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企画特集


2008年6月16日

裁判官も「秋葉原事件」が気になるようで

 ついに「B級裁判傍聴記」が創出版から発売されました。内容は月刊誌創に連載している「バカ裁判傍聴記」をまとめた単行本。大幅な加筆、そして辛酸なめ子さんとの対談も収録してあるので、毎月読んでた方にも楽しんでいただけるかと思われます。

 04年3月号から08年6月号の中から、40本の傍聴記が載ってるんだけど、全く話題にならなかった小さな小さな裁判だらけ。この「裁判showに行こう」が報道された大きな事件の裁判を取り扱ってるので、「B級裁判傍聴記」は文字通り、シングルB面コレクションといったところでしょうかね。

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 月刊創の04年3月号以前の連載分をまとめた「裁判大噴火」が増刷されることもなく、ほとんど売れなかったのに、第2弾が発売されるとは驚きです。ま、そこはちゃんと学習してるんで、初版は少なくなってるようです。ツチノコを見かける確率でしか「B級裁判傍聴記」を本屋で見ることはないでしょうね。なので、見かけたら買ってね。定価は1260円っす。

 今回は6月10日に行われた栄慶太被告人(26)の裁判の話。罪名は、業務妨害。
 人材派遣会社に解雇されたことを逆恨みして、繰り返し嫌がらせ電話をかけた事件ですね。報道によると、栄は07年11月30日から今年4月までの間、千代田区にある人材派遣東京営業所に自宅や公衆電話から多数回にわたって、無言電話や「出るんじゃねぇ」などと怒鳴る電話を繰り返し、受付業務を妨害したとのこと。栄はこの派遣会社に登録していたが、昨年11月、無断欠勤を理由に解雇されていたそうで、会社は08年2月に被害届を出していた。
 嫌がらせ電話は1万回以上と見られている。仕事をクビになって1万回も電話してる暇があったら仕事を探せばいいと思っていうたけど、ふたを開けてみると、起訴されたのは169回のいたずら電話でした。どうやら公衆電話の場合、2秒以内に電話を切ると記録が残らないので、起訴された回数が少ないらしい。

 冒頭陳述によると、被告人は06年3月に被害会社である派遣会社に登録。しかし、遅刻などが多いため、派遣先を回してもらえなくなり、被害会社のドアを蹴るなどしたので、07年11月28日に登録を解雇。被告人は被害会社に対する不満や妬みから無言電話をするようになる。
 そして、被告人が繰り返しいたずら電話していることに気づいたため、今年1月、被告人の父親は自宅の電話を取り外した。すると、被告人は公衆電話を使用して、いたずら電話をかけるようになった。
 2月には被害会社が被害届を出し、3月12日に被告人は警察から注意を受けたが、それでもいたずら電話をやめなかったので、逮捕されたというのが事件のいきさつです。

 警察に怒られた後も続けるとは。よほどの恨みがあるのかと思いきや、なんとも呆れたいたずら電話の再開理由が明かされるのです。

 まずは、被告人の父親が情状証人として出廷です。証人が証言台の前に行くと

 裁判官 「今から証人として質問をさせて…」
 証人 「その前に一言よろしいでしょうか」

 何か文句でもあるのかと思っていたら、証人はクルッと半回転して傍聴席に方を向きました。そして

 証人 「私の管理不行き届きで大変申し訳ございませんでした!」

 と深々と一礼しての謝罪です。でも、この日はなぜかお坊さんが団体で傍聴しに裁判所に来てたんで、この法廷の傍聴席はほとんどが住職。事件の関係者らしき人が見当たらなかったんだけどね。とにかく、親としても申し訳ない気持ちでいっぱいなんでしょう。

 弁護人 「被告人がこういう電話をしてたのはいつ知りましたか?」
 証人 「去年の年末ごろです。やめるように言ったんですけど。今思うとやめさせられなかったことが悔しいです」
 弁護人 「自宅の電話をはずした後も、被告人は公衆電話を使用して犯行を続けてたんですけど、それは知ってましたか?」
 証人 「わかっていました。派遣会社の社長さんから“いまだに鳴り止まない”と連絡がありましたので」

 社長から連絡があったのが、被害届を出した2月以前なのかは、はっきりしないんだけど、被害会社としてはいたずら電話の主は誰かわかっていたんでしょう。

 次は裁判官から

 裁判官 「息子さんは内向的な性格だそうですが、なぜ、今回のような攻撃的なことになったと思います?」
 証人 「自己中心的な考え方があるんだと思います」
 裁判官 「今後どう向き合っていきますか?」
 証人 「話し合いがあまり出来ていませんでしたので、密にやっていく、と。もうやっていくしかないです。見捨てるわけにいかないですから」

 と、コミュニケーションをとって監督していくことを約束していました。

 次は、被告人質問です。まずは、弁護人から。

 弁護人 「まず、お父さんの証言を聞いて、どう思いましたか?」
 被告人 「拘留されてから、親父に迷惑かけたんだな、と」
 弁護人 「そうですか。それでは事件について聞きます。あなたは3月12日に警察に誓約書を書いて提出してますね。“今後は電話もメールもしない”と。起訴されてないですけど、派遣会社にメールも送ってたんですか?」
 被告人 「メールは50~60件ほど。この後は、止めました。やってはいけないことだ、と」
 弁護人 「誓約書を書いたあと、メールは送ってないようですけど、電話はしてますね。いたずら電話を再開したのは、いつですか?」
 被告人 「(誓約書を提出した)その日の午後です。謝罪をしようと派遣会社に電話をしたんですけど、女性の方が出たので“あんたじゃないんだよ”と大声で。そして、すぐ無言電話と同じように切っちゃいまして」

 謝るつもりが怒鳴って終わり。いつものくせが出ちゃったんでしょうね。っていうか、いたずら電話の謝罪を電話ですること自体、ちょっと間違ってる気もするけど。
 次は検察官からの質問。

 検察官 「派遣会社の登録解雇や満足する仕事が回ってこないのは、あなたの落ち度では?」
 被告人 「そうだと思います」
 検察官 「3月12日に警察官に“これ以上続けたら留置所に入るよ”と言われたんですよね。それなのに続けたのは?」
 被告人 「あのー、カーーッとなっちゃうと人に迷惑かけることしたくなっちゃって」
 検察官 「今後社会復帰して仕事したら、うまくいかないことがあると思うんだけど」
 被告人 「今回のようなことはないようにします」
 検察官 「あと、親の言うことは?」
 被告人 「聞いていきます」

 と再犯しないことを誓って、質問終了。

 最後は裁判官から。

 裁判官 「今後やらないと言い切れる根拠はなんですか?」
 被告人 「長い拘留期間を経て、深く反省しましたし、人の注意を聞くようにしていきますので」
 裁判官 「そうですか。先ほど、カーーーッとなっちゃうと人に迷惑をと言ってましたけど、それは性格的なもの? 自分を抑えきれなくなるの?」
 被告人 「うーーん、自分では分かりかねますけど」
 裁判官 「それは正直な答えでいいんだけど、原因をつきとめて再犯を防がないとね」

 被告人のあいまいな返答を優しい言葉で聞き入れると、苦い顔をして

 裁判官 「世の中、不満や納得いかないことがありますよ。他の方法で解消することを考えないとねぇ。社会に出て、仕事したら、いろんなことがあると思うんですよ。長い拘留期間に反省したということですけど、あなたは留置所に入っててわかんないと思うけど」

 言わずもがな、秋葉原での通り魔事件のことでしょう。あの事件から2日後の裁判ですからね。裁判官としては、派遣会社で不満が外に向かった共通点が気になったのでしょう。いたずら電話を軽視するわけじゃなけど、あれだけの大事件と並べるのはねぇ。

 そして、裁判官は、傍聴席に座っている被告人の両親を見て、具体的な事件については口に出さず

 裁判官 「…ほんとに大丈夫かね?」
 被告人 「はい!」

 と、質問の重要性を知ってか知らずか、力強く答えて質問終了。

 この後、検察官が懲役1年6月を求刑して閉廷でした。

 裁判は世論に流されない、なんていわれてるんだけどね。「カーーッとなると人に迷惑かけたくなる」なんて言われたら、裁判官としても黙ってられなかったんでしょう。被告人にはぜひとも原因を突き止めてもらわないとね。

注目の裁判

8月18日(月)被告人・吉田義一:強盗(初公判)
<コンビニ強盗事件> 08年7月、東京都足立区の無職吉田義一(当時45)は前月に足立区内のコンビニに強盗に入り9万円を奪ったとして逮捕された。吉田は事件後、同じコンビニで缶ビールを万引きしたため、犯行が発覚した。

8月18日(月)被告人・山下健児:逮捕監禁、強制わいせつ(初公判)
<女子高生を連れ回した事件> 08年1月、東京都大田区の無職山下健児(当時28)は、通学途中の女子高生を連れ回したとして逮捕監禁の現行犯で逮捕された。その後、他の強制わいせつ容疑で再逮捕された。

8月19日(火)被告人・広瀬正光:廃棄物処理法違反(初公判)
<汚泥などの不正投棄事件> 08年4月、産業廃棄物処理会社「江戸川集積センター」社長広瀬正光(当時43)ら6人は07年6月頃にマンションの建設現場で発生した汚泥などを不正に投棄したため、廃棄物処理法違反(不法投棄、受託違反など)で逮捕された。

8月19日(火)被告人・佐藤智孝:殺人、死体遺棄(控訴審初公判)
<交際の主婦を殺害した事件> 07年9月、ブロック工佐藤智孝(当時37)は、交際相手だった千葉市の主婦井上あさかさん(当時38)の首を絞めて殺害し、遺体を河川敷に埋めた。1審で懲役18年の判決を受けた。

8月19日(火)被告人・村上世彰:証券取引法違反(控訴審初公判)
<村上ファンド事件> 06年6月、村上ファンド代表の村上世彰元代表は、ライブドアによるニッポン放送株買占めに関しインサイダー取引の容疑で東京地検特捜部に逮捕された。1審で懲役2年の判決を受けた。

8月20日(水)被告人・アビナッシュ・シャルマ:不正アクセス禁止法違反など(初公判)
<社内ネットワークに侵入した事件> 08年7月、インド国籍の無職アビナッシュ・シャルマ(当時32)は、新生銀行の社内ネットワークに侵入してファイルを削除して、不正アクセス禁止法違反などの疑いで逮捕された。シャルマは07年10月まで、システムメンテナンス会社から新生銀行に派遣され社内ネットを管理していた。調べに「正社員採用を求めたが、断られ腹が立った」と供述しているという。

8月20日(水)被告人・鈴木一範:殺人、死体遺棄(控訴審初公判)
<クラブホステスが遺体で発見された事件> 06年12月、銀座のクラブホステスで都立定時制高校2年の荻野亜利沙さん(当時20)が行方不明になり、交際相手で同居していた無職、鈴木一範(当時39)が07年2月に殺害を供述した。その際、無職堤健一(当時29)とともに遺体を埋めたことも供述した。1審で懲役20年の判決を受けた。

8月20日(水)被告人・鈴木明:児童福祉法違反
<教え子とわいせつ行為をした事件> 08年5月、東京都台東区の中学校教諭鈴木明(当時51)は、06年ころ中学3年だった教え子の女子生徒とわいせつな行為をしたとして逮捕された。

8月21日(木)被告人・鈴木明:児童福祉法違反(初公判)
<教え子とわいせつ行為をした事件> 08年5月、東京都台東区の中学校教諭鈴木明(当時51)は、06年ころ中学3年だった教え子の女子生徒とわいせつな行為をしたとして逮捕された。

8月21日(木)被告人・小川洋平:覚せい剤取締法違反(所持)など(初公判)
<トンボ鉛筆会長による覚せい剤事件> 08年6月、トンボ鉛筆の元会長で無職の小川洋平(当時60)は風俗店の女性とラブホテルに入り、所持していた覚せい剤使用を勧めたが拒否され、店員に突き出され逮捕された。小川は07年にも覚せい剤所持などで懲役2年6月、執行猶予4年の有罪判決を受けたばかりだった。

8月21日(木)被告人・山口和清:人身売買罪(控訴審初公判)
<タイ人女性の人身売買事件> 07年6月、無職山口和清(当時56)は、タイ人女性を長野市のスナック経営の女に230万円で売り渡したとして、逮捕された。1審で懲役2年の判決を受けた。


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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。

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