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2008年11月03日

必殺仕事人の秀さんのように…って

 先週は東京地裁で、外国人を被告人とした模擬裁判が行われました。通訳がどれだけ裁判員の判断に影響があるのかがテーマだったようです。

 6グループに分かれて中国語、韓国・朝鮮語、ペルシャ語で行われ、通訳人はメモをとりながら、順次通訳し、冒頭陳述・論告・弁論は事前に用意されたメモをもとに同時通訳をしたとのこと。
 そこで、中国語の通訳をした人は、「検察や弁護側のアドリブについていくのが難しい」とコメントしたようです。

 これはなかなか面白い一言ですね。公判前整理手続きが公開の裁判での確認作業であることを言い得ているような。ま、アドリブが出るってことは、予定通りに進まないとも言えるんだけど。今後、刑事裁判はどんどん形式的なものになっていくんでしょうか。思わぬ展開になるのが裁判のおもしろいとこでもあるんだけどねぇ。

asozan081103-2.jpg

 今回は、10月27日に行われた元山崎製パンの男性社員の山崎弘美被告人(32)の第3回公判の話。罪名は、器物損壊、業務妨害。

 報道によると、山崎はまず今年4月に器物損壊の疑いで逮捕された。3月に、東京都葛飾区や足立区のコンビニエンスストア5店舗に侵入し、持っていたハサミで便座のプラグを切断した容疑での逮捕だった。
 調べに対し山崎は「仕事が見つからずむしゃくしゃしてやった」と供述したそうだ。
 そして、このニュースから約2か月後。
 今度はスーパーの食品売り場のパンに縫い針を混入したとして、偽計業務妨害で再逮捕された。山崎は07年8月31日から9月1日、葛飾区のスーパーと足立区のコンビニの食品売り場で、山崎製パンのパン計6個に約3センチの縫い針を刺して入れた。開封後に気づくなどしてけが人はなかった。「山崎製パンに勤めていたころ、同僚に暴力を受けた。上司に相談しても何もやってくれず、腹いせにやった。必殺仕事人のように成敗してやった」と供述しているなどと報じられた。

 売り場のパンに針を入れたら、恨みを持ってる以前の勤務先だけでなく、小売店と消費者にも迷惑がかかるのに。コンビニのトイレの電源を切った件に関しては、まったくの無関係だからね。便座に座った人が尻がヒヤッとするのを想像しての犯行なんでしょうか。全く共感を得られない犯罪ですね。

 初公判は、6月11日。ここで起訴されたのは、今年の3月5日にファミリーマート2軒、セブンイレブン1軒、サンクス1軒でトイレの電源を切ったという器物損壊の事件。
 検察官の冒頭陳述によると、被告人は高校を卒業後、職を転々としていたが、96年に山崎製パンでアルバイトして勤務。後に正社員になるが、98年に退職し、バイトを転々としていた。3年前から無職で、取り調べに対し「無職のイライラがあり、電源コードを切ったら気持ちがスーーッとなったので、連続的にやってしまった」と述べているとのこと。

 ちなみに、ファミリーマートとサンクスは修理代として約1万5000円を請求しているのに対し、セブンイレブンの請求額は13万1500円となっていました。セブンイレブンの便座はお金がかかっているんでしょうか。追起訴があるということでこの日は20分ほどで閉廷。

 第2回公判は、9月24日。ここでの追起訴は昨年の8月31日にコンビニでパン4個、スーパーでパン2個に縫い針を入れたという業務妨害の事件。
 検察官の冒頭陳述によると、山崎製パン退職後、バイト生活をしていた被告人は、再入社をお願いする電話を05年ころから始めた。しかし、06年8月末ごろ、再度断られ、山崎製パンの製品に縫い針を入れることを決意した。
 このあと、検察官がパンを購入した人やコンビニとスーパーの店員の供述を朗読したところでさらに追起訴があるということで10分ほどで閉廷。

 そして、本題の第3回公判。この日起訴されたのは、今年の3月3日にセブンイレブンとサンクスのトイレで電源コードを切断したという事件。
 初公判で起訴された事件の前にも、同様の事件を起こしていたってことですね。ちなみに、セブンイレブンの請求額は高めでした。何でこんなに店によって金額が違うんだろ。
 法廷には、被告人の姉が情状証人として出廷です。まずは、弁護人から。

 弁護人 「事件を知ってどう思いましたか?」
 証人 「怒りとショックですね」
 弁護人 「本件の原因は、弟さんの性格によると言ってましたが、どんな性格なんでしょう」
 証人 「人を信用しないところがあります」
 弁護人 「具体的には?」
 証人 「学生時代にいじめられていました。それで…」
 弁護人 「そうなんですか。では、今後はどうしていこうと考えてますか?」
 証人 「こんなことをしたからと弟を嫌わずに、すべてを受け入れて、話し合う機会を増やしたいと思います」
 と、コミュニケーションをとって監督していくことを約束していました。
 次は裁判官からの質問。なんと、新事実が明かされるのです。

 裁判官 「被告人は去年の9月1日に逮捕されてますよね。(不起訴で)すぐ釈放されてますけど。自販機のコードを切ったと。また繰り返してますよね」
 証人 「厳しく言ったんですけど」

 どうやら、パンに縫い針を入れた翌日に別件で逮捕されていたようです。その時は、警察は被告人の犯行を見抜けなかったんですね。
 そして、被告人質問。いきなりのハプニング発生です。裁判官が被告人に対して、

 裁判官 「では、被告人は証言台のところへ出てきてください」

 と促すと、

 被告人 「ちょっといいですか? 始まる前に一言。僕のすべてが悪かったです。留置場でいろんな人に励まされて、変わりました。あの、僕のすべてが悪かったです!」

 一方的に謝罪です。質問されたことに答える立場なのに、いきなりしゃべりだすなんて。完全な不規則発言。

 弁護人 「今のは供述調書に加えてもらえますか?」
 裁判官 「は、はぁ。では、不規則発言とはせずに、弁護人の前に話したという扱いにしましょうかね」

 と、戸惑いながらも不規則発言を採用です。

 弁護人 「山崎製パンで働いていたのはいつですか?」
 被告人 「96年の夏の初めころから、98年の夏の終わりごろまでなので2年半くらいです」
 弁護人 「やめたのはなぜですか?」
 被告人 「話したくないんですけど、上司から暴力を受けまして」
 弁護人 「それは会社に相談しました?」
 被告人 「(相談しても)そんな事実はないと言われて」

 その怒りを10年間抱いていたんでしょう。

 弁護人 「そんなことがあっても、パンに針を刺したのは正当化されます?」
 被告人 「いえ。社会に牙(きば)をむいたようなものです」

 そして、報道された「必殺仕事人のように成敗してやった」という発言に対して。

 弁護人 「取り調べで“仕事人の秀さんのようにやろうと思った”と答えていますが、ホントにこんなことを思いました?」
 被告人 「言いましたけど、冗談交じりに必殺仕事人が好きでという話がなったとき、刑事さんが“秀さんみてぇだなぁ”と。それで、僕が“そうです”と」

 どうやら、「必殺仕事人のよう」と言ったのは、刑事の方だったようですね。ま、事件とは関係ない質問だけど。

 弁護人 「電源コードを切ったのはなぜですか?」
 被告人 「職が見つからなくてストレスがたまってたからです。気持が焦ってたからです」
 弁護人 「今後もストレスがたまることはあると思いますけど、どうしますか」
 被告人 「汗をかくようなスポーツなどをしてストレスを解消しようと思います」
 弁護人 「あと、許しますと被害者から手紙が届いていますが」
 被告人 「その気持ちは受け取ります。でも、僕が悪いので、罪を償って、1日も早く社会に復帰して、迷惑をかけた人や助けてくれた人のためにしっかりやってきたいと思います」
 弁護人 「そうですか。山崎製パンとも今後連絡はとりませんね」
 被告人 「一切、かかわりをもちません」
 弁護人 「質問を終わ…」

 と、弁護人がきれいに締めようとすると、

 被告人 「最後の一言いいでですか!(電話で)暴力を受けたことを言ったのに、ごめんなさいの一言もなかったので、堪忍袋の緒が切れたのです。理由はどうあれ、僕のしたことは許されることではありません。大変申し訳ありませんでした。もう一度、人生を頑張りたいと思います」

 と、またもや不規則発言です。そして、勝手に被告人席に戻ろうとすると、法廷内の全員が、

 全員 「いやいや、まだ」

 と、総ツッコミ。続けて、

 裁判官 「検察官、裁判所からも質問ありますので」

 と、注意されてました。裁判の流れを把握しとけとは言わないけど、自分勝手な被告人だよなぁ。だから、こんな犯罪をやったのかもしれないけど。
 次は検察官からの質問。

 検察官 「山崎製パンで暴力をふるった上司って、○○さんでしょ?(法廷では実名)あなたが会社に報告した後、○○さんは退職してますよ。会社はもみ消したわけじゃないでしょ」
 被告人 「一方的に私が悪かったです」
 検察官 「しかも、10年前の話ですよね。10年間電話してたんですか?」
 被告人 「年に2、3回くらいしか山崎製パンに電話はしてないですけど、3、4年前から月に10回ほどしてました」
 検察官 「だいたい、電話に出た人が10年前のことを把握していると思いますか?」
 被告人 「できてないと思います」
 検察官 「その人に10年前のことを謝罪してもらうって無理でしょう」
 被告人 「謝れとは言ってません。復職させてほしいと」

 そんなしつこい電話してくる人を復職させるわけないでしょ。電話をかければかけるほど、就職が遠のくとおもうんだけど。
 そして、またもや、例の質問。

 検察官 「必殺仕事人の話だけど、秀さんってかんざしで刺す人ですよね。そういう恨みを晴らす気持ちだったんですか?」
 被告人 「“どんな気持ちで?”と聞かれたので、悪党を倒すイメージでと答えたんです」

 やっぱり、検察官も仕事人の件が気になってるようです。どうでもいいと思うんだけどね。

 検察官 「パンに針を入れるとき、買って口にする人のことは考えました?」
 被告人 「一心不乱で想像できませんでした」
 検察官 「お店の売り上げが減るとは?」
 被告人 「影響が出るとは思いませんでした」
 検察官 「じゃ、目的は?」
 被告人 「何も目的はないですけど。会社(山崎製パン)と僕がコミュニケーションとれるのは、電話だけだったんですよ。でも、“もう電話はしないでください”と言われて、それで、クソーと思って」

 ホント、一方的な怒りなんですね。バイト期間を含めて、2年強しか働いてない人から、10年前の話を引き合いに出されて、復職させろって何度も電話があったらたまったもんじゃないよなぁ。この電話だけでも、十分に業務妨害だと思うんだけどね。
 最後は裁判官から、

 裁判官 「必殺仕事人の話は、取り調べ官が言い出したということなんですね」
 被告人 「そうです」

 裁判官も気になっていたようです。そんあに重要なことなんだろうか。

 裁判官 「去年の9月1日に電源コードを切って捕まってるよね。その時、前日の針刺し事件のことは言わなかったんだ」
 被告人 「はい」
 裁判官 「今年の3月に電源を切った事件で逮捕されて、その時にしゃべったと」
 被告人 「そうです」
 裁判官 「あなたは、別に(山崎製パンの)対応の悪さを声高に言いたいってわけじゃないですよね」
 被告人 「…」

と、30秒ほど黙ったあと、

 被告人 「それは、わからないです」
 裁判官 「ん? まだひっかかりがある?」
 被告人 「いや、や、あのー、山崎製パンのは一切かかわりあいを持ちませんので」

 と、まだ何かありそうな感じのまま、質問終了。
 このあと、検察官か懲役3年を求刑して閉廷でした。
 被告人としては、反省はしてるし、山崎製パンに電話はしないけど、まだ恨みはあるって感じなんでしょうか。裁判官との最後のやり取りは、そんな風に見えたけどね。
 これは仕事人に懲らしめてもらわないといけないかもしれませんね。

※写真は必殺仕事人で「秀さん」を演じた三田村邦彦。こんなところで名前を出されて大迷惑?

注目の裁判

11月2日(月)被告人・氏家信子:殺人ほか(判決)
<息子を殺害した事件> 09年1月、東京都大田区の無職氏家信子(当時65)は傷害を持つ双子の息子に包丁で切りつけた。弟は病院で死亡が確認された。

11月2日(月)被告人・秋山直紀:所得税法違反(初公判)
<防衛汚職関連の所得税法違反事件> 08年8月、日米平和・文化交流協会会長の秋山直紀(当時58)は、防衛関連企業から受け取ったコンサルタント料を隠し所得税を免れたとして逮捕された。

11月2日(月)被告人・竹林守、成田茂之、他1人:公職選挙法違反(詐欺登録・詐欺投票)(初公判)
<従業員の住民登録を移し投票を支持した事件> 09年9月、機械製造販売会社「水戸工業」の社長・成田茂之(当時57)らは自社の従業員の住民登録の場所を変更させ、衆議院議員選挙で自民党に投票するよう指示したとして逮捕された。

11月2日(月)被告人・熊谷智幸:強制わいせつと偽造私印使用(初公判)
<テレビ局員を装ってわいせつ行為をした事件> 09年8月、インターネット広告会社役員、熊谷智幸(当時35)は、東京都板橋区内の路上で30代の女性にフジテレビの社員を装った偽の名刺を手渡して声をかけ、近くのマンションのエントランスまで連れて行き、わいせつな行為をした疑いで逮捕された。

11月2日(月)被告人・押尾学:麻薬取締法違反(使用)(判決)
<俳優による麻薬事件> 09年8月、東京・六本木のマンションで女性が死亡していると119番通報があり、部屋に出入りしていたとして俳優の押尾学(当時31)が任意で事情聴取を受けた。任意の尿検査で、合成麻薬のMDMAに陽性反応が出たため麻薬取締法違反(使用)の疑いで逮捕された。

11月4、5、6日(水、木、金)被告人・太田周作:殺人未遂(初公判)
(初公判、5日6日も) <駅のホームから女性を突き落とした事件> 09年3月、無職太田周作(当時24)は、JR東京駅で女性(当時60)をホームから突き落とし、電車に接触して負傷させたとして、殺人未遂で逮捕された。取調べに対して「(事件を起こすのは)どこでも、誰でもよかった」などと供述した。

11月5日(木)被告人・寺岡誠吉:殺人
<運送会社役員を殺害した事件> 08年12月、運送会社社長の寺岡誠吉(当時71)は、元暴力団組員に依頼して06年9月に同社役員の栩野雅晴さん(当時66)を殺害させたとして逮捕された。

11月5日(木)被告人・中田静子 ほか1名:昏睡強盗、窃盗
<スナック客に対する昏睡強盗> 09年3月、バー経営の中田静子(当時62)はスナック経営の細江敏光(当時39)と共謀、スナックで男性客に強い酒を飲ませて昏睡状態にさせ、キャッシュカードを奪って現金自動預払機から金を引き出したとして逮捕された。

11月6日(金)被告人・波和二ほか:組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)
<L&G詐欺事件> 09年2月、健康寝具販売会社「エル・アンド・ジー」は、組織的に会員から出資金をだまし取ったとして会長の波和二(かずつぎ)(当時75)や幹部を逮捕した。被害者約3万7000人、被害総額約1260億円とみられる。

11月6日(金)被告人・片石肇:強盗傷害(控訴審判決)
<プロレスグッズ専門店での強盗事件> 09年2月、千葉県柏市の無職、片石肇(当時28)は他の2人と共謀して東京都千代田区のプロレスグッズ専門店に押し入った。男性店員に暴行を加え、現金15万9000円と、マスク5点などの商品を奪った。

11月6日(金)被告人・多田知信:窃盗、住居侵入(初公判)
<警察寮での窃盗事件> 09年8月、警視庁大森警察署地域課巡査長の多田知信(当時30)は、08年11月に警察寮の同僚の部屋に侵入し、腕時計を盗んだとして逮捕された。


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阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。

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