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2007年2月20日

忘れられているのがもったいない「漂流」

 ★「漂流」はスゴイ

 先日、「華麗なる一族」を見て、北大路欣也さん主演の「漂流」という途方もない映画があったことを思い出しました。

 主人公・長平を乗せて土佐を出航した船が難破し、無人の火山島に漂着。草も木も水もなく生き物は大型の鳥だけという絶望的な環境。長平は、仲間と共に鳥を食料にし、卵の殻に雨水をためて生き延びるのですが、仲間達は1人また1人と死んでゆく。最後の1人となったところで、亡き母の言葉「1人で生きよ」を思い出し、その言葉を胸に、想像を絶する孤独と闘い、生き抜く。新たな遭難者が漂着しても、病によって死んでゆく。残った数名と共に流木で船を造り、やっとのことで島を抜け出し故国の土を踏むまで実に13年を費やしたというお話です。

 演者達は、全身に巨鳥の羽をまとった鳥男となり、はだしで岩山や荒磯を駆けずり回る。時には荒れた波に巻き込まれ、巨鳥の群れに侵入しなければならない場面もある。リアリズムを追求する演出は本当に過酷。たしかこの映画のロケ地は本物の絶海の孤島だったと記憶しています。長平が最後の一人となった時、仲間の墓の前で号泣する場面では、背景の水平線がスゴイ。島も船もない。点となって映るものが何もない。その壮大な景色が、長平の孤独感を更に増幅させていました。

 CGなどないころのこと。おびただしい数の鳥と、人を受け入れない自然の中に、命をさらす過酷な撮影。漂流を扱った映画では最もつらい撮影ではなかったでしょうか。この映画は2度と見ることができない力作です。

 僕が何より感動したのは、地獄のような孤独にさいなまれても絶望しない主人公の心の強さでした。船を完成するまで12年。生きて帰れる保証はない。しかし、どうせ死ぬなら、生きる可能性にかける、という、前向きな姿勢なのです。

 人は生きて行く道程において、目的に挫折するもの。しかし、あきらめてはいけない。あきらめずに励んでいれば目的は達成されるものだと改めて肝に銘じました。スゴイ映画「漂流」。忘れられているのがもったいない!

 ★抽斗の中

 僕の心の抽斗、その大部分を今でも占めているのが、「ノスフェラトゥ」という作品です。

 ノスフェラトゥとは不死の意味。ドラキュラ伯爵の物語です。しかし、タキシードが似合う典型的なドラキュラ像とは随分違う。その容ぼうときたら、禿頭にくぼんだまぶたからギョロリとむき出る眼(まなこ)、長身痩躯とはいえ、あまりにも長過ぎる指。暗闇から彼が出てきただけで、全身があわ立つ恐怖心に襲われる。僕が初めてノスフェラトゥに触れたのはヴェルナー・ヘルツォークの手によるリメイク作品。ノスフェラトゥを演じるクラウス・キンスキーの孤独な崇高さに魅了され、俳優に成り立ての僕は、芸名を「黒須金助」にしようか、「蔵臼健介」にしようか数年悩んだほど。クラウス・キンスキーは今でも僕のアイドルなのです。

 ドラキュラ役者には昔からカリスマ性があるものです。日本でドラキュラが似合う役者といえば、僕の養成所時代の先生、故・岸田森さんでした。どんな役を演じていても、常に岸田森の空気というものをまとった人でした。僕は岸田さんの年齢を越してしまいましたが、まだまだ足元にも及びません。しかし、あのような空気感漂う俳優になれるよう追い求めねばならない。

 永遠に夢を求めたノスフェラトゥのように……。

 ★おまけ

 GW、シネクイント他で僕の出演する映画「プルコギ」が公開されます。もしかしたら第20回日刊スポーツ映画大賞を受賞するかもしれない! オススメです。 牛男(僕の役)は伝説の焼き肉名人に勝利できるか?!

 (このコラムは毎週火曜に更新します)

長江英和(ながえ・ひでかず)
 1958年(昭和33年)9月9日生まれ。48歳。愛知県出身。身長191センチ、体重92キロ、足のサイズ28センチ。俳優では日本最長身の部類に入る。
 映画は「お葬式」「バカヤロー3 会社をなめるな」「幕末純情伝」「不夜城」「THE 焼肉ムービー プルコギ」(2007年公開)など数多く出演。テレビドラマ、舞台でも活躍。
 ロケや公演先での美味いもの巡りを常とする。もっか日本中のブランド和牛を制覇中。趣味は博物館、水族館巡り。血液型はB型、乙女座。
 公式ブログ「長江英和の視点」


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