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2006年11月23日

-キムタクが斬り拓く-

-武士の一分(12月1日公開)-

 俳優としての木村拓哉に初めて驚かされたのは13年前の連続ドラマ「あすなろ白書」(フジ)だった。主演コンビに続く3番手の役どころで、ひそかにヒロインに思いをよせるややオタクのにおいのする青年だった。当時からかげりのようなものをにじませるのが巧みで、男の目から見ても不思議な魅力があった。ヒロインの石田ひかりが主人公の筒井道隆にひかれ続ける筋書きにはどうしても納得出来ず、いつ木村に走ってしまうのか、という余計な緊張感をもって毎週見ていた覚えがある。

 「あすなろ白書」の斜めに、それも暗めに発する魅力は正統派アイドルとしては異色のものだと思ったし、最近でも一昨年の「ハウルの動く城」(宮崎駿監督)、昨年の「2046」(ウォン・カーウァイ監督)に続いて今回の時代劇という選択は“何か違うもの”への強い欲求を感じる。中居正広のバラエティ路線や草彅剛の「--道」シリーズなど、どちらかといえば他のメンバーが狙いを足場固めに定めているように見えるのとは対照的だ。

 今作は「たそがれ清兵衛」「隠し剣 鬼の爪」に続く藤沢周平原作=山田洋次監督の第3弾。前2作同様主人公は下級武士であり、しみじみとした人情話に理不尽な仕打ちがからむ。終盤に留飲を下げる果たし合いがあり、心温まるラストに至る。

 今回の主人公は突然視力を失う。成人後の失明だから座頭市のようにはいかない。これまでのイメージからすると、いら立ち→絶望→開き直りという微妙な心の流れもしれっと器用に演じてしまいそうに思った。が、今回はむしろ不器用なほどに、思いっきり腹に力が入って血管が浮き上がる。搾り出すような声も耳に残る。山田監督と共に醸し出す、張り詰めた空気が伝わってくる。

 文字通り体を張っているから、敵役が似合う坂東三津五郎との決闘シーンのリアリティに息をのむ。元宝塚の壇れいはこれが初映画ということで、こちらも精いっぱい一杯の空気が新鮮さにつながる。

 泣かせどころの象徴は「芋煮」である。飽食の現代のわが身に立ち返ったとき、果たして「舌」で泣き笑いができるだろうか。妙なことが気になった。

 (このコラムは毎週木曜の更新です)

相原斎(あいはら・ひとし)
 1956年5月27日、東京生まれ。早大卒。1980年入社。
 文化社会部では主に映画を担当。同部デスク、部長、編集局次長を経て現在総務局長。著書に「寅さんは生きている」(朝日ソノラマ)。


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