2008年8月25日
被告人席にトンボ返り、誕生日に実刑判決か…
共産・社民両党が裁判員制度の実施延期を求める方針を表明しているのを受けて、8月20日に日本弁護士連合会は「刑事弁護を担い、国民の司法参加を願ってきた立場から、予定通り実施されるよう求める」と発表しました。
さらに同21日には樋渡検事総長が「(裁判員生後は)国民が司法に参加する民主主義の申し子。予定通り実施し、直すべき点があれば改善していけばいい」と述べたようです。
検事総長が「直すべき点」とやんわり問題があることを認めているのも見逃せないんだけど、野党が反対するのが遅すぎた気がしてならないんだよね。形だけの反対だったりして。
今回は、8月21日に行われた小川洋平被告人(60)の裁判傍聴記で、罪名は覚せい剤取締法違反。
大手文具メーカー「トンボ鉛筆」の元会長・小川洋平が覚せい剤を所持していたとして逮捕、起訴された事件ですね。報道によると、小川は今年6月、警視庁本所署内で手提げバッグの印鑑ケース内に覚せい剤0・77グラムを隠し持っていたという。
小川は墨田区のラブホテルに風俗店従業員の20代女性と入室。「覚せい剤を一緒にやろう」と勧めたが、拒否され、同店の男性従業員に本所署に突き出された。07年10月、覚せい剤などを所持していた件で、懲役2年6月執行猶予4年の有罪判決を受けたばかりだった。
前刑の裁判では「精神力を強く持てば必ずやめられると思います」と述べていた被告人が執行猶予中にまったく同じ罪で被告人席にトンボ返りしてしまうということになってしまいました。
起訴されたのは、ラブホテル内でフェニルアミノプロパンを使用した件と、本所署内でフェニルアミノプロパン0・337グラムを所持していた件の2つ。報道されたよりも所持していたグラム数が少ないんだけど、それがあとで重要な数字に。
検察官の冒頭陳述によると、被告人は6月13日、ラブホテルにデリバリーヘルス嬢を呼び出した。そのときに、被告人は覚せい剤を所持し、目撃した女性が勤務先に連絡。
連絡を受けた男性従業員2人が、被告人のいる派遣先の客室に入って「なんで俺たちが来たか分かってるか?」と言うと、被告人は「分かっている」と素直に覚せい剤の使用を認め、警察署へ行ったというのが事件の流れです。
被告人は取り調べで、「5月下旬に横浜の怪しい雑貨屋でガラスパイプを購入し、6月12日に六本木の路上で、外国人から1グラム5万円で覚せい剤を買った」と、入手経路について述べているそうです。
犯行については「会話の中で女がクスリをやっているような話があったので、あぶって使いました。その後、男性従業員2人が入ってきて、“覚せい剤をもうやらないと念書を書け”と言われたが、シャブられる(ゆすられる)と思ったので書かなかった」と述べているそうな。てっきり、派遣されている女性の身を案じて男性従業員が駆けつけたのかと思ってたんだけど、念書を書かせようとしていたのね。
ま、ゆするつもりがあったかどうかは定かじゃないけど、最終的には被告人を警察に連れて行ってるんで良しとしましょう。
法廷には、前刑の裁判でも出廷した被告人の妹さんが情状証人として再登場です。カウンセリングを受けさせ、一緒に住んで監督していくことを約束していました。
そして、被告人質問。まずは、弁護人から。
弁護人 「前刑の判決日は?」
被告人 「平成19年10月31日です」
弁護人 「覚せい剤を購入したのは?」
被告人 「平成20年6月の11日から12日にかけて」
弁護人 「判決後、購入したのは?」
被告人 「それが初めてです」
弁護人 「何回使いました?」
被告人 「3回か4回だと思います」
逮捕時は6月13日の午前だから、1日で4回使用したってことなんでしょうか。これは後で裁判官に深く追求されることに。
弁護人 「事件のことを聞きますけど、警察に行ったのはなぜですか?」
被告人 「彼ら(男性従業員)2人が部屋に入ってきたときに、あのー、言い方は悪いかもしれませんが、ゆすられてるんじゃないかなと思いました。“誠意を見せろ”とか“念書を書け”とか。“それなら、警察に行こう”と私の方から言いました」
弁護人 「(8月13日付で)治療施設に入る契約をしましたが、なぜですか?」
被告人 「今までは、その気になればやめられると思っていたんで。(弁護人に)送ってもらった資料に、えーー、何だっけなぁ、「支援と更正」を読んだんですけど、自分は依存症にあてはまるな、と。それで、施設で自分がどの段階にいるのかを確かめれば、どうすればいいのか分かると思います」
前刑のときに、薬物依存である自覚がなかったのが悔やまれますね。もっと早めに気づいて治療していればよかったのに。
弁護人 「前回の裁判でも、再犯しないと言ってましたけど、今回の決意は何が違いますか?」
被告人 「自分が依存症ではないかと思ったのは、少しは進歩したんじゃないかと思うんですけど。今まで私は、人は何を言ったかではなく、人は何をしたかで判断してきたと思うんですけど、これから何をしたかで決意を示していきたいと思います」
と、言葉ではなく今後の生活で自分の思いを示すと約束して、質問は終了。
次は、検察官から。
検察官 「前刑では、大麻・コカイン・MDMA・覚せい剤を所持していたわけですが、今回覚せい剤を選んだのはなぜですか?」
被告人 「それが手に入りやすかった…」
検察官 「覚せい剤を購入した外国人と連絡をとることはできるんですか?」
被告人 「いえ、連絡とれません」
なんで、こんな質問するのかなと思っていたら、次の質問のフリでした。
検察官 「逮捕当時、入手先に関して“言いたくない”と供述していたのは、どうしてですか? 知らない人なんでしょ?」
覚せい剤を知人から入手して黙秘するならまだしも、その日に会った名前も知らない外国人から購入したことを黙秘していたのは不自然じゃないかと言いたいんでしょう。すると
被告人 「(購入した場所が)住んでいるすぐそばなもんで、復しゅうが怖かったんです」
と、よく分からない返答。これには、裁判官が黙っていられないようで
裁判官 「あのー、ありのまま話してほしいんで、あまり不自然な話だとね、おかしなことになってしまうんでね。もちろん、(黙秘権があるので)答えたくなければ、答えたくないってことで構わないんですけど。話す以上はね」
と、苦言を呈していました。裁判官が質問の途中で割って入って、うそを言うなよと注意するとは珍しいことです。
そして、検察官があらためて質問です。
検察官 「ほんとは誰から買ったんですか?」
ストレートな質問に変更です。これに対し
被告人 「答えたくありません!」
と、きっぱり断言しました。これは心証悪いよなぁ。裁判官は、黙秘権を使えと命令したわけじゃないんだけど。
最後は、裁判官からの質問。
裁判官 「覚せい剤を1グラム買って、0・337グラム所持していたと。だからーー、0・6グラム使ったと」
被告人 「(外国人から)受け取ったのが少なかったんだと思います」
裁判官 「約ね、約」
被告人 「計算上はそうです」
裁判官 「じゃ、(少なく見積もって)0・5グラムにしましょうか。それでも、かなりの量ですよ。覚せい剤って、普通、0・05グラムとかが1回の使用量だからね。そこが問題なんだよね」
ま、覚せい剤を使用すること自体、普通ではないんだけど、裁判官は被告人の発言をかなり疑っているようです。
傍聴の経験上、1回の使用で0・03~0・05グラムが平均値だったと思います。0・075グラムぐらいになると、(かなり多いな)という感想を持ってしまいます。
ピンと来ない人のため、オレの人生でトンボ鉛筆が一番活躍していた頃に習った方程式で表してみましょうか。
x-4y=0.337
xは被告人が購入した覚せい剤のグラム数で、yは被告人が1回に使った覚せい剤のグラム数です。多くみて、4回使用したんだから、xからyを4倍した数を引くと、所持していた0・337gになるはずです。
xに1を代入すると、y=0・166gこれは致死量です。
それで裁判官は、被告人の話を疑っているのでしょう。もちろん、被告人の言うように、最初から1グラムもなかったのかもしれないけど。そして、裁判官の疑いの目は続きます。
裁判官 「パイプを先に購入してね。後から覚せい剤を買ったってねぇ、普通は飲み込みにくい話なんだよね。法廷は取り調べじゃないし、追求の場じゃないからね。いいんだけど。他にも買ってるんじゃないかと。もちろん、(判決で)そんな認定はしませんよ。ただ、傍聴席にいる妹さんが、先にパイプを買って1回しか覚せい剤を買っていないって、聞かされて、実はもっと買ったんじゃないかと心配するんじゃないですか。
被告人 「(心配)されると思います」
裁判官 「出来心で1回買ったとは思えないんだよね。使用量もね」
と、やはりグラム数と使用回数の計算結果に納得いかない顔をすると
被告人 「(外国人から受け取ったのは)0・6gぐらいだったと思うので」
裁判官 「じゃ、それでもいいよ。それでも多いよね」
えーーと、新しい数字が出てきました。x-4y=0・337の方程式のxに0・6を代入してみましょうか。
y=0・06
これなら計算は合いそうです。でも、被告人は覚せい剤を買ったのは、逮捕前日だから、1日で使用した量は致死量には違いありません。
裁判官 「覚せい剤で裁判受ける人は、やめますっていうんですよ。それはみんな本音で思っている。でも、社会に戻るとね、ストレスとかでまたやっちゃうのが怖いとこなんでね。猶予中にまたやって、刑務所に行かないとなると、社会が成り立たないもんだから、(実刑は)仕方ないんだけど、前刑の執行猶予取り消しについては聞いてる?」
被告人 「あ、はい」
裁判官 「妹さんのとこに戻れる刑期は考えますけど、長期間になるのは覚悟していますね」
被告人 「はい」
と、長期間の実刑予告を言い渡されて、質問終了。このあと、検察官は薬物の依存性も高く再犯の恐れもあるとして、懲役2年を求刑しました。これに対して弁護人は、被告人を刑務所に行かせるよりも、治療させるために執行猶予の判決にして欲しいとお願いしていました。裁判官が今回も執行猶予をつけたら「社会が成り立たない」って言ってたのに。
この弁論を聞いて
裁判官 「(執行猶予付きの願いは)弁護人のご意見ということでね」
と、一蹴。
この後、被告人の最終陳述です。
被告人 「あと1週間で61歳になりますけど、最後のステージで他人に迷惑をかけてしまって、大変申し訳ないことをしたと思っています。あと何年生きられるかわかりませんけど、人にじゃなく、自分に誇れるように生活していきたいと思います」
と述べて閉廷でした。
判決なんだけど、8月29日になりました。狙ったのか偶然なのか、その日は被告人の61歳の誕生日。弁護人の主張通り執行猶予の判決を言い渡すのか。それとも妹と生活できるように短めの実刑判決をくだすのか。裁判官の被告人へのバースデープレゼントはいかに。
注目の裁判
6月29日(月)被告人・川上大地:傷害
<アルバイト店員による傷害事件> 08年8月、東京都港区の居酒屋のアルバイト店員川上大地(当時26)は男性客(当時70)と口論になり、殴られたために殴り返した。男性客は後頭部を壁に打ち付け、意識不明の重体となった。
6月29日(月)被告人・神崎修一:児童買春・児童ポルノ禁止法違反
<少女のわいせつDVDを制作した事件> 09年2月、タレントプロダクション「ピンキーネット」の経営者、神崎修一(41)らは、水着などを身につけた少女にわいせつなポーズをとらせたDVDを制作したとして逮捕された。08年6月に当時16歳の少女にスタジオでわいせつなポーズをとらせて児童ポルノのDVDを制作した。(「着エロかポルノか…この裁判は長そうだ」参照)
6月29日、7月2日(月、木)被告人・黒木樹:殺人など
<不動産会社社長の死体遺棄事件> 07年4月、住所不定無職の高科龍軌(当時31)須和名聡(当時31)篠沢大介(当時36)黒木樹(当時41)らは板橋区のマンションから殺害した不動産会社社長、冨田威裕(たけひろ)さん(29)の遺体をカバンに入れて群馬県吉井町の雑木林まで車で運び、穴に埋めた。
6月30日(火)被告人・小川俊之:爆発物取締罰則違反(判決)
<皇居に向かって火薬を詰めた消火器を発射した事件> 08年9月、神奈川県相模原市の元陸上自衛隊員の小川俊之(当時34)が、火薬を詰めた消火器を皇居に向けて発射したとして、逮捕された。
6月30日(火)被告人・阪尾俊之:威力業務妨害(初公判)
<ネットの掲示板に不法な書き込みをした事件> 09年4月、大阪府阪南市の大学生、阪尾俊之(当時20)は、インターネット掲示板「2ちゃんねる」に「赤坂サカスで血のアメを降らせてやる」などと書き込んで、同所を管理するTBSに警備を強化させ、同社の業務を妨害したとして逮捕された。
6月30日(火)被告人・守谷和真:著作権法違反(初公判)
<ネットで無許可でテレビ番組を配信した事件> 09年5月、「ジェーネットワークサービスインターナショナル」経営の守谷和真(当時40)は、著作権法違反で逮捕された。同社はフジテレビが放送した番組を無断で東南アジアや欧米の在外邦人の顧客にインターネットで視聴させた。
6月30日(火)被告人・大崎薫:保護責任者遺棄(判決)
<ネットカフェで出産し遺棄した事件> 08年10月、無職大崎薫(当時30)は、インターネットカフェのトイレで男児を出産し置き去りにしたとして逮捕された。「お金がなく、育てられないと思った」と供述した。
6月30日(火)被告人・伊藤信也:保護責任者遺棄致死など
<長女を衰弱死させた事件> 06年9月、栃木県那須烏山市の不動産賃貸業伊藤信也(当時66)は、病気療養中の長女(当時40)を監禁し衰弱死させた。1審で懲役5年の判決を受けた。
6月30日(火)被告人・白石敦子:強盗殺人
<トラック運転手を殺害した事件> 08年3月、埼玉県上尾市の雑貨店経営白石敦子(当時56)は、無職男と共謀し、経営する雑貨店で頭にかぶせたエコバッグの上からビニールテープを巻き付けるなどしてトラック運転手、河原塚建一さん(当時66)を殺害し、現金3万円を奪った。1審で無期懲役の判決を受けた。
7月1日(水)被告人古川聡:逮捕監禁、集団強姦致傷、強盗(控訴審初公判)
<女性を拉致して乱暴した事件> 08年10月、建築防水作業員古川聡(当時40)とスレート作業員今中宏樹(当時36)は、前年10月に東京・銀座を歩いていた都無職女性を車に連れ込み、4人で強姦し、現金約1万8千円が入ったバッグなどを奪ったとして逮捕された。
7月1日(水)被告人・吉岡正行:殺人
<女性をはさみで刺殺した事件> 07年7月、埼玉県鷲宮町の無職、吉岡正行被告(当時38)は同県杉戸町の路上で、借金をめぐるトラブルなどから知人女性をはさみで刺殺したとして逮捕された。1審で無期懲役の判決を受けた。
7月2日(木)被告人・波和二:組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)(初公判)
<L&G詐欺事件> 09年2月、健康寝具販売会社「エル・アンド・ジー」は、組織的に会員から出資金をだまし取ったとして会長の波和二(かずつぎ)(当時75)や幹部を逮捕した。被害者約3万7000人、被害総額約1260億円とみられる。
7月3日(金)被告人・片石肇:強盗傷害(判決)
<プロレスグッズ専門店での強盗事件> 09年2月、千葉県柏市の無職、片石肇(当時28)は他の2人と共謀して東京都千代田区のプロレスグッズ専門店に押し入った。男性店員に暴行を加え、現金15万9000円と、マスク5点などの商品を奪った。
7月3日(金)被告人・矢島美代子、浜岡竜:薬事法違反(初公判)
<未承認の医薬品を販売した事件> 09年4月、東京都豊島区の健康食品販売業社長、矢島美代子(当時49)と同社役員、浜岡竜(当時32)は、「やせる…」とうたって未承認の医薬品を宣伝し、無許可で販売したとして、逮捕された。1億円以上を売り上げとみられる。
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