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2008年8月12日

ネットの殺害予告、罪のポイントがズレてるような

 以前の「朝まで生テレビ」で裁判員制度が取り上げられたんだけど、そのときに出演していた福島みずほ議員が「裁判員制度の延期を党に帰って提案します」みたいなことを周りの出演者に説得されるようにして発言してたんですよ。どうせ番組内での発言だから、と思っていたら、8月7日に社民党が延期を提案ですよ。

 それだけじゃなく、民主党と共産党も時を同じくして、延期を求める方針を表明ですよ。
 動き出すのが遅いような気も。すでに裁判員候補者名簿のほうは動き出してるんだし。延期や再検討って主張するなら、以前から動いていた「裁判員制度はいらない!大運動」の人たちを見習うべきじゃないの? 問題点を指摘して、自分たちで会場借りて集会開いてといろいろやってるんだけど。

 裁判員制度スタートまでに終身刑を導入する動きもあったけど、今回の法務大臣は反対派っぽいし。なんだかいろいろと混乱していますな。

 さて、今回は8月6日に行われた鈴木陽被告人(29)の裁判傍聴記。罪名は、業務妨害。事件の内容は新聞記事から抜粋。
 インターネットの掲示板に、「池袋行って100人ぶっ殺す」と書き込んで偽計業務妨害容疑で逮捕された事件ですね。

 報道によると静岡県の自宅のパソコンから、ネット掲示板「2ちゃんねる」に「今から池袋行って100人ぶっ殺す もうすべてが嫌になった 俺もやる」と書き込んだとのことで、それが警察の業務を妨害したそうな。本人は「いたずら半分だった」「秋葉原の事件をテレビで見て、世間を騒がそうと思った」と供述していると伝えられた。
 池袋署では書き込みを見た人から通報を受け、捜査員6人を1週間にわたって繁華街に配置したと新聞に出ていましたから、まあ、何とも人騒がせな事件です。

asozan080811.jpg

 この手の裁判は、このコラムで何度も取り上げているんだけど、秋葉原無差別殺傷事件の翌朝の犯行予告だったこともあって、大きく報じられた事件です。

 起訴されたのは新聞記事の通りなんだけど、被害がちょっと違うんです。犯行予告の通報を受けた池袋署が6月9日10時から16時まで11人の警官で警戒の業務を強いられ、本来出来るはずの交通取締りや捜査書類作成の業務が出来なくなったというのが被害のようです。新聞だと、1週間って書いてあったのに。

 検察官の冒頭陳述によると、被告人は職を転々としていたが、去年の10月からは無職の状態だったとのこと。
 そして、秋葉原の事件が起きた翌朝。2ちゃんねるに似たような犯行予告をすれば、多くの人の興味を引いて、たくさんの書き込みをしてもらえると考え、書き込みをしたというのが事件の詳細です。
 法廷には、被告人の母親が情状証人として出廷。「こんなとんでもないことをする子ではないのですけど」と、普段の姿を知ってる親としては、犯行のギャップに戸惑っている感じでした。
 そして、被告人質問。まずは、弁護人から。

 弁護人 「書き込みは日本テレビを観ながら書き込むこと(実況?)にしたんですね」
 被告人 「はい」
 弁護人 「書き込みを思いついたのは、いつですか?」
 被告人 「思いついたというか、どうスレッドを立てようか考えて、テレビで秋葉原の事件をやっていたので通り魔関連のスレッドを立てようと思いました」
 弁護人 「池袋という地名にした理由はあるんですか?」
 被告人 「ありません」
 弁護人 「なんでこんな書き込みをしたんですか?」
 被告人 「思いつきです」
 弁護人 「リアクションを期待していたんですか?」
 被告人 「え? 通報するとか?」
 弁護人 「いや、そうではなくて、レスポンス(の書き込み)があると?」
 被告人 「はい」
 弁護人 「警察の邪魔をしてやろうという気持ちはあったんですか?」
 被告人 「思ってませんでした」

 自分の書き込みに対して、たくさんの人が反応して書き込んでくれるだろうという思いつきで、池袋という地名を挙げたのにも意味がない、と。こんなのに振り回された池袋署もたまったもんじゃないでしょうね。

 弁護人 「事件を起こした原因はなんだと思いますか?」
 被告人 「(インターネット上の)掲示板に対する認識不足」
 弁護人 「認識不足って、具体的には?」
 被告人 「不特定多数の人が見ている上で、1度書いたものは残るということを意識しておくべきでした」

 この事件って、そういう問題なのか? 被告人の理屈で言うと、編集可能な書き込みなら犯行予告しても大丈夫ってことになっちゃうんだけど。

 弁護人 「今後はどうするつもりですか?」
 被告人 「安易な気持ちで書き込むことは当分控えて、それ以外でもよく考えて1日1日をすごしていきたいと思います」

 この手の裁判では「ネットはやりません」みたいなことを言う被告人が多いんだけど、「安易な気持ちで書き込むことは当分控える」だけですよ。揚げ足を取るわけじゃないけど、その、つい安易な書き込みをしないってことだけなのか? っていうか、書き込みは続けるんだよね。犯行予告とかじゃなければ、問題ないんだけど、なんか頼りない反省の弁だよなぁ。

 次は検察官から。
 検察官 「あなた1人の行為でね、11人もの警官に6時間も犯人捜させたり警戒させたりしたんですよ。わかってます?」
 被告人 「はい!」
 検察官 「思いつきって言ってますけど、思いつきで許されないのわかってます?」
 被告人 「はい!」
 検察官 「認識が甘かったとか言ってますけど、自分の行動が他人に迷惑をかけることがわかってないから、やったんじゃないですか?」
 被告人 「はい!」

 一方的な説教に被告人はかしこまっている感じです。そして、被告人の仕事についても説教を始めました。

 検察官 「今まで50万円たまったら仕事をやめて、貯金がなくなると仕事を始めるという暮らしでしたね」
 被告人 「はい」
 検察官 「それで暇が出来ての犯行じゃないんですか?」
 被告人 「そう思います」
 検察官 「定職につくべきじゃないんですか?」
 被告人 「はい」
 検察官 「次に職につくときは、長い期間働くと約束できますか?」
 被告人 「はい!」

 と、なぜか今後、長期間仕事を続けることを誓わさせられていました。検察官の言ってることは正論だし、仕事も大事なんだけど、この事件は就職しててもやれる犯罪ですからねぇ。ちょっと筋違いのような気もするけど。
 最後は裁判官から。

 裁判官 「検察官が言ってましたけどね、今いくつ?」
 被告人 「29歳です」
 裁判官 「あなたがイメージする29歳って、どんな人ですか?」
 被告人 「子供がいて、家族のために一生懸命働いている人たちです」
 裁判官 「100人が100人、そうではないと思いますが、物事をわきまえている年齢じゃないのかな」
 被告人 「はい」

 すると突然、被告人はうつむいて泣き出しました。自分のイメージする29歳に近づけてないからなのか、あらためて罪を認識したのか、裁判官に29歳のイメージを否定されたからなのか。

 裁判官 「あと、仕事の話。自分で選り好みできるのかわからんけどさ、年も年だし。これを長く続けていこうという仕事を探さなきゃいけないんじゃないのかなぁ」
 被告人 「はい」

 やっぱり、仕事のことを言われてしまうんですね。裁判所ってのは、無職の人間に対して厳しいもんだ。それにしても、29歳は「年も年だし」といわれる年齢なんですね。
 そして、この事件の本質を突きます。

 裁判官 「これが一番言いたいことなんだけど、警察官の業務を妨害したことで裁かれているんだけど、(そのことより)秋葉原で起きた事件の被害者、遺族の方々がどう思うのか考えてもらいたいんだけど」
 被告人 「はい」
 裁判官 「似たようなことをやりますなんて、公で言われてね、その人たちの耳や目に触れたとき、どのような気持ちになるか。思い付きとかそんなことでやることじゃないよね。言ってることわかるかな?」
 被告人 「はい」
 裁判官 「直接問題になってないけど、そういうことまで考えてほしいんだよ。そういう歳なんだよ。というか、考えたら出来ないよ」

 と、裁判官が一方的に述べて質問終了でした。
 ホントは、この部分だけを追求してもいいくらいでしょ。ネットの掲示板に対する認識不足とか、定職につくとか、どうでもいい話だからね。

 起訴されたのは、警官11人への通常業務ができなくなったってことだけど、「100人ぶっ殺す」なんて無差別殺人予告があったら、警戒するのは警察の通常業務でしょう。こういう形でしか起訴できないのかもしれないけど、裁判官の言う通り、秋葉原通り魔事件の被害者、遺族に対して何の謝罪も罪も問われないってのはなんだかなぁ。
 被告人には、懲役1年6月が求刑され、2日後に懲役1年6月執行猶予3年の判決が言い渡されました。

 ネット上では、秋葉原通り魔事件以降、100件以上の犯行予告があったらしい。多分、捕まった人は「思いつき」とか、「こんな大変なことになるとは」って取調べで答えていることでしょう。でも、実行する人間が出てきているご時世ですからね。

 この手の事件の被告人は口をそろえたように「たくさんの反応があると思った」って答えているんだけど、「○○を殺す」とか「○○を爆破する」なんて書き込みに反応あったところで寂しさ倍増な気がするんだけどね。

※写真は秋葉原無差別殺傷事件の事件現場

注目の裁判

11月2日(月)被告人・氏家信子:殺人ほか(判決)
<息子を殺害した事件> 09年1月、東京都大田区の無職氏家信子(当時65)は傷害を持つ双子の息子に包丁で切りつけた。弟は病院で死亡が確認された。

11月2日(月)被告人・秋山直紀:所得税法違反(初公判)
<防衛汚職関連の所得税法違反事件> 08年8月、日米平和・文化交流協会会長の秋山直紀(当時58)は、防衛関連企業から受け取ったコンサルタント料を隠し所得税を免れたとして逮捕された。

11月2日(月)被告人・竹林守、成田茂之、他1人:公職選挙法違反(詐欺登録・詐欺投票)(初公判)
<従業員の住民登録を移し投票を支持した事件> 09年9月、機械製造販売会社「水戸工業」の社長・成田茂之(当時57)らは自社の従業員の住民登録の場所を変更させ、衆議院議員選挙で自民党に投票するよう指示したとして逮捕された。

11月2日(月)被告人・熊谷智幸:強制わいせつと偽造私印使用(初公判)
<テレビ局員を装ってわいせつ行為をした事件> 09年8月、インターネット広告会社役員、熊谷智幸(当時35)は、東京都板橋区内の路上で30代の女性にフジテレビの社員を装った偽の名刺を手渡して声をかけ、近くのマンションのエントランスまで連れて行き、わいせつな行為をした疑いで逮捕された。

11月2日(月)被告人・押尾学:麻薬取締法違反(使用)(判決)
<俳優による麻薬事件> 09年8月、東京・六本木のマンションで女性が死亡していると119番通報があり、部屋に出入りしていたとして俳優の押尾学(当時31)が任意で事情聴取を受けた。任意の尿検査で、合成麻薬のMDMAに陽性反応が出たため麻薬取締法違反(使用)の疑いで逮捕された。

11月4、5、6日(水、木、金)被告人・太田周作:殺人未遂(初公判)
(初公判、5日6日も) <駅のホームから女性を突き落とした事件> 09年3月、無職太田周作(当時24)は、JR東京駅で女性(当時60)をホームから突き落とし、電車に接触して負傷させたとして、殺人未遂で逮捕された。取調べに対して「(事件を起こすのは)どこでも、誰でもよかった」などと供述した。

11月5日(木)被告人・寺岡誠吉:殺人
<運送会社役員を殺害した事件> 08年12月、運送会社社長の寺岡誠吉(当時71)は、元暴力団組員に依頼して06年9月に同社役員の栩野雅晴さん(当時66)を殺害させたとして逮捕された。

11月5日(木)被告人・中田静子 ほか1名:昏睡強盗、窃盗
<スナック客に対する昏睡強盗> 09年3月、バー経営の中田静子(当時62)はスナック経営の細江敏光(当時39)と共謀、スナックで男性客に強い酒を飲ませて昏睡状態にさせ、キャッシュカードを奪って現金自動預払機から金を引き出したとして逮捕された。

11月6日(金)被告人・波和二ほか:組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)
<L&G詐欺事件> 09年2月、健康寝具販売会社「エル・アンド・ジー」は、組織的に会員から出資金をだまし取ったとして会長の波和二(かずつぎ)(当時75)や幹部を逮捕した。被害者約3万7000人、被害総額約1260億円とみられる。

11月6日(金)被告人・片石肇:強盗傷害(控訴審判決)
<プロレスグッズ専門店での強盗事件> 09年2月、千葉県柏市の無職、片石肇(当時28)は他の2人と共謀して東京都千代田区のプロレスグッズ専門店に押し入った。男性店員に暴行を加え、現金15万9000円と、マスク5点などの商品を奪った。

11月6日(金)被告人・多田知信:窃盗、住居侵入(初公判)
<警察寮での窃盗事件> 09年8月、警視庁大森警察署地域課巡査長の多田知信(当時30)は、08年11月に警察寮の同僚の部屋に侵入し、腕時計を盗んだとして逮捕された。


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阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。

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