「飛び出した日、その晩は?」
 被告人 「旅館に泊まりました」
 弁護人 「福祉施設に戻ろうとは?」
 被告人 「そんな気ありませんでした」
 弁護人 「次の日は?」
 被告人 「最近忘れっぽくて。いっぺん、野宿したように思いますけど」
 弁護人 「野宿したのは21日じゃなかったでしたっけ? 人の車庫で寝ていて、起こされたと」
 被告人 「そこのお父さんに怒られまして、朝5時くらいに起こされましてね。寝ることないし、お金もないし、行くとこないし。皆、楽しそうに歩いているし、やけくそと言いますか」

 記憶はあいまいなんだけど、野宿をしても、福祉移設に戻る気はなかったようです。

 弁護人 「その日起こされて、どうしたんですか?」
 被告人 「(施設に入るには)大きなことしないと、何かせなあかんなぁと」

 そもそも、大きい事件を起こしたらよい施設に入れるって考え方がよくわからないんだけど、万引きで逮捕された時の警察官の言葉を勘違いしているのでしょうね。
 万引きだったから、万引きだから、あんな施設に連れていかれたと。

 次は、検察官からの質問。

 検察官 「福祉施設に戻らなかったのは?」
 被告人 「もう嫌でした」
 検察官 「何が?」
 被告人 「(喧嘩した)あの人と一緒に暮らすことが嫌でした」

 喧嘩の内容は弁護人が明かした程度のことしかわからないんだけど、被告人にとっては相当なことなんでしょう。でも、その人と施設内で生活するよりも刑務所に行く方がいいなんて本当に考えたんだろうか。検察官が聞きました。

 検察官 「あなたは刑務所に入りたいんですか?」
 被告人 「刑務所に入りたいいうよりも、寝るとこない、金もない、着るものもない。2時間くらい考えたんですぅ。それで、やっぱり警察にお世話になるしかないかなって」
 検察官 「それは福祉施設より刑務所の方がいいってこと?」
 被告人 「その方が。福祉施設、いや! 刑務所の方がよろしい」

 どうやら、福祉施設を飛び出した後に役所へは行ったらしいんだけど、相談に乗ってくれなかったので、警察に相談に乗ってもらおうと考えたようです。
 そして、お金はもちろん謝罪の手紙すら出していない被告人に対して厳しい質問です。

 検察官 「弁護人の質問の中でも、反省しているようなことを言ってたけど、被害者の名前とか覚えています?」
 被告人 「怪我した、入院したというのは覚えてるんですけど」
 検察官 「ぼーっとしか覚えていないのに何を反省するんですか!」
 被告人 「それ言われると困りますねぇ。罪の償いをどうするんだって(警察と検察で)何回も言われましたけど、どうすればいいんですか? 私、どんなことでも致します」
 検察官 「…。社会復帰後、どうするんですか?」
 被告人 「(刑期を終えて)刑務所に“もういい”って言われたらね。一番困りますねん。どうしようかなぁと。…死ぬよりほかないかなと」

 行くあてのない被告人にとって、出所が一番困ると述べて、質問終了です。

 最後は裁判官から

 裁判官 「年金で生活はできないんですか?」
 被告人 「ひと月で3万4000円くらい。それで、できますやろか?」
 裁判官 「生活保護は?」
 被告人 「月7万~8万にはなりますけど、受けるには家がいりますねん」
 裁判官 「んー」

 と、言葉につまる裁判官。そして

 裁判官 「あなた自身の命も大切にしなきゃね」
 被告人 「そうなんですけどねぇ。ダメですわー。刑務所で“出てって”って言われたら、それっきりやし。生きてく自信がなくなりましたわ」
 裁判官 「…。短気って言ってたけど。我慢しようとは?」
 被告人 「我慢もねぇ、限界ですわ。ダメです」
 裁判官 「それではまた恐ろしいことを考えるのではないですか?」
 被告人 「考えません! 絶対考えませんわ。2度と警察のお世話にはなりたくありません」

 と、再犯しないことを約束して質問終了でした。
 このあと、検察官は、無差別に人を傷つけた通り魔事件は厳重に処罰すべきとして、懲役6年を求刑しました。
 そして、弁護人は、被告人に前科前歴がないことなどの情状を述べた後に

 弁護人 「弁護人は刑期を短くお願いするのが仕事ですが、本件は社会のシステムを考えさせられます。被告人が“出所が困る”と言ってるのを聞くと、弁護人としては何とも言えません。裁判所にはその辺のことをご配慮いただきたいと思います」

 と、刑を軽くしてという内容でも執行猶予を願う内容でもない珍しい弁論でした。弁護人としても難しいところでしょうね。被告人が80歳の誕生日を迎える3日後の12月4日に判決が言い渡される。

※写真は事件直後、現場を警戒する警察官(共同)

注目の裁判

11月2日(月)被告人・氏家信子:殺人ほか(判決)
<息子を殺害した事件> 09年1月、東京都大田区の無職氏家信子(当時65)は傷害を持つ双子の息子に包丁で切りつけた。弟は病院で死亡が確認された。

11月2日(月)被告人・秋山直紀:所得税法違反(初公判)
<防衛汚職関連の所得税法違反事件> 08年8月、日米平和・文化交流協会会長の秋山直紀(当時58)は、防衛関連企業から受け取ったコンサルタント料を隠し所得税を免れたとして逮捕された。

11月2日(月)被告人・竹林守、成田茂之、他1人:公職選挙法違反(詐欺登録・詐欺投票)(初公判)
<従業員の住民登録を移し投票を支持した事件> 09年9月、機械製造販売会社「水戸工業」の社長・成田茂之(当時57)らは自社の従業員の住民登録の場所を変更させ、衆議院議員選挙で自民党に投票するよう指示したとして逮捕された。

11月2日(月)被告人・熊谷智幸:強制わいせつと偽造私印使用(初公判)
<テレビ局員を装ってわいせつ行為をした事件> 09年8月、インターネット広告会社役員、熊谷智幸(当時35)は、東京都板橋区内の路上で30代の女性にフジテレビの社員を装った偽の名刺を手渡して声をかけ、近くのマンションのエントランスまで連れて行き、わいせつな行為をした疑いで逮捕された。

11月2日(月)被告人・押尾学:麻薬取締法違反(使用)(判決)
<俳優による麻薬事件> 09年8月、東京・六本木のマンションで女性が死亡していると119番通報があり、部屋に出入りしていたとして俳優の押尾学(当時31)が任意で事情聴取を受けた。任意の尿検査で、合成麻薬のMDMAに陽性反応が出たため麻薬取締法違反(使用)の疑いで逮捕された。

11月4、5、6日(水、木、金)被告人・太田周作:殺人未遂(初公判)
(初公判、5日6日も) <駅のホームから女性を突き落とした事件> 09年3月、無職太田周作(当時24)は、JR東京駅で女性(当時60)をホームから突き落とし、電車に接触して負傷させたとして、殺人未遂で逮捕された。取調べに対して「(事件を起こすのは)どこでも、誰でもよかった」などと供述した。

11月5日(木)被告人・寺岡誠吉:殺人
<運送会社役員を殺害した事件> 08年12月、運送会社社長の寺岡誠吉(当時71)は、元暴力団組員に依頼して06年9月に同社役員の栩野雅晴さん(当時66)を殺害させたとして逮捕された。

11月5日(木)被告人・中田静子 ほか1名:昏睡強盗、窃盗
<スナック客に対する昏睡強盗> 09年3月、バー経営の中田静子(当時62)はスナック経営の細江敏光(当時39)と共謀、スナックで男性客に強い酒を飲ませて昏睡状態にさせ、キャッシュカードを奪って現金自動預払機から金を引き出したとして逮捕された。

11月6日(金)被告人・波和二ほか:組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)
<L&G詐欺事件> 09年2月、健康寝具販売会社「エル・アンド・ジー」は、組織的に会員から出資金をだまし取ったとして会長の波和二(かずつぎ)(当時75)や幹部を逮捕した。被害者約3万7000人、被害総額約1260億円とみられる。

11月6日(金)被告人・片石肇:強盗傷害(控訴審判決)
<プロレスグッズ専門店での強盗事件> 09年2月、千葉県柏市の無職、片石肇(当時28)は他の2人と共謀して東京都千代田区のプロレスグッズ専門店に押し入った。男性店員に暴行を加え、現金15万9000円と、マスク5点などの商品を奪った。

11月6日(金)被告人・多田知信:窃盗、住居侵入(初公判)
<警察寮での窃盗事件> 09年8月、警視庁大森警察署地域課巡査長の多田知信(当時30)は、08年11月に警察寮の同僚の部屋に侵入し、腕時計を盗んだとして逮捕された。


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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。

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