2008年03月13日
第183幕 男たちの生き残りゲーム
フロリダのキャンプ取材から1週間ぶりにアリゾナに戻り、ジャイアンツのクラブハウスを訪れた3月12日。1次カット、2次カットで、クラブハウスにひしめいていた選手がごっそり抜け、空きロッカーが目立ち始めていた。ロッカーに向かって藪の左側は、実に8つも続けてそれぞれの「主」を失くしていた。
その中には藪と一緒にクラブハウスでモー娘を熱唱してくれたケルビン・ピチャルド投手も含まれていた。練習が終わると時間をみつけては同じドミニカ共和国出身選手とトランプに興じ、それで手品までして見せた。藪が自分の横に来てくれると、勝率が高くなるという縁起のよい話もあるらしく、そういう点でも藪の傍から離れたくなかったはずだ。
そしてこの日、試合前の練習を終えた選手がクラブウハウスに引き揚げてくると、自分のロッカーを片付け、バッグに荷物を詰め込んでいる選手をみかけた。自分を日本語で「ケツデカ」と自己紹介してくれた、ホセ・カペジャン投手だ。身長190センチ近い巨体とそのヒップの大きさから、だれかがそのニックネームをつけたらしい。
その彼が、朝来るなり、「シンシナティ・レッズ」へのトレードを言い渡されたのだという。チームメイトが練習を終え、クラブハウスに引き揚げてくるころには、ロッカーから名前が外され、まるでそこにいままで誰もいなかったように、きれいに片付けられていた。そんなわずかの時間に荷物を詰め、身支度を済ませて、仲間に挨拶をすると、あっという間にフロリダのキャンプ地に向かって旅立った。
キャンプも終盤にさしかかると、このような光景は珍しくなくなってくる。そのためか、キャンプイン時に比べ選手たちの顔にも緊張感が漂っている。「いや~、みんなピリピリしてますよ」。自分のロッカーの周りが空き、昨日までクラブハウスを共にしていた仲間が次々に去って、まるで離れ小島にでもいるかのような状態に置かれた藪が言う。
我々が待ちわびる開幕。だが、選手たちにとっては、その開幕のための25人枠に食い込むため、1試合、1試合、熾烈なサバイバルが強いられてくる。この先、開幕を迎えるまでの日々は、決して我々には想像もつかない、男たちのしびれるような生き残りゲームが続けられることになる。
※日記を書く方法はこちらで紹介しています。
この記事には全0件の日記があります。
- 鉄矢多美子(てつや・たみこ)
- 福岡県に生まれる。成城大在学中から、硬式野球部のマネジャーを務めるかたわら、ウグイス嬢の道に。1977年にロッテ・オリオンズ球団(現在の千葉ロッテ・マリーンズ)に入社して、ウグイス嬢と広報担当を兼務。87年12月からフリーに。 野球のあるとこどこまでも、の精神で、日本国内はもとより、アメリカ大リーグをはじめ、キューバ、ドミニカ共和国、プエルトリコなどに足繁く通う。将来は野球をモチーフにした一大スペクタル小説を書くのが夢。著書は「サミー・ソーサ 心はいつもホームラン」(集英社インターナショナル)、「もっとカゲキにプロ野球」(講談社)、「素顔の野茂英雄」(小学館)、「熱球伝説」(岩波書店)。
最近のエントリー
- 黒田、6回を6安打4失点で今季9敗目 [20日14:41]
- 井口1安打1打点、チームは敗れる [20日15:39]
- イチロー1安打、200本まであと37
[20日15:41] - 福留2打点!カブスの勝利に貢献
[20日15:40] - 小林雅1回3安打1失点、イ軍は快勝
[20日15:40]
- 第201幕 大記録は途切れても…ジーグラー投手 (鉄矢多美子) [8月15日]
- チケット値上げで喜べぬ新球場建設 (渡辺史敏) [8月14日]
- 故障者続出のヤンキース、今度はチェンバレンが (渡辺史敏) [8月07日]
- 第200幕 地球1周、3万5000キロ野球の旅 (鉄矢多美子) [8月05日]
- イチローの3000安打を米全国紙も詳報 (渡辺史敏) [7月31日]