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2008年10月20日

不正アクセス元社員に社長は優しかった

 ついに、裁判員の「名簿記載通知書」の送付日が決定です。11月末らしい。Yahoo Japanのトップページに取り上げられるほどの扱いに驚きです。

 その記事自体に真新しい情報は少なかったんだけど、見逃せない記載が1つありました。それは、裁判員候補者名簿に載った人に、『辞退を希望するかどうかを尋ねる“調査票”と、回答するマークシート、裁判員を紹介する漫画の小冊子、パンフレットなども同封される』という一文。
 調査票って、マークシートなの? 初耳。裁判員制度に関するパンフレットはひと通り読んでるつもりだったけど、マークシート方式だったなんて知らなかったなぁ。
 あと、漫画の小冊子って、何だろ? まさか、日弁連が作ったマンガ「裁判員になりました」を裁判所が配るとは思えないし。宝くじで高額当選者だけに配られる本があるらしいけど、名簿に載った人だけが読めるマンガなんだろうか。そのマンガ欲しさに裁判員になりたがる人も出てくるかもしれませんね。
 今回は、10月17日に行われた渋谷博久被告人(28)の裁判の話。罪名は、不正アクセス行為の禁止等に関する法律違反、それと、電子計算機損壊等業務妨害。

 報道によると派遣社員渋谷は2月7日午後8時頃、自宅のパソコンからITサポート会社「アットスター」のサーバーに不正にアクセスし、化粧品通販サイトなどの商品データ702件と、顧客データ9734件を消すなどした。
 渋谷は昨年11月に同社に就職したが、仕事内容の不満から今年1月に退社。その後、給与の算出方法をめぐり上司だった男性社員にメールを送ったが、返信が遅かったことに腹を立て、在職中に知った管理用IDを使って不正アクセスした。「あいつ(上司)を困らせたかった」などと容疑を認めていると報じられた。

 ここ数年で増えてきた、新手の犯罪です。上司が困ったのは間違いないだろうけど、一番困ったのは通販サイトを利用していた人たちなわけで。
 起訴されたのは、記事の通り。検察官の冒頭陳述によると、被告人は大学を卒業後、仕事をしながら独学でパソコンの勉強をしていたらしい。そして、去年の11月にアットスターに就職したが、募集内容と違う業務をさせられたり、残業が多くて残業代が出ないことなどの不満から、12月31日に退社。

 そして、犯行当日。会社や上司に対する鬱憤(うっぷん)をはらすため、自宅のパソコンに保存していた化粧品通販サイトのURL、ログインIDなどを利用してアクセス。データを消去し、情報が消えた物を上書きする形でアップロードした。
 被告人は、IPアドレスから足がつくのを恐れ、犯行の翌日にプロバイダーを解約し、犯行から2カ月後の4月には、犯行に使用したパソコンも売却していた。
 逮捕された日時は明かされなかったんだけど、2月の事件を今頃審理してるということは、プロバイダーを解約したのが犯人の特定を遅らせたのでしょう。ネット上の犯罪がその辺からバレることを分かってのは、独学でパソコンを学んでいた賜物(たまもの)ですね。

 法廷には被告人の父親が出廷し、今後の監督や被害会社の社長に直接会って謝罪したことなどを証言していました。
 そして、被告人質問。まずは弁護人から、

 弁護人 「起訴状に書かれていることは、あなたがやったことに間違いありませんね」
 被告人 「間違いありません」
 弁護人 「なぜ、やってしまったんですか?」
 被告人 「オークションサイトの業務に興味がありまして、求人募集でパソコン関係の募集をしていたので、就職したんですが、初日から倉庫に回されて、募集内容と違うことなどの不満が募りました」
 弁護人 「そうですか。あと、犯行後、4月にパソコンを売却してますが、これは犯行を隠すためだったんですか?」
 被告人 「いえ、新しいパソコンを購入するために売ったので、隠すためではありません」

 罪証隠滅で売却したわけではないと主張です。ま、犯行から2か月経っての場客だから、信用できる話ですね。ただ、プロバイダー解約については弁護人も触れず、と。

 弁護人 「あなたは9月11日に保釈されて、9月19日に父親と一緒に社長に会いに行って謝罪しましたね。社長はなんて言ってました?」
 被告人 「データの流出を一番懸念しているようでした」
 弁護人 「なぜだと思いますか?」
 被告人 「顧客データが流出すれば、お客様に迷惑がかかるからです」
 弁護人 「実際、流出させてませんね?」
 被告人 「はい、してません」
 弁護人 「会社としてはサイトの復旧に丸1日かかり、人件費が2000万円ほどかかった、と。さらに情報が流出していれば、お客様への謝罪も含め2200万円ほどの損害が見込まれる、と警察に述べているようですが、その心配はない?」
 被告人 「はい」
 弁護人 「あと、社長に何か言われたことはありますか?」
 被告人 「今後の私のことを考えてくれる言葉を掛けてくれて、ありがたかったです」
 弁護人 「私もその場にいたので言いますが、“若くて将来もあるんだから、めげないで”って言ってくれましたよね?」
 被告人 「はい」

 なんて優しい社長なんだ。情報流出の可能性がないことをわかったから、寛容な気持ちで接してくれたのかもしれないけど、そんな人のいい社長に迷惑をかけたってのは、被告人にしてみれば辛いだろうな。

 弁護人 「この事件は、新聞やニュースにも取り上げられて、会社が入ってるビルが報道されました。それで会社は(顧客か取引先から?)厳しいことを言われたそうで、社長は“この国は、被害者に対しても厳しいんだな”と言ってましたよね?」
 被告人 「私の行動で損害を与え、報道されてさらに損害を与えてしまったんだなと」

 二次被害まで受けているのに、被告人を思いやっている社長は、かなり人がよさそうなんだよな。でも、被告人は会社に恨みを持っていたわけで。社長の人格と社風や労働条件は比例しないもんなんですね。
 次は、検察官からの質問。

 検察官 「パソコンに関する知識は、独学で学んだんです?」
 被告人 「学校にも行ってたので。あとは、学校終わった後にも1人で」
 検察官 「それだけ知識があれば、こんなことした後の被害について考えなかった」
 被告人 「正直申しまして、頭がいっぱいいっぱいになってしまって、そこまで頭がまわらなかった、というのが」
 検察官 「でもね、起訴はされてないけど(同社の)他のサイトでも同じことやってますよね。4回も同じことを。1回で思いとどまらなかったのはなぜですか?」

 実は、被告人がデータを消去したのは1回だけではなかったようです。そして、その答えが、

 被告人 「同じ作業を繰り返すことで、簡単にできたので、やってしまったんだと思います」

 俺はパソコンに関する知識が乏しいのでよくわからないんだけど、ログインパスワードとかも知ってれば、簡単にデータを消すことができるんですね。それを考えると、ネット上の情報なんて、モロいもんだよなぁ。
 このあと、検察官が懲役1年6月を求刑して閉廷でした。
 被告人は被害会社に2か月弱しかいなかったバイトみないな人物だったわけです。そんな人にログインIDやパスワードを知られたまま辞められ、何の手も打たなかった会社の方もなんだかなぁ。被害者側を責めるつもりはないけど、危機管理が甘かった感は否めないですね。パスワードを変更するのはそんなに大変な作業のかね。

 他の裁判での話なんだけど、似たような電離計算機損壊等業務妨害の事件で、検察官は「サイバーテロである」って強く非難してたからね。これはテロなんです。
 本件はデータを消去されただけですんだけど、今後は悪用するような事件も出てくるかもしれません。そういうことを気づかせくれたから、社長は被告人に対して優しく接してくれたのかもしれないですね。

注目の裁判

11月24日(火)被告人・秋山直紀:所得税法違反
<防衛汚職関連の所得税法違反事件> 08年8月、日米平和・文化交流協会会長の秋山直紀(当時58)は、防衛関連企業から受け取ったコンサルタント料を隠し所得税を免れたとして逮捕された。

11月24日(火)被告人・芳賀吉孝、小野克巳、五郎川弘之、他2人:わいせつ図画販売・頒布
<わいせつDVD販売を手助けした事件> 08年3月、アダルトDVD業界最大手の自主審査機関「日本ビデオ倫理協会」が、作品の審査基準を甘くして、わいせつDVDの販売を手助けしたとして、審査部統括部長小野克巳(当時51)らを逮捕した。

11月24日(火)被告人・板垣宏 十亀弘史 須賀武敏:爆発物取締罰則違反
<迎賓館などにロケット弾が発射された事件> 1986年に迎賓館などにロケット弾が発射したとして、中核派の須賀武敏、十亀弘史、板垣宏が逮捕された。1審では証拠不十分で全員が無罪とされたが、2審では無罪判決を破棄して審理を地裁に差し戻した。上告審も2審判決を支持し、1審に差し戻された。

11月24日(火)被告人・松田真知:銃刀法違反など(控訴審初公判)
<大量の拳銃や実弾を密輸した事件> 06年1月、指定暴力団稲川会系松田組組長、松田真知は幹部の後藤広一らと共謀して拳銃11丁、実弾220発などを密輸したとして逮捕された。1審で無期懲役、罰金400万円(求刑無期懲役、罰金500万円)を言い渡された。

11月25日(水)被告人・寺岡誠吉:殺人
<運送会社役員を殺害した事件> 08年12月、運送会社社長の寺岡誠吉(当時71)は、元暴力団組員に依頼して06年9月に同社役員の栩野雅晴さん(当時66)を殺害させたとして逮捕された。

11月25日(水)被告人・竹田慶介:公然わいせつ(初公判)
<路上で下半身を露出した事件> 09年10月、東京都豊島区の学習塾経営、竹田慶介(当時27)は同年9月に同区内の路上でズボンを降ろして下半身を露出し男子中学生3人に見せたとして逮捕された。

11月25日(水)被告人・小川俊之:爆発物取締罰則違反(控訴審判決)
<皇居に向かって火薬を詰めた消火器を発射した事件> 08年9月、神奈川県相模原市の元陸上自衛隊員の小川俊之(当時34)が、火薬を詰めた消火器を皇居に向けて発射したとして、逮捕された。

11月26日(木)被告人・原田久:威力業務妨害(初公判)
<サラ金の業務を妨害した事件> 09年10月、愛知県岡崎市の無職、原田久(当時38)は、消費者金融「レイク」のコールセンターに約500回電話をかけ、女性オペレーターにひわいな言葉をかけたとして逮捕された。女性の体の一部を表す言葉などをかけて業務を妨害したという。

11月26日(木)被告人・小川美津子、他2人:昏睡(こんすい)強盗と保護責任者遺棄(初公判)
<スナック経営者による昏睡強盗事件> 09年2月、東京都渋谷区のスナック経営、小川美津子(当時73)ら男女4人は、スナックで男性客に酒を飲ませて泥酔させ、キャッシュカードを盗んで路上に放置したなどとして逮捕された。

11月26日(木)被告人・松原弘樹:強盗(初公判)
<自衛隊員による強盗事件> 09年9月、陸上自衛隊第1空挺団(千葉県船橋市)の陸士長松原弘樹(当時21)らは、東京・六本木のビル敷地内で飲食店従業員男性(当時22)を倒し、顔を殴るなどして現金約13万円入りの財布を奪ったとして逮捕された。

11月26日(木)被告人・植本勝也、井福一郎、他1人:児童買春・ポルノ処罰法違反(初公判)
<暴力団員らによる児童ポルノ販売事件> 09年9月、大阪府守口市の指定暴力団山口組系暴力団組長井福一郎(当時61)と大阪市西淀川区の無職植本勝也(当時43)は、インターネットで児童ポルノのDVDを販売したとして逮捕された。

11月27日(金)被告人・波和二:組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)
<L&G詐欺事件> 09年2月、健康寝具販売会社「エル・アンド・ジー」は、組織的に会員から出資金をだまし取ったとして会長の波和二(かずつぎ)(当時75)や幹部を逮捕した。被害者約3万7000人、被害総額約1260億円とみられる。

11月27日(金)被告人・高相祐一:覚せい剤取締法違反(所持、使用)(判決)
<酒井法子の夫の覚せい剤事件> 09年8月、自称プロサーファーで、女優酒井法子の夫、高相祐一(当時41)は、東京都渋谷区の路上で覚せい剤を所持していたとして逮捕された。

11月27日(金)被告人・和田達夫、嘉藤悦男:背任(初公判)
<理化学研究所をめぐる汚職事件> 09年9月、独立行政法人「理化学研究所」(理研、埼玉県和光市)の主任研究員、和田達夫(当時53)は、取引先の理化学器具開発販売会社「秋葉産業」の社長、嘉藤悦男(当時76)から旅行や飲食費などの代金付け回しを受け、その穴埋めに架空発注を行ったとして逮捕された。


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阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。

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