2008年08月27日
第202幕 国民、監督、選手一丸の証し、韓国「金メダル」
北京五輪で見事「金メダル」に輝いた韓国の野球代表チームに、心から称賛を贈りたい。
思えば、メダルに手が届かなかった日本とは戦う前から明らかな温度差があった。8月初旬、訪れた韓国で見た彼らの全力を出し切ったプレー、国民の熱。まだオリンピックが始まってもいないのに、練習試合で熱狂的な応援に終始するファン。取材中の新聞記者までもが、1本のヒットで記者席から立ち上がって拳を突き上げる。筆者はこのとき、何でここまで熱くなるの? と不思議に感じたが、韓国の北京五輪はもうそこから戦闘モードに突入していたのだ。
北京に発つ直前、韓国代表チームは8月6日にソウルで行われたキューバとの練習試合で15対3と圧勝した。キム・ギョンムン監督は鋭い当たりが出てきたチームに「このいいムードを保ったままオリンピックで戦いたい」と言った。それが練習試合だったとはいえ「王者」キューバから15点も叩き出したことで、国民のボルテージは一層上がり、若い選手が多い韓国にとって、大きな自信とモチベーションアップにつながったことは言うまでもない。
このときキム監督は北京での作戦についての質問に、次のように語ってくれた。「WBCの際のチームと比べ、オリンピックチームは若い選手中心のため、力が落ちている。したがって(予選リーグで)日本、アメリカ、キューバなどの強豪国に競り勝つ作戦より、それらの国より実力が下の中国、台湾、オランダなどからまず着実に勝って、決勝リーグに駒を進めるということを第一の目標として考えている」。
そして対日本戦に関しての質問には「日本は戦力においても環境においても、整っているチーム。できるなら今の日本のレベルを追い越せるように、いい試合を繰り返したい。若いチームだけに、乗ってきたら力以上のものを出してくれる。そのためにもイ・スンヨプの加入は大きなプラス。チームの要として活躍してくれることを望む。だが、周囲があまり期待をかけすぎたら、プレッシャーになるから、あくまでも全員野球の姿勢を崩さないでいたい」。
たしかにキム監督が言っていた通り、韓国は予選リーグを「着実に勝ち抜き」、決勝リーグまで「全員野球の姿勢」を崩さなかった。そしてここぞという時、イ・スンヨプが値千金の活躍を見せた。まさに指揮官が描いていた筋書き通りの戦い方ができたのだ。オリンピックのような短期決戦ではチームの団結力が大きく物をいう。短期間で若い選手の多いチームの結束力を導き出したのは「監督力」と言える。
日本ではストライクゾーンや選手宿舎の問題などが取りざたされているが、それは「メダル」をとりこぼした敗者の弁にすぎない。ナショナリティーの違いこそあれど、国民の燃えたぎるような熱い思いで後押しされた韓国チームは、一丸となってそれを戦うエネルギーへと転化して行った。そんなムードの中にあっても、地に足のついた作戦を忘れなかったキム監督。国民、指揮官、選手が一つになった勝利の証。それが韓国の「金メダル」だった。
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- 鉄矢多美子(てつや・たみこ)
- 福岡県に生まれる。成城大在学中から、硬式野球部のマネジャーを務めるかたわら、ウグイス嬢の道に。1977年にロッテ・オリオンズ球団(現在の千葉ロッテ・マリーンズ)に入社して、ウグイス嬢と広報担当を兼務。87年12月からフリーに。 野球のあるとこどこまでも、の精神で、日本国内はもとより、アメリカ大リーグをはじめ、キューバ、ドミニカ共和国、プエルトリコなどに足繁く通う。将来は野球をモチーフにした一大スペクタル小説を書くのが夢。著書は「サミー・ソーサ 心はいつもホームラン」(集英社インターナショナル)、「もっとカゲキにプロ野球」(講談社)、「素顔の野茂英雄」(小学館)、「熱球伝説」(岩波書店)。
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