2009年03月25日
第222幕 WBCで「指揮」をとった2人の国家元首
日本のV2で幕を閉じたWBC。この結果をどのように受け止めているのか、興味深い人物が2人いる。1人は2次ラウンドで日本に完璧に抑え込まれ敗退を喫したキューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長。もう1人は準決勝で韓国に大敗したベネズエラのウーゴ・チャベス大統領だ。この2人に共通するのは、国家元首でありながら「野球狂」であるということだ。
キューバのカストロ氏はすでに「現役引退」宣言を行い、政治の表舞台には現れていないが、こと野球に関しては別。WBCが始まってから4度にわたって長文の「評論」を出し、その中ではチームの作戦や今後のナショナルチームの立て直しに触れ、一方で、アメリカMLB主導型の大会運営法やグループ分けのありかたなどにまで、ことこまかに言及している。
その文面からは、病気療養中と言われながら、自国の戦いの推移をいてもたってもいられない状況で見守っていた様子が浮かびあがる。評論は自国の戦いぶりばかりか、第1ラウンドの日本対韓国戦にまで及び、イチローを「最も危険な選手で日本の象徴」と表現。カストロ氏からこのような形で具体的に日本人選手の名前が挙げられたのは記憶にないが、他チームの分析ができるほど、テレビの画面に食い入ってすべての試合を見守っていたのだ。
一方のベネズエラのウーゴ・チャベス大統領は、大会が始まってから毎日のようにチーム首脳陣に電話をかけてきては檄を飛ばし続けたのだという。トントン拍子で決勝リーグに勝ち上がった戦いの推移には大満足だったのだろうが、状況は準決勝の韓国戦で一変した。大会新記録となる5つのエラーを喫し10点を失って韓国にねじ伏せられたのだ。試合後、どんな電話があったのかは不明だが、大統領は言葉を失うほどの衝撃を受けていたことが想像される。
両国の国家元首は、見ているだけにとどまらず、お互いが主将としてユニフォームを身にまとい、2国間で試合までやってのけている。こと野球となると我を忘れてしまうほど入れ込んでしまう彼らだけに、異国で戦う選手たちに自らがもう1人の「指揮官」として、母国から檄を飛ばし、励ましの言葉を送り続けた。39試合目の頂点は、WBC開始当初、カストロ氏が「もっとも注意しなければならないチーム」として名前を挙げていた、日本と韓国の決戦で幕を閉じた。
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- 鉄矢多美子(てつや・たみこ)
- 福岡県に生まれる。成城大在学中から、硬式野球部のマネジャーを務めるかたわら、ウグイス嬢の道に。1977年にロッテ・オリオンズ球団(現在の千葉ロッテ・マリーンズ)に入社して、ウグイス嬢と広報担当を兼務。87年12月からフリーに。 野球のあるとこどこまでも、の精神で、日本国内はもとより、アメリカ大リーグをはじめ、キューバ、ドミニカ共和国、プエルトリコなどに足繁く通う。将来は野球をモチーフにした一大スペクタル小説を書くのが夢。著書は「サミー・ソーサ 心はいつもホームラン」(集英社インターナショナル)、「もっとカゲキにプロ野球」(講談社)、「素顔の野茂英雄」(小学館)、「熱球伝説」(岩波書店)。
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