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2008年6月02日

消防団員の放火魔、自首は認められるか

 被告人や証人の証言を録画、撮影して、発言した言葉で検索できる“音声認識システム”の試作品が、先週、東京地裁に設置されました。

 これが実際に使われると、裁判員が評議のときに「目撃者のあの証言が」となった際、撮影したDVDをすぐに頭出し出来るのです。こりゃ、便利。費用4億円かかっただけあります。
 でも、これって最高裁が3年位前に“調書を自動的に作成するため”に音声認識システムを導入するって言ってた気が。俺の勘違いかな。調書作成の自動化はあきらめたんですかね。だって、今後は大阪弁に対応するシステムを作ってるらしいからね。

 とにもかくにも、裁判員制度を始めるのは何かと大変だ。
 さて、今回は5月29日に行われた国分徹被告人の裁判傍聴記。罪名は、現在建造物放火未遂など。田園調布消防団第3分団で部長だった会社員国分徹(当時47)が、平成19年6月に大田区の民家敷地内の枯れ草にライターで放火したとして、同年7月に現在建造物放火未遂容疑で逮捕された事件です。逮捕の2週間後には、消防署に放火予告をした後、オートバイに火をつけたとして、建造物等以外放火容疑で再逮捕されたと新聞を中心に報じられた。大田区内では、平成18年春ごろから予告電話とともに、約15件の不審火が相次いでおり、そのうち数件の関与を認めていると、伝えられている。

 そして、平成19年9月12日に初公判。
 検察官は、消防署への予告電話を録音したものを法廷で再生して証拠を提示していました。この日は、他にも追起訴があるということで、30分弱で閉廷。
 第2回公判が、同10月15日。追起訴がされたんだけど、他にも余罪があるということで数分間。
 第3回公判が、同11月22日。個人的にはこの日、山形で講演会があったんで東京地裁に行けなかったんだけど、どうやら公判延期で行われなかったようです。

 延期になることは珍しくないんだけど、次の期日がなかなか決まらないのを不思議に思ってたんです。そしたら、今年1月に再逮捕のニュースですよ。
 平成7年に親子2人が死亡した火災に関与している疑いが強まり、現在建造物等放火容疑などで再逮捕されたもので、この火事で、会社員(当時69)と次男(当時34)の2人が焼死していたというものです。

 なんと、2回公判を行った後に、10年以上も前の事件が発覚したわけです。しかも、2人が亡くなっているという重大事件。他にも余罪が多数あるから、公判が延期になったのかと思ったら。
 前回の公判から約7カ月おいて、5月29日の第3回公判です。起訴された罪名は非現住建造物等放火、非現住建造物等放火未遂、現住建造物等放火、現住建造物等放火未遂、現住建造物等以外放火未遂、現住建造物以外放火、住居侵入、建造物侵入。罪名の数だけでも相当数なんだけど、起訴されたのは9つの放火事件のようです。

asozan080602.jpg
※恐ろしい火事(資料写真)

 各事件の被害者には申し訳ないけど、9つもあるので事件の詳細は割愛させていただきます。
 検察官の冒頭陳述によると、被告人は平成19年8月10日に行われた取調べで、大田区での連続放火を自供。さらに、平成7年の放火についても、この時に自ら話し出したとのこと。

 これに対し弁護人は冒頭陳述で、平成7年の放火は起訴時効があと2年に迫っており迷宮入り寸前で、自ら供述していることを理由に自首が成立すると主張していました。

 と、言うわけで、本件の争点は、平成7年の事件の自首のみとなっていました。要するに、第2回公判から7カ月間もあいて、今回の公判が開かれたのは、期日間整理手続きが行われたというわけだったんですね。それにしても間が開きすぎだよなぁ。
 まずは、自首に関する被告人質問から。

 弁護人 「逮捕、起訴された以外の放火について、手紙に内容を書いたのはなぜですか?」
 被告人 「自分の中の悪い国分徹を追い出して、すべてを話さないと、被害者に申し向けができないと思って書きました」
 弁護人 「取調べでしゃべる前に書いたんですか?」
 被告人 「検察官に話した後に書きました」
 弁護人 「手紙を書く前に、弁護人…私に相談しなかったのはなぜですか?」
 被告人 「ずっと、弁護人の先生に相談してからと思ってましたが、警察官に正直に話さなければというのが先立って、話しました」
 弁護人 「手紙によると、平成7年の事件を供述すると“警察官がびっくりしていた”とありますけど、どんな感じですか?」
 被告人 「何を話し出したんだろうという感じです」
 弁護人 「取調べにいた警察官が“よく話してくれたね。正直びっくりしたよ。俺たちの方が重いものを背負った感じだ。俺たちも半端なことはできないよ”と言っていたようですね」
 被告人 「はい」

 平成18年~19年の大田区内の不審火について問い詰めようとしたら、平成7年の放火の話が出てくるなんて警察としては寝耳に水だったことでしょう。
 それにしても、初公判以前にすべて自供していたとは。次は検察官からの質問。

 検察官 「平成19年8月10日までは放火について何て言ってました?」
 被告人 「(平成19年の)3月ごろから、10件くらいと言っていました」
 検察官 「なぜ、ウソついてたんですか?」
 被告人 「怖かったので」
 検察官 「何が?」
 被告人 「罪の重さに対して、怖かった」
 検察官 「取調べで余罪について何て言われてました?」
 被告人 「他にないか、と」
 検察官 「取調官に“いきなり家に火をつける人はいないんだよ”とか、“今、溺れかかってるんだ。俺たちが国分さんを助けたいんだよ”とか言われませんでした?」
 被告人 「言われました」

 検察官としては、問い詰められたので平成7年の放火をしゃべったということにしたいようです。
 続いて、裁判官から。

 裁判官 「平成19年8月10日にすべて話そうと思った、と。それまで、平成7年の件は全く出てなかった?」
 被告人 「はい」
 裁判官 「平成7年の火事については、黙っていればバレないと考えませんでした?」
 被告人 「正直、少し考えました。でも、自分の中でそれはできませんでした」
 裁判官 「取調べで話す時、この事件は隠しておこうとか葛藤はありませんでしたか?」
 被告人 「すべてしゃべろうと決めた時に、葛藤はありませんでした。自分のしたことを真摯(しんし)に話したかったので、隠そうとはしませんでした」

 最終的には裁判官が判断するわけなんだけど、平成7年の放火に関しては、自首が認められそうな感じですね。
 これで自首に関する質問は終了。次は、情状を含めた事件に関しての被告人質問です。まずは、弁護人から。

 弁護人 「あなたは、消防団での仕事の悩み、PTAでの悩み、妻が部屋を片付けないこと、不倫相手から強く結婚を迫られていたこと、多くのストレスを感じていたようですが、なぜ、悩みを相談しなかったんですか?」
 被告人 「自分でため込んでしまう性格で」
 弁護人 「当初、原因は何だといってました?」
 被告人 「当初は、片付けられない妻の性格のせいにしていました」
 弁護人 「今はどう考えてます?」
 被告人 「自己中心的な身勝手さに原因があると思います」

 取調べが進んでいくうちに、自分に向き合い反省するようになったのでしょう。そして、9つの事件1つ1つの詳細を聞き出したあと、

 弁護人 「長期間、刑務所にいくことになるかと思いますが」
 被告人 「どれだけ(余生が)残っているかわかりませんが、一生償っていく所存です」
 弁護人 「すでに、拘置所での未決拘留が300日を越えていますけど、何を考えていますか?」
 被告人 「早く刑に服して、反省したいと考えておりました」
 弁護人 「そうですか。最後に、あなたの口から裁判官に対して言いたいことがあれば、述べてください」
 被告人 「私の身勝手で、大勢の人に迷惑をかけて、財産や命を奪ってしまいました」

 と、頭をたれていました。
 次は検察官から。

 検察官 「放火をやりだしたのはいつですか?」
 被告人 「平成4、5年だと思います」
 検察官 「どんなものを?」
 被告人 「河原で木屑とか」
 検察官 「家に火をつけたのは、いつからですか」
 被告人 「平成6年ぐらいかと」
 検察官 「木屑から家に火をつけるようになったのはなぜですか?」
 被告人 「小さなものから大きなものになっていきました」
 検察官 「分かりやすく言うと?」
 被告人 「大きなものに火をつけて、ストレスの発散を」

 ここから検察官は“未必の故意”を立証しようと、被告人を勢いよく問いつめ始めます。

 検察官 「家に火をつけるとき、人が住んでいるかもしれないと思ってました?」
 被告人 「はい、住んでいるだろうと」
 検察官 「人がいるのに火をつけたのはなぜ?」
 被告人 「ストレスの発散と申しま…」
 検察官 「ストレス発散は分かってるんだけど! 人がいるのに、どう思っていたのかを聞いてるんです」
 被告人 「いけないことだと思っていました」
 検察官 「いけないのは当然ですよ! 中にいる人がどうなると思ってました?」
 被告人 「早く気付いて逃げてくれればいいのにと思っていました」

 この答えを聞いた検察官はさらに勢いを増して、

 検察官 「より大きく燃やそうとしてたんでしょ。だから、木造アパートを狙ったんでしょ。中に人がいることもわかっていた。どうなると思ってたか、ちゃんと話してください! 逃げられるか分かんないでょ! (放火した時間はすべて)夜中じゃないですか! 発見が遅れたらどうなりますか?」
 被告人 「そこまで、考えてません…」
 検察官 「考えられないわけないでしょ。2人も亡くなってるんですよ! ちゃんと話してくださいよ。一番核心的なこと供述避けてんじゃない! 反省してるとは言えないでしょ!」

 と、大激怒。すると、静かな落ち着いた声で、

 裁判官 「それ以上いきますとね。あのー、評価になりますし」

 と、アツくなっている検察官に裁判官からの忠告です。
 放火で、人が亡くなっている場合、被告人に殺意があったか否かは難しいとこなんだよね。検察官としても、大変なことなんだろうけど。
 冷静になった検察官は、あらためて質問です。

 検察官 「2人が亡くなった平成7年の放火以降、再開したのはいつですか?」
 被告人 「1年半くらいしていから」
 検察官 「2度と放火はしないと誓わなかった?」
 被告人 「火をつけることに勝てませんでした」
 検察官 「迷惑かけてもいい、と?」
 被告人 「そうなります」
 検察官 「家に火をつけるとき、また死者が出るのではと考えたことなかったんですか?」
 被告人 「ありました」
 検察官 「頭の中にあったけど、火をつけたんですか?」
 被告人 「はい」
 検察官 「放火が癖になってたんですか?」
 被告人 「…」

 最後は泣いていたからなのか、何も答えることはありませんでした。果たして“未必の故意”は立証できたのか。次回、論告、弁論の期日を決めて、閉廷となりました。
 消防団員が15年以上も放火をしていたなんて、言葉も出ませんね。相当厳しい刑が下されることが予想されます。

 それはさておき、この事件は来年だったら、裁判員で裁かれる対象になります。なので、公判の日数を短くするため、整理手続きが行われるわけ。実際、今回も第2回と第3回の公判の間に7カ月開けて、整理手続きが行われたわけです。被告人は、自ら昔の事件を話し、反省の態度も見せていて、法廷では「早く刑に服し、反省したい」とまで述べているのです。そんな被告人を公判日数を減らすために、300日も拘束するってのはどうなんだろう。とにもかくにも裁判員制度を始めるのは何かと大変だ。

※未必の故意…行為が必ずしも結果をもたらす確信はないものの、もしかしたら結果が生じるかもしれないと思い、仮にその結果が生じても構わないと思い行った行為を言う。

注目の裁判

10月14日(火)被告人・上田賢治:強制わいせつ致傷(判決)
<電通の子会社社員によるわいせつ事件> 08年3月、電通テックの社員上田賢治(当時39)は、同年1月に知り合いの20代女性をカラオケ店に誘い、無理やり体を触るなどして、女性に軽傷を負わせたため逮捕された。

10月14日(火)被告人・横木正行:昏睡強盗(初公判)
<派遣風俗店員に対する昏睡強盗> 08年7月、東京都足立区の無職、横木正行(当時44)は、豊島区巣鴨のホテルに風俗店勤務の女性(当時24)を呼び睡眠薬入りの酒を飲ませ、現金6万2000円を奪った。

10月14日(火)被告人・守屋武昌、秋山収、宮崎元伸、今治友成:収賄、議員証言法違反、贈賄
<防衛装備品調達をめぐる汚職事件> 前防衛事務次官、守屋武昌(63)は、防衛省の装備品調達で山田洋行に便宜を図る見返りにゴルフ旅行接待を受けたり、現金を家族名義の口座に受け取ったりした。また、国会の証人喚問で虚偽の証言をした。

10月14日(火)被告人・桑原和宏:殺人等(判決)
<両親を死傷させた事件> 07年9月、東京都杉並区の無職・桑原和宏(当時38)は、カッターナイフで切りつけ、父親の正さん(当時70)を殺害、母親の房子さん(当時69)に重傷を負わせた。父親と口論になったのが原因だったと供述した。

10月15日(水)被告人・山本英世:強盗傷害(判決)
<郵便局員から小包を奪った事件> 08年7月、無職山本英世(当時23)は、東京都新宿区のビル玄関で、郵便配達員の男性(当時39)に催涙スプレーを吹きつけ、配達小包を奪って逃走した。

10月15日(水)被告人・緒方重威 満井忠男:詐欺
<朝鮮総連中央本部に対する詐欺事件> 07年6月、元公安調査庁長官、緒方重威(しげたけ)(当時73)らは、朝鮮総連に架空の売却話を持ちかけ、中央本部の土地・建物をだまし取った。

10月16日(木)被告人・荻野宏:公務執行妨害ほか(初公判)
<医師が警察官の拳銃を奪った事件> 08年5月、東京都世田谷区の医師荻野宏(当時42)は、杉並区の路上で別居中の妻とトラブルになり、かけつけた警察官の拳銃を奪って上空に向けて発砲。公務執行妨害と銃刀法違反、強盗容疑で逮捕された。

10月17日(金)被告人長沢清:殺人(判決)
<別居中の妻を刺殺した事件> 07年12月、団体職員長沢清(当時55)は、路上に止めた車内で別居中に妻の文子さん(当時52)を刃物で刺して殺害。自身も腹部や手首を切って一時意識不明の重体となった。

10月17日(金)被告人・下藤卓生:脅迫(初公判)
<ネット掲示板で歌手を脅迫した事件> 08年8月、住所不定、無職下藤卓生(当時23)は、札幌市のネットカフェから歌手小宮真央(当時20)を「8月10日に殺します 場所はてめぇの家だ」と掲示板に書き込んだ。み、脅迫した疑い。

10月17日(金)被告人・渋谷博久:不正アクセス禁止法違反、電子計算機損壊等業務妨害(初公判)
<会員データを消去した事件> 08年9月、派遣社員渋谷博久(当時28)は、ITサポート会社「アットスター」のサーバーに不正にアクセスし、通販サイトの氏名、住所などの会員データと商品データを削除した。「待遇や給与でトラブルになった上司を困らせたかった」と供述した。


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阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。

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