2006年10月28日
家族映画編5完
井筒和幸監督の“井筒組”から、2人がほぼ同時デビューする。「パッチギ!」(昨年公開)でセカンド助監督を務めた小林聖太郎監督(35)の「かぞくのひけつ」(12月2日公開)と、同じくフォース助監督を務めた吉田康弘監督(27)の「キトキト!」(来春公開)である。2人とも脚本・監督を務めており、偶然にも「家族の映画」で競作になった。
「かぞくのひけつ」は、大阪の歓楽街、十三を舞台に、不動産屋を営む夫婦(桂雀々、秋野暢子)の物語。女に優しい雀々には愛人(ちすん)がいて、その愛人が店に乗り込んできてアルバイトを始めたから大変。家族に巻き起こる笑いと涙の大騒動を、高校生の息子(久野雅弘)の目を通して描く。小品ながら、ホロリとさせる人情喜劇に仕上がっている。
しっかり女房と浮気夫の泣き笑い人情ものは、織田作之助原作の名作「夫婦善哉」(55年、豊田四郎監督)以来、松竹新喜劇の舞台などで脈々と受け継がれてきた。大阪出身の小林監督にも、大阪ならではのこってり風味が受け継がれていることを発見して、ホッとする思いだった。
「最初に監督するのは、やはり家族のこと、と思っていた。私自身の経験もエピソードとして交えてます」と小林監督。彼自身、親の束縛を嫌って、映画の道に進んだ男である。そんな彼も、自分の家族を総括することで新たな出発としたのである。
27歳と異例の若さでデビューする吉田監督も同じ。彼の故郷ではないが、富山県高岡市を舞台にした「キトキト!」の家族もマカ不思議である。女手1つで2人の子どもを育てた肝っ玉母さんに大竹しのぶ。母親のたくましさにへきえきした長女(平山あや)は東京に出て行き、息子(石田卓也)もまた後を追うように上京する。だが、息子はホストクラブに勤め、行方不明だった長女もキャバクラ嬢になっていた…。
こちらは、崩壊家族の映画と言えるかもしれない。だが、偉大な母親の吸引力は、そんな親不孝な子どもたちをも包み込んでしまう。息子のホストクラブに、授業参観よろしく着飾って出かけ、息子や、客として訪れていた娘と再会するシーンは涙が出るほどおかしい。吉田監督は「本物のホストに取材して脚本を書いた。だけど、ホストだけじゃもたない。彼は実際に富山出身で、母と息子の話になりました」。
小津安二郎、成瀬巳喜男ら名匠が描いた大家族は今はない。だが、核家族を題材に、家族のありようを問い直す若い世代の映画も実に味わい深いのである。
(このコラムは毎日更新します)
- 安永五郎(やすなが・ごろう、大阪日刊スポーツ新聞社映画担当)
-
1948年(昭和23年)8月24日、大阪市生まれ。小学校時代に「荒野の七人」、中学校時代に「史上最大の作戦」、高校時代に勝新太郎「座頭市」シリーズ、関大時代に大島渚、今村昌平監督作品にハマり、映研で16ミリの製作を手がける。シネラマのOS劇場でアルバイト。
大学卒業後、大阪日刊スポーツに。1973年から、東映、大映、松竹の京都撮影所を担当。1980年からプロ野球記者として、阪神、阪急(現オリックス)を担当。編集委員等を経て、2004年から2度目の映画担当。
阪神担当時代、米国キャンプに同行した際、当時、日本では手に入りにくかったサウンドトラック盤のレコード約50枚を購入した経験を持つなど、映画に関しては相当の「オタク」。