2008年5月19日
警部補が要求したマッサージはいきなり股間から
5月15日(木)に「量刑制度を考える超党派の会」が発足しました。どうやら、終身刑の創設を検討して、今秋の国会に刑法の改正案を提出する予定らしい。
無期懲役は死刑の次に重い刑なんだけど、大きな差があるわけです。死刑は刑の執行まで拘置所にいるのに対して、無期懲役は最短で服役10年、平均でも服役20年ほどで仮釈放が認められると言われています。現在は有期刑の最長が懲役30年だから、仮釈放を認める服役年数が長くなってる可能性もあるけど。
で、死刑と無期懲役の間に終身刑をつくろうじゃないかという話ですね。昔から論議されていたんだけど、具体的に動き出したのは今回が初です。これは秋になると白熱しそうだな。
今回は、5月16日(金)に行われた渡辺和三被告人(57)の裁判の話。罪名は公務員職権濫用、強制わいせつ。
東京都台東区でマッサージ店を経営する30代女性を脅迫し、無料でマッサージをさせて逮捕されたと報じられた事件です。これがどうしてすごいのかと言うと、渡辺は警視庁蔵前署刑事生活安全組織犯罪対策課の警部補だ、ということですね。
調べでは昨年10月初旬、女性を蔵前署に呼び携帯電話の番号など連絡先を聞き出した上で、翌日と同月中旬ごろ「要求に従わなければ店を取り締まる」と脅迫し、無料でマッサージをさせた、と。
あらためて現役の警察官が、という事件です。しかも、風俗営業の取り締まりを担当している立場を利用しての犯行ですからね。
記事では、強要と公務員職権濫用で逮捕と書いてあったんだけど、前記の通り起訴されたのは、強制わいせつと公務員職権濫用の2つ。濫用罪は、いったいどの行為がそれにあたるのか気になっていたんです。
起訴状によると、平成19年10月7日、被告人は台東区内のタイ式マッサージ店を訪れ、同店経営者に「俺がこの地域を取り締まっている。俺が捕まえるといったら、捕まえることができる」などと、脅すようなことを言って、経営者の手をつかみ、無理やり陰茎を握らせるなどのわいせつ行為に及んだ。
6日後の10月13日。被告人はまた同じ店を訪れ、同様の手口で、経営者の乳房を揉むなどのわいせつ行為に及び、下着を手に取り、自慰行為をした。
この2つが、強制わいせつ。そして、気になるもう1つの方。
平成19年10月6日、被告人は蔵前警察署で、経営者のメールアドレスを聞き出した。
メアドを聞いたのが、公務員職権濫用罪に当たるんですね。刑法193条の“公務員がその職権を濫用して、人に義務のないことをおこなわせ”ってのが、メアドを教えることになるわけか。ふーーーん。強制わいせつの方も十分に職権を悪用している気がするんだけどねぇ。
検察官の冒頭陳述によると、被告人は昭和48年に警官になり、平成16年8月24日から平成20年3月6日まで、蔵前警察署で保安統括係長の職にあったとのこと。
平成17年には、本件とは別のマッサージ店の経営者と交際。のちに別れることになるが、平成19年2月に取り調べで本件被害女性と知り合う。そして、9月6日に被害女性が経営するマッサージ店に立ち入り捜査がされる。10月6日、被害女性を蔵前署に呼び出した際、被告人は「以前のようにマッサージ店経営者と交際したい」と考え、メールアドレスなどを聞き出した。これが事件の詳細です。
強制わいせつの件に関しては、起訴状の通り。報道では“無料でマッサージをさせる”って話だったけど、それは言っていなかったような。初公判の内容を伝える新聞記事で“無料で”と書いていた新聞もあるから、俺の聞き逃しの可能性もあるんだけどね。ただ、わいせつ行為に及ぶ前に、被告人は店内でビールを飲んだということなんで、お金は払ってると思うんだけどな。払ってなかったら、他の罪も上乗せされそうだし。
法廷には被告人の妻が情状証人として出廷です。
弁護人 「被告人の性格は?」
証人 「家族思いで情が深くて、お酒を飲むと八つ当たりすることもありましたが、気が小さくてやさしい主人です」
弁護人 「八つ当たりって暴力を振るうこともありました?」
証人 「一切、ありません」
弁護人 「本件のことで、離婚は考えましたか?」
証人 「一切、考えませんでした」
事件だけでなく、浮気もばれてしまったわけで、証人としては相当な怒りもあると思うんだけど、今後も夫婦としてやっていくと約束です。
弁護人 「被告人は、家族に対してなんて言ってますか?」
証人 「大変申し訳ない、と。そして、子供と私がお父さんを迎えることを感謝していました」
事件がきっかけで家族に見放されるケースもあるのに、この家族愛はなかなか泣かせられる話です。
そして、被告人質問。まずは、弁護人から。
弁護人 「まず、被害女性を警察署に呼び出したのは、正当な行為だったんでしょうか?」
被告人 「それは職務行為です」
弁護人 「でも、メールアドレスを聞き出したのは職務じゃないですよね」
被告人 「その通りです」
公務員職権濫用という珍しい罪名に関しての質問はこれだけでした。
弁護人 「次に強制わいせつの件ですが、もし断られたら暴力を振るうつもりでした?」
被告人 「それ以上のことは全く考えていませんでした。」
奥さんに被告人の性格を聞いたのは、この質問のふりだったんですね。
弁護人 「それで、10月7日の件はあなたの再現によって調書ができてますけど、2回目の13日の方はビデオが残っていますよね」
これは防犯カメラの映像なのか、被害者が撮影の準備をしていたのか。どちらにせよ、被害者の怒りが伝わってきます。
弁護人 「そのビデオを見ますと、あなたは“いやならやらなくてもいい”と言っていましたが、それは本心ですか?」
被告人 「はい」
弁護人 「いやがってないと思っていました?」
被告人 「いやがっていたのは分かっていました」
弁護人 「あなたの立場を考えると、被害女性が怖がっていたんじゃないですか?」
被告人 「怖がっているのは分かってました」
完全に弱みに付け込んでたというわけですね。そして、衝撃の告白がされるのです。
弁護人 「本件犯行、そして、浮気と。悪いことしてたのを検察官が先ほど読み上げましたけど、他に悪いことをしたことは?」
本件起訴内容と浮気を一緒に並べていいのかという気もするんだけど、驚きの答えが被告人の口から述べられるのです。
被告人 「ありました」
弁護人 「何ですか?」
被告人 「エステ店から、月々金銭を受け取ったことがあります」
弁護人 「(総額で)いくらですか?」
被告人 「約50万です」
弁護人 「それって、収賄ですよね」
被告人 「はい、そうです」
弁護人 「それは取り調べで話しましたね」
被告人 「はい」
なんと、法廷で別の罪が明らかになりました。本件逮捕がなければ、ばれることがなかったわけで、そう考えると、被告人の警察としての仕事内容ってメチャクチャだよなぁ。
弁護人 「あと、あなたは160万円を贖罪寄付してますが、なぜですか?」
被告人 「被害者と連絡がとれないので」
弁護人 「もし、被害者と連絡がとれて、弁済してほしいといわれたら、どうしますか?」
被告人 「寄付は個人的に行ったことですので、(連絡があれば)誠意をもって対応します」
もちろん、検察官を通じて連絡は取ったんだけど、被害女性は弁護人とも接触したくないと怒りをあらわにしているらしい。
弁護人 「あなたは警察官の職を退いている(正確には懲戒免職)わけですが、退職金は?」
被告人 「一切ありませんでした」
弁護人 「本来なら?」
被告人 「あと3年で2200万円くらいは」
弁護人 「今後どうするつもりですか?」
被告人 「警察一筋でやってきましたので資格はありませんが、家族のため、仕事を探していきたいと思います」
30年以上、国に仕えてきた被告人が今後は家族のために働くと誓っていました。
次は検察官からの質問。
検察官 「あの、50万もらったのはいつのことですか?」
被告人 「去年の3~11月のことだったと思います」
古い話かと思ったら、最近ですね。取り調べで正直にしゃべったって話なんだけど、立件しないんでしょうか? 不思議。
検察官 「相手がいやがったら、それ以上するつもりはなかったと先ほどいってましたけど、警察官が“捕まえることが出来る”なんて十分な脅迫ですよね!」
被告人 「はい」
検察官 「国民の皆さんが信頼して、権限を与えてるんでしょ。その権限を使って、女性を泣かせているんですよ!」
被告人 「反省しております」
名目上は、国民が権限を与えていることになってるのか。警官1人1人、全員を信頼している人はいないと思うんだけどね。
最後は、裁判官から。
裁判官 「あなたが反省すべきなのは被害者が第1。あと、家族にも謝るべきですね。他には誰に謝らなければいけないんですか?」
被告人 「職場であった警察。そして、国民に不安を与えてしまったことを謝罪したいと思います」
裁判官 「なぜ、最もハレンチで卑怯な犯行に及んでしまったんでしょう?」
被告人 「風俗業界の中で業者と癒着してしまったことが私の自覚を取り払ってしまい、我ながら恥ずかしいことをしたと思っています」
裁判官 「誰しも、この人だけは裏切れないってのがあると思います。同僚も国民も裏切っちゃいけないでしょうけど、なぜ、最愛の家族を裏切ったのか聞かせてください」
被告人 「仕事をいくら頑張っても、なんの評価も受けないという思いもあって、つい。家族には大変申し訳ないことをしたと思っています」
地位も名誉も仕事も退職金も失った被告人を最愛の家族が迎え入れてくれるのは、不幸中の幸いかもしれないですよね。
この後、検察官が懲役3年を求刑して閉廷。あと3年で定年退職だった被告人に懲役3年の求刑って、この上ない皮肉だよなぁ。
注目の裁判
10月14日(火)被告人・上田賢治:強制わいせつ致傷(判決)
<電通の子会社社員によるわいせつ事件> 08年3月、電通テックの社員上田賢治(当時39)は、同年1月に知り合いの20代女性をカラオケ店に誘い、無理やり体を触るなどして、女性に軽傷を負わせたため逮捕された。
10月14日(火)被告人・横木正行:昏睡強盗(初公判)
<派遣風俗店員に対する昏睡強盗> 08年7月、東京都足立区の無職、横木正行(当時44)は、豊島区巣鴨のホテルに風俗店勤務の女性(当時24)を呼び睡眠薬入りの酒を飲ませ、現金6万2000円を奪った。
10月14日(火)被告人・守屋武昌、秋山収、宮崎元伸、今治友成:収賄、議員証言法違反、贈賄
<防衛装備品調達をめぐる汚職事件> 前防衛事務次官、守屋武昌(63)は、防衛省の装備品調達で山田洋行に便宜を図る見返りにゴルフ旅行接待を受けたり、現金を家族名義の口座に受け取ったりした。また、国会の証人喚問で虚偽の証言をした。
10月14日(火)被告人・桑原和宏:殺人等(判決)
<両親を死傷させた事件> 07年9月、東京都杉並区の無職・桑原和宏(当時38)は、カッターナイフで切りつけ、父親の正さん(当時70)を殺害、母親の房子さん(当時69)に重傷を負わせた。父親と口論になったのが原因だったと供述した。
10月15日(水)被告人・山本英世:強盗傷害(判決)
<郵便局員から小包を奪った事件> 08年7月、無職山本英世(当時23)は、東京都新宿区のビル玄関で、郵便配達員の男性(当時39)に催涙スプレーを吹きつけ、配達小包を奪って逃走した。
10月15日(水)被告人・緒方重威 満井忠男:詐欺
<朝鮮総連中央本部に対する詐欺事件> 07年6月、元公安調査庁長官、緒方重威(しげたけ)(当時73)らは、朝鮮総連に架空の売却話を持ちかけ、中央本部の土地・建物をだまし取った。
10月16日(木)被告人・荻野宏:公務執行妨害ほか(初公判)
<医師が警察官の拳銃を奪った事件> 08年5月、東京都世田谷区の医師荻野宏(当時42)は、杉並区の路上で別居中の妻とトラブルになり、かけつけた警察官の拳銃を奪って上空に向けて発砲。公務執行妨害と銃刀法違反、強盗容疑で逮捕された。
10月17日(金)被告人長沢清:殺人(判決)
<別居中の妻を刺殺した事件> 07年12月、団体職員長沢清(当時55)は、路上に止めた車内で別居中に妻の文子さん(当時52)を刃物で刺して殺害。自身も腹部や手首を切って一時意識不明の重体となった。
10月17日(金)被告人・下藤卓生:脅迫(初公判)
<ネット掲示板で歌手を脅迫した事件> 08年8月、住所不定、無職下藤卓生(当時23)は、札幌市のネットカフェから歌手小宮真央(当時20)を「8月10日に殺します 場所はてめぇの家だ」と掲示板に書き込んだ。み、脅迫した疑い。
10月17日(金)被告人・渋谷博久:不正アクセス禁止法違反、電子計算機損壊等業務妨害(初公判)
<会員データを消去した事件> 08年9月、派遣社員渋谷博久(当時28)は、ITサポート会社「アットスター」のサーバーに不正にアクセスし、通販サイトの氏名、住所などの会員データと商品データを削除した。「待遇や給与でトラブルになった上司を困らせたかった」と供述した。
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