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2008年5月27日

法廷でも噺家の性(さが)が出てしまいまして…

 ついに裁判員制度の開始まで1年をきりました。ってなわけで、先週は裁判員制度に関するニュースが多かったなぁ。鳩山法務大臣が裁判員裁判用の法廷を視察したり、最高検が裁判員公判部の新設を発表したり、日弁連の裁判員キャラクターが“サイサイ”に決定したり、あとは現役裁判官が逮捕されたり。これは裁判員制度とは関係ないけど。
 こんなに連日裁判員のニュースが報じられるのは、この先、導入開始となる1年後でしょうか。

 今回は5月21日に行われた出来谷純一被告人(35)の裁判の話。罪名は、脅迫。

 元落語家による脅迫事件で、メディアでもそれなりに伝えられた事件です。報道によると出来谷は今年1月、8回にわたり、自分の携帯電話から新宿区の協会の事務局に電話をかけ「全員殺すぞ! お前らも巻き添えや!」などと脅した疑い。出来谷は昨年の数カ月間、笑福亭鶴光に弟子入りし、笑福亭乃光の芸名で見習い修行をしていたが、平成19年7月に出来谷が寄席の楽屋で歌を歌ったため、兄弟子に注意された。それで口論となり、兄弟子に暴力を振るったなどして破門されていたそうで。
 数カ月しか修行してなかったんで、被告人がどんな落語家だったのかは知らないんだけど、あまり例のない落語家による犯行です。

 検察官の冒頭陳述によると、被告人は高校卒業後、職を何度か変えた後、平成19年4月に笑福亭鶴光に弟子入り。前座見習いとして、雑務などしていたが、平成19年7月4日に兄弟子と楽屋でけんかになり、兄弟子を殴ったということで除名処分を受ける。除名処分に納得がいかない被告人は、平成19年11月に春風亭昇太宅に無言電話やいたずらのFAXを送りつけ、今年1月には柳亭痴楽宅にいたずら電話をしていた。さらに、1月11日から1月28日にかけて、4回にわたり、被告人は自分の携帯電話から、落語芸術協会に電話をし、対応した女性に対し「なめとったら殺すぞ。全員殺すぞ。お前らも巻き添えや。日にちは教えない」「百姓なめとったら、命落とすぞ」「今、飯食うとるやろ。殺すぞ」「前座の分際で稽古つけとる昇太の弟子、どういうこっちゃ」などと、脅迫したというのが事件の詳細です。

 起訴されているのは落語芸術協会への4回の電話だけなんだけど、報道された以外にも嫌がらせの電話をしていたようです。個人的には35歳で弟子入りを認める鶴光師匠の器の大きさに驚くけどね。

asozan080526.jpg

 法廷には、被告人の父親が情状証人として出廷し、実家に連れ戻して一緒に暮らすと、今後の監督を約束していました。

 そして、被告人質問です。まずは、弁護人から。

 弁護人 「あなたは笑福亭鶴光さんのお弟子さんだったということですが、どうやって弟子になったんですか?」
 被告人 「鶴光さんの事務所のホームページを調べまして。それで手紙を書いて出せば必ず返事が来ると書いてありましたので、手紙を出しました」
 弁護人 「弟子になったのは?」
 被告人 「去年の3月末です」
 弁護人 「どんなことをするんですか? 内容は?」
 被告人 「朝一番に(劇場に)入って、楽屋の準備をします。師匠の手伝いであるとか」
 弁護人 「時間は?」
 被告人 「昼公演ですと、10時から17時。夜の場合は、15時半から21時半ごろまでです」
 弁護人 「それで給料は?」
 被告人 「給料はありません」
 弁護人 「生活費はどうしてたんですか?」
 被告人 「時間があいた日の夜に、週に1度アルバイトをして」

 入ったばかりで仕事のない芸人は大変ですよ。みんなこんなもんだろうけど。

 そして、本件犯行のきっかけである破門についての質問です。

 弁護人 「破門のきっかけは?」
 被告人 「兄弟子(法廷では芸名)です」
 弁護人 「落語芸術協会に電話したのも、破門に納得がいかなかったから?」
 被告人 「僕を殴ってきた兄弟子は、破門勧告を4回も受けているのに、なんで僕だけ(破門なんだろう)と」
 弁護人 「調書によると、あなたは普段から兄弟子のことをよく思っていなかったようですけど、なぜですか?」
 被告人 「師匠が高座にあがっているときに気を抜いていらっしゃってて」
 弁護人 「具体的には?」
 被告人 「やるべきことをしないとか」
 弁護人 「やるべきことって?」
 被告人 「例えば、次の師匠がマジックをする場合、マジックの道具を準備しないとか、ネタがばれないように仕込まなきゃいけないのに、ばれるように用意したりとか」

 この兄弟子、面白い人じゃないか。「マジックの準備できました」とか言ってんのに、ハンカチとか鳩とかはみ出してるんでしょ。かなり面白い人だ。まあ、一緒に裏方やってたら腹立つかもしれないけどね。

 弁護人 「去年の7月4日は、遠まわしに兄弟子に注意したんですか?」
 被告人 「立場上言えませんので、(兄弟子が楽屋でサボっている姿を見て)“さぁ、また始まりましたぁ”と言ったら胸を殴られました」
 弁護人 「あなたも殴ったんですよね」
 被告人 「この人、反省してないんだなぁと思って、殴っちゃいました」

 師匠が落語やっている横で何やってんだか、この2人は。そして、2日後、被告人だけが破門になったとのこと。

 弁護人 「警察の取調べで“破門は取っ組み合った私にも責任があるので申し訳ない”と兄弟子が述べているようなんだけど」
 被告人 「先に手を出されたのは兄弟子なので、そう思ってくださっているかもしれないです」

 楽屋でどんなケンカが行われたのかは分からないけど、兄弟子も非を認めているようです。

 そして、事件について。

 弁護人 「落語芸術協会に電話したのは?」
 被告人 「脅迫のつもりは全くありませんでした。破門になった身ですから、お客の立場で“片方が破門で、片方が残っているのはおかしいんじゃないですか”と伝えようかなと」
 弁護人 「その電話でどうしてほしいと」
 被告人 「破門取り消しもありますし、やっぱり僕だけが破門というのが」
 弁護人 「実際、殺すつもりはあったんですか?」
 被告人 「全然ありません。言い過ぎた部分があったと思います」
 弁護人 「こんな大問題になると思ってなかったんじゃないですか?」
 被告人 「思わなかったです」

 電話やインターネットでの匿名の脅迫って、被告人は決まり文句のように「こんなことになるとは」って言うんだけどね。本件はちょっと種類が違うんだよね。自分の携帯電話で電話してるし、破門取り消しを求めているんだから、身元がばれているわけ。しかも、「破門を取り消してください」じゃなくて「殺すぞ」ですからね。百歩譲っても「兄弟子だけ残っているのは」って不満を伝えるまででしょ。なんで“殺すぞ!”と言ったのかは検察官が最後に解き明かすのですが。

 検察官 「さっき、兄弟子が胸を殴ってきたといってましたけど、取り調べでは兄弟子は“師匠が高座に上がっている時に、楽屋で歌を歌っていたから殴られた”って言ってるけど、あなたから殴ったんじゃないの?」
 被告人 「いや、でたらめは言ってません」
 検察官 「じゃ、なんであなただけ破門なの?」
 被告人 「分かりません」

 検察官も破門のいきさつに納得いってないようです。っていうか、新聞では、被告人が楽屋で歌ってて兄弟子に殴られたって報じられていたんだけど、逆なのか? 楽屋には他の落語家もいて、目撃者が何人もいるらしいんだけど、このケンカについては、はっきりしないんだよなぁ。本件と直接関係はないんだけどさ。

 そして、“殺すぞ”についてです。

 検察官 「問題になると思わなかったと言ってましたけど、“お前ら殺すぞ”とか“命落とすぞ”とか、こんなことをね、軽い気持ちで言ったんですか?」
 被告人 「あのぉ、先輩から“話す時は3倍に膨らまして”と教えられまして」

 と、先輩の教えを守って大げさに言ってしまったと告白です。この呆れた答えに検察官は大きな声で怒りながら、

 検察官 「それは落語の話で、面白くするために話を大きくって話でしょ。脅迫する時3倍に膨らますってことじゃないでしょ! 教えられたこと、履き違えてますよね」

 と、猛ツッコミ。被告人の答えに裁判官も一家言あるようで、

 裁判官 「ちょ、ちょっと待って。今もそういう考えなんですか? この場でそんなこと言うって心配なんですけど」

 と、目を丸くさせていました。すると、

 被告人 「いや、当時の考えですけど」

 と、答えて検察官からの質問は終了。まさか、先輩からの教えがこんなに波乱を巻き起こすとはねぇ。

 裁判官は“殺すぞ”は本心の3倍だったとしても、脅す意志はあったんじゃないかと考えたようで、厳しく問い詰めるのです。

 裁判官 「脅迫のつもりはなかったと。あなたにとっての脅迫とは?」
 被告人 「本人の目の前で嫌がらせをするとか」
 裁判官 「電話でこういうこと言うのは?」
 被告人 「言い過ぎたとは思いましたけど」
 裁判官 「破門に納得いってなかったんですよね。なんと言えばよかったんですか?」
 被告人 「“どうしてダメなんですか?”と聞けばよかったです」
 裁判官 「“どうして?”と聞くのと“殺すぞ”が同じとは思えないんだけど」
 被告人 「すごい台詞を言ってしまいましたが、本気で殺す気はあ…」

 と、被告人が答えている途中で、裁判官が割って入ってきて、

 裁判官 「殺す気があったかなかったかではなく、怖いこと言ってびっくりさせたわけでしょ!」
 被告人 「言い過ぎたと思います」

 と、あくまで話3倍を主張です。脅迫の意志はないと。

 裁判官 「ホントにそういう答えでいい? どんな口調で言ったか分からないけど“なめとったら殺すぞ!”とかね“全員殺すぞ。お前らも巻き添えや。日にちは教えない”とか言ってるんですよ」
 被告人 「驚かれるとは思いました。ただ、そこまで怯えさせるとはと。言葉が過ぎたと思います」
 裁判官 「言葉が過ぎた…はぁ。いいの? そういう答えで」
 被告人 「…」
 裁判官 「…ん~…そうですか」

 と、怒っていた裁判官があきらめたように落ち着いて、質問は終了。

 被告人は迷惑をかけたと何度も反省の弁を述べたし、軽い気持ちでやったのは分かったんです。でも、せっかく裁判官が何度もネタ振りしたのにねぇ。「脅すつもりでした」と答えてもよかったんじゃないの? 話3倍で、でも。これじゃ反省していないように思われるよなぁ。

 この後、検察官が懲役1年を求刑して、閉廷でした。

 確か、笑福亭鶴光師匠って破門になりかけたときに、師匠に侘びを入れに行ったって逸話があったような。4回破門勧告されても続けている兄弟子だって、何かがあって続いているんじゃないかな。それが脅迫という手段に出るとはね。
 言葉をあやつり人を笑わせたり感動させたりする落語家が、人を怯えさせるとはね。お後がよろしくないようで。
写真は笑福亭鶴光師匠。師匠の寛大な気持ちは被告人に届かなかったのか…

注目の裁判

10月14日(火)被告人・上田賢治:強制わいせつ致傷(判決)
<電通の子会社社員によるわいせつ事件> 08年3月、電通テックの社員上田賢治(当時39)は、同年1月に知り合いの20代女性をカラオケ店に誘い、無理やり体を触るなどして、女性に軽傷を負わせたため逮捕された。

10月14日(火)被告人・横木正行:昏睡強盗(初公判)
<派遣風俗店員に対する昏睡強盗> 08年7月、東京都足立区の無職、横木正行(当時44)は、豊島区巣鴨のホテルに風俗店勤務の女性(当時24)を呼び睡眠薬入りの酒を飲ませ、現金6万2000円を奪った。

10月14日(火)被告人・守屋武昌、秋山収、宮崎元伸、今治友成:収賄、議員証言法違反、贈賄
<防衛装備品調達をめぐる汚職事件> 前防衛事務次官、守屋武昌(63)は、防衛省の装備品調達で山田洋行に便宜を図る見返りにゴルフ旅行接待を受けたり、現金を家族名義の口座に受け取ったりした。また、国会の証人喚問で虚偽の証言をした。

10月14日(火)被告人・桑原和宏:殺人等(判決)
<両親を死傷させた事件> 07年9月、東京都杉並区の無職・桑原和宏(当時38)は、カッターナイフで切りつけ、父親の正さん(当時70)を殺害、母親の房子さん(当時69)に重傷を負わせた。父親と口論になったのが原因だったと供述した。

10月15日(水)被告人・山本英世:強盗傷害(判決)
<郵便局員から小包を奪った事件> 08年7月、無職山本英世(当時23)は、東京都新宿区のビル玄関で、郵便配達員の男性(当時39)に催涙スプレーを吹きつけ、配達小包を奪って逃走した。

10月15日(水)被告人・緒方重威 満井忠男:詐欺
<朝鮮総連中央本部に対する詐欺事件> 07年6月、元公安調査庁長官、緒方重威(しげたけ)(当時73)らは、朝鮮総連に架空の売却話を持ちかけ、中央本部の土地・建物をだまし取った。

10月16日(木)被告人・荻野宏:公務執行妨害ほか(初公判)
<医師が警察官の拳銃を奪った事件> 08年5月、東京都世田谷区の医師荻野宏(当時42)は、杉並区の路上で別居中の妻とトラブルになり、かけつけた警察官の拳銃を奪って上空に向けて発砲。公務執行妨害と銃刀法違反、強盗容疑で逮捕された。

10月17日(金)被告人長沢清:殺人(判決)
<別居中の妻を刺殺した事件> 07年12月、団体職員長沢清(当時55)は、路上に止めた車内で別居中に妻の文子さん(当時52)を刃物で刺して殺害。自身も腹部や手首を切って一時意識不明の重体となった。

10月17日(金)被告人・下藤卓生:脅迫(初公判)
<ネット掲示板で歌手を脅迫した事件> 08年8月、住所不定、無職下藤卓生(当時23)は、札幌市のネットカフェから歌手小宮真央(当時20)を「8月10日に殺します 場所はてめぇの家だ」と掲示板に書き込んだ。み、脅迫した疑い。

10月17日(金)被告人・渋谷博久:不正アクセス禁止法違反、電子計算機損壊等業務妨害(初公判)
<会員データを消去した事件> 08年9月、派遣社員渋谷博久(当時28)は、ITサポート会社「アットスター」のサーバーに不正にアクセスし、通販サイトの氏名、住所などの会員データと商品データを削除した。「待遇や給与でトラブルになった上司を困らせたかった」と供述した。


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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。

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