2009年6月09日
(6)三平、電話があると朝帰り

- 1958年当時の石原裕次郎さん
「日活の石原です」。初代林家三平が真打ちに昇進した1958年(昭33)ごろ、夕方になると、根岸の三平宅に若い男性の声で電話がかかってきた。三平夫人の海老名香葉子は「1日に2回も3回もかかってくる日もあって嫌でしたよ。夜遊びのお誘いなんですもの」。「師匠はいますか」「まだ帰ってません」「師匠はどこにいますか」「今日は東京宝塚に出てますよ」。男性は丁寧な言い方だったが、応対は素っ気ないものになった。「だって、電話がきた日は大抵、朝帰りでしたから」。電話の主が石原裕次郎とは思いもせず、義母に言われて青くなった。「石原と言っても仕事関係の人で、まさか大スターの裕次郎さんとは思いませんでした。今でも反省しています」。
裕次郎はデビュー3年目の23歳、三平は人気絶頂の32歳。俳優と落語家。ジャンルの違う2人だが、前年の57年にレコード会社テイチクは裕次郎と三平、三波春夫を三羽がらすとして売り出した。戦後の混乱も終わり、高度経済成長に向かう時代。3人に共通する「明るさ」が今では考えられない組み合わせを許した。
以降、裕次郎と三平は六本木、銀座を飲み歩く遊び友だちとなった。三平は小話に裕次郎をよく登場させた。「奥さん、アタシもテイチク専属の元歌手なんすから。テイチクの三羽がらす。裕次郎、三波春夫、それにアタシ。えー、どうもスイマセン」。そんな小話に裕次郎もよく笑っていたという。「裕次郎さん、夏から秋は日本にいないでください。どうして? あなたは嵐を呼ぶ男だから」。
香葉子は三平の存命中に裕次郎と会ったことがなかった。85年に初めての機会が訪れた。長女海老名美どりにハワイの別荘をリポートするテレビの仕事が舞い込み、香葉子、中学生だった弟の泰助(現三平)が同行した。取材は1日で終わり、翌日突然、裕次郎の別荘に招かれた。「裕次郎号」という大型車が迎えに来て、裕次郎、まき子夫人が歓待した。「大黒柱を亡くした家族をねぎらってあげようという裕次郎さんの優しさだったのでしょう。その時の仕事もきっと裕次郎さんが口添えしてくださったと思います」。
2人の付き合いはごくプライベートのもので、そろって写った写真は裕次郎宅にも三平宅にもない。そんな男の友情は80年に三平が54歳、87年に裕次郎が52歳で亡くなった後も引き継がれた。三平の長男こぶ平が林家正蔵を襲名した05年、次男いっ平が林家三平を襲名した今年、襲名イベントを全面バックアップしたのが裕次郎の遺志を継ぐ石原プロモーションだった。香葉子はいう。「天国のお父さんも亡くなってからもこんなにお世話になるとは夢にも思わなかったと思います。天国で裕次郎さんに『どうもスイマセン』って言っていると思いますよ」。(敬称略)【特別取材班】
◆林家三平(はやしや・さんぺい)1925年(大正14年)11月30日、東京生まれ。父は7代目林家正蔵。58年真打ち昇進。「どうもスイマセン」「体だけは大事にしてください」のギャグを生み、昭和の爆笑王といわれた。80年9月20日に死去。享年54。
◆裕次郎とCM 68年に宝酒造の日本酒「松竹梅」のCM出演を始め、87年に亡くなるまで20年も続けた。「♪喜びの酒、松竹梅」のBGMを自ら歌った。74年7月に夫婦で初出演し、夫婦仲の良さが話題になった。64〜66年にエーザイの栄養補給薬「ユベロン」、84年に資生堂の男性化粧品「ビコーズ」のCMにも出演。宝酒造のCM出演中を理由に、資生堂からの契約料を断ったという。
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