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2009年6月20日

(14)小百合、無言の優しさ今でも

69年12月、石原プロ7周年記念パーティーに出席した吉永小百合(右端)、左へ石原裕次郎、石原まき子夫人、浅丘ルリ子
69年12月、石原プロ7周年記念パーティーに出席した吉永小百合(右端)、左へ石原裕次郎、石原まき子夫人、浅丘ルリ子

 病室のドアをノックすると返事が聞こえた。緊張気味の吉永小百合(64)は、そっとドアを開けた。ベッドの上で体を起こした裕次郎は「小百合ちゃん、頑張りなさいよ」と声を掛けた。1984年(昭59)の夏。裕次郎は東京・慶応病院に入院していた。吉永も夫の岡田太郎(79)が同じ病院に入院していたのだった。裕次郎がいると知り、見舞いに駆けつけた。でも、何より先に自分を励ます言葉を掛けられたことに驚いた。「いろいろと大変だろうけど、頑張りなよ」。裕次郎は岡田の入院をすでに知っていた。立ったままの吉永は「裕次郎さんこそ、お大事になさってください」。裕次郎の「おぉ、ありがとう」という笑顔を見届けると部屋を出た。「何とも言えないやさしさに触れて感激しました」。

 思えば、いつ会っても緊張していた。日活入りしたのは15歳。25歳だった裕次郎はすでにトップスターだった。中学時代、裕次郎の主演映画をよく見た。「家が裕福ではなかったので、封切り後すぐは無理でしたが、3本立てになると映画館に行きました。私にとっては銀幕の大スター。撮影所でお見かけしても、うつむいてしまい、お顔をまともに見ることはできませんでした」。

 2年目に映画「あいつと私」で初共演した。裕次郎の相手役、芦川いづみの妹役だった。「3シーンほどご一緒させていただきました。こちらは中学を卒業したばかりの子ども。裕次郎さんとお話できるだけの話題もありませんし、何より緊張してしまって一言も話せませんでした」。

 その1年後、映画「若い人」で再共演した。裕次郎演じる教師に思いを寄せる女子高生役だった。相変わらず緊張で世間話もできなかった。「演技に懸命だった自分を気づかってくれて、裕次郎さんも話しかけなかったのかも知れません」。東京・お茶の水のニコライ堂前。雨降る中の夜間撮影だった。抱きついて「私のこと好き?」と思いをぶつける場面だ。「裕次郎さんの胸に思いきりしがみついた時の感触は今でも残っています」。

 無言のやさしさを感じたことはまだあった。19歳の時だった。自宅に変質者が侵入し、駆けつけた警官がけん銃で撃たれ重傷を負う事件があった。ショックのあまり、女優を続けていく自信を失いかけていた時に、1通の手紙が届いた。差出人は裕次郎の妻まき子だった。「こんなことに負けないで、仕事を続けてください」。まき子の気づかいに感謝すると同時に、文面から「裕次郎さんも一緒に心配してくださっているような気がしてなりませんでした」。

 その後、本格的な共演はなく、裕次郎はいつまでも「緊張して何も話せないスター」のままだった。慶応病院の裕次郎の病室を出て廊下を歩き始めた吉永はふと思った。「時間はとても短かったけど、初めて会話ができたのかもしれない」。裕次郎に会ったのは結局、これが最後となった。(敬称略)【特別取材班】

 ◆吉永小百合(よしなが・さゆり)1945年(昭20)3月13日、東京都生まれ。59年松竹「朝を呼ぶ口笛」で映画デビュー。60年日活入り。62年「キューポラのある街」でブルーリボン主演女優賞など各賞受賞。70年に日活と専属ではなく出演契約を結ぶ。おもな出演作は「動乱」「華の乱」「北の零年」「母べえ」など。最新作は「おとうと」(来年1月公開)。73年に当時フジテレビのディレクターだった岡田太郎氏と結婚。

 ◆裕次郎の高校時代 慶応高校時代から、めちゃくちゃモテたそうだ。トレンチコートを粋に着こなす、珍しい高校生はどこでも目立った。昼時になると、わざわざ弁当を届けにくる近所の女子生徒もいたという。また、旅先でお座敷遊びをしたり、銀座に繰り出すこともあった。遊び方はまったく高校生らしくないが、哀愁を帯びた民謡が大好きな一面もあったという。


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