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2008年1月21日

ホームレス殺人、きっかけは1本のコーラ

 裁判員制度を開始するにあたっては、いろんな議論がされています。で、先週、報道に関する答えが日本新聞協会から出されたのです。

○捜査段階の供述の報道にあたっては、(中略)内容のすべてがそのまま真実であるとの印象を読者・視聴者に与える事のないよう記事の書き方等に十分に配慮する。

 今後、事件を報じる時は、今までと違う形になりそうです。必要以上に事件を報じて、裁判員に予断を与えてしまうのを危惧しての結果でしょう。でも、今時、マスコミから流されてくる情報がすべて本当だと思っている人なんているのかね。報じられた内容が事実ってわけじゃなくて、報じられたという事実と受け入れて自分で判断するんじゃないの。このコラムも事件の内容は新聞記事からの転載・引用・抜粋にしてるんだけど、裁判を傍聴したら記事と違っていたってケースは多々あるわけだしね。そんなに流されやすい大人が多いとは思えないんだよなぁ。

 この日本新聞協会の指針について、鳩山邦夫法務大臣は「(現在も)比較的常識的な報道がされている。報道を強く規制したら、国民の常識が変化し、裁判に参加してのその社会通念が生かされない」とコメント。報道規制の必要はないと考えているようです。

 果たして“比較的常識的な報道”は、裁判員制度が始まると間違っていたということになるのでしょうか。今後のニュース・新聞に注目ですね。というか、もうちょっと国民を信用してもいいんじゃないの? 報道規制ぐらいのことで常識が変化するような国民なら、人を裁くなんて到底無理でしょう。

 今回は1月18日に行われた加藤大介被告人(33)の裁判の話。罪名は傷害致死。

 新聞報道によると、ホームレスによるホームレスの殺人事件ですね。07年10月中旬、無職の加藤大介が東京都江戸川区の都立大島小松川公園で、住所不定の西岡義人さん(57)を「ウソをつかれ、腹が立った」と足蹴にするなどして死なせた。加藤は07年9月ごろから公園に現れるようになり、以前から公園に住んでいた西岡さんと2人で酒を飲むなどする仲だった。

 人を殺してしまうほど立腹した、ウソとは一体どんなものだったのか。起訴された罪名は、逮捕時の殺人ではなく、傷害致死。検察官は被告人に殺意はなかったと認定しての起訴のようです。

 検察官の冒頭陳述によると、被告人は5年間勤めた住み込みの仕事を辞め、07年4月頃から住所不定無職に。公園などで寝泊りしていた7月下旬に、大島小松川公園で生活している被害者と知り合う。そして、10月13日の犯行当日。被告人と被害者の腹を2回けり、手拳や棒で複数回顔を殴って被害者を死に至らしめた。死因は外傷性ショック死。

 どうやら、被告人と被害者は事件の3カ月前から知り合いだったようです。そして、被告人の取調べでの供述が朗読され、事件の動機・詳細が明かされました。

 検察官 「事件の3カ月前、ペットボトルのコーラを置いて、その場を離れ、戻ってくるとそのコーラがなくなっていた。盗まれたと思い、その場にいた人を問い詰めると“俺は盗ってない。物を置いておくと盗まれるから気をつけなよ”と言われ、それから西岡さんと親しくなりました」

 コーラを失くした時に、同じホームレスとしてアドバイスしてくれたのが、被害者だったようです。それからは、被告人が杖(つえ)を使って生活する被害者の面倒をみてあげたり、一緒に食事をしたりと2人で行動するような親しい仲になったとのこと。

 検察官 「そして、犯行当日については、『15時頃私とおっちゃん…おっちゃんとは被害者のことですが2人でスーパーに行きまして、一緒に万引をしました。私はカツどん、おっちゃんは焼酎を盗みました。そして、公園に戻り2人でしゃべっていると“最近はいい女がいないな”と言い出したので、私は“そんなことないですよー”と言い返したので、険悪なムードになりました。そして、おっちゃんに“物を隠す袋を取ってくれ”と言われ、袋を取り出すと、その中に3カ月前に盗られたコーラのペットボトルが入っていました。コーラの量もあの時と同じだったので問い詰めると、おっちゃんは、“すまん、ゴメン”と謝りました。私は、3カ月間だまされ続けたという思いがこみ上げ、おっちゃんを殴りました。今としてはあまりにも小さなことだと思いますが、その時はがっかりしたのです』と述べております」

 動機はたった1本のコーラだったようです。こんなことで、人が亡くなってしまうとは。なぜ、被害者が一口も口をつけず、コーラを3カ月持っていたかは分からないけど、これほどの怒りを買うとは思わなかったでしょう。

 自分の物を盗まれた怒りは理解できても、ここまで殴ったりするのは理解しがたいところです。だいたい、犯行前にはスーパーで人のものを盗んでいるわけだし、その辺の倫理観はどうなっているのやら。
 そして、被告人質問です。まずは、弁護人から。

 弁護人 「おっちゃんの家族に対して、何か言いたい事はありますか?」
 被告人 「私のしたことで、取り返しのつかないことになってしまって」
 弁護人 「おっちゃんに対しては?」
 被告人 「寝る時も起きる時も、毎日おっちゃんが思い浮かびます…」

 声は小さいものの、被害者・遺族に対して謝罪の弁を述べていました。そして、被告人の生育歴・性格についての質問です。

 弁護人 「幼少期、親に対してどう思ってました?」
 被告人 「親と思ってませんでした」
 弁護人 「他の弟さんと比べて、あまり愛情を注がれなかったそうですね」
 被告人 「自分だけ外にいる感じで」
 弁護人 「高校1年のころに家を出てますが、ホームレスになった時、親元に戻ろうとは思いませんでしたか?」
 被告人 「少しは思いましたけど」
 弁護人 「なぜ、戻らなかったのですか?」
 被告人 「私に対して愛情がないので」
 弁護人 「今回逮捕されて、親から差し入れは?」
 被告人 「父の方から下着の差し入れはありました」
 弁護人 「お金は?」
 被告人 「ありません」

 逮捕後は母親から手紙が1通きただけで面会には来てくれていないとのこと。

 弁護人 「あなたは物への執着心が非常に強いという、ちょっと変わった性格のようですね。子供の頃、机の上の消しゴムが動かされただけで激高したことがある、と」
 被告人 「はい。おばあちゃんからもらった物だったので」
 弁護人 「本件もね、裏切られたという気持ちは分かりますが、普通の人ならここまでやるだろうか?」
 被告人 「いえ。(私の場合は)感情をうまくコントロールできないのだと思います」
 弁護人 「今後、専門家のカウンセリングや意思の治療を受けないとね」
 被告人 「それは自分も、うすうす分かっています」

 と、自分の性格に問題があったと主張して弁護人からの質問は終了。
 次は、検察官からの質問です。

 検察官 「あなた、棒で殴ってるよね」
 被告人 「はい」
 検察官 「それは西岡さんの杖ですよね」
 被告人 「そうです」

 杖と言っても、公園に落ちていた木の枝で、かなり太く立派なものだったらしい。

 検察官 「西岡さんはコーラを盗んだことを謝ったんでしょ。こんなに執拗に殴らなきゃいけなかったんですか?」
 被告人 「感情的に熱くなってしまって」
 検察官 「殴っているとき西岡さんは抵抗しませんでした?」
 被告人 「…いえ、無抵抗でした…」
 検察官 「どう謝罪するつもりですか?」
 被告人 「生涯、罪を背負って、おっちゃんのことを忘れないようにしたいです!」

 と、述べて質問終了。
 この後、検察官は懲役12年を求刑し、閉廷でした。

 足腰の弱かった被害者は和式トイレでかがんだ後、自力で立ち上がることができず、被告人に手伝ってもらっていたらしい。たった3カ月の仲とはいえ、かなり親しい付き合いだったんじゃないかと思えるエピソードです。親に愛されずに育った被告人にとって、被害者は父親代わりだったのかもしれないですね。

 しかも、悪いことではあるけど、一緒に万引するという秘密を共有した仲でもあるわけだ。それが、3カ月前にコーラを盗まれたという怒りで殴り殺されてしまうなんて。しかも、自分が使っていた杖で。抵抗することもなく。

 被告人の激高しやすい性格だけで片付けられては、困るんだけどなぁ。どこまでも切なく、やりきれない事件だね。

注目の裁判

10月14日(火)被告人・上田賢治:強制わいせつ致傷(判決)
<電通の子会社社員によるわいせつ事件> 08年3月、電通テックの社員上田賢治(当時39)は、同年1月に知り合いの20代女性をカラオケ店に誘い、無理やり体を触るなどして、女性に軽傷を負わせたため逮捕された。

10月14日(火)被告人・横木正行:昏睡強盗(初公判)
<派遣風俗店員に対する昏睡強盗> 08年7月、東京都足立区の無職、横木正行(当時44)は、豊島区巣鴨のホテルに風俗店勤務の女性(当時24)を呼び睡眠薬入りの酒を飲ませ、現金6万2000円を奪った。

10月14日(火)被告人・守屋武昌、秋山収、宮崎元伸、今治友成:収賄、議員証言法違反、贈賄
<防衛装備品調達をめぐる汚職事件> 前防衛事務次官、守屋武昌(63)は、防衛省の装備品調達で山田洋行に便宜を図る見返りにゴルフ旅行接待を受けたり、現金を家族名義の口座に受け取ったりした。また、国会の証人喚問で虚偽の証言をした。

10月14日(火)被告人・桑原和宏:殺人等(判決)
<両親を死傷させた事件> 07年9月、東京都杉並区の無職・桑原和宏(当時38)は、カッターナイフで切りつけ、父親の正さん(当時70)を殺害、母親の房子さん(当時69)に重傷を負わせた。父親と口論になったのが原因だったと供述した。

10月15日(水)被告人・山本英世:強盗傷害(判決)
<郵便局員から小包を奪った事件> 08年7月、無職山本英世(当時23)は、東京都新宿区のビル玄関で、郵便配達員の男性(当時39)に催涙スプレーを吹きつけ、配達小包を奪って逃走した。

10月15日(水)被告人・緒方重威 満井忠男:詐欺
<朝鮮総連中央本部に対する詐欺事件> 07年6月、元公安調査庁長官、緒方重威(しげたけ)(当時73)らは、朝鮮総連に架空の売却話を持ちかけ、中央本部の土地・建物をだまし取った。

10月16日(木)被告人・荻野宏:公務執行妨害ほか(初公判)
<医師が警察官の拳銃を奪った事件> 08年5月、東京都世田谷区の医師荻野宏(当時42)は、杉並区の路上で別居中の妻とトラブルになり、かけつけた警察官の拳銃を奪って上空に向けて発砲。公務執行妨害と銃刀法違反、強盗容疑で逮捕された。

10月17日(金)被告人長沢清:殺人(判決)
<別居中の妻を刺殺した事件> 07年12月、団体職員長沢清(当時55)は、路上に止めた車内で別居中に妻の文子さん(当時52)を刃物で刺して殺害。自身も腹部や手首を切って一時意識不明の重体となった。

10月17日(金)被告人・下藤卓生:脅迫(初公判)
<ネット掲示板で歌手を脅迫した事件> 08年8月、住所不定、無職下藤卓生(当時23)は、札幌市のネットカフェから歌手小宮真央(当時20)を「8月10日に殺します 場所はてめぇの家だ」と掲示板に書き込んだ。み、脅迫した疑い。

10月17日(金)被告人・渋谷博久:不正アクセス禁止法違反、電子計算機損壊等業務妨害(初公判)
<会員データを消去した事件> 08年9月、派遣社員渋谷博久(当時28)は、ITサポート会社「アットスター」のサーバーに不正にアクセスし、通販サイトの氏名、住所などの会員データと商品データを削除した。「待遇や給与でトラブルになった上司を困らせたかった」と供述した。


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阿曽山大噴火コラム「裁判Showに行こう」
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。99年にオウム裁判をきっかけに裁判ウオッチに興味を持ち、その後は裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。自称「インディーズ司法記者」。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)。

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