2008年10月01日
第206幕 新たな世界一への入口に立ったラミレス
ポストシーズン進出をかけて死闘が続いたホワイトソックスの中で、新人アレクセイ・ラミレスが攻守にわたりチームを救うプレーを続けた。9月29日のタイガース戦では2-2の同点から今季4本目となる満塁弾を放ち、勝利の立役者となった。チームに合流してわずか半年で、いかんなくキューバンパワーの底力を見せつけている。
本来ならば、キューバ・ナショナルチームの中心選手として北京五輪に出場していたはずだった。せめて…と思い、筆者が北京五輪で撮影したナショナルチームの選手たちの写真を見せた。元チームメートたちの顔に懐かしさを覚えた様子で、特に表彰台で銀メダルを授与されている写真を食い入るように見ながら、次々と選手たちの名前を挙げていった。
「アレクセイも(アテネ五輪でもらった)金メダルを持ってるよね」と差し向けた時だった。「いや、実はあれ、盗まれたんだ」と信じられない言葉が返ってきた。金メダルをバッグに入れていたミルドレッド夫人が、今年5月、マイアミ空港で抜き取られたというのだ。「もう見つけるのは無理だね。仕方ない」。金メダルは、彼がキューバでプレーしたという「証」であり、誇りでもあっただけに落胆の色を見せた。
負ければすべてが終わるという大事な一戦の前に、こんな話へと展開してしまうことになって、盛り上げ策も失敗…。と思いきや、その日は値千金のグランドスラム。気持ちの集中力が途切れることはなかった。「ここ一番という時、集中力を発揮できるのはキューバ時代に培ったもの。国際舞台ではもっともっとすごいプレッシャーの中で戦ってきた」とラミレスが言った。その言葉の向こうに、キューバ人選手としての誇りを感じた。
キューバの至宝といわれたオマール・リナレスや同僚のホセ・コントレラスと同じピナール・デル・リオ出身。背番号は子供のころから憧れていたリナレスと同じ「10」を選んだ。そしてこれまでことあるごとに「国を離れても、キューバとのつながりを強く感じながらプレーしている」と言い続けてきた。ツインズとのワンゲームプレーオフに勝ちポストシーズン進出を果たすと、キューバ特産の葉巻をくわえて、母国を感じながらクラブハウスを歩いてまわった。
これまでテレビでしか見たことのなかったシャンパンファイトのシーンの中に自分がいることのラッキーさと不思議さ。それがラミレスの頭の中で交錯した。昨年9月に亡命してちょうど1年。世界一の「証」金メダルを失くした男が特別な思いを胸に秘め「新たな世界一」に向かうための入口に立った。
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- 鉄矢多美子(てつや・たみこ)
- 福岡県に生まれる。成城大在学中から、硬式野球部のマネジャーを務めるかたわら、ウグイス嬢の道に。1977年にロッテ・オリオンズ球団(現在の千葉ロッテ・マリーンズ)に入社して、ウグイス嬢と広報担当を兼務。87年12月からフリーに。 野球のあるとこどこまでも、の精神で、日本国内はもとより、アメリカ大リーグをはじめ、キューバ、ドミニカ共和国、プエルトリコなどに足繁く通う。将来は野球をモチーフにした一大スペクタル小説を書くのが夢。著書は「サミー・ソーサ 心はいつもホームラン」(集英社インターナショナル)、「もっとカゲキにプロ野球」(講談社)、「素顔の野茂英雄」(小学館)、「熱球伝説」(岩波書店)。
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