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2008年4月14日

ケンカして包丁で人を刺す人格者

 ついに裁判員法の施行日が決定したそうですね。日本初の裁判員裁判は、来年の7月下旬から8月下旬になりそう、とのこと。“2009年の5月までに裁判員制度が始まります”って書かれたチラシやパンフレットを目にしていたから、てっきり1年切っているかと思っていたんだけど、15カ月も先の話なんですね。それでも、遠い話じゃないけど。

 そんな中、秋田地検の広報キャラクターが「カントくん」に決定! 下書きのようなイラストは、庶民的なキャラクターをアピールするためなのか、手抜きなのか。そして、いつの間にか決定していたのが、鳥取地検。その名も「トリー」と「サリー」。裁判員制度の不安を“取り去り”たいという思いを込めての命名だそうです。国民に不安があることを前提に作られているとは微笑ましい。あと数県で全国の裁判員広報キャラクターが出そろいますね。早くしないと裁判員制度が始まっちゃいますからね。まだの地検は、急げ!

 2週間ぶりの今回は、4月11日(金)に行われた樋口伸太郎被告人(59)の裁判傍聴記。罪名は傷害。

 同僚を刃物で刺したとして、警視庁西新井書は、殺人未遂の疑いで警備員樋口伸太郎容疑者(59)を逮捕された事件ですね。
 当時の報道によると、警備員の樋口は今年1月、自宅の警備会社社員寮で、同僚の男性(35)の頭をさやがついた刃渡り38センチの刃物で殴ったうえ、胸を刺して重傷を負わせた。事件当時、樋口は被害男性と他の同僚の3人で酒を飲んでいたが、口論になって刺したという。

 逮捕は殺人未遂なんだけど、軽めの傷害罪での起訴になってました。酔っていたとはいえ、刃物を持ち出すほどの口論とは? そもそも刃渡り38センチもの刃物を持っていた理由とは?

 検察官の冒頭陳述によると、被告人は職を何度か替えた後、07年10月に警備会社に就職。その会社の社員寮に入り、被害者とは相部屋で一緒になり知り合う。
 しかし、被害者が部屋を片付けないなど、被告人が不満を抱えていたため、08年1月上旬には別々の部屋で生活することになる。

 そして、犯行日の1月31日。被告人の部屋で、被害者と他の同僚、そして、被告人の3人で飲酒。酔った被害者が「樋口さんには会社からケータイを渡さないように言っておく」などと言い、それに立腹した被告人がさやのついた刃渡り36・6センチの儀礼刀で頭を数回殴った。さらに、さやが壊れて刀がむき出しになった儀礼刀を被害者の右胸を突いて、全治2週間のケガを負わせたというのが事件の詳細のようです。

 話の前後がわからないから、被害者の「ケータイを渡さないように言っておく」の一言で、被告人が怒りだした理由がよく分からないんだけど、以前から被害者に対して不満を持っていたようですね。で、面白いのが、取調べでの被害者と目撃者である同僚の供述なんです。

 被害者は「厳罰を求めるか」と言われると「樋口さんは悪い人ではないですし、自分にも落ち度があるとは思ってますが、ここまでされることはないという複雑な気持ちです」と述べているらしい。目撃者である同僚は「樋口さんの行動はやりすぎだと思いますが、よほどガマンしていたことが爆発したのだと思います。樋口さんはホントによい人で、面倒見もいいし、礼儀正しくて、ケンカしているのを見たことはないです」と述べているそうな。

 これだけの事件を起こしているのに、よい人扱いされているのは、よっぽどのことなんでしょう。罪を憎んで人を憎まず、とは言うけど、ここまで人格を持ち上げるのは珍しい。
 そんな悪い人ではない被告人への質問です。まずは弁護人から。

 弁護人 「なぜ、こんなことをしたんでしょうか」
 被告人 「お酒も入っていましたし、被害者(公判では実名)の言い方にもカッときて」
 弁護人 「凶器…それも包丁を使ったのはなぜですか?」
 被告人 「棚の上に棒とかもあったんですが、とっさに手に取ったのが包丁でした」

 刃渡り36・6センチの儀礼刀を“包丁”と言うのはちょっと違和感があるんだけど、理由は後で明らかになります。

 弁護人 「意図的に被害者の胸を狙いましたか?」
 被告人 「いえ、それはありません」
 弁護人 「狙ってたら、さや抜いて最初から刺してるよね」
 被告人 「えぇ、そうですね」

 計画的な犯行でなく、酒に酔っていたこともあり、衝動的にやってしまったと主張していました。

 弁護人 「今まで酒で失敗した事は?」
 被告人 「いやぁ、口ゲンカくらいはありますけど」
 弁護人 「どうすればよかったと思います?」
 被告人 「我慢して(被害者を部屋に)返せばよかったな、と。お酒をやめようと思います」

 と、断酒宣言です。被告人本人も「もう懲りました」と肩を落としているし、酒やめるって言うより、飲みたくない感じでしょうね。

 弁護人 「警備会社の社長さんが面会に来てくれたようだけど、何か言っていましたか?」
 被告人 「怒られましたけど、起こしたことは仕方ないんで、今後このようなことがないように、と」
 弁護人 「クビとは?」
 被告人 「言われていません。社長が許してくれるなら続けたいんですが、まだ分かりません」
 弁護人 「もし仕事を続けることになったら、被害者と会うんじゃない?」
 被告人 「それは大丈夫です。根っから恨んでるわけじゃないんで」

 どれだけ信用されてる被告人なんだろう。会社の方も器がデカいというか。被害者の供述を聞いた感じだと、今後もうまくやっていけそうだしね。なんか、皆に愛されている被告人だよなぁ。

 そして、気になる刃物についての質問です。

 弁護人 「あなたの部屋に置いてあった凶器の包丁ですけど、これは以前の仕事の関係でホテルの料理長にもらったものなんですよね」
 被告人 「そうです」

 十分に殺傷能力のある刃渡り40センチ弱の刀を弁護人が“包丁”と呼んでた理由はここにあったんですね。

 弁護人 「日本刀の小刀みたいなものですよね。登録しなきゃいけないと思いますけど、登録してました?」
 被告人 「いいえ。片刃で包丁みたいなものだからと言われていたので」
 弁護人 「でもね、こんな刃物使わないでしょう。断ってもよかったんじゃない?」

 料理人でもない被告人には必要ないだろうと弁護人が尋ねたわけです。すると、その答えが、

 被告人 「記念にということで、何気なしにもらったんですけど、断るのも」

 とのこと。被告人の人のよさが裏目に出てしまったようです。料理長のプレゼントを断っておけば、ここまでの大事にはなってなかったかもしれないのに。

 この後、検察官が懲役2年と刃物1本没収の求刑をして、閉廷でした。
 被害者が厳罰を求めないケースは多々あるんだけど、周囲の人がここまで人格を褒め称えるのは本当に珍しいんだよね。
 被告人の性格、人格に問題がないとすれば、責められるのは酒でいいのか。…包丁で刺してるんだけどねぇ。

注目の裁判

11月2日(月)被告人・氏家信子:殺人ほか(判決)
<息子を殺害した事件> 09年1月、東京都大田区の無職氏家信子(当時65)は傷害を持つ双子の息子に包丁で切りつけた。弟は病院で死亡が確認された。

11月2日(月)被告人・秋山直紀:所得税法違反(初公判)
<防衛汚職関連の所得税法違反事件> 08年8月、日米平和・文化交流協会会長の秋山直紀(当時58)は、防衛関連企業から受け取ったコンサルタント料を隠し所得税を免れたとして逮捕された。

11月2日(月)被告人・竹林守、成田茂之、他1人:公職選挙法違反(詐欺登録・詐欺投票)(初公判)
<従業員の住民登録を移し投票を支持した事件> 09年9月、機械製造販売会社「水戸工業」の社長・成田茂之(当時57)らは自社の従業員の住民登録の場所を変更させ、衆議院議員選挙で自民党に投票するよう指示したとして逮捕された。

11月2日(月)被告人・熊谷智幸:強制わいせつと偽造私印使用(初公判)
<テレビ局員を装ってわいせつ行為をした事件> 09年8月、インターネット広告会社役員、熊谷智幸(当時35)は、東京都板橋区内の路上で30代の女性にフジテレビの社員を装った偽の名刺を手渡して声をかけ、近くのマンションのエントランスまで連れて行き、わいせつな行為をした疑いで逮捕された。

11月2日(月)被告人・押尾学:麻薬取締法違反(使用)(判決)
<俳優による麻薬事件> 09年8月、東京・六本木のマンションで女性が死亡していると119番通報があり、部屋に出入りしていたとして俳優の押尾学(当時31)が任意で事情聴取を受けた。任意の尿検査で、合成麻薬のMDMAに陽性反応が出たため麻薬取締法違反(使用)の疑いで逮捕された。

11月4、5、6日(水、木、金)被告人・太田周作:殺人未遂(初公判)
(初公判、5日6日も) <駅のホームから女性を突き落とした事件> 09年3月、無職太田周作(当時24)は、JR東京駅で女性(当時60)をホームから突き落とし、電車に接触して負傷させたとして、殺人未遂で逮捕された。取調べに対して「(事件を起こすのは)どこでも、誰でもよかった」などと供述した。

11月5日(木)被告人・寺岡誠吉:殺人
<運送会社役員を殺害した事件> 08年12月、運送会社社長の寺岡誠吉(当時71)は、元暴力団組員に依頼して06年9月に同社役員の栩野雅晴さん(当時66)を殺害させたとして逮捕された。

11月5日(木)被告人・中田静子 ほか1名:昏睡強盗、窃盗
<スナック客に対する昏睡強盗> 09年3月、バー経営の中田静子(当時62)はスナック経営の細江敏光(当時39)と共謀、スナックで男性客に強い酒を飲ませて昏睡状態にさせ、キャッシュカードを奪って現金自動預払機から金を引き出したとして逮捕された。

11月6日(金)被告人・波和二ほか:組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)
<L&G詐欺事件> 09年2月、健康寝具販売会社「エル・アンド・ジー」は、組織的に会員から出資金をだまし取ったとして会長の波和二(かずつぎ)(当時75)や幹部を逮捕した。被害者約3万7000人、被害総額約1260億円とみられる。

11月6日(金)被告人・片石肇:強盗傷害(控訴審判決)
<プロレスグッズ専門店での強盗事件> 09年2月、千葉県柏市の無職、片石肇(当時28)は他の2人と共謀して東京都千代田区のプロレスグッズ専門店に押し入った。男性店員に暴行を加え、現金15万9000円と、マスク5点などの商品を奪った。

11月6日(金)被告人・多田知信:窃盗、住居侵入(初公判)
<警察寮での窃盗事件> 09年8月、警視庁大森警察署地域課巡査長の多田知信(当時30)は、08年11月に警察寮の同僚の部屋に侵入し、腕時計を盗んだとして逮捕された。


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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。

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