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2008年4月28日

グダグダ検察官に裁判官激怒、そして思いつき論告?

 最近、最高裁判所が作った「裁判員制度ナビゲーション」っていうパンフレットがなかなかの出来なんですよ。75ページもあるから、パンフレットとはいえないけどね。

 内容は、もちろん裁判員制度の説明。かなり詳しく書いています。今までのパンフレットの中でも、一番の完成度じゃないでしょうか。裁判員法の前文も載っているし。
 あれは、いろんな人に読んでほしいなぁ。「これから大々的に宣伝するぞ」っていう、意気込みが感じられるんだよね。街中のフリーペーパー置き場に置かれることを熱望。だって、今のところは、東京地裁9階の広報の前にしかないんだもん。少なくとも1階ロビーに置かないと、誰も見ないよ。見つけたら、是非。

 今回は、4月23日に行われた長谷川清被告人(62)の裁判傍聴記。罪名は、傷害、銃砲刀剣類所持等取締法違反。

 今年2月に新宿区の路上で近くのビジネス旅館で生活する男性(67)を刃物で刺した殺人未遂事件ですね。「鼻歌がうるさくて注意したら、けんかになった」などと供述しているという。

 このニュースを知った時は、鼻歌にムカついて人を刺すなんてと思いましたよ。酒でも飲んでたのかなとも思いました。でも、真実は違ったんですね。
 前記の通り、起訴されたのは傷害罪。検察としても殺意はなかったと判断して、逮捕容疑の殺人未遂で起訴はしなかったのでしょう。

 検察官の冒頭陳述によると、被告人はビジネス旅館で30年前から生活していたらしい。そして去年の夏に、被害者が被告人の住んでいた4人部屋に入ってきたって。ビジネス旅館といえば、格好いいけど、簡易宿泊所みたいなところのようです。

 被告人は日雇いの仕事をして生活費を得ていたが、最近は仕事が少なく、収入が減っていたので、好きな酒を飲まないようにしてたと。しかし、被害者は生活保護を受給していて、毎日被告人の隣で飲酒。被告人は嫉妬心を募らせていたとのこと。

 そして、犯行当日の2月8日午後9時半過ぎ。被告人が寝ている部屋に、酒に酔った被害者が帰宅。鼻歌を歌っている被害者に対し、被告人は「福祉の世話になっているのに酒なんか飲んで、夜中に鼻歌なんか歌ってんじゃねえ!」と注意をする。この一言に対し、被害者が歯向かうようなことを言ったため、被告人が「やるなら、外に出よう」と言い、ビジネス旅館の外に出ることに。

 被告人は、刃渡り20・3センチの柳刃包丁を持ち出し、向かってきた被害者を切りつけた。さらに、包丁で被害者の腹などを刺し、全治3カ月の怪我を負わせた

 これらを目撃していた通行人が110番通報をして被告人が逮捕されたというのが事件の詳細のようです。

 酒に酔っていたのは被害者の方だったんですね、意外だ。

 でも気になるのが傷害罪で起訴したことですよ。酔った相手を外に出して、包丁を用意してるわけだ。しかも、目撃者の証言によると「被告人は包丁をぶんぶん振り回していた」らしいから、十分に殺意はありそうなんだよね。

 これが、被告人質問を聞いてるうちに、ガラッと被告人の印象が変わるんです。まずは、弁護人からの質問。

 弁護人 「被害者の収入、生活保護をもらっていることについてどう思ってました?」
 被告人 「んーー、まぁ、うらやましいとは思ってました」
 弁護人 「あなたは月々5万円弱の収入だったんですよね。その収入ならあなたも生活保護を受給できると思いますが」
 被告人 「働けるうちは働こうと思ってましたので」

 62歳の被告人は他人の力は借りずに自力でやっていこうと考えていたようです。それで、好きなお酒は控えて、という涙ぐましいやりくりをしていたんですね。

 弁護人 「事件のことを聞きます。そんなに鼻歌が気に食わなかったんですか?」
 被告人 「夜の10時近くで、(相部屋の)みんなが寝静まっているので、注意したんです」
 弁護人 「なぜ外に出たんです?」
 被告人 「中で口論していると、他の人に迷惑がかかりますし、ケンカすると追い出されるルールになってましたので」

 相部屋の人のことを思い、代表で注意したという主張のようです。しかも、寝てる人の邪魔にならないように外に出た、と。
 ここまでは理解できるとしても、問題は包丁ですよ。すると、弁護人が訊きました。

 弁護人 「包丁を持ち出したのはなぜですか?」
 被告人 「相手の言葉を聞くと、どうにも(ケンカを)する気マンマンでしたので、けん制の意味で持っていきました」
 弁護人 「けん制といいますと?」
 被告人 「取っ組み合いや殴り合いになるのを防ぐためです」
 弁護人 「なぜ、そういうことを防がなければならなっかったんですか?」
 被告人 「体格も全然違いますし、やりあったら、半殺しの目にあうと思いましたので」

 そう言われると、被告人は62歳と言うにはちょっと老けていて、細身のおじいちゃんといった風体なんです。

 弁護人 「あなたはかなり細身ですよね。被害者はどうなんですか?」
 被告人 「プロレスラーのような体格で、体重も40キロくらい違いますし」

 プロレスラーvs細身のおじいちゃん。この戦いを避けるための包丁だったようです。

 弁護人 「外に出てからのことを教えてください」
 被告人 「外に出て、包丁を構えました。素手の人が包丁を持っている人にかかってくることはないだろうと思ったんですが、襲ってきまして。それでとっさに刃を逆にして包丁の峰で首の辺りをたたきました」
 弁護人 「切れない方で叩いた、と。それで?」
 被告人 「被害者が余計にいきり立って襲ってきたので、そばに寄ってこないように包丁を振り回していました」

 目撃者が見たのは、この瞬間だったのでしょう。
 この後は、もみ合いの勢いもあって刺してしまったこと。必死だったので、よく覚えてないことなどを述べて質問終了。

 早い話、弁護人としては過剰防衛の主張です。罪を認めた上で、刑の軽減をお願いしているわけ。
 この主張をひっくり返すのが検察官の仕事ですよ。どんな質問を繰り広げるのか。

 検察官 「外に行ったのはあなたが“表に出ろ”といったのが、きっかけですか?」
 被告人 「はい」
 検察官 「あなたも頭にきてたんじゃないですか?」
 被告人 「“やるのか、小僧!”なんて言われて、カッとなってました」
 検察官 「あなたも相手も頭に血が上ってる状態ですよね。包丁を出されて引っ込む人もいるだろうけど、余計カッカとなる人もいるんじゃない?」
 被告人 「素手の人間が包丁持った人に襲ってくるなんて思ってもいませんでした」

 この後は、もみ合って刺したときの状況を聞きだそうとするんだけど、被告人はよく憶えてないようで、なんともすっきりしないんだよなぁ。少なくとも、過剰防衛の主張を崩すほどの質問は出来てなかったですね。

 最後は裁判官から。

 裁判官 「目撃者が倒れている被害者の頭を被告人が蹴ったと言ってるようですけど、蹴ったんですか?」
 被告人 「起き上がってこないように」
 裁判官 「あぁ、そういうことですか。でも、蹴ったのは間違いないんですね」
 被告人 「はい」
 裁判官 「あなたとしては、包丁を見せつけてどうなることを望んだんですか? 相手は酒に酔ってカッカとしてるんですよね。そのままふたりでおとなしく同じ部屋に戻って、寝ようと思っていたんですか?」

 なかなか鋭い質問です。結局、この2人が帰るのが同じ部屋ですからね。

 被告人 「んーー、うやむやになるかな、と」
 裁判官 「うやむやって?」
 被告人 「(被害者が)謝るとか…、うーーん、謝ることはないでしょうけど」
 裁判官 「被害者の性格から言って、絶対に謝らないでしょうね」

 何、その決め付け。被害者もすごいいわれようです。

 被告人 「そうですね。ただ、殴り合いにならなければ、と」
 裁判官 「そうですか」

 と、質問終了。
 被告人の言ってることも分かるけど、他に手段はなかったのかね。かといって、警察に言うほどではないし、ビジネス旅館の人に言っても、ケンカしたら追い出されるルールがあるわけだし。
 そして、論告・求刑です。しかし、ここでハプニング発生。

 裁判官 「検察官、論告をお願いします」
 検察官 「あのー、過剰防衛を主張するとは聞いていなかったので、それも情状じゃなく、減軽の主張のようですし」
 裁判官 「は? そんなの質問の時に聞けばいいでしょ」
 検察官 「あ、え、何を?」
 裁判官 「過剰防衛かどうかをでしょ! 皆、それを軸に質問してたんじゃないんですか?」

 グダグダの検察官に裁判官激怒です。

 検察官 「ま、(論告を)口頭でやるにしても、文章を考えなきゃいけないですし」

 要するに、次回の公判で論告をやらせてくれとお願いしてるわけです。
 裁判官は大きくため息をついて、予定表をぺらぺらとめくり始めました。

 裁判官 「うーーん、弁護人! 次回期日、明日とかだと、びっくりしちゃいますよね?」
 弁護人 「16時以降でしたら大丈夫ですけど」

 裁判官は顔色をうかがいながら、

 裁判官 「え? 大、丈、夫、ですかぁ?」

 なんと、論告・弁護が翌日に決定です。次の日になるって、かなりレアなケースですよ。しかし、

 裁判官 「あ、別件があるか。すみません、私の体があいてないようで」

 自分のスケジュールを忘れていた裁判官。予定なんかパンパンにつまってるんだから、次の日に予定を入れるのは無理なんだろうな、と思ってたから、検察が勢いよく立ち上がって、

 検察官 「(論告を)ぱっと考えました!」

 だってさ。そんな思いつきみたいな論告でいいのかよ。
 ぱっと考えた結果は、求刑懲役4年と柳刃包丁没収。そして、過剰防衛は成立しない、と。
 これに対し弁護人は、目撃者が「被害者の方が有利に見えた」という証言をもとに、あらためて過剰防衛を主張していました。
 結果はどうなるか分からないけど、争いを避けようとしてた被告人が、惨劇を呼び起こしてしまうとはね。理由はどうあれ、そもそも包丁は人に向けるものではないんですよ。

注目の裁判

6月29日(月)被告人・川上大地:傷害
<アルバイト店員による傷害事件> 08年8月、東京都港区の居酒屋のアルバイト店員川上大地(当時26)は男性客(当時70)と口論になり、殴られたために殴り返した。男性客は後頭部を壁に打ち付け、意識不明の重体となった。

6月29日(月)被告人・神崎修一:児童買春・児童ポルノ禁止法違反
<少女のわいせつDVDを制作した事件> 09年2月、タレントプロダクション「ピンキーネット」の経営者、神崎修一(41)らは、水着などを身につけた少女にわいせつなポーズをとらせたDVDを制作したとして逮捕された。08年6月に当時16歳の少女にスタジオでわいせつなポーズをとらせて児童ポルノのDVDを制作した。(「着エロかポルノか…この裁判は長そうだ」参照)

6月29日、7月2日(月、木)被告人・黒木樹:殺人など
<不動産会社社長の死体遺棄事件> 07年4月、住所不定無職の高科龍軌(当時31)須和名聡(当時31)篠沢大介(当時36)黒木樹(当時41)らは板橋区のマンションから殺害した不動産会社社長、冨田威裕(たけひろ)さん(29)の遺体をカバンに入れて群馬県吉井町の雑木林まで車で運び、穴に埋めた。

6月30日(火)被告人・小川俊之:爆発物取締罰則違反(判決)
<皇居に向かって火薬を詰めた消火器を発射した事件> 08年9月、神奈川県相模原市の元陸上自衛隊員の小川俊之(当時34)が、火薬を詰めた消火器を皇居に向けて発射したとして、逮捕された。

6月30日(火)被告人・阪尾俊之:威力業務妨害(初公判)
<ネットの掲示板に不法な書き込みをした事件> 09年4月、大阪府阪南市の大学生、阪尾俊之(当時20)は、インターネット掲示板「2ちゃんねる」に「赤坂サカスで血のアメを降らせてやる」などと書き込んで、同所を管理するTBSに警備を強化させ、同社の業務を妨害したとして逮捕された。

6月30日(火)被告人・守谷和真:著作権法違反(初公判)
<ネットで無許可でテレビ番組を配信した事件> 09年5月、「ジェーネットワークサービスインターナショナル」経営の守谷和真(当時40)は、著作権法違反で逮捕された。同社はフジテレビが放送した番組を無断で東南アジアや欧米の在外邦人の顧客にインターネットで視聴させた。

6月30日(火)被告人・大崎薫:保護責任者遺棄(判決)
<ネットカフェで出産し遺棄した事件> 08年10月、無職大崎薫(当時30)は、インターネットカフェのトイレで男児を出産し置き去りにしたとして逮捕された。「お金がなく、育てられないと思った」と供述した。

6月30日(火)被告人・伊藤信也:保護責任者遺棄致死など
<長女を衰弱死させた事件> 06年9月、栃木県那須烏山市の不動産賃貸業伊藤信也(当時66)は、病気療養中の長女(当時40)を監禁し衰弱死させた。1審で懲役5年の判決を受けた。

6月30日(火)被告人・白石敦子:強盗殺人
<トラック運転手を殺害した事件> 08年3月、埼玉県上尾市の雑貨店経営白石敦子(当時56)は、無職男と共謀し、経営する雑貨店で頭にかぶせたエコバッグの上からビニールテープを巻き付けるなどしてトラック運転手、河原塚建一さん(当時66)を殺害し、現金3万円を奪った。1審で無期懲役の判決を受けた。

7月1日(水)被告人古川聡:逮捕監禁、集団強姦致傷、強盗(控訴審初公判)
<女性を拉致して乱暴した事件> 08年10月、建築防水作業員古川聡(当時40)とスレート作業員今中宏樹(当時36)は、前年10月に東京・銀座を歩いていた都無職女性を車に連れ込み、4人で強姦し、現金約1万8千円が入ったバッグなどを奪ったとして逮捕された。

7月1日(水)被告人・吉岡正行:殺人
<女性をはさみで刺殺した事件> 07年7月、埼玉県鷲宮町の無職、吉岡正行被告(当時38)は同県杉戸町の路上で、借金をめぐるトラブルなどから知人女性をはさみで刺殺したとして逮捕された。1審で無期懲役の判決を受けた。

7月2日(木)被告人・波和二:組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)(初公判)
<L&G詐欺事件> 09年2月、健康寝具販売会社「エル・アンド・ジー」は、組織的に会員から出資金をだまし取ったとして会長の波和二(かずつぎ)(当時75)や幹部を逮捕した。被害者約3万7000人、被害総額約1260億円とみられる。

7月3日(金)被告人・片石肇:強盗傷害(判決)
<プロレスグッズ専門店での強盗事件> 09年2月、千葉県柏市の無職、片石肇(当時28)は他の2人と共謀して東京都千代田区のプロレスグッズ専門店に押し入った。男性店員に暴行を加え、現金15万9000円と、マスク5点などの商品を奪った。

7月3日(金)被告人・矢島美代子、浜岡竜:薬事法違反(初公判)
<未承認の医薬品を販売した事件> 09年4月、東京都豊島区の健康食品販売業社長、矢島美代子(当時49)と同社役員、浜岡竜(当時32)は、「やせる…」とうたって未承認の医薬品を宣伝し、無許可で販売したとして、逮捕された。1億円以上を売り上げとみられる。


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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。

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