2010年10月28日
第271幕 世界一に続く道を知る男モリーナのWS
「世界一リング」を手にするのはジャアンツかレンジャーズか。27日、ワールドシリーズ(WS)の幕が切って落とされた。メジャー30球団の選手たちはただひたすら春キャンプからこのチャンピオンリングを手にすることを目標に頑張ってきた。男の威信をかけて激しいバトルが予想されるが、だれもが欲しいこのリングをすでに手中にしている幸運な男がいる。レンジャ-ズのベンジー・モリーナ捕手だ。
今季は4年目となるジャイアンツでスタートを切り61試合に出場。だが突如7月にレンジャーズにトレードされて、57試合に出場した。両チームに所属したため、どちらが勝っても世界一リングを手にすることになるのだ。実はWS前日の記者セッションで、モリーナはこれを最後に現役生活にピリオドを打つことを示唆する発言を行った。リングが「確約」され、13年間のメジャー生活をしめくくるには最もふさわしい舞台ではあるが、POの活躍を見ている限り引退の意志を翻して欲しい気がする。
このWSの見所の一つはそのモリーナが育てたジャイアンツの投手陣対モリーナ自身の師弟対決であろう。2007年にジャイアンツに移籍して以来、経験の浅い若手投手陣を中心にブルペンがめきめきと力を発揮し始めた。このWSはその恩返しという意味でもジャアンツ投手陣がレンジャーズ打線と堂々と渡り合い、自分たちのさらなる成長を「師」に見せる格好の舞台なのだ。
とりわけモリーナに育てられたと言っても過言ではないエース・リンスカムは「今こうして自分があるのはベンジーがいたからこそ。彼なしでは自分がここまで来れたかどうかわからない」と、感謝の意を込めつつ何度もその言葉を繰り返す。それもそのはず、2007年5月に初めてメジャーに昇格して以来2008年、2009年と連続サイ・ヤング賞を受賞するメジャー屈指の投手にのし上がって、このWSでは大事な第1戦の先発を任されるまでになったのだ。
投手陣だけでなく昨年まで捕手も兼務していたサンドバルは、腰ギンチャクのようについてまわり、今季も開幕から4割近い打率をたたき出して、一時はナ・の首位打者にも浮上していた。ところが、モリーナが去ってからというもの、打率は急降下。終盤にはスタメン落ちするなど極度の不振に陥っている。精神的な部分も含めてモリーナへの依存度が高かった分、モロに影響を受けているのだ。
そして、レンジャーズ投手陣。「打高投低」と言われ、途中加入のクリフ・リー以外は不安があったが、モリーナの加入後見違えるようなパフォーマンスが続いている。打者に対する洞察力をもとに、その投手のすぐれた特性を引き出す手腕から「ベンジーのサイン通りに投げていれば勝ちが転がってくる」という神話まで出来上がったほどだ。モリーナは7月からたった3ヶ月間で、「弱い」と言われていたレンジャーズ投手陣の立て直しをやってのけ、チームを初のワールドシリーズに導いた。
これまでワールドシリーズの経験がないレンジャーズにとって「未知の領域」の戦いに突入している。エンジェルス時代の2002年に「世界一」を経験しているモリーナの存在は、どれだけ心強いことだろうか。彼らにとって世界一へ続く道を知る男・モリーナにかかる期待、依存度は決して小さくはない。
写真上=レンジャーズにとってモリーナの存在感は大きい
写真下=ワールドシリーズ前日の会見では今季限りでの引退を示唆したモリーナ
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- 鉄矢多美子(てつや・たみこ)
- 福岡県に生まれる。成城大在学中から、硬式野球部のマネジャーを務めるかたわら、ウグイス嬢の道に。1977年にロッテ・オリオンズ球団(現在の千葉ロッテ・マリーンズ)に入社して、ウグイス嬢と広報担当を兼務。87年12月からフリーに。 野球のあるとこどこまでも、の精神で、日本国内はもとより、アメリカ大リーグをはじめ、キューバ、ドミニカ共和国、プエルトリコなどに足繁く通う。将来は野球をモチーフにした一大スペクタル小説を書くのが夢。著書は「サミー・ソーサ 心はいつもホームラン」(集英社インターナショナル)、「もっとカゲキにプロ野球」(講談社)、「素顔の野茂英雄」(小学館)、「熱球伝説」(岩波書店)。
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