2008年07月10日
第197幕 キューバ野球、五輪チームの輪の中で
オランダのハーレムにやってきた。現在行われているハーレムの大会には北京オリンピックの第1戦で日本と戦うキューバナショナルチームがフルメンバーで参加しており、日本からは星野監督をはじめ、スコアラーや報道陣が大量に押し寄せている。いつもは静かなこの大会も、ときならぬジパングの嵐に襲われて、オランダ人もビックリ!の一種異様な様相を呈している。
さて、そのキューバ。筆者は偶然にも彼らと同じ宿舎になり、パチェーコ監督や旧知の選手たちと連日同窓会のノリで過ごし、危うく取材を忘れてしまいがちな状況に陥っている。雨で試合が中止になった日は、宿舎のテラスでラム酒の回し飲みがはじまる。この「杯」を受けると完全に彼らの仲間入りを認められるわけだが、これがアルコール度48度ととてつもなく強い。それを飲めといわれても…。
下戸の筆者はそれにちょっと口を付けただけで舌が燃え上がりそうな感覚にとらわれ閉口。それでも「オマエは僕らの仲間じゃなかったのか?」などと詰問され、ではちょっとだけ…と付き合うと、2度、3度と容赦なく強烈なラム酒攻撃にさらされ、断るのに必死だ。おそらく飲酒は禁止されているのだろうが、5月の合宿から1度も家に帰っていない選手もおり、外出もままならない状況下、そこはトップも見てみぬふりをしているように見える。
3人部屋に押し込まれた彼らは、文句を言うわけでもなく、テレビを見たり、密かにラム酒を飲んだりしながら、のんびり過ごしているようだ。とはいえ暇な時間の対応に、ゲーム機があるわけでもなく、高価な国際電話がかけられるわけでもなく、ひいてはインターネットができるわけでもないから、必然的に「アブリード」(スペイン語で退屈という意味)という単語がチラホラ聞こえてくる。
そういう彼らではあるが、この大会終了後、現在の29名の選手から5名がカットされキューバに戻されることになっている。北京五輪かキューバへ帰国かの大きな分かれ道が待ち受けているのだ。ラム酒の回し飲みなど和気藹々ののんびりムードの中にも、最終24名の五輪メンバーへの生き残りにかけて、緊張感が見え隠れする。そんな局面に面したキューバ選手の輪の中にいると、いつもはバカっ話に終始する筆者も、思わず背筋をピンと伸ばさざるをえなくなっていた。
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- 鉄矢多美子(てつや・たみこ)
- 福岡県に生まれる。成城大在学中から、硬式野球部のマネジャーを務めるかたわら、ウグイス嬢の道に。1977年にロッテ・オリオンズ球団(現在の千葉ロッテ・マリーンズ)に入社して、ウグイス嬢と広報担当を兼務。87年12月からフリーに。 野球のあるとこどこまでも、の精神で、日本国内はもとより、アメリカ大リーグをはじめ、キューバ、ドミニカ共和国、プエルトリコなどに足繁く通う。将来は野球をモチーフにした一大スペクタル小説を書くのが夢。著書は「サミー・ソーサ 心はいつもホームラン」(集英社インターナショナル)、「もっとカゲキにプロ野球」(講談社)、「素顔の野茂英雄」(小学館)、「熱球伝説」(岩波書店)。
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