2008年9月08日

新たな壁にぶつかれる楽しみ／大湖せしる

　雪組の男役ホープ、大湖せしるがラストチャンスで待望の新人公演主役を果たした。ミュージカル「マリポーサの花」でトップスター水夏希が演じたネロに挑戦。カリブ海を舞台に、元軍人で若い革命家を支援する骨太な男を熱演した。

雪組の男役ホープ、大湖せしる

　「いっぱい課題がありますね。初めて本物の舞台のセンターに立ってみて、自分の課題が山ほど見つかりました」。大きなプレッシャーを背負った新人公演初主役。普通ならホッとするものだが「終わった～という開放感は全然なくて、自分はまだまだ未熟者だな、と思いました。東京公演（１０月２１日）に向けてもっと頑張らないと」と大湖からは反省の弁ばかりが口を突く。

　しかし、これも「最後の新人公演」という特別な舞台だからだ。昨年の「エリザベート」新公では３番手男役が演じるルイジ・ルキーニをエキセントリックに演じ客席を引き込んだ。前回の「君を愛してる」では準トップ彩吹真央が演じた敵役を好演。少しずつ階段を上り、今回は満を持しての新公主役で周囲の期待も痛いほど感じていた。

　「私自身マイペースなタイプだから、今の時期にこの大役を頂いたのはありがたいです。下級生の時に新公主役を頂いていたらパニックになっていたけれど、これでも積み重ねてきたモノが自分の中にある、って気がするので新たなカベにぶつかれることがちょっと楽しみかも」。

　本番前は冷静に分析していた大湖だが今、大役を経て「こんなにもセンターに立つということが違うものか、と改めて思い知りました。まずライトの明るさにびっくりしました。自分の白い衣装が反射しているのか、と錯覚するぐらいまぶしかった」と初々しく振り返る。それほど新公主役は特別なものなのだ。

　大きな瞳に印象的なエクボ。ショーでもシンデレラを演じるなど、可愛らしいルックスが男役として悩みだったこともあった。「今回のお芝居は“可愛らしさ”なんてまったく出せないので、自分のコンプレックスを超えるチャンスかもしれない。壁にぶつかる事は嫌いじゃないし、引き出しが増える、と思えば頑張れます」。現状に決して満足しない。本拠地・宝塚での新公主役を終えても、現在上演中の本公演、次の東京公演へ…。大湖の挑戦はまだまだ続く。【土谷美樹】

　◆マリポーサの花　舞台はカリブ海のとある国。民主化への革命を成し遂げたものの親米派の大統領に国民の多くは不満を募らせていた。かつて革命運動の最前線に立ち、現政権支持派として今はクラブを経営するネロ（大湖、本役・水夏希）もその１人。彼には裏の顔があった。大統領の後ろ盾を利用し資金を稼ぎ、病院や学校を建設しようとしていたのだ。ある日、ネロのクラブで大統領の暗殺未遂事件が起こった。裏で糸を引いているのは、ネロを慕うセリア（舞羽美海、本役・白羽ゆり）の弟リナレス（彩風咲奈、本役・音月桂）。国をよくしようとする若者の熱意を受け、ネロの中に何かが芽生えた。

　☆大湖（だいご）せしる　３月８日生まれ、兵庫県川西市出身。聖母被昇天学院高を経て０２年「プラハの春」で初舞台。０６年「ベルサイユのばら」では出世役として知られる小公子を演じ注目を浴びた。昨年５月の「エリザベート」新人公演では３番手男役・音月桂演じたルキーニを、今年１月「君を愛してる」の新公では準トップ彩吹真央演じたアルガンを好演した。身長１６７センチ。愛称「せしる」。