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2009年07月27日

第232幕 山下大輔氏57歳の初体験 その2

 山下大輔氏、57歳の「初体験」は続く。試合が行われる日は球場で食事が出る。だが、休みの日はアパートで自炊をしなければならない。ご飯を炊くのも、味噌汁作りも、洗濯も、すべて生まれて初めての経験だった。最初は味噌汁の作り方がわからず、東京にいる奥さんに「国際電話」してダシのとり方から指南を受けた。「けっこう高い味噌汁になったよ」と笑うが、そう言いながらけっこう楽しそうでもある。

 ルーキーリーグに所属しているのは、今年6月に行われたドラフトで指名された選手や、入団して3年以内の若手が中心。中南米の選手が大半を占めているため、そこいら中にスペイン語が飛び交っている。まだ英語がうまく話せない彼らのために週3回「英語クラス」が開かれているが、山下コーチはそこにも顔を出す。上から目線ではなく「僕も君たちと一緒に学んでいるんだ」という気持ちが、自然に、選手たちとの連帯感を生みだしているようだ。

 当初、そんな「門下生」たちから「ジャマシタ」と呼ばれて困惑した。彼らは親しみを込めてそう呼んでいたのだが…。というのも、スペイン語では「YAMASHITA」の「YA」を「ジャ」と発音するため、それをとっさに頭の中で日本語に変換して「邪魔した」と聞いてしまったのだ。今年入団したばかりの若い選手に、いきなり「邪魔した! 邪魔した!」と連呼されてはムッとしただろうが、そんな誤解もすぐに解け、今では笑い話となっている。

 日本で指導者の立場であれば、些細なことでも親会社やマスコミからつつかれることもあってストレスになることも多い。しかし、この地ではそういうことにストレスを感じることが全くなく、選手たちを純粋に指導し、技術を伝え、成長の過程を見守ることができる。しかも「教える」ということだけでなく、若い選手から何かを「教わる」ことも多い。その心の柔軟性を保てるのも心地よく感じているようだ。

 50度を超える酷暑の中での指導(自然条件)。初めての自炊、洗濯、掃除(単身赴任)。言葉(文化の違い)。日本にいれば安穏と暮らせるものを、なぜ敢えて苛酷な状況に自分を追い込んでいるのかを聞いてみた。

 「年齢的に無理がきくギリギリのところ。そこに身を置いて、いろいろな経験をしてみたかった。これを日本に帰って何かに繋げようとか、そんな野心は全くない。ただ僕は野球が好きだから…、だからここにいる…」。

 その答からは指導者としての理想的な姿が浮き彫りにされていた。 (この項おわり)

内野守備コ-チとして内野手の動きに目を光らせる山下大輔氏

写真=内野守備コ-チとして内野手の動きに目を光らせる山下大輔氏


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ガンちゃんのまいど!
鉄矢多美子(てつや・たみこ)
 福岡県に生まれる。成城大在学中から、硬式野球部のマネジャーを務めるかたわら、ウグイス嬢の道に。1977年にロッテ・オリオンズ球団(現在の千葉ロッテ・マリーンズ)に入社して、ウグイス嬢と広報担当を兼務。87年12月からフリーに。  野球のあるとこどこまでも、の精神で、日本国内はもとより、アメリカ大リーグをはじめ、キューバ、ドミニカ共和国、プエルトリコなどに足繁く通う。将来は野球をモチーフにした一大スペクタル小説を書くのが夢。著書は「サミー・ソーサ 心はいつもホームラン」(集英社インターナショナル)、「もっとカゲキにプロ野球」(講談社)、「素顔の野茂英雄」(小学館)、「熱球伝説」(岩波書店)。

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