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2008年9月01日

イー・アクセス脅迫男のヘンな認識

 最高裁が配信している「裁判員制度メールマガジン」を読んでいる人って、どれくらいいるんでしょうか。去年の2月から始まったメルマガも先週送られてきたのが第17号。細々と続いております。

 今までは裁判員制度に関する情報やイベントが載っていたのに、今回の第17号では「僕の裁判員制度」というタイトルの小説が載っているんです。主人公が裁判員に選ばれていくって話みたいなんだけど、今回は途中で終わってるんですよ。要するに、連載のようです。しかも、不定期連載らしい。
 ただでさえ、不定期配信のメルマガなのに、その中で不定期連載って。余程、締め切りを守らない超大物作家が執筆してるのかもしれませんね。次回が楽しみだ。

 今回は、8月27日に行われた望月祐介被告人(43)の裁判傍聴記。罪名は、威力業務妨害。ADSLの大手通信会社イー・アクセスに無差別殺人予告をする電子メールを送り、威力業務妨害で逮捕、起訴された事件です。

 報道によると望月は6月5日~15日に計12回、自宅のパソコンなどから同社ホームページに「殺すぞ!今からサリン撒きにいくからな!」「株価の下落が異常なんだよ! これ以上下げたら、秋葉原以上の惨事にしたるからな」などのメールを送信したというもの。
 ホントに後が絶たない、ネット上の犯行予告の事件です。ただこの事件は、他の同様の事件と比べると、2つ変わってる点があるんです。

 1つは、被告人の年齢。この手の犯行は、若年層の人が多いのに、本件は43歳。珍しい。
 もう1つは自宅のパソコンからメールを送っている点。マンガ喫茶からの匿名の掲示板に書き込んで、誰が書き込んだか分かりにくくしている中、自宅からメールで犯行予告してるんですよ。バレても構わないという考えだったとすると、かなり恐ろしい犯罪です。

 検察官の冒頭陳述によると、被告人は今年の5月末、イー・アクセスの株を5万9000円で30株購入したらしい。
 しかし6月になると、株価が2000円ほど下落したため、新聞記事でも紹介された前出の文言のメールのほか、「どういう経営をしているんだ。とっとと倒産しろ」「株主総会を血の海にしてやるからな」などのメールを送信。

 メールを受け取ったイー・アクセスとしては、株主総会を直前に控えていたため、6月5日~16日の間、社長を含めて、緊急会議を余儀なくされたとのこと。自分の買った株が下がって苛(いら)立つ気持は分からないでもないけど、「とっとと倒産」してしまったら、元も子もないんだけど。しかも、2000円下がったのが理由って。

 法廷には、被告人の奥さんが情状証人として出廷し、「今後、株取引は一切させません」「パソコンも基本的に利用させません」等々、被告人を監視していくことを約束していました。
 そして、被告人質問です。まずは、弁護人から。

 弁護人 「こんなことをした原因は何ですか?」
 被告人 「仕事ですね、私の部署が長年赤字続きでして、あと、トラブルもありまして、極度のストレスになっておりまして」
 弁護人 「株取引を始めたきっかけは、何ですか」
 被告人 「家を改築することになっていまして、少しでも金がほしくて、株をやっていました」
 弁護人 「12回の書き込みの後は、やめてますけど、株価のチェックはしてたんですか?」
 被告人 「株価は(12回目のメール送信後も)見てたんですが、上昇してたからやめたんだと思います」

 仕事のストレスと株価下落の焦りが犯行の動機ってことでしょうかね。

 弁護人 「こういうメールを送って、どうしようと思ってたんですか?」
 被告人 「一時的な感情で書いたものでしてた。被害会社には大きな損害を与えて、申し訳ありませんでした」
 弁護人 「今後はどうしていきますか?」
 被告人 「妻の言うとおり、株取引は2度と致しません。…だで、げぅぅぅ……」

 と、突然泣き出し、喋(しゃべ)れなくなったところで、質問終了。なので、最後何を言ったのかわからないんだけど、株取引自体は問題じゃないと思うのだが。
 次は、被告人が落ち着きを取り戻したところで、検察官からの質問です。

 検察官 「改築資金をためるために株を始めた、と。いくら必要だと思ってました?」
 被告人 「500万円くらいかかるんじゃないかなと」
 検察官 「あなたの持ってる株が2000円下がると、改築できなくなるんですか?」
 被告人 「そこまでの状況ではありませんでした」

 そんなに切羽つまってたわけじゃないだろうというのが検察官の意見のようです。

 検察官 「こういうメールを送って、何をしたかったんですか」
 被告人 「気が滅入っていたので、先のことまで考えていませんでした」
 検察官 「考えてないって言っても、躊躇(ちゅうちょ)はなかったんですか?」
 被告人 「確かにいくらかはあったと思うんですけど、思いついた言葉を面白半分で書いてしまっていたので、夢中だったんだと思います」
 検察官 「ストレスは解消されたんですか?」
 被告人 「すっきりした感覚はありませんでした」

 それなら、なぜ12回もメールを送ったんだという疑問もあるけど、被告人本人にも説明はつかないんでしょうね。そして、最後の質問。

 検察官 「こんなことをして警察沙汰になるとは考えなかったんですか」
 被告人 「考えておりませんでした」

 自宅のパソコンで殺害予告のメールを送ったのは、犯行がばれてもいいと考えていたんじゃなく、警察が動くとは思っていなかっただけでした。
 この後、検察官は、身勝手で自己中心的な犯行に酌むべき事情はないとして、懲役1年6月を求刑。これに対し、弁護人は誰もが閲覧できる掲示板への書き込みではなくて、内容も3行ほどの淡白な文章であることを引き合いに出しました。そして、被告人の最終陳述です。

 被告人 「私の身勝手な思いで、イー・アクセス様、社会の皆様に多大な迷惑をかけてしまいました。今の、今のわたしには、謝るしか出来、…ぶぁ、ぶぇ…」

 と、最後の最後で泣き崩れ、またもや何を言っているのかわかりませんでした。犯行のメールでは意思表示がしっかり出来てたのに。
 結局、質問されなかったから被告人の認識はわからなかったけど、名前を書かなきゃネット上では匿名になると思ってたんじゃないだろうか。株価が下がっただけで、立腹するとか、いろんなことにおいて、認識が変なんだよなぁ。

注目の裁判

6月29日(月)被告人・川上大地:傷害
<アルバイト店員による傷害事件> 08年8月、東京都港区の居酒屋のアルバイト店員川上大地(当時26)は男性客(当時70)と口論になり、殴られたために殴り返した。男性客は後頭部を壁に打ち付け、意識不明の重体となった。

6月29日(月)被告人・神崎修一:児童買春・児童ポルノ禁止法違反
<少女のわいせつDVDを制作した事件> 09年2月、タレントプロダクション「ピンキーネット」の経営者、神崎修一(41)らは、水着などを身につけた少女にわいせつなポーズをとらせたDVDを制作したとして逮捕された。08年6月に当時16歳の少女にスタジオでわいせつなポーズをとらせて児童ポルノのDVDを制作した。(「着エロかポルノか…この裁判は長そうだ」参照)

6月29日、7月2日(月、木)被告人・黒木樹:殺人など
<不動産会社社長の死体遺棄事件> 07年4月、住所不定無職の高科龍軌(当時31)須和名聡(当時31)篠沢大介(当時36)黒木樹(当時41)らは板橋区のマンションから殺害した不動産会社社長、冨田威裕(たけひろ)さん(29)の遺体をカバンに入れて群馬県吉井町の雑木林まで車で運び、穴に埋めた。

6月30日(火)被告人・小川俊之:爆発物取締罰則違反(判決)
<皇居に向かって火薬を詰めた消火器を発射した事件> 08年9月、神奈川県相模原市の元陸上自衛隊員の小川俊之(当時34)が、火薬を詰めた消火器を皇居に向けて発射したとして、逮捕された。

6月30日(火)被告人・阪尾俊之:威力業務妨害(初公判)
<ネットの掲示板に不法な書き込みをした事件> 09年4月、大阪府阪南市の大学生、阪尾俊之(当時20)は、インターネット掲示板「2ちゃんねる」に「赤坂サカスで血のアメを降らせてやる」などと書き込んで、同所を管理するTBSに警備を強化させ、同社の業務を妨害したとして逮捕された。

6月30日(火)被告人・守谷和真:著作権法違反(初公判)
<ネットで無許可でテレビ番組を配信した事件> 09年5月、「ジェーネットワークサービスインターナショナル」経営の守谷和真(当時40)は、著作権法違反で逮捕された。同社はフジテレビが放送した番組を無断で東南アジアや欧米の在外邦人の顧客にインターネットで視聴させた。

6月30日(火)被告人・大崎薫:保護責任者遺棄(判決)
<ネットカフェで出産し遺棄した事件> 08年10月、無職大崎薫(当時30)は、インターネットカフェのトイレで男児を出産し置き去りにしたとして逮捕された。「お金がなく、育てられないと思った」と供述した。

6月30日(火)被告人・伊藤信也:保護責任者遺棄致死など
<長女を衰弱死させた事件> 06年9月、栃木県那須烏山市の不動産賃貸業伊藤信也(当時66)は、病気療養中の長女(当時40)を監禁し衰弱死させた。1審で懲役5年の判決を受けた。

6月30日(火)被告人・白石敦子:強盗殺人
<トラック運転手を殺害した事件> 08年3月、埼玉県上尾市の雑貨店経営白石敦子(当時56)は、無職男と共謀し、経営する雑貨店で頭にかぶせたエコバッグの上からビニールテープを巻き付けるなどしてトラック運転手、河原塚建一さん(当時66)を殺害し、現金3万円を奪った。1審で無期懲役の判決を受けた。

7月1日(水)被告人古川聡:逮捕監禁、集団強姦致傷、強盗(控訴審初公判)
<女性を拉致して乱暴した事件> 08年10月、建築防水作業員古川聡(当時40)とスレート作業員今中宏樹(当時36)は、前年10月に東京・銀座を歩いていた都無職女性を車に連れ込み、4人で強姦し、現金約1万8千円が入ったバッグなどを奪ったとして逮捕された。

7月1日(水)被告人・吉岡正行:殺人
<女性をはさみで刺殺した事件> 07年7月、埼玉県鷲宮町の無職、吉岡正行被告(当時38)は同県杉戸町の路上で、借金をめぐるトラブルなどから知人女性をはさみで刺殺したとして逮捕された。1審で無期懲役の判決を受けた。

7月2日(木)被告人・波和二:組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)(初公判)
<L&G詐欺事件> 09年2月、健康寝具販売会社「エル・アンド・ジー」は、組織的に会員から出資金をだまし取ったとして会長の波和二(かずつぎ)(当時75)や幹部を逮捕した。被害者約3万7000人、被害総額約1260億円とみられる。

7月3日(金)被告人・片石肇:強盗傷害(判決)
<プロレスグッズ専門店での強盗事件> 09年2月、千葉県柏市の無職、片石肇(当時28)は他の2人と共謀して東京都千代田区のプロレスグッズ専門店に押し入った。男性店員に暴行を加え、現金15万9000円と、マスク5点などの商品を奪った。

7月3日(金)被告人・矢島美代子、浜岡竜:薬事法違反(初公判)
<未承認の医薬品を販売した事件> 09年4月、東京都豊島区の健康食品販売業社長、矢島美代子(当時49)と同社役員、浜岡竜(当時32)は、「やせる…」とうたって未承認の医薬品を宣伝し、無許可で販売したとして、逮捕された。1億円以上を売り上げとみられる。


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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。

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