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2008年10月13日

真相は深い闇の中?ただの強盗事件と思えないんだけど

 10月8日、韓国のソウルですごいことが行われていました。それは、海外在住日本人向けの裁判員制度説明会。

 どうやら、日本に帰国して裁判員に選ばれても困らないように、今回の説明会が開かれたらしい。
 もう国内だけじゃなく、海外でも説明会が行われてるんですね。これは驚き。だって日本にいても、まだ説明会に参加してない人っているんじゃないのかな。まだ、裁判員の広報映画を見てない人だっているのに。まずは、国内で十分に説明会をやるのが先のような。

 さて、今回は、10月8日に行われた山本英世被告人(23)の裁判傍聴記。罪名は強盗致傷。郵便配達員から郵便物を奪った事件です。
 今年7月、山本は東京都西新宿の雑居ビルから出てきた郵便配達員(当時39)に催涙スプレーを顔に噴射し、配達中の郵便物を奪った。配達員が「その男を捕まえて」と叫び、近くにいた自営業男性(当時55)に取り押さえられ、警視庁新宿署に強盗の現行犯で逮捕されたというもの。
 調べでは山本は「路上を歩いていたら、捕まった」と容疑を否認していると伝えられた。だが、配達員はスプレーで目に軽いけがをしており、強盗致傷容疑に切り替えて調べている-。以上が報道で伝えられた内容ですね。

asozan081013.jpg

 以上の記事を読むと、「誤認逮捕か?」という印象を受けるけど、公判では罪を認めていました。
 起訴状では、西新宿雑居ビル内で郵便配達員の顔に催涙スプレーを噴射して全治5日間の怪我を負わせ…ここから先がびっくりで、149万8000円入りの郵便物を奪った。
 約150万円も入ってる郵便物って、一体。しかも、何で報じられていないのか。

 検察官の冒頭陳述によると、被告人は今年の2月に仕事をやめ、家賃を滞納して借金を抱えていたらしい。そして、犯行当日。被告人は、友人と待ち合わせをしていたので新宿へ。しかし、予定より早めに到着したので、西新宿を散策することに。そこに、「EXPACK500」という小包を抱えた被害者を発見し、奪うことを決意。
 被告人は後ろをつけ、被害者と一緒にエレベータに乗ったが、小包を奪うことをあきらめ、別の階で降りる。一方、被害者は届け先が従業員遅刻のため不在で、小包を持ったまま、またエレベータに乗った。すると、偶然にも被告人と一緒になり、1階に到着すると同時に、催涙スプレーをかけられ「EXPACK500」を奪われた。
 被害者の助けを求める声を聞いた近所の酒屋の店主が、逃走する被告人を追跡。民家に逃げ込んだことろを取り押さえたというのが事件の詳細です。

 これに対して、弁護人の冒頭陳述。友人との待ち合わせで新宿に来て、「EXPACK500」を持った配達員を見かけ、とっさに犯行を思いついた主張です。計画性はないということでしょう。
 で、弁護人は「EXPACK500」に150万円ものお金が入っていたのが、突発的で計画性のない犯行の最大の理由としてあげていました。
 というのも、「EXPACK500」に現金を入れるというのは禁止されているからなんです。しかし、本件のは、架空会社から送られてきていて、以前から「EXPACK500」に現金を入れて、郵送されていたようなのです。

 取調べで被害者は「届け先の郵便物には現金が入ってる」というもっぱらのうわさでした。以前から、他にも中身の大きさから札束と思われることがありました」と供述しているらしい。
 被告人は「動機は、お金が欲しかったからです。ゆうパックかEXPACKなら、貴重品か現金が入ってると思って、奪いました。というのも、私はネットオークションを利用したとき、貴金属がEXPACKに入って送られてきたからです」と述べているとのこと。
 果たして、真相は? いろんな偶然が重なった突発的な犯行なのか、用意周到に準備された計画的な犯行なのか。ミステリーのような裁判です。
 そして、注目の被告人質問。まずは、弁護人から。

 弁護人 「犯行時、仕事をしてなかったのは?」
 被告人 「手の甲をけがしていたので」
 被告人 「1カ月くらいですね」

 無職だった理由が述べられました。2月に仕事をやめたって話だから、長い間手の甲のけがを引きずっているのかもしれません。

 弁護人 「犯行当日のことを聞きます。名前は言えないけど、知り合いと会うために新宿にいった、と。早めに行ったのはなぜですか?」
 被告人 「久しぶりに新宿をブラブラしようかな、と」
 弁護人 「西新宿に行ったのは?」
 被告人 「なんとなくです」
 弁護人 「そこで郵便物を持った配達員を見かけたんですね」
 被告人 「はい」

 黙秘権があるんで、待ち合わせをしていた人を明かさなかったんだけど、強盗する予定は全くなかったと主張です。

 弁護人 「あなたは配達員の後について、雑居ビルに入りましたね。エレベータを待っている間や、上りのエレベータ内で郵便物を奪おうと思いませんでした?」
 被告人 「やるかやらないか、迷ってたんで」
 弁護人 「同じエレベータに乗って、配達員は4階で降りました。でも、そのまま被告人は6階まで行ったのはなぜですか?」
 被告人 「躊躇(ちゅうちょ)してて」
 弁護人 「そして、その下りのエレベータで配達員が乗ってきてますが、偶然ですか?」
 被告人 「たまたまです」

 西新宿にたまたま来て、配達員をたまたま見かけて、1度は迷ったもののエレベータにたまたま乗り合わせたので、犯行にいたった、という主張ですね。しかも、届け先がたまたま不在で、普通ならお金が入っていないはずの、郵便物にたまたま150万円が入っていたと。
 ものすごい数の偶然が重なっていますね。まるで計画していたかのように。ホントに偶然なのかもしれないんだけど、1つだけ偶然では済まされない事実があります。それは、催涙スプレーを所持していたこと。弁護人もそれについて質問しました。

 弁護人 「催涙スプレーはパチンコ屋で知り合った人にもらったということですが、いつごろもらったんですか?」
 被告人 「今年の初めごろです」
 弁護人 「それを犯行時持っていたのは?」
 被告人 「護身用として常に持っていたので」

 結果的には護身用として使ってないんだけどね。というか、がっちりした体格なんで催涙スプレーなんか持たなくても、と思える外見なんだけどね。

 弁護人 「郵便物の中にお金が入っていると、知ってました?」
 被告人 「それは思ってなかったです。ネットオークションの経験があるので、貴金属とか金目の物が入ってるかなと」
 弁護人 「実際、お金が入ってて、どう思いました?」
 被告人 「びっくりしました」
 弁護人 「そうですか。あと、当初は“自分の金だ”と否認していたのに、正直に話すようになったのはなぜですか?」
 被告人 「周りに迷惑かけたんで」

 150万円も大金が入ってるとは思っていなかったこと、現在は反省していることを述べて、質問終了。
 次は検察官からの質問です。

 検察官 「最初、犯人じゃないと言ってましたよね。他にはなんて言ってました?」
 被告人 「認めてませんでした。知らないと。歩いていたら、突然追いかけられたと」
 検察官 「さっき“周りに迷惑かけた”から正直に話したといってましたが、周りって?」
 被告人 「ニュースになったので、家族とか」
 検察官 「犯行当日以前に、現場に行ったことがありますか?」
 被告人 「ないです」
 検察官 「普段生活していて、配達員はいくらでも見かけるのでは?」
 被告人 「そうですね」
 検察官 「今まで郵便物を奪ったことは?」
 被告人 「ありません」

 たまたま訪れた西新宿で、今までやったこともない郵便物を奪うなんてことをするのは不自然じゃないかといいたいのでしょう。しかも、当初は否認していたし、怪しいだろうと。

 検察官 「(罪を認めたあと)取調べで、どんなお金って言ってました?」
 被告人 「その時は、悪いことしたお金かなぁっと」
 検察官 「具体的には?」
 被告人 「大体は詐欺だろうと。振り込め詐欺とか」
 検察官 「配達先にそういう郵便物が届くのを知ってて、配達員が4階で降りるのを確認して、それから奪ったのではないですか?」
 被告人 「いいえ。(下りのエレベータで乗り合わせたのは)偶然なんで」

 と、計画性を十分に立証できずに質問終了でした。架空会社から150万円が送られてきてる時点で、かなり怪しいお金なのは疑いの余地はないんだけど、その金をはっきりさせないと検察官としてはダメなんじゃないのかね。あいまいなままで、被告人がお金の入った郵便物が届くことを知ってたなんて、証明できないでしょ。
 最後は、裁判長からの質問。

 裁判長 「待ち合わせをしてた人って誰なの?」

 事件と直接関係ないのかも知れないけど、確かに気になるところです。

 被告人 「それは言いたくな…」

 と、被告人がかたくなに知人の名前を黙秘しよううとすると、弁護人が勢いよく立ち上がって、

 弁護人 「異議あり!」

 と、絶叫です。ん? なんだ、これ。裁判長に向かって、「異議あり」なんていう弁護人は初めて見ます。裁判長もきょとんとして、

 裁判長 「ん、ん?異議の理由、は?」
 弁護人 「異議ですよ、異議!」
 裁判長 「ですから、理由はなんですか?」
 弁護人 「被告人には黙秘権があるんですから。雰囲気から話したくないってのが、常識でわかるでしょう!」
 裁判長 「言いたくないのであれば、黙秘していただければいいのであって、その確認もあって聞いているわけなんですが」
 弁護人 「あの、あの、だったら、もっと、丁寧に聞いて下さい!」

 と、顔を紅潮させて怒っている弁護人。こんなに弁護人が、待ち合わせしていた人を言わせたくない姿を見ると、勘ぐりたくなりますよね。
 知人の名前を出すと、警察の事情聴取で時間がかかって、迷惑がかかるという理由で被告人が黙秘するケースはよくあるけど、弁護人が裁判長に異議を申し立てて、烈火のごとく怒るって、よほどの事情があるんでしょう。多分、弁護人にとって、都合が悪いから言わせたくないんだろうし。そんなにひっかからない点だったのに、余計気になっちゃいますよね。待ち合わせ自体が嘘なのか、届け先に勤めてる人とか、その怪しいお金に関係する人とか。ま、あくまで推測ですけど。

 裁判長 「借金があったようですけど、いくらくらい?」
 被告人 「200万円くらいと、家賃の滞納分」
 裁判長 「強盗が悪いってのはわかってましたよね」
 被告人 「はい、わかってます」
 裁判長 「厳しい罰を受けるのも知ってますよね?」
 被告人 「はい」
 裁判長 「合理的な犯罪っていうとあれだけど、稼げるかもわからない、捕まれば強盗で厳しい罰を受ける、なんで、こんなことをしたのかな、と」
 被告人 「焦っていたというのがあると思います」

 裁判長から、「確実に儲かる犯罪やればよかったのに」というアドバイス…ではなく、ことの善悪はさておき、危険を犯して郵便物を奪うのは不自然過ぎるだろうという質問。

 裁判長 「だって、あなたとしてはね、催涙スプレーも持っているし、ひったくりでもすればいい。ハンドバッグ持ってる人だって、たくさん歩いてるでしょ。貴金属やお金が入ってるかもしれないけど、入ってるとは限らないものをいうのがねぇ」
 被告人 「普通に考えればそうですね。ちょうどそういうタイミングで(配達員を)見かけたので」

 もう何が普通の考えなのか、わからなくなってきたけど、突然思い立ったという主張を崩すことなく質問を終了しました。
 この後、検察官は計画的な強盗であるとして、懲役6年を求刑。それに対し弁護人は、偶然に偶然が重なった突発的な犯行であるとし、出来るだけ軽い刑をお願いして閉廷でした。

 被告人が西新宿にいたのも、配達員を見かけたのも、届け先の従業員が遅刻して不在だったのに、たまたま。下りのエレベータで2人が一緒になったのも、たまたま。そして、「EXPACK500」に現金が入っていたのも、たまたま。世の中って信じられないほどの偶然が起きたりするからなぁ。

 もし、計画的な犯行だとすれば、被告人は何か情報を握ってそうなんだよな。犯罪モノの映画のような話が隠れているような気もするし、なんだかすっきりしない裁判だ。

 ちなみに、被告人が奪ったお金は、届け先に返されてるんじゃなく、捜査機関で押収されてるらしい。犯罪がらみの金だからなのかね? そもそも、この金が謎。そして、「EXPACK500」に現金が入れられていることをうすうす知りつつサービスを続ける日本郵便も、これまた謎。

※犯行の舞台となった新宿の遠景(写真は本文とは関係ありません)

注目の裁判

11月24日(火)被告人・秋山直紀:所得税法違反
<防衛汚職関連の所得税法違反事件> 08年8月、日米平和・文化交流協会会長の秋山直紀(当時58)は、防衛関連企業から受け取ったコンサルタント料を隠し所得税を免れたとして逮捕された。

11月24日(火)被告人・芳賀吉孝、小野克巳、五郎川弘之、他2人:わいせつ図画販売・頒布
<わいせつDVD販売を手助けした事件> 08年3月、アダルトDVD業界最大手の自主審査機関「日本ビデオ倫理協会」が、作品の審査基準を甘くして、わいせつDVDの販売を手助けしたとして、審査部統括部長小野克巳(当時51)らを逮捕した。

11月24日(火)被告人・板垣宏 十亀弘史 須賀武敏:爆発物取締罰則違反
<迎賓館などにロケット弾が発射された事件> 1986年に迎賓館などにロケット弾が発射したとして、中核派の須賀武敏、十亀弘史、板垣宏が逮捕された。1審では証拠不十分で全員が無罪とされたが、2審では無罪判決を破棄して審理を地裁に差し戻した。上告審も2審判決を支持し、1審に差し戻された。

11月24日(火)被告人・松田真知:銃刀法違反など(控訴審初公判)
<大量の拳銃や実弾を密輸した事件> 06年1月、指定暴力団稲川会系松田組組長、松田真知は幹部の後藤広一らと共謀して拳銃11丁、実弾220発などを密輸したとして逮捕された。1審で無期懲役、罰金400万円(求刑無期懲役、罰金500万円)を言い渡された。

11月25日(水)被告人・寺岡誠吉:殺人
<運送会社役員を殺害した事件> 08年12月、運送会社社長の寺岡誠吉(当時71)は、元暴力団組員に依頼して06年9月に同社役員の栩野雅晴さん(当時66)を殺害させたとして逮捕された。

11月25日(水)被告人・竹田慶介:公然わいせつ(初公判)
<路上で下半身を露出した事件> 09年10月、東京都豊島区の学習塾経営、竹田慶介(当時27)は同年9月に同区内の路上でズボンを降ろして下半身を露出し男子中学生3人に見せたとして逮捕された。

11月25日(水)被告人・小川俊之:爆発物取締罰則違反(控訴審判決)
<皇居に向かって火薬を詰めた消火器を発射した事件> 08年9月、神奈川県相模原市の元陸上自衛隊員の小川俊之(当時34)が、火薬を詰めた消火器を皇居に向けて発射したとして、逮捕された。

11月26日(木)被告人・原田久:威力業務妨害(初公判)
<サラ金の業務を妨害した事件> 09年10月、愛知県岡崎市の無職、原田久(当時38)は、消費者金融「レイク」のコールセンターに約500回電話をかけ、女性オペレーターにひわいな言葉をかけたとして逮捕された。女性の体の一部を表す言葉などをかけて業務を妨害したという。

11月26日(木)被告人・小川美津子、他2人:昏睡(こんすい)強盗と保護責任者遺棄(初公判)
<スナック経営者による昏睡強盗事件> 09年2月、東京都渋谷区のスナック経営、小川美津子(当時73)ら男女4人は、スナックで男性客に酒を飲ませて泥酔させ、キャッシュカードを盗んで路上に放置したなどとして逮捕された。

11月26日(木)被告人・松原弘樹:強盗(初公判)
<自衛隊員による強盗事件> 09年9月、陸上自衛隊第1空挺団(千葉県船橋市)の陸士長松原弘樹(当時21)らは、東京・六本木のビル敷地内で飲食店従業員男性(当時22)を倒し、顔を殴るなどして現金約13万円入りの財布を奪ったとして逮捕された。

11月26日(木)被告人・植本勝也、井福一郎、他1人:児童買春・ポルノ処罰法違反(初公判)
<暴力団員らによる児童ポルノ販売事件> 09年9月、大阪府守口市の指定暴力団山口組系暴力団組長井福一郎(当時61)と大阪市西淀川区の無職植本勝也(当時43)は、インターネットで児童ポルノのDVDを販売したとして逮捕された。

11月27日(金)被告人・波和二:組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)
<L&G詐欺事件> 09年2月、健康寝具販売会社「エル・アンド・ジー」は、組織的に会員から出資金をだまし取ったとして会長の波和二(かずつぎ)(当時75)や幹部を逮捕した。被害者約3万7000人、被害総額約1260億円とみられる。

11月27日(金)被告人・高相祐一:覚せい剤取締法違反(所持、使用)(判決)
<酒井法子の夫の覚せい剤事件> 09年8月、自称プロサーファーで、女優酒井法子の夫、高相祐一(当時41)は、東京都渋谷区の路上で覚せい剤を所持していたとして逮捕された。

11月27日(金)被告人・和田達夫、嘉藤悦男:背任(初公判)
<理化学研究所をめぐる汚職事件> 09年9月、独立行政法人「理化学研究所」(理研、埼玉県和光市)の主任研究員、和田達夫(当時53)は、取引先の理化学器具開発販売会社「秋葉産業」の社長、嘉藤悦男(当時76)から旅行や飲食費などの代金付け回しを受け、その穴埋めに架空発注を行ったとして逮捕された。


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阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。

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