第18回 松坂ノーヒットノーランV
横浜対京都成章 9回表京都成章2死一塁、田中を三振に打ち取りノーヒットノーランを達成、ガッツポーズする横浜・松坂大輔
<横浜3−0京都成章>◇17日目◇8月22日◇決勝
すごいぞ、松坂! 5万5000の大観衆がしびれた。横浜(東神奈川)対京都成章(京都)の決勝。横浜のエース松坂大輔(3年)がノーヒットノーランの快挙で春夏連覇を決めた。無安打無得点試合は今大会2度目で、決勝では1939年(昭14)の海草中(現向陽)・島以来59年ぶり。春夏連続Vは87年PL学園以来11年ぶり5度目だ。史上最強軍団がついに4102校の頂点に立った。
松坂は、最後の最後まで怪物だった。9回表2死一塁。超満員、5万5000人をのみ込んだ甲子園に「マツザカ」コールがこだまする。史上5校目の春夏連覇と、59年ぶりの決勝戦ノーヒットノーラン達成まであと1人。「ここまできたら三振で決めてやる」。3番田中をカウント2−2と追い込み、最後は外角低めのスライダーで空振り三振に切った。
その瞬間、松坂は両腕を天に突き上げ、くるりと1回転して喜びを爆発させた。「ノーヒットノーランよりも優勝の方がうれしい。最後の夏は納得のいく投球ができて、みんなに感謝しています」。お立ち台で声が震えていた。
実は8回、先頭打者に四球を与えたところで伝令が出た。「ノーヒットノーランを狙え」の指示だった。次打者の投前バントを素早く二封。それまでは「意識しないようにしていた」(松坂)が、こうなったらやるしかなかった。
センバツで優勝した時から全国の高校球児の目標になった。準々決勝のPL学園戦では「初めての恐怖感」を覚えた。くじけそうになったときに支えてくれたのが、小山、後藤らチームメート。17回に飛び出した常盤の決勝2ランには涙があふれた。厳しく苦しい戦いの積み重ねがファンの胸をしめつけ、そして揺さぶった。「このメンバーで日本一になってよかった。史上最高のメンバーです」と心から言えた。
この日、三振を11個奪い、春夏合計で97奪三振となった。目標にしていた「100奪三振」には届かなかったが、江川卓(作新学院)の92を抜き、尾崎行雄(浪商)と並んで歴代2位の成績を残した。甲子園年間通算11勝は新記録だ。
驚異のスタミナと精神力を見せつけた。夏の連投に耐え得るようにと、センバツから帰ってスタミナづくりの日を週3日設けた。プールは泳ぐだけでなく何キロも歩いた。競輪選手からヒントを得たのが、腰に負担をかけないで下半身を鍛えられるマウンテンバイク。学校近くの坂を何度も上り、肺活量と太ももの筋肉が見違えるようになった。ウエートトレーニングにより、背筋力は240キロから260キロにアップ。松坂は「春の時点のスタミナだったら、夏は勝てなかった。と話した。
春夏連覇のために怒られ役に徹した。センバツ直後、松坂がPL学園の上重と交換したTシャツを着て練習に現れた。「エースが浮かれていたら連覇などできない」と思った渡辺元智監督(53)は「有頂天になるな」と厳しく叱責(しっせき)。翌日から二度と着てこなかった。
また6月14日、長野で行われた松商学園との招待試合。9回までに1本塁打を含む被安打12、6失点の投球で引き分けた。帰ると渡辺監督に呼ばれ「気持ちの入っていないプレーをするな。おまえが丸刈りになって、みんなの気持ちを一つにしろ」と厳命された。その翌日、レギュラー選手全員が丸刈りになって現れた。「あの子のいいところは素直なところ。聞き分けてちゃんと実行するところが素晴らしい。まさか、最後にノーヒットノーランをやるとは…」。同監督がしみじみ語った。
6試合で782球を投げ抜いた。「甲子園が自分を大きくしてくれました」。1998年(平10)8月22日。松坂大輔が甲子園に新たな伝説をつくった。【浅見晶久】
◆地元球団の横浜は、ドラフト1位で松坂獲得に執念を燃やす。決勝戦をテレビ観戦した野口取締役チーム担当は「すぐにでも、うちのユニホームを着て投げてほしいぐらいだ。近いうちに学校の方へあいさつに行きたい」と話した。すでに5月6日には、野口取締役と高松編成部長が横浜高へ出向いて、あいさつを済ませている。センバツをテレビ観戦した権藤監督は「真っすぐも速いが、スライダーもいい。高校生相手なら、抜いて投げても抑えられるよ」と高く評価した。野口取締役は「3球団から5球団は必ずくる。(クジを引く)権藤さんの強運にかけるしかない」。
(1998年8月23日付日刊スポーツ)
※松坂投手は1998年ドラフト1位で西武入団。2007年レッドソックスに移籍しワールドチャンピオンに。2年目の今季も活躍中。
2008年8月10日 11:01
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