2008年04月04日
第186幕 ロケットスタート・ロイヤルズを率いるキーパーソンとは
カンザスシティー・ロイヤルズが、優勝候補筆頭のデトロイト・タイガース相手に、開幕からいきなり3タテを食らわせ、ロケットスタートを切った。昨年まで4年連続最下位(245勝403敗)。02、04、05、06年の4シーズンは100敗を喫するなど、近年では「メジャー最弱球団」の名をほしいままにしてきた、いわばお荷物球団。そのチームに何が起こっているのだろうか。
ロイヤルズは今季からヒルマン監督、野茂、薮田ら「日本の血」も入れてチーム改革に本腰を入れているが、その改革の旗振り役であるキーパーソンはデイトン・ムーアGMだ。「チームを成功させるには、何と言っても投手陣の確立」だと力説。たしかにタイガースに勝利した3試合とも先発投手が自分たちの役目を果たし、昨年後半から頭角を頭角を現したホアキン・ソリアがクローザーとしてすでに2セーブを挙げるなど、投手陣はGMの思惑通りに機能している。
このムーアGM、日本にはあまりなじみのない人物だが、メジャーの各球団からは「要注意人物」として注目を浴びてきた。アトランタ・ブレーブスの名物GMだったジョン・シューホルツ(現球団社長)のもとで、マイナーリーグの統括やスカウトなどを経験。近年、コンピューターをたたき、机上で相手チームや選手の分析をするGMを見かけるようになったが、彼はいわば現場からのバリバリの叩き上げだ。05年にブレーブスのアシスタントGMに任命され、そのころから「どのチームがデイトンをGMとして迎えるか」と噂されるほど、その能力が高く評価されるようになっていた。
05年のオフにはボストン・レッドソックスなど数チームからGM候補としてオファーを受けたが、彼が選んだのは子供のころからファンだったロイヤルズだった。周囲からは「よりによってなんでメジャー最弱球団を選んだのか?」という声が聞こえてきたが、ジョージ・ブレッドなどを要して世界一になった(1985年)頃のロイヤルズをよみがえらせる仕事の方が、より魅力的に思えたのだ。
では、彼がどのようにロイヤルズをよみがえらせようとしているのか。それを探るため、特別にお願いして今季のキャンプで「GMの1日」を密着リポートさせてもらった。まだ、あたりが真っ暗な朝6時ごろにオフィースに現れ、帰宅する夜10時すぎまで精力的に動き回る。メジャーはもちろんマイナーの練習、試合など時間が許す限り、現場に立って選手の動きを逐一見てまわる。
さすがにこっちが根を上げてしまい、帰宅時間まではお付き合いできなかったが、自分とスタッフ、監督、コーチたちの意思疎通が実にスムーズに行っていることを実感した。
このときムーアGMが言ったことを思い出す。
「勝ち負けは選手が決めるもの。僕らが出来る事は監督やコーチに優秀な人材(選手)を準備し、後は一人一人に任せる。みんなが自分のやるべきことに集中できたら、事はスムーズに運ぶようになるものだ。昨年ロッキーズが21試合のうち20勝してワールドシリーズに駒を進めたように、野球にはいろいろなことが起こる。過度な期待を抱いたり、将来の事を考え計算しすぎると痛い目にもあう。1日、1日頑張って行くことが一番だと思う」。
現場から叩き上げてきた人物ならではの、実に地に足の着いた考え方だ。ムーアGMが着任して以来、能力の高い選手が集まり始め、いいスタッフも増えてチームは大きな変化を見せている。「過度な期待や将来の計算」に反して言わせてもらえれば、ロイヤルズは今季かなりいい戦いをして、来年はア・リーグ中地区の首位争いを演じ、再来年はワールドシリーズに…。
キーパーソンとなるGMのもと、チーム作りのビジョンをはっきりとした輪郭で描いているロイヤルズが、その名の通り「王者の風格」を指し示す日はそう遠くない気がする。
- 鉄矢多美子(てつや・たみこ)
- 福岡県に生まれる。成城大在学中から、硬式野球部のマネジャーを務めるかたわら、ウグイス嬢の道に。1977年にロッテ・オリオンズ球団(現在の千葉ロッテ・マリーンズ)に入社して、ウグイス嬢と広報担当を兼務。87年12月からフリーに。 野球のあるとこどこまでも、の精神で、日本国内はもとより、アメリカ大リーグをはじめ、キューバ、ドミニカ共和国、プエルトリコなどに足繁く通う。将来は野球をモチーフにした一大スペクタル小説を書くのが夢。著書は「サミー・ソーサ 心はいつもホームラン」(集英社インターナショナル)、「もっとカゲキにプロ野球」(講談社)、「素顔の野茂英雄」(小学館)、「熱球伝説」(岩波書店)。
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