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2006年10月 5日

徹底した当事者目線

-ワールド・トレード・センター(米=10月7日公開)-

 「9・11」の特集番組で、筑紫哲也さんが「あの日自分は何をやっていたか、みんなが思い出せる日だと思います」といった趣旨のコメントをしていた。

私の場合は実に明確に覚えている。編集局の当番デスクとして、あの日の紙面作りにかかわっていた。1機目が世界貿易センターの北棟に衝突。時間を置かずしてその様子が臨時ニュースの画面に映し出された。遊覧飛行機の操縦ミスなのだろうか。とりとめのないことを考えた。文字通り生の映像で見た南棟への2機目の激突。いつもは喧騒(けんそう)に包まれる時間帯に編集局が静まった。ぽっかりと空洞ができたようだった。正直、映画の一場面にしか思えなかった。

 映画はそのとき現場で何が起こっていたか、をたった2人の目で再現してみせる。救出のために衝突後のビルに入り、瓦礫(がれき)の下に封じ込められ、そして、奇跡の生還を果たした2人の警察官である。映画のように見えたあのニュース映像とは対照的に生々しい。血のにおい、粉砕された建材のざらつく感じ…。いや応のない臨場感がある。繰り返される強震と瓦礫の合間を襲う強風、これとリンクする2人の心理描写は重たい。

 2人の家族の締め付けられるような思いも、心のひだを1枚1枚めくるように細部が描かれる。オリバー・ストーン監督は間口を狭めた代わりにひたすらディテールにこだわる。主演ニコラス・ケイジが醸すユーモラスな個性が、直面した厳しさをかえって際立たせる。

 先に公開された「ユナイテッド93」は、墜落した瞬間に暗転しエンディング。それまで展開されていた多様なエピソードにいきなり終止符が打たれた。後日談は一切なかった。米国人にとって、どうしてもひとごとにはできないのだろう。あの日の映画化作品は、いずれも当事者目線である。

 (このコラムは毎週木曜の更新です)

相原斎(あいはら・ひとし)
 1956年5月27日、東京生まれ。早大卒。1980年入社。
 文化社会部では主に映画を担当。同部デスク、部長、編集局次長を経て現在総務局長。著書に「寅さんは生きている」(朝日ソノラマ)。


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