2008年12月08日
第212幕 危険と背中合わせのウインターリーグ
来年のWBCを見据えてのことか、カリブ海、中南米一帯で行われているウインターリーグが今年はことのほか熱い。そんな中、ベネズエラの友人から今季カブスでプレーしたヘンリー・ブランコ捕手の兄カルロスさんが誘拐され、射殺されたというショッキングなメールが届いた。日本にいると想像もつかないシチュエーションだが、ウインターリーグが行われているほとんどの国では、常にそんな危険と背中合わせであるというのが実情だ。
外出や移動の際、選手たちは護身用として車に「銃」を積むか、余裕のある選手は「銃」を持ったボディーガードをつけるというのが常識になっている。2004年2月に元中日のルイス・マルティネスが、また2006年10月にはホワイトソックスのホワン・ウリベがドミニカ共和国で発砲事件を起こして大騒ぎになったが、普段から銃はそれほど彼らの身近にあるから、身の危険を感じれば発砲することもあり得るのだ。
危険といえば、カリブ海、中南米一帯を歩くことが多い筆者もまた、何度か危険な目にあっている。ベネズエラでロベルト・ペタジーニの家に行くため街でタクシーを拾ったら、どんどん違う方向に連れて行かれたので、敵に余計なことを考える暇を与えないようにと、家族のことなど途切れなく話し続けて危うく難を逃れた。ペタジーニの家に着くと「誘拐されなくてラッキーだったね。危険だから絶対に流しのタクシーには乗らないように」と注意された。
また、ベネズエラの球場でホットドックを買おうとバッグから財布を取り出そうとしたら、いきなり防弾チョッキを着た警察官4人に取り囲まれ「こんなところでお金を出してはいけない。襲撃されて命の保証ができない」と注意された。あらかじめ人目のつかないところでお金を手に握りしめておき、お店の人にさっと渡すのが常識なのだそうだ。ホットドック1つ買うのさえ命がけ? だった。ニカラグアでは、タクシーで球場に向かっていると前を走る車から銃を向けられたりと、何度か命を狙われた経験がある。
不思議なのは、たとえ球場に通じる橋が爆破されようが、周囲で殺人事件が起ころうが、ウインターリーグ自体はまるで何事もなかったかのように連綿と続けられて行く。思えば兄が射殺されたブランコは、昨年10月、野茂がカラカス・ライオンズでプレーした際、何とかその投球を蘇らせようと必死にボールを受けていた。そのブランコはふりかかった悲劇にもめげずウインターリーグでのプレーを続けるのだという。だれもが一歩間違えば…。そういう状況下でプレーしている彼らのスピリッツは、到底我々日本人には理解できるものではない。
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- 鉄矢多美子(てつや・たみこ)
- 福岡県に生まれる。成城大在学中から、硬式野球部のマネジャーを務めるかたわら、ウグイス嬢の道に。1977年にロッテ・オリオンズ球団(現在の千葉ロッテ・マリーンズ)に入社して、ウグイス嬢と広報担当を兼務。87年12月からフリーに。 野球のあるとこどこまでも、の精神で、日本国内はもとより、アメリカ大リーグをはじめ、キューバ、ドミニカ共和国、プエルトリコなどに足繁く通う。将来は野球をモチーフにした一大スペクタル小説を書くのが夢。著書は「サミー・ソーサ 心はいつもホームラン」(集英社インターナショナル)、「もっとカゲキにプロ野球」(講談社)、「素顔の野茂英雄」(小学館)、「熱球伝説」(岩波書店)。
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