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2008年8月04日

オレオレ詐欺やめて偽造警察手帳かよ…

 日本中の裁判所で、裁判員の模擬裁判が行われてるんだけど、どんなことをやってるのか知らないでしょ。たまに、新聞に載ることもあるけど、ほとんどが人知れず行われて、結果も知らされてないわけ。

 それが、7月30日に公開されたんですよ。なんと、長野地方裁判所がホームページ上で第8回裁判員模擬裁判の実施報告を公表したんです。これは初の試みでは?(他ですでに行っていたら、その裁判所の方々すみません)

 これはぜひとも公表すべきでしょ。裁判員に選ばれる可能性のある人なんてたくさんいるんだから、知りたい情報だと思うんだよね。事件の内容や流れはもちろん、参加者の感想まで載ってるんだから。ぜひとも長野地裁のホームページをご覧ください。
 今回の傍聴記は、7月31日に行われた吉原丈彦被告人(40)の裁判の話。罪名は偽造公記号使用。罪名だけではどんな事件か想像できないでしょう。

 トラック運転手・吉原丈彦が偽造した警察手帳で「警視庁の刑事だ」と名乗り、捜査協力と称して男性にキャッシュカードを売らせた事件ですね。報道によると、吉原は荒川区内の路上で、パチスロ攻略機器を販売する男性会社員(26)に偽の警察手帳を見せた上で、「お前のしていることは犯罪だ。見逃してやるから、振り込め詐欺の捜査に協力しろ」と指示。通帳の売買業者に、男性のカード2枚を計7万円で譲渡させたと。

 それは事件も珍しいけど、罪名も非常に珍しい。この罪名の裁判を傍聴するのは初です。かなり珍しいので、刑法からの抜粋。

 (公記号偽造及び不正使用等)
第一六六条① 行使の目的で、公務所の記号を偽造した者は、三年以下の懲役に処する。
②公務所の記号を不正に使用し、又は偽造した公務所の記号を使用した者も、前項と同様とする。

asozan080804.jpg

 ニセの警察手帳が「偽造した公務所の記号」ってことなのね。先々月発売された「B級裁判傍聴記」の中に、警察マニアの裁判を書いたんだけど、この罪名は適用されてなかったんだけどね。起訴するのは検察官だから、検察官次第なんだろうけど、非常にあいまいだ。

 起訴されたのは1つだけ。今年の5月24日に、被告人は東京都荒川区内の公衆トイレ内で、パチスロの体感器の運び屋をしていた男性に対して「警察だよ、残念だったな。これから調書巻きに行くから」と、偽造の警察手帳を見せた、という事件。

 ちなみに“調書を巻く”とは、調書を取るって意味で、昔は巻紙を使ってたから言うらしいんだけど、今も使われている言い回しなんでしょうか。少なくとも、一般人は使わないですね。よほど、警察に憧れている被告人なんでしょう。

 そんなことより気になるのは、被告人はどうやってパチスロの体感器の運び屋と接触を取ることができたのかってこと。新聞記事でも起訴状でもよくわからないわけですよ。でも、すべては冒頭陳述で明らかになりました。

 検察官によると、被告人は振り込め詐欺など含む前科5犯。被告人はネット上の自警団のサイトで振り込め詐欺を撲滅しようとしていることを知り、よく閲覧していたらしい。
 そして、被告人は掲示板に“体感器、口座、ケータイ売ります”という書き込みを発見し連絡を取って、今回の現場で待ち合わせをした、と。

 犯行日である5月24日。被告人は待ち合わせ場所に来た運び屋に対し、「裏へ行こう」とトイレの中に連れ込み、起訴状に書かれた言動をしてから「オレはネット犯罪の担当をしている。おとり捜査に協力して口座の販売をしてくれれば、犯人を捕まえられる。お前は容疑者だから、このままだとお前も捕まる。おとり捜査に協力すれば、捕まえないし、1日3万円の警視庁のデータ処理の仕事も紹介してやるよ」などと、口座の売買を持ちかける。

 その翌日と翌々日、運び屋は被告人の指示通りに、通帳を2つ売却し、ケータイを2つつくらされる。さらに被告人は運び屋に「最近はおばちゃんによる逆援助交際があるから、そのおばちゃんを脅して金を取る“売春のタタキ”の仕事がある。協力すれば、お前に半分金をやる」と、違う仕事を提案。これを聞いた運び屋が「売春のタタキはさすがにおかしいだろう」と疑い、警察に連絡し、被告人が逮捕された、というのが事件の詳細です。

 売春のタタキなんて行為が存在するですかね? っていうか、運び屋もそこで疑うんじゃなくて、口座の売買させられている時点で警察じゃないと疑うべきだと思うんだけどね。何から何まで変な事件です。

 ちなみに被告人は取り調べで「(ニセの警察手帳は)ネットで購入した。犯行の動機は自警団のサイトに現場の写真を載せたかったから」と述べているらしい。

 そして、被告人質問です。

 弁護人 「運び屋(法廷では実名)に接触したのはなぜですか?」
 被告人 「自警団のサイト内で振り込め詐欺を撲滅しようとしていたので、内情を知ろう、と」
 弁護人 「運び屋を知ったのは?」
 被告人 「掲示板です。“体感器、口座、ケータイ売ります”と書いてあったので、連絡を取りました」
 弁護人 「それで、待ち合わせ場所に偽造の警察手帳を持って行ったのはどうしてですか?」
 被告人 「懲らしめるつもりで行って、バッグの中に入っていたので、パッと見せてしまったという」
 弁護人 「懲らしめるって?」
 被告人 「説教して、交番に連れて行こう、と。内情を知りたかっただけなので」

 ニセの警察手帳を除けば、偉い行動じゃないですか。悪いことをしようとしてる人を交番に連れて行こうと考えたんだから。でも、この裁判では罪に問われてないけど、重要かつ気になるのは、この先。

 弁護人 「その後、運び屋に口座売らせたり、ケータイ買わせたりしてますよね。あなたからの指示ですか?」
 被告人 「いや、向こうからです。お金がないから生活できない、と言ってきて」

 どうやら、被告人からの指示ではないようです。後で検察官にツッこまれるんだけど。
 弁護人 「調書では、あなたの指示みたいに書いてありますけど」
 被告人 「ハイって(言うとおりに)してたら、調書がドラマのような話になっちゃって」
 弁護人 「おとり捜査であるとは言ったんですか?」
 被告人 「口座屋の仕事がある、と」
 弁護人 「逆援交のおばさんを脅そうってのは?」
 被告人 「それは一切言ってません!」

 売春のタタキに関しては、全く言ってないと主張です。となると、運び屋は何をもって警察官じゃないと疑ったんだろうか。誰が言い出した話なんだろう。検察官の作文にしては現実味がないしなぁ。

 最後は情状に関して。

 弁護人 「あなたに前科、まぁ、オレオレ詐欺での前科もあってね、そういうのを撲滅しようと思ったのはなぜですか?」
 被告人 「近所のあばあちゃんがオレオレ詐欺でだまし取られて、それでなんてことをするんだ、と」
 弁護人 「あなたは足を洗ってるよね?」
 被告人 「はい。自分は企業相手に(振り込め詐欺を)やってなんですけど! もちろん、正当化するわけじゃないですけど、おばあちゃんとか年金で暮らしている弱い立場の人をだますのは許せないと思って」

 気持ちはわからないでもないけど、被害者が企業だろうがおばあちゃんだろうが罪の重さは一緒でしょ。次は、検察官からの質問。

 検察官 「振り込め詐欺を撲滅しようとしてたんでしょ。なんで、体感器の人に連絡とったの?」
 被告人 「(掲示板に)口座とケータイも書いていたので」
 検察官 「懲らしめるって、どうしようと?」
 被告人 「内情を聞き出して、サイトに掲載にようと。ま、今回はやってませんけど」
 検察官 「どうやって聞こうと思ってたんですか?」
 被告人 「何やってんだと言えば、すべて話すんじゃないかと思ってました」

 そんなことですべてしゃべるとは思えないんだけど。

 検察官 「偽造した警察手帳を持っていきましたよね。バッグの中に入れてたのは?」
 被告人 「犬の散歩の時に入れたままにしていて」

 この答えに検察官は笑いそうになりながら

 検察官 「散歩のとき、持って行くの?」
 被告人 「たまたま入ってたので」

 ますます、意味がわからないですね。パチスロも体感器を売ろうとしている人に「何やってんだ!」と言おうと思ってたけど、犬の散歩の時に入れっぱなしにしてたニセの警察手帳を見せて「おとり捜査に協力しろ」と言った事件ってことですから。

 そして、口座売買に関して

 検察官 「運び屋はあなたのことを本物の警察だと思っているようでした?」
 被告人 「(ニセの警察手帳を見て)驚いてました」
 検察官 「思い込んでると、あなたは感じました?」
 被告人 「はい」
 検察官 「あなたを警官だと思っているのに、“口座を売ろう”なんて運び屋から言うわけないでしょ! そんなこと警察に言いますか?」
 被告人 「2時間の身の上話で、そうなったんです」
 検察官 「撲滅って言ってるけど、運び屋が口座を売買してたら、助長する行為ではないんですか?」

 まくしたてるように質問する検察官。これに対し、被告人が言い訳しようとすると、検察官は、大声で

 検察官 「(口座を売った金の)7万円貰ってるでしょ!」
 被告人 「…お金は捨てました」
と、7万円を貰ったことを認めると、検察官は手に持っていた調書を机にバーン! と叩きつけ

 検察官 「質問、終わります!」

 と、感情的になって質問終了。

 あくまで、起訴されているのはニセの警察手帳だけ。振り込め詐欺の片棒を担ぐような行為と、筋の通らない被告人の言い分に立腹してたと思うんだけど、聞き忘れてることがあるような。

 最後は、裁判官からの質問。

 裁判官 「…ん…」

 と、長い間をおきました。質問することが山ほどあるので、頭の中を整理しているのでしょう。

 なぜ、ニセの警察手帳を購入したのか? ほんとに振り込め詐欺を撲滅する気があったのか? 最初から脅すつもりがあったのではないか? 売春のタタキについては言ったのか? 聞くべきことがありすぎる。だが、起訴されているのはニセの警察手帳だけというジレンマ。

 果たして、何を聞くのかと思ったら、裁判官は鼻で笑うようにイヤミな笑みを浮かべて
 裁判官 「…聞くことはありません」

 と、何も質問せずに、被告人質問は終了でした。

 この後、検察官が、被告人は今まで20件以上の詐欺行為をしてるとして、懲役1年6月と警察手帳のような物没収という求刑をして、閉廷。

 法廷で嘘は禁止だから、被告人の話がすべて本当だとして、他の罪で起訴することはできなかったんだろうか。運び屋から言わせれば、詐欺でも脅迫でも、被害者なんだけどねぇ。

※写真は他の事件で使用された偽造の警察手帳(共同)

注目の裁判

11月24日(火)被告人・秋山直紀:所得税法違反
<防衛汚職関連の所得税法違反事件> 08年8月、日米平和・文化交流協会会長の秋山直紀(当時58)は、防衛関連企業から受け取ったコンサルタント料を隠し所得税を免れたとして逮捕された。

11月24日(火)被告人・芳賀吉孝、小野克巳、五郎川弘之、他2人:わいせつ図画販売・頒布
<わいせつDVD販売を手助けした事件> 08年3月、アダルトDVD業界最大手の自主審査機関「日本ビデオ倫理協会」が、作品の審査基準を甘くして、わいせつDVDの販売を手助けしたとして、審査部統括部長小野克巳(当時51)らを逮捕した。

11月24日(火)被告人・板垣宏 十亀弘史 須賀武敏:爆発物取締罰則違反
<迎賓館などにロケット弾が発射された事件> 1986年に迎賓館などにロケット弾が発射したとして、中核派の須賀武敏、十亀弘史、板垣宏が逮捕された。1審では証拠不十分で全員が無罪とされたが、2審では無罪判決を破棄して審理を地裁に差し戻した。上告審も2審判決を支持し、1審に差し戻された。

11月24日(火)被告人・松田真知:銃刀法違反など(控訴審初公判)
<大量の拳銃や実弾を密輸した事件> 06年1月、指定暴力団稲川会系松田組組長、松田真知は幹部の後藤広一らと共謀して拳銃11丁、実弾220発などを密輸したとして逮捕された。1審で無期懲役、罰金400万円(求刑無期懲役、罰金500万円)を言い渡された。

11月25日(水)被告人・寺岡誠吉:殺人
<運送会社役員を殺害した事件> 08年12月、運送会社社長の寺岡誠吉(当時71)は、元暴力団組員に依頼して06年9月に同社役員の栩野雅晴さん(当時66)を殺害させたとして逮捕された。

11月25日(水)被告人・竹田慶介:公然わいせつ(初公判)
<路上で下半身を露出した事件> 09年10月、東京都豊島区の学習塾経営、竹田慶介(当時27)は同年9月に同区内の路上でズボンを降ろして下半身を露出し男子中学生3人に見せたとして逮捕された。

11月25日(水)被告人・小川俊之:爆発物取締罰則違反(控訴審判決)
<皇居に向かって火薬を詰めた消火器を発射した事件> 08年9月、神奈川県相模原市の元陸上自衛隊員の小川俊之(当時34)が、火薬を詰めた消火器を皇居に向けて発射したとして、逮捕された。

11月26日(木)被告人・原田久:威力業務妨害(初公判)
<サラ金の業務を妨害した事件> 09年10月、愛知県岡崎市の無職、原田久(当時38)は、消費者金融「レイク」のコールセンターに約500回電話をかけ、女性オペレーターにひわいな言葉をかけたとして逮捕された。女性の体の一部を表す言葉などをかけて業務を妨害したという。

11月26日(木)被告人・小川美津子、他2人:昏睡(こんすい)強盗と保護責任者遺棄(初公判)
<スナック経営者による昏睡強盗事件> 09年2月、東京都渋谷区のスナック経営、小川美津子(当時73)ら男女4人は、スナックで男性客に酒を飲ませて泥酔させ、キャッシュカードを盗んで路上に放置したなどとして逮捕された。

11月26日(木)被告人・松原弘樹:強盗(初公判)
<自衛隊員による強盗事件> 09年9月、陸上自衛隊第1空挺団(千葉県船橋市)の陸士長松原弘樹(当時21)らは、東京・六本木のビル敷地内で飲食店従業員男性(当時22)を倒し、顔を殴るなどして現金約13万円入りの財布を奪ったとして逮捕された。

11月26日(木)被告人・植本勝也、井福一郎、他1人:児童買春・ポルノ処罰法違反(初公判)
<暴力団員らによる児童ポルノ販売事件> 09年9月、大阪府守口市の指定暴力団山口組系暴力団組長井福一郎(当時61)と大阪市西淀川区の無職植本勝也(当時43)は、インターネットで児童ポルノのDVDを販売したとして逮捕された。

11月27日(金)被告人・波和二:組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)
<L&G詐欺事件> 09年2月、健康寝具販売会社「エル・アンド・ジー」は、組織的に会員から出資金をだまし取ったとして会長の波和二(かずつぎ)(当時75)や幹部を逮捕した。被害者約3万7000人、被害総額約1260億円とみられる。

11月27日(金)被告人・高相祐一:覚せい剤取締法違反(所持、使用)(判決)
<酒井法子の夫の覚せい剤事件> 09年8月、自称プロサーファーで、女優酒井法子の夫、高相祐一(当時41)は、東京都渋谷区の路上で覚せい剤を所持していたとして逮捕された。

11月27日(金)被告人・和田達夫、嘉藤悦男:背任(初公判)
<理化学研究所をめぐる汚職事件> 09年9月、独立行政法人「理化学研究所」(理研、埼玉県和光市)の主任研究員、和田達夫(当時53)は、取引先の理化学器具開発販売会社「秋葉産業」の社長、嘉藤悦男(当時76)から旅行や飲食費などの代金付け回しを受け、その穴埋めに架空発注を行ったとして逮捕された。


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阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。

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