2009年08月17日
第234幕 首位打者争いサンドバル、ブレークの秘密
「君の予知能力にはちょっと驚いているんだ」。先日サンフランシスコ・ジャイアンツのパブロ・サンドバルに会った際、いきなりそう言われた。予知能力…。確かに思い当たる節はあった。昨年6月、2Aのコネチカットでプレーしていたサンドバルに「あなたはきっともうじきメジャーに昇格するわよ」と言ったのだ。本人は「そうであれば嬉しいけど、きっとそれは来年だと思う」と、その時は全くメジャー昇格を期待していない様子だった。
ナ・リーグの首位打者争いを演じているパブロ・サンドバル
ところが、その2カ月後の8月13日に見事にメジャー昇格し、翌8月14日には5番・捕手で初出場。結局、シーズン終了まで41試合に出場し3割4分5厘という高打率を残した。今季は開幕からジャアンツの主軸に定着し、ここまでナ・リーグで2位の高打率(3割3分=8月16日現在)を残し、首位打者争いまで演じている。ほんの1年前に2Aから昇格した選手が、こんな風にブレイクするというのも、メジャーの選手層の厚さを物語っているのであろうが、おかげで、俄然、筆者の予知能力がクローズアップされる? ことになったのだ。
おそらくコアなメジャーファンでなければ昨年2Aでプレーしていた無名のサンドバルを知るすべもなく、それをまた2Aにまで追っかけ取材をかけ、なぜ「メジャー昇格が間近い」などと口走ったのであろうか? 白状すると、実はその時は「両手投げ」という彼の特技のほうに強く興味を惹かれ、それをどうしてもこの目で見ておきたかったのだ。左右両手で投げる実技を見せてもらった後、お礼の意味も込めてあてずっぽうに近いトーンで「メジャーに…」など口走った覚えがある。
両手投げの器用さとはあまり関係ないとは思うが、守りでは捕手、一塁、三塁を実に器用にこなす。今季は主に三塁を守っているが、彼のロッカーには外野手用も含めていつも4つのポジションのグラブをそろえている。ボウチ監督は「彼のユティリティーぶりは多いに作戦に役だっている」と認めている。この数年負け越しが続き下位を低迷していたジャアンツだったが、今季はナ・リーグのワイルドカード争いを演じ、プレーオフ進出も夢ではない位置につけている。サンドバルの打棒がチームの活力を与えていると言っても過言ではない。
それにしても…とつくづく思う。偉そうに「メジャーが近い」などと口走ったことが、ここまで見事にハマってしまうと怖いものがある。サンドバルからは何度も「ありがとう」とお礼を言われ、まるで、どこかの教祖様のような眼差しで見られてしまったが、むしろ頑張っている彼に「ありがとう」と言いたいのはこちらの方だ。もちろん今あるサンドバルは本人の才能と努力にほかならないのだが…。こうなったら彼にはポストシーズン進出切符と首位打者をと、がぜん肩入れしたくなってきた。
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- 鉄矢多美子(てつや・たみこ)
- 福岡県に生まれる。成城大在学中から、硬式野球部のマネジャーを務めるかたわら、ウグイス嬢の道に。1977年にロッテ・オリオンズ球団(現在の千葉ロッテ・マリーンズ)に入社して、ウグイス嬢と広報担当を兼務。87年12月からフリーに。 野球のあるとこどこまでも、の精神で、日本国内はもとより、アメリカ大リーグをはじめ、キューバ、ドミニカ共和国、プエルトリコなどに足繁く通う。将来は野球をモチーフにした一大スペクタル小説を書くのが夢。著書は「サミー・ソーサ 心はいつもホームラン」(集英社インターナショナル)、「もっとカゲキにプロ野球」(講談社)、「素顔の野茂英雄」(小学館)、「熱球伝説」(岩波書店)。
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