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2008年10月06日

実の子を殺害事件で見えた裁判員制度の問題

 なんと、来年の春に「検察官甲子園」が開催されます。誰が名づけたのかはしらなけど、目をひくネーミングですね。

 どうやら、横浜地方検察庁が実施するイベントらしんだけど、高校生が検察官になって模擬裁判を体験するそうな。l
 その模擬裁判で、いかにわかりやすく話を聞き出して、自分の考えを人にうまく伝えられるかを地検の職員が判断して、優勝校を決めるらしい。
 これは傍聴席が応援団でうまりそうな気がするけど、是非とも傍聴したいですね。
 ちなみに参加校は4校を想定していて、今月末日まで募集しているようです。条件は、横浜市内の私立・公立高校。来年の春休みに予定がない横浜の高校生は今すぐ横浜地検に連絡を。
 裁判員制度を宣伝しなきゃいけないから、地検も大変だねぇ。とにかく、来年の春は横浜の模擬裁判が熱い!

 さて、今回は、10月2日に行われた岩瀬めぐみ被告人(33)の裁判傍聴記。罪名は殺人。育児疲れの末にわが子を殺すという、ニュースを聞いているだけで悲しくなってくる事件です。
 報道によると、今年4月に長男で生後3カ月の柊司ちゃんの手首をカッターナイフで切った上、首を絞めて殺害。岩瀬めぐみ自身も漂白剤を飲んで手首を切っており、病院に運ばれたが、命に別条はなかった。調べに対して、「子供の成長が遅くて悩んでいた」などと話したと伝えられた。

 で、殺人罪なので、来年なら裁判員裁判で審理される事件なわけです。今後、一般の人が裁く事件なのです。それを前置きして、裁判の話。
 検察官の席に、普段見慣れない3人が座っていました。たぶん、7月に新設された裁判員公判部の人たちだと思われます。
 起訴状によると、今年の4月23日、被告人は自宅で長男の首をガーゼで絞めつけ、窒息により殺害したという内容。
 新聞の記事だと、長男の手首をカッターナイフで切ってから、首を絞めたと書いてあったけど。
 罪状認否で被告人が罪を認めると、検察官の冒頭陳述です。大きなモニターを指差し、

 検察官 「こちらのモニターを使って、冒頭陳述を行います。時間は10分ほどです。皆様には資料をお渡ししておりますので、メモをとる必要はありません」

 と、前口上があってから開始です。ちなみに、検察官の言う「皆様」とは今はまだいない裁判員のことだと思われます。
 メモの必要がない冒頭陳述によると、被告人は平成16年に結婚。平成20年1月14日に本件被害者である柊司君を出産。柊司君は鼻が詰まりやすく、与えたミルクを残すことも多かったので、被告人は柊司君を病院に連れて行ったとのこと。そこで医者に「問題ない」と言われたが、被告人は納得できず、2月17日から4月15日の2カ月間で、14回もいろんな病院へ診察に行ったらしい。
 そして、犯行当日。鼻詰まりが治らず、ミルクを飲み残す柊司君を見て、被告人は「治してあげられない。夫や母親に迷惑をかけている」と思い、遺書を書いた。その後、柊司君の首を何度か素手で絞めたが、柊司君が苦しそうなので手を放す。そして、また絞める。という行為を繰り返した後、近くにあったガーゼを使い、殺害。
 被告人は、自殺する決意をし、自分の手首や腹部をカッターナイフで切りつけ、漂白剤を飲むなどしたが、死に切れず、柊司君を殺害したことを電話で夫に報告。夫に110番に連絡するように促され、駆け付けた警察官に逮捕されたというのが事件の詳細です。

 子供の手首を切りつけた話は出てきません。S紙が間違っているのか、警察発表の間違いなのか。
 このあと、弁護人の冒頭陳述。被告人は、育児ノイローゼからわが子を悲観し、長男を殺(あや)めて自殺を図った。犯行時、判断能力が喪失もしくは著しく減退していたと主張です。
 というわけで、本件は責任能力の有無が争点となる裁判です。
 まずは、被告人の夫が情状証人として出廷。弁護人の質問から。

 弁護人 「本件に関して、寛大な処分をお願いすると言っていましたが、その気持ちは今も変わりませんか?」
 夫証人 「変わりません」

 被告人の夫で被害者の親という複雑な立場ながら、刑は軽くしてほしいとのことです。

 弁護人 「柊司君は鼻が詰まったりミルクを飲み残したり、そういうことはあったんですか?」
 夫証人 「はい」
 弁護人 「でも、お医者さんは何ともないと言っていた、と。変だと思いませんでした?」 
 夫証人 「思いましたけど、診てもらったんだから信じるしかないな、と」
 弁護人 「奥さんは2カ月の間に14回も病院に行っていますね。神経質すぎるんじゃないかとか言いました?」
 夫証人 「そこまでは言ってなかったですけど」
 弁護人 「夫として反省することはありますか?」
 夫証人 「子供の面倒を任せっきりじゃなくて一緒にすればよかったな、と」

 朝早くから夜遅くまで仕事をして、育児をしなかったことを悔やんでいるようでした。次は、裁判官からの質問。

 裁判官 「奥さんの様子ですが、柊司君が生まれたときは明るかったですか?」
 夫証人 「はい。病院に何回か通ってからは、暗くなっていました」
 裁判官 「医者に対する不満は感じられました?」
 夫証人 「はい」
 裁判官 「お医者さんに大丈夫と言われれば、普通安心すると思うんですけど、病気であると言ってほしかったんでしょうか?」
 夫証人 「原因がわからなかったので」
 裁判官 「原因がわからず、暗くなっていた、と」
 夫証人 「病院の診察が適当にやっているように思ったんじゃないですかね」

 子供のことを心配するがあまり、自分を追い込んでしまったんじゃないかと、夫は分析していました。
 次は被告人の母親が証人として出廷です。夫同様、孫が殺されて複雑な心境だとは思うんだけど、寛大な処分をお願いしていました。
 そして、被告人質問。まずは、弁護人から。

 弁護人 「柊司君の様子が変だと思ったのは?」
 被告人 「生後3週間すぎたあたりから」
 弁護人 「具体的には?」
 被告人 「鼻詰まり程度かなと思って…たんですけど…今から思うと、鼻だけじゃないのかなって…あと、喉が…枯れて…痛そうで。背中の…あたりも…痛そうで…うう」

 と、子供の様子を語りだすと、当時のことを思い出したのか被告人は泣き出しました。被告人が泣きやみ、落着きを取り戻すのを待って、質問再開です。

 弁護人 「背中が痛そうって?」
 被告人 「抱っこしてミルクをあげようとしたとき、体をよじったり横向いちゃったり」
 弁護人 「そうですか。夜は眠れてました?」
 被告人 「手足をバタつかせて、発生が起きてバァアアっと目が覚める感じで。息苦しそうでした」
 弁護人 「そのたびにあなたも起きていた?」
 被告人 「はい。毎日そうでした」

 連日寝不足だったようです。
 そして、犯行についての質問です。

 弁護人 「犯行当時、柊司君をお風呂に入れてミルクを飲ませていた、と」
 被告人 「ミルクは(午前)7時ころ…」
 弁護人 「その後、柊司君は眠ったんですね。あなたは?」
 被告人 「私も寝ていました」
 弁護人 「そして、目覚めてボーッとしていた?」
 被告人 「はい」
 弁護人 「殺してしまおうと思ったのは、その時?」
 被告人 「…そうですね」
 弁護人 「なぜ、殺そうと思ったんですか?」
 被告人 「私から見たら、重症な感じがしてて、それが病院に行ってもうまく伝えられなくて、ガッカリして帰ってくるだけでゴメンね、という気持ちでいました」
 弁護人 「ゴメンと思ってたのが、殺そうという気持ちとつながるんですか?」
 被告人 「体重も1カ月くらい増えなくなって、ミルクのあまり飲めないし、喉や鼻が悪くてかわいそうだなって」
 弁護人 「かわいそうなのに手をかけることになったのは?」
 被告人 「このまま苦しいならと」

 これが犯行の動機のようです。苦しそうに見えたんだろうけど、実の親に首を絞められることの方がどれだけ苦しかったか。

 弁護人 「首を何度か絞めたあと、ガーゼを使ったのはなぜですか?」
 被告人 「枕もとにたまたま置いていたからだと思います」
 弁護人 「その時、喚いたりしませんでした?」
 被告人 「泣き叫んだりはしてませんでした」
 弁護人 「生後3か月とはいえ、抵抗したり泣いたりすると思うんだけど、ホントは覚えてないんじゃない?」
 被告人 「少し声は出てましたが、泣き叫ぶ感じではなかった」
 弁護人 「覚えてます? 本当は最初からガーゼを使ってるのでは?」
 被告人 「いえ、忘れてるわけじゃないです」

 責任能力の有無を争っている弁護人としては、記憶がないことを証明したいんだろうけど、被告人は、覚えていると主張していました。
 次は検察官からの質問なんだけど、事件に関する質問より、取り調べに関する質問が主だったので、割愛。裁判員制度になっても、調書重視の審理になるというアピールでしょうか。
 最後は裁判官から。

 裁判官 「柊司君を殺める前に書いた遺書ですけど、自殺の理由が“自分が嫌になった”と書いてる後に“柊司のことも”と書いてますけど、自分が嫌になったのが先ですか?」
 被告人 「元々は柊司の具合が気になりだして」
 裁判官 「理由としては、どちらが大きかった?」
 被告人 「柊司のことが」
 裁判官 「あと、病院のことを聞きますが、柊司君が何かの病気にかかっていると?」
 被告人 「はい、思っております」
 裁判官 「でも14回も診てもらって、問題ないといわれてますよね。なぜ、そう思うんですか?」
 被告人 「やっぱり長時間一緒にいるわけですから」
 裁判官 「長時間見ていたから確信したと。医者の言葉を聞いても安心しなかった?」
 被告人 「私もうまく症状を伝えられなくて」

 診察の不信から自分を責めてしまったということのようです。
 最後の質問。

 裁判官 「1人で自殺する選択肢はなかったですか?」
 被告人 「考えてなかったです」

 夫も仕事があり、面倒みてくれた母親も高齢だし、自分がいなくなったら子どもの世話を見てくれる人がいないと考えたようです。
 何だか、周りに相談もせず、1人で悩みを抱え込んだ末の突発的な犯行なんでしょう。
 次回は精神鑑定の結果が出てから期日を決めることになったので、これで閉廷でした。

 前述通り、この裁判が来年以降に行われていれば、一般の人が呼ばれるわけです。にも関わらず、次回公判の期日が未定って。精神鑑定が終わってからの初公判じゃ問題あるのかね。
 さらに、被害者の手首を切ったって報道もなんだったんだろ。審理に出てきていない情報で判断しちゃいけないって前提ではあるんだけど、新聞に載ったのを読んでた裁判員もいるだろうからね。
 裁判員制度スタートはそんなに遠い話じゃないんだろうけどねぇ。

注目の裁判

11月2日(月)被告人・氏家信子:殺人ほか(判決)
<息子を殺害した事件> 09年1月、東京都大田区の無職氏家信子(当時65)は傷害を持つ双子の息子に包丁で切りつけた。弟は病院で死亡が確認された。

11月2日(月)被告人・秋山直紀:所得税法違反(初公判)
<防衛汚職関連の所得税法違反事件> 08年8月、日米平和・文化交流協会会長の秋山直紀(当時58)は、防衛関連企業から受け取ったコンサルタント料を隠し所得税を免れたとして逮捕された。

11月2日(月)被告人・竹林守、成田茂之、他1人:公職選挙法違反(詐欺登録・詐欺投票)(初公判)
<従業員の住民登録を移し投票を支持した事件> 09年9月、機械製造販売会社「水戸工業」の社長・成田茂之(当時57)らは自社の従業員の住民登録の場所を変更させ、衆議院議員選挙で自民党に投票するよう指示したとして逮捕された。

11月2日(月)被告人・熊谷智幸:強制わいせつと偽造私印使用(初公判)
<テレビ局員を装ってわいせつ行為をした事件> 09年8月、インターネット広告会社役員、熊谷智幸(当時35)は、東京都板橋区内の路上で30代の女性にフジテレビの社員を装った偽の名刺を手渡して声をかけ、近くのマンションのエントランスまで連れて行き、わいせつな行為をした疑いで逮捕された。

11月2日(月)被告人・押尾学:麻薬取締法違反(使用)(判決)
<俳優による麻薬事件> 09年8月、東京・六本木のマンションで女性が死亡していると119番通報があり、部屋に出入りしていたとして俳優の押尾学(当時31)が任意で事情聴取を受けた。任意の尿検査で、合成麻薬のMDMAに陽性反応が出たため麻薬取締法違反(使用)の疑いで逮捕された。

11月4、5、6日(水、木、金)被告人・太田周作:殺人未遂(初公判)
(初公判、5日6日も) <駅のホームから女性を突き落とした事件> 09年3月、無職太田周作(当時24)は、JR東京駅で女性(当時60)をホームから突き落とし、電車に接触して負傷させたとして、殺人未遂で逮捕された。取調べに対して「(事件を起こすのは)どこでも、誰でもよかった」などと供述した。

11月5日(木)被告人・寺岡誠吉:殺人
<運送会社役員を殺害した事件> 08年12月、運送会社社長の寺岡誠吉(当時71)は、元暴力団組員に依頼して06年9月に同社役員の栩野雅晴さん(当時66)を殺害させたとして逮捕された。

11月5日(木)被告人・中田静子 ほか1名:昏睡強盗、窃盗
<スナック客に対する昏睡強盗> 09年3月、バー経営の中田静子(当時62)はスナック経営の細江敏光(当時39)と共謀、スナックで男性客に強い酒を飲ませて昏睡状態にさせ、キャッシュカードを奪って現金自動預払機から金を引き出したとして逮捕された。

11月6日(金)被告人・波和二ほか:組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)
<L&G詐欺事件> 09年2月、健康寝具販売会社「エル・アンド・ジー」は、組織的に会員から出資金をだまし取ったとして会長の波和二(かずつぎ)(当時75)や幹部を逮捕した。被害者約3万7000人、被害総額約1260億円とみられる。

11月6日(金)被告人・片石肇:強盗傷害(控訴審判決)
<プロレスグッズ専門店での強盗事件> 09年2月、千葉県柏市の無職、片石肇(当時28)は他の2人と共謀して東京都千代田区のプロレスグッズ専門店に押し入った。男性店員に暴行を加え、現金15万9000円と、マスク5点などの商品を奪った。

11月6日(金)被告人・多田知信:窃盗、住居侵入(初公判)
<警察寮での窃盗事件> 09年8月、警視庁大森警察署地域課巡査長の多田知信(当時30)は、08年11月に警察寮の同僚の部屋に侵入し、腕時計を盗んだとして逮捕された。


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阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。

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