2008年5月25日
忠実な70年前名画の修復
「山のあなた~徳市の恋~」(日)
両ひじを座席の横に突き出して観賞していたら、湯船につかっている気分になった。上映開始から30分もすれば心地よい眠気に誘われる。悪い意味ではない。少々強引だが、そのまま眠ることが映画へのリスペクトではないかと思うほど、心をほぐしてくれる穏やかな物語だった。宣伝コピー「心の入浴」とは、よく考えたものだ。
故清水宏監督の「按摩と女」(38年)をカバーした作品。あえて製作側がリメークと呼ばないのは「究極の再現」を自負しているからだろう。確かに、旧作と見比べるとセリフも動作もほぼ同じ。もちろん誤差はあるし、70年前との風景の違いもあるが「完ぺき」と思ってしまう出来栄え。石井克人監督が「まるで名画の修復作業」と振り返った製作の苦労が分かる。
戦前のモノクロ作品に現代の高画質と高音質を肉付けして補完した結果、上映時間は66分から94分に増えた。その脚色の一例に、美千穂(マイコ)が盲目の徳市(草なぎ剛)をからかうシーンがある。逃げる美千穂と追う徳市の姿だけを映し続けた旧作に対し、新作では美千穂の足音を加えることで徳市の感覚に迫った。感情移入のしやすさという点で差は歴然だった。
ただ、冒頭で書いたように物語の波は最後まで穏やかだ。70年前の作品だからというわけではないが、展開の急転や驚きのクライマックスに期待はしないでほしい。70年前の人間描写と今の映画界の技術を感じながら楽しむ作品なのだろう。【木下淳】
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