2006年10月19日
舞台調のメリハリ
-地下鉄に乗って-
先日「ペテン師と詐欺師」(天王洲・銀河劇場で上演中)のプレビューを見た。鹿賀丈史、市村正親という、脂ののり切った組み合わせである。久しぶりの演劇で、舞台に立った俳優の、こちらの心にねじ込んでくるような発声と緩急を際立たせた動きをあらためて実感した。舞台映えというのだろう。ひたすらリアリズムを追求する映画俳優と比べ、オフからオンへの差は大きい。今回の作品には、そんな演劇的要素が盛り込まれている。
浅田次郎氏の原作は現代、昭和39年、昭和21年、戦時下の4つの時代にまたがる。タイムスリップという非現実と、それぞれの時代のリアルな姿が交錯する。時代を行き来する展開の中で、どうしても1つひとつのエピソードにはメリハリが必要になり、結果、舞台の一幕のような印象に仕立ててある。
小さな下着メーカーの営業マンである主人公は、巨大企業を一代で築き上げたごう慢な父親とは絶縁状態である。が、ある日乗った地下鉄でタイムスリップし、若き日の父と巡り合う。今まで知らなかった一面を知ることになり…。
序盤に登場する昭和39年の父親の声の大きいこと。大沢たかおの熱演には違いないのだが、オーバーアクションが過ぎるのではないかと最初は思った。前半は主人公・堤真一の自然流とコントラストをなす。物語の進行で時代をさかのぼるに従い、次第に堤の声にも張りが出てくる。過去という“舞台”になじんでいく印象である。いつの間にか、オーバーアクションの感触はうすれ、一幕ごとに引き込まれる。振り返ってみれば、大沢、堤の両人ともなるほど、の演技、演出である。
監督は「天国の本屋~恋火」(04年)などの篠原哲雄。岡本綾、常盤貴子、田中眠ら他キャストも、一様に個性を前に出し“舞台映え”している。(相原斎)
(このコラムは毎週木曜の更新です)
- 相原斎(あいはら・ひとし)
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1956年5月27日、東京生まれ。早大卒。1980年入社。
文化社会部では主に映画を担当。同部デスク、部長、編集局次長を経て現在総務局長。著書に「寅さんは生きている」(朝日ソノラマ)。