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2007年1月 4日

最高の素材に最高のメーキャップ

-ディパーデッド(07年1月20日公開=米)-

 メーキャップに関する逸話は少なくない。スッピンの某女優がテレビ局の警備員にスタジオに入れてもらえなかったとか、大物歌手のメークが塗り壁のようにはがれたとか…。が、ほとんどは尾ひれが付いている。

 取材で訪れた楽屋で何度かメーク中の女優さんに遭遇したことがあるが、美人女優といわれる人は素顔も例外なく美しい。ただ、程度の差はある。“完成品”に比べ、素顔のときの目鼻立ちにシャープさをやや欠く人はいる。逆にメークがしっくりこないケースもある。非の打ちどころのない素顔に完ぺきなメークを施されたときこそ「この世のものとは思えない」という表現が当てはまるのだと思う。

 映画の原案をこの素顔に、脚色・演出をメーキャップに当てはめると分かりやすい。メークの逸話が多いように、映画の質をうんぬんするときには監督の力量に話が傾きがちだ。が、傑作と呼ばれるものはたいてい原案が魅力的だ。

 近年の香港映画の傑作「インファナル・アフェア」(02年)を、文字通りの名匠マーティン・スコセッシ監督がリメークした今作は、まさに最高の素材とメークの組み合わせだ。巧みなメークの内側の“素顔”の美しさにしばしば思いをはせてしまい、改めて香港版の魅力を実感した。評価の高いリメーク作品はオリジナル版を換骨奪胎しているものだが、今回は素顔の線に忠実に沿いながら、実にていねいにメークを施している。黒沢明の「七人の侍」をジョン・スタージェスが「荒野の七人」に映し替えたときと同様に、オリジナルに対する畏敬(いけい)の念が強いのだろう。

 犯罪組織に潜入した捜査官と、警察に潜入した犯罪組織の内通者という2人の主人公の図式がオリジナル、リメークに共通する根幹なのだが、警察VS犯罪組織のし烈なやりとりの中でこの設定から次々にスリリングな状況が生まれる。

 潜入先の行動計画をそれぞれが探り、組織同士はこの情報を元に裏をかきあう。潜入捜査官は組織とともに動くことで常に犯罪に加担せざるを得ない状況に追い込まれる危険があり、内通者はその逆の意味で綱渡りの連続だ。さらには2人のニアミスもある。“潜入もの”は数多いが、“ダブル潜入もの”ならでは起伏の多さが今作ではさらに強調され、改めて感服する。

 2作を比較すると潜入捜査官がトニー・レオン―レオナルド・ディカプリオ、内通者がアンディ・ラウ―マット・デイモン。優男⇔やや骨太の図式も重なる。

 異なるのはラストなのだが、これには東西の“罪と罰”に対する根本的な違いが反映されている。無間地獄、つまり永遠に責め続けられるか、あっさりとかたをつけられるか、である。

 (このコラムは毎週木曜の更新です)

相原斎(あいはら・ひとし)
 1956年5月27日、東京生まれ。早大卒。1980年入社。
 文化社会部では主に映画を担当。同部デスク、部長、編集局次長を経て現在総務局長。著書に「寅さんは生きている」(朝日ソノラマ)。


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