2009年7月03日
(23)渡「映画に人生を懸けていた」

- 65年、映画「赤い谷間の決闘」で共演する石原裕次郎(左)と渡哲也
話題は決まって「映画」になった。東京・成城の石原裕次郎邸。「なあ、テツ」。裕次郎はそう切り出すと、自分をじっと見つめる渡哲也(67)に向かって熱っぽく語りかけた。
「舞台はアフリカだ。ファーストカットはもう決まっているんだ。遠くにサバンナが見える。カメラは望遠だな。はるか遠くに人影が見えてくる。そいつはこっちに向かって歩いている。望遠レンズに映るその男はどんどんこっちに寄ってくる。それはおれだ。そこから…」。身ぶり手ぶりで頭の中に浮かんだ映像のイメージを再現。「ズンズンズンズン…」という緊迫感ある音楽も合間に交える。「そこからどうなるんですか?」「なるほど」などと時折投げ掛けられた渡の言葉に答えながら“新作映画”の構想は延々と続いた。
渡は不思議に思った。石原プロを立ち上げた裕次郎は「黒部の太陽」「栄光への5000キロ」と主演・製作した作品を大ヒットに導いた。しかしその後製作した「ある兵士の賭け」(70年)はハリウッドの監督や脚本家を使うぜいたくさが製作費を膨らませ、興行的な失敗を経験する。当時の金額で約5億8000万円の負債を負った。裕次郎は直後に肺結核に倒れ、石原家の預金通帳の残高はわずか5万円になった。妻まき子は婚約指輪と結婚指輪を残し、すべての宝飾品を売り払った。“新作”の話は裕次郎が絶望の連続を味わった直後に聞いた。「並の人間なら、とてもじゃないが映画作りの話なんてできないはず。ところがそんなことをみじんも感じさせず、一切構わず夢を語る。この人はどこまでもロマンを失わず、本当に映画を愛し、映画に人生を懸けていると心底感じました」。
その後、何度も裕次郎邸を訪れたが、2人きりになると、必ずその“新作”の話になった。何度も聞いていたが、渡はいつも初めて聞くような顔をした。「5~6回は聞きましたね。知っていても、裕次郎さんの目を見ると止めることなどできなかったですね」。
石原プロはその後、以前ほどのスケールではないがいくつかの作品を世に送り出した。それでも裕次郎は野心的でスケールの大きい感動作を追い求めた。
亡くなる2年前の1985年(昭60)3月。療養生活を送るハワイに脚本家の倉本聡を招き、新作の構想を練った。ハワイを舞台にした父娘の物語だった。ハワイの地図にあちこち印を書き、カメラ位置にまで話は弾んだという。
渡は仕事のため日本にいた。話をスタッフから聞くと、いつも裕次郎邸で聞いた、あの映画について話す裕次郎の弾んだ声と、遠くを見つめるような目を思い出した。裕次郎には知らせていなかったが、その10カ月前、肝細胞がんの診断を受けていた。「やっぱり社長には告げられない」。渡は目頭を熱くしながら、あらためて決意した。(つづく=敬称略)【特別取材班】
◆渡哲也(わたり・てつや)本名・渡瀬道彦。1941年(昭16)12月28日、兵庫県生まれ。64年日活入社、65年「あばれ騎士道」で俳優デビュー。66年「愛と死の記録」や石原裕次郎主演作のリメーク「嵐を呼ぶ男」などに主演しブルーリボン賞新人賞。68年開始の「無頼」シリーズがヒット。71年に日活を退社し、石原プロ入り。76年「やくざの墓場・くちなしの花」でブルーリボン賞主演男優賞。「大都会」「西部警察」などドラマでも人気を獲得。裕次郎死去に伴い87年に石原プロ社長に。
◆裕次郎の右耳 亡くなる6年前から、裕次郎の右耳は聞こえなかった。81年に解離性大動脈瘤(りゅう)で手術した後遺症と思われる。手術から約2週間後にまき子夫人に変調を訴えたが、周囲に聞こえないそぶりは一切見せなかった。同年11月には「太陽にほえろ!」に復帰し、翌年以降もアニメ映画「わが青春のアルカディア」の声優、「西部警察」への出演、歌も精力的に歌った。
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