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2009年04月20日

第225幕 イチローの通算安打記録更新によせて

 先日、サンフランシスコのコーヒーショップで、顔見知りの現地記者とバッタリ出会った。ジャイアンツ担当の彼は、ボンズのステロイド疑惑に関する問題などの急先鋒で、会見などではよくそのボンズと言い争いをしていたやり手の記者だ。その彼が「日本人はどれほどイチローを誇りに思っているのか」と聞いてきた。だが、筆者はその度合いを表現する言葉を探しあぐねてしまった。

 開幕早々から日本の関心はそのイチローに集中した。体調を崩しチームへの合流が約1週間遅れたが、その間、試合前のワカマツ監督の囲み取材はほとんど毎日「イチロー」という名前から始まった。もちろん地元記者、日本のマスコミに対するアップデートという意味でもあったのだが、それ以上にイチローがいかに大きな存在感を持って監督の心を占有していたかの表れでもあるように思えた。

 それは、こんな言葉からも推察される。昨年11月に監督就任が決まったワカマツ監督がシアトルに行った時のこと―。「イチローのことをさらに尊敬するようになった」というその出来事は、この時すでにイチローがWBCへ出場するための練習を行っていたということだった。「雪の降るシアトルで、ケージの中で打撃練習を行っていた。監督としてそんなシーンを目の当たりにすれば、選手への尊敬の度合いはいっそう高まるものだ」。ワカマツ監督は臆面もなくそう言った。

 イチローが日米通算安打記録を更新した際に、新聞やテレビで何度か「天才バッター」という表現を見聞きした。だが、ワカマツ監督が目にしたイチローは決して天才バッターという認識ではなく、人知れず、しかも人一倍努力を積み重ね、神経を張り巡らし、その時のためにどれだけ怠りなく準備をするか…というその姿だった。「これほどの努力を人は天才と言う」という言葉があるが、まさしくイチローを表しているのではないだろうか。

 サンフランシスコのコーヒーショップで会った記者に次に会った時、どんなふうに答えようか…。「日本人として、ただただ誇りに思っている」とだけでいいのだろうか? いや、それでは全く物足りない。とはいえ、それ以上の表現もみつかりそうにもない。つまり、イチローの偉業とそれに裏打ちされた水面下の努力に対しては、どのような言葉を重ねようとも永久に表現できないような気がする。


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ガンちゃんのまいど!
鉄矢多美子(てつや・たみこ)
 福岡県に生まれる。成城大在学中から、硬式野球部のマネジャーを務めるかたわら、ウグイス嬢の道に。1977年にロッテ・オリオンズ球団(現在の千葉ロッテ・マリーンズ)に入社して、ウグイス嬢と広報担当を兼務。87年12月からフリーに。  野球のあるとこどこまでも、の精神で、日本国内はもとより、アメリカ大リーグをはじめ、キューバ、ドミニカ共和国、プエルトリコなどに足繁く通う。将来は野球をモチーフにした一大スペクタル小説を書くのが夢。著書は「サミー・ソーサ 心はいつもホームラン」(集英社インターナショナル)、「もっとカゲキにプロ野球」(講談社)、「素顔の野茂英雄」(小学館)、「熱球伝説」(岩波書店)。

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