第14回 横浜がPLとの17回死闘制す
PL学園対横浜 PL学園と延長17回の激戦を制し、放心状態でナインに出迎えられる横浜・松坂大輔(中央)。左手前は最後の打者となった田中雅彦
<横浜9−7PL学園>◇15日目◇8月20日◇準々決勝
耐えた、勝った。そして涙。甲子園の球史にまたドラマが生まれた。横浜(東神奈川)松坂大輔投手(3年)が入魂の250球力投で難敵PL学園を倒した。事実上の決勝戦ともいえる東西横綱の対決は追いつ追われつ、延長17回、3時間37分の激闘。最後は常盤(ときわ)良太内野手(3年)の2ランで挙げた2点を松坂が守り抜いた。前回優勝の1980年(昭55)以来18年ぶり4強進出の横浜はきょう21日の準決勝で、明徳義塾(高知)と対戦する。
松坂は泣いていた。7−7で迎えた延長17回表2死一塁。常盤が右中間中段に決勝の2ランをたたき込む。三塁側ベンチ横で肩慣らしをしていた松坂のひとみが真っ赤に潤んだ。点を取っても取っても追いつかれる。負けるかもしれない。今までに感じたことのない恐怖感を、常盤の一発が吹き飛ばしてくれた。「感激しました。これで勝てると確信しました」。ベンチに戻ってきた常盤に心から「ありがとう」の言葉をかけ、もう一度気合を入れてマウンドに向かった。
最後まで怪物ぶりを発揮した。17回に147キロの速球を2球も投げ、最後の打者は133キロ外角低めのスライダーで見逃し三振に取った。疲れきった体を引きずりながら三塁側アルプス席応援団の前に整列して一礼。沈着冷静な捕手の小山が、大粒の涙を流す。松坂も、帽子で汗をぬぐうふりをして、涙をぬぐった。
「野球人生で一番苦しい試合。(PL学園の)自分を打とうという気迫や勢いを全員に感じた。本当に勝ってよかった」。練習でも投げたことのない250球。前日19日の星稜(石川)戦から2日間連投で398球。今夏の甲子園4試合では645球。180センチ、76キロのスタミナ自慢の男が「あした(21日)は投げられません」と話すほどに疲れきっていた。
三振は11個。春夏合計で85個となった。尊敬する桑田(巨人)の81をPL学園戦で上回ったのも因縁を感じさせる。「疲れはあったけど真っすぐもきていた。16回に1点を取られて追いつかれても集中力を切らさず、気迫がすごかった」。女房役小山が驚く精神力で苦戦を耐えた。
この日ほどチームメートに感謝したことはない。「松坂のワンマンチーム」と言われ続け、事実、その右腕で勝ち抜いてきた。しかし、あらためて全員野球の大切さを学んだ。2回裏に自らの野選をきっかけに3点の先制を許す苦しい立ち上がり。小山の2ランと松本の2点三塁打で追いついたが、相手打線も手を緩めることなく襲いかかってきた。「みんなが点を取ってくれるから、オレたちは抑えることに専念しようぜ」。小山の励ましにどれだけ勇気づけられたことか。
延長に入ると、松坂は何度もグラブに刺しゅうした言葉をつぶやいた。「ONE FOR ALL」(一人はみんなのために)。センバツの時は帽子の裏に書いた言葉を、東神奈川県大会準決勝から使い始めた新しいグラブに刺しゅうしていた。マウンドにいる時、必ず目に入るようにするためだった。
勝負を決めた常盤は言った。「松坂が苦しそうだったんで、どうしても打ちたかった」。シニア時代の中学3年時には、日本選抜チームの主将を任されたほどの実力で、夏の秘密兵器だった。高校通算9本塁打のうち、8本は今年に入ってから。県大会で2本放ち、実力で背番号5をもぎ取った男がエースを助けた。
「苦しい戦いを勝ってこそ連覇が見えてくる」。松坂が言った。一番苦しい戦いを勝った。悲願まであと2−。【浅見晶久】
◆約2000人が駆けつけた三塁側の横浜アルプス席では松坂の父諭さん(45)が、ゲームセットの瞬間、両手を上げ、目をつむったまましばらく動かなかった。周りが跳びはねて歓喜している中、じっくりと勝利をかみ締めるように、「思い出に残る試合ですね。延長15回からは、もうどっちが勝ってもいいという気持ちになりました」。
本塁打を含む7打数5安打の大活躍をした小山の母典子さん(52)は「良男は日本一の投手の球を捕っているという誇りをもっている。その誇りが打撃にも力を与えてくれたのでしょう」と頼もしげに見つめた。
◆巨人長嶋監督 「250球? そんなに投げたの? われわれも(高校野球は)結構見てるけど、ここ数年でも歴史に残る試合じゃないかな。明日も連投? そりゃ普通は無理でしょう。あと(故障)が心配だね」
(1998年8月21日付日刊スポーツ)
2008年8月08日 11:01
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