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2009年6月19日

(13)仲代「伝説にかなう存在」

映画「栄光への5000キロ」の1シーン
映画「栄光への5000キロ」の1シーン

 仲代達矢(76)が楽屋に入ると、先客がいた。白い背広に長い足の青年。「裕次郎さんでした」。1956年(昭31)春。仲代23歳、裕次郎22歳。この日、仲代は初めて調布の日活撮影所に出掛けた。「火の鳥」で映画初出演することになり緊張していた。裕次郎は兄慎太郎の小説を原作にしたデビュー映画「太陽の季節」出演のため楽屋で待機していた。互いにあいさつし、裕次郎は「兄貴の映画にちょっと出るだけで、俳優になろうとは思ってません」と言った。しばらくすると、裕次郎は楽屋の鏡の前に長い足を投げ出し、グーグーといびきをかいて寝てしまった。「僕は緊張でガチガチだったのに、度胸のいいヤツだなと思いました。長い足で歩く格好の良さを見ただけで、人気者になると直感しました」。

 仲代が裕次郎の背中を追い掛けたことがある。2年後の58年、裕次郎が「俺は待ってるぜ」など大ヒットを飛ばしたころ、仲代も裕次郎と同じテイチク専属になった。テイチクには「第2の裕次郎」のもくろみがあり、4枚のレコードを出した。「裕次郎さんがレコーディングでビールを飲んでうまくできたという話を聞き、ビール1ダースを飲んで吹き込んだ。でも、売れませんでしたけどね」。

 69年、石原プロモーション製作の「栄光への5000キロ」で初共演した。三船敏郎も出演したが、仲代と三船の間には険悪な空気が流れていた。その年、仲代の主演映画「御用金」で三船が撮影半ばで突然降板した。直後の撮影だけにわだかまりがあった。裕次郎は出番がない時も現場によく顔を出した。「大人だから、撮影ではちゃんと芝居をしたけれど、それ以外は顔を合わせなかった。2人の間に入って、裕次郎さんは場の雰囲気をなごまそうと気を使ってくれた」。裕次郎の存在が2人の決定的な激突を回避させた。

 裕次郎との共演は69年「人斬り」を含め2本だけだが、俳優裕次郎に一目置いていた。裕次郎は「昨日は一晩中飲んでしまって台本を読んでいない。今日はどこをやるの?」と言っていても、NGを出すことはなかった。「偽悪的なことを言うシャイな人だった」。仲代は裕次郎、三船、勝新太郎、萬屋錦之介の4人とも親交があった。「三船さんや錦ちゃんとは演技論をよくしたし、けんかもした。裕次郎さんとはそういう話はしなかったけれど、僕らのような新劇育ちは頭でっかちで、体を自由に動かせない所があるのに、彼の演技は自然体で、自分そのものをぶつけてくる。スケールが大きかった」。

 自らプロダクションを立ち上げ、映画製作にも乗り出した4人の大スターが鬼籍に入って久しい。「役者は死んでしまえば、忘れられていくけれど、裕次郎さんだけは違った。石原軍団を作り、頂点に裕次郎さんがいた。亡くなった後も彼を慕う俳優、スタッフ、ファンが伝説を伝えてきた。裕次郎さんは伝説にかなうべき人だった」。(敬称略)【特別取材班】

 ◆仲代達矢(なかだい・たつや)1932年(昭7)12月13日、東京生まれ。俳優座養成所を経て、55年に俳優座入団。代表作は舞台「どん底」「リチャード三世」、映画「人間の條件」「用心棒」「影武者」「乱」、ドラマはNHK大河「新平家物語」「大地の子」など。75年から無名塾を主宰し、07年文化功労者。

 ◆裕次郎の苦手な食べ物 嫌いなものは少なかったが、鶏肉は苦手だった。幼稚園のころ、母光子さんとデパートに行き、食堂でチキンライスを食べた。ところがその中の鶏肉の皮に、数本の毛が付いているのを発見。光子さんによると裕次郎は相当のショックを受けた様子で、以来、鶏肉を食べなくなったという。妻まき子さんにも「鶏肉を見ると寒気がする」と話していた。


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